「ミリストイル化」の版間の差分

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 前者は細胞質において、もうひとつの主要な脂肪酸アシル化修飾である''S''-パルミトイル化を受けるもので、二重の脂質修飾(dual acylation)により疎水性が著しく向上し細胞膜へと輸送される。この場合には、まず''N''-ミリストイル化がおこり、その後近傍のシステイン残基が''S''-パルミトイル化を受ける(パルミトイル化の項を参照)。不可逆的な''N''-ミリストイル化に対して、''S''-パルミトイル化は酵素依存的なダイナミックの修飾サイクルを有し、タンパク質[[パルミトイルトランスフェラーゼ]](PAT; palmitoyl acyl transferase)(脳科学辞典でカバー出来ないタンパク質についてはwikipediaの方を参照する様にしていますが、どの項目か御判りになるでしょうか?)によるパルミチン酸の付加(②)と[[wikipedia:Palmitoyl_protein_thioesterase|タンパク質パルミトイルチオエステラーゼ]](PPT; protein palmitoyl thioesterase) による脱パルミトイル化からなる(③)。ミリストイル化タンパク質は''S''-パルミトイル化サイクルを利用して可逆的な細胞質-細胞膜サイクルを獲得しているのである。また、多くの場合''S''-パルミトイル化タンパク質は[[脂質ラフト]]/[[カベオラ]]へ輸送されることが示唆されており、機能性膜ドメイン形成に重要な役割を果たしていると考えられている。詳しくはパルミトイル化の項を参照されたい。二重脂質修飾を受けるタンパク質の例として[[チロシンリン酸化#非受容体型チロシンキナーゼ|Srcファミリータンパク質]](Yes、Fyn、Lyn、Lck、Hcr、Fgr、Yrk)や[[三量体型GTP結合蛋白質|Gαサブユニット]](Gα<sub>i1</sub>、Gα<sub>o</sub>、Gα<sub>z</sub>など)、[[内皮型一酸化窒素合成酵素]](eNOS、endothelial nitric oxide synthase)などが挙げられる。  
 前者は細胞質において、もうひとつの主要な脂肪酸アシル化修飾である''S''-パルミトイル化を受けるもので、二重の脂質修飾(dual acylation)により疎水性が著しく向上し細胞膜へと輸送される。この場合には、まず''N''-ミリストイル化がおこり、その後近傍のシステイン残基が''S''-パルミトイル化を受ける(パルミトイル化の項を参照)。不可逆的な''N''-ミリストイル化に対して、''S''-パルミトイル化は酵素依存的なダイナミックの修飾サイクルを有し、タンパク質[[パルミトイルトランスフェラーゼ]](PAT; palmitoyl acyl transferase)(脳科学辞典でカバー出来ないタンパク質についてはwikipediaの方を参照する様にしていますが、どの項目か御判りになるでしょうか?)によるパルミチン酸の付加(②)と[[wikipedia:Palmitoyl_protein_thioesterase|タンパク質パルミトイルチオエステラーゼ]](PPT; protein palmitoyl thioesterase) による脱パルミトイル化からなる(③)。ミリストイル化タンパク質は''S''-パルミトイル化サイクルを利用して可逆的な細胞質-細胞膜サイクルを獲得しているのである。また、多くの場合''S''-パルミトイル化タンパク質は[[脂質ラフト]]/[[カベオラ]]へ輸送されることが示唆されており、機能性膜ドメイン形成に重要な役割を果たしていると考えられている。詳しくはパルミトイル化の項を参照されたい。二重脂質修飾を受けるタンパク質の例として[[チロシンリン酸化#非受容体型チロシンキナーゼ|Srcファミリータンパク質]](Yes、Fyn、Lyn、Lck、Hcr、Fgr、Yrk)や[[三量体型GTP結合蛋白質|Gαサブユニット]](Gα<sub>i1</sub>、Gα<sub>o</sub>、Gα<sub>z</sub>など)、[[内皮型一酸化窒素合成酵素]](eNOS、endothelial nitric oxide synthase)などが挙げられる。  


 後者の『ミリストイル化+ポリ塩基性アミノ酸クラスター』はミリストイル化タンパク質自体がもつ物理化学的特徴を利用した機構で、ミリストイル化タンパク質の塩基性アミノ酸クラスターと細胞膜の酸性リン脂質(ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールなど)の間の電荷的相互作用により膜への親和性を向上させている(④)。Srcが代表例である。膜からの脱離にはいくつかのパターンが報告されているが、リガンド結合によるコンフォーメーション変化によりミリストイル基がタンパク質内部に埋め込まれる機構(⑤)や、タンパク質キナーゼによるリン酸基の負電荷による斥力による機構(⑥)があり、「ミリストイルスイッチ」と呼ばれる。リガンド結合型のスイッチには、カルシウムセンサータンパク質レコヴェリン(recoverin)-カルシウムイオン相互作用がよく知られている。リン酸化型スイッチでは、MARCKS(myristoylated alanine-rich C kinase substrate)が代表例として知られている。興味深いことにSrcはその塩基性アミノ酸モチーフと細胞膜リン脂質との相互作用が強いため、モノリン酸化のみでは膜から脱離しないことが明らかになっている<ref><pubmed>9485361</pubmed></ref>。  
 後者の『ミリストイル化+ポリ塩基性アミノ酸クラスター』はミリストイル化タンパク質自体がもつ物理化学的特徴を利用した機構で、ミリストイル化タンパク質の塩基性アミノ酸クラスターと細胞膜の酸性[[wikipedia:ja:リン脂質|リン脂質]]([[wikipedia:ja:ホスファチジルセリン|ホスファチジルセリン]]、[[ホスファチジルイノシトール]]など)の間の電荷的相互作用により膜への親和性を向上させている(④)。Srcが代表例である。膜からの脱離にはいくつかのパターンが報告されているが、リガンド結合によるコンフォーメーション変化によりミリストイル基がタンパク質内部に埋め込まれる機構(⑤)や、タンパク質キナーゼによるリン酸基の負電荷による斥力による機構(⑥)があり、「ミリストイルスイッチ」と呼ばれる。リガンド結合型のスイッチには、カルシウムセンサータンパク質[[wikipedia: Recoverin|レコヴェリン]](recoverin)-カルシウムイオン相互作用がよく知られている。リン酸化型スイッチでは、[[wikipedia:MARCKS|MARCKS]](myristoylated alanine-rich C kinase substrate)が代表例として知られている。興味深いことにSrcはその塩基性アミノ酸モチーフと細胞膜リン脂質との相互作用が強いため、モノリン酸化のみでは膜から脱離しないことが明らかになっている<ref><pubmed>9485361</pubmed></ref>。  


[[Image:Myristoylation Fig3.png|thumb|left|400px|図3 N-ミリストイル化タンパク質の膜結合機構]]<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>


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[[Image:Myristoylation Fig3.png|thumb|400px|図3 N-ミリストイル化タンパク質の膜結合機構]]


== ''N''-ミリストイル化タンパク質の検出方法  ==
== ''N''-ミリストイル化タンパク質の検出方法  ==