「アセチル化」の版間の差分

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 本文では以上3つの例を紹介したが、これらの例からも、脳機能においてヒストンのアセチル化は重要な役割を担い、HDAC阻害剤は脳疾患治療薬として有用であると考えられる。
 本文では以上3つの例を紹介したが、これらの例からも、脳機能においてヒストンのアセチル化は重要な役割を担い、HDAC阻害剤は脳疾患治療薬として有用であると考えられる。


== 非ヒストンタンパク質のアセチル化と神経機能・神経疾患 ==
== 非ヒストンタンパク質のアセチル化と神経機能・神経疾患 ==


 上述してきたように、一般にHDACの阻害は脳疾患治療に有用であると思われる。しかし、HDAC6のようにHDACの働きが脳機能に重要であることも知られており、HDACの阻害が常によい方向に働くとは限らない。HDAC6は脳で高く発現しており、ヒストンのみならずΑ-tubulin、HSP90、コルタクチンを脱アセチル化する。なかでもHDAC6の主要な基質はα-tubulinであり、α-tubulinのアセチル化レベルを制御することで[[微小管]]の安定性をコントロールし、その輸送等に重要な役割を果たすことが報告されている<ref name="ref34"><pubmed>12486003</pubmed></ref><ref><pubmed>20520769</pubmed></ref>。微小管のアセチル化が促進されると、神経細胞において微小管と[[キネシン]]-1との結合が促進され、[[JNK-interacting Protein 1]]やBDNFなどのキネシン-1の[[カーゴタンパク質]]の[[極性輸送]]が促進される<ref><pubmed>17084703</pubmed></ref>。HDAC6による微小管の安定性制御は神経細胞におけるキネシン-1によるミトコンドリアの輸送にも重要であり<ref name="ref34" /><ref><pubmed>16306220</pubmed></ref>、異常なミトコンドリア輸送は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、[[筋委縮性側索硬化症]]などの脳疾患に関係することが知られている<ref><pubmed>22750523</pubmed></ref>。また、HDAC6は[[軸索]]の末端領域に局在することで軸索の伸長にも重要な役割を果たしており、TSAなどのHDAC阻害剤によるtubulinの脱アセチル化阻害は軸索の伸長を阻害することが報告されている<ref><pubmed>20886111</pubmed></ref>。<br>  
 上述してきたように、一般にHDACの阻害は脳疾患治療に有用であると思われる。しかし、HDAC6のようにHDACの働きが脳機能に重要であることも知られており、HDACの阻害が常によい方向に働くとは限らない。HDAC6は脳で高く発現しており、ヒストンのみならずα-チュブリン、HSP90、コルタクチンを脱アセチル化する。なかでもHDAC6の主要な基質はα-チュブリンであり、α-チュブリンのアセチル化レベルを制御することで[[微小管]]の安定性をコントロールし、その輸送等に重要な役割を果たすことが報告されている<ref name="ref34"><pubmed>12486003</pubmed></ref><ref><pubmed>20520769</pubmed></ref>。微小管のアセチル化が促進されると、神経細胞において微小管と[[キネシン]]-1との結合が促進され、[[JNK-interacting Protein 1]]やBDNFなどのキネシン-1の[[カーゴタンパク質]]の[[極性輸送]]が促進される<ref><pubmed>17084703</pubmed></ref>。HDAC6による微小管の安定性制御は神経細胞におけるキネシン-1によるミトコンドリアの輸送にも重要であり<ref name="ref34" /><ref><pubmed>16306220</pubmed></ref>、異常なミトコンドリア輸送は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、[[筋委縮性側索硬化症]]などの脳疾患に関係することが知られている<ref><pubmed>22750523</pubmed></ref>。また、HDAC6は[[軸索]]の末端領域に局在することで軸索の伸長にも重要な役割を果たしており、TSAなどのHDAC阻害剤によるtubulinの脱アセチル化阻害は軸索の伸長を阻害することが報告されている<ref><pubmed>20886111</pubmed></ref>。<br>  


 しかし逆に、HDAC6はマウスの[[情動]]行動に関与し、HDAC6の欠損やHDAC6阻害剤が運動亢進、[[不安]]の軽減などの抗うつ様の行動を誘導することで、[[うつ病]]等の治療によい影響を与えることも明らかになっている。HDAC6は、[[気分障害]]等の精神疾患に深く関与する[[セロトニン神経細胞]]の豊富な中脳の[[縫線核]]、[[青斑核]]、黒質の神経細胞に多く存在している。しかし、HDAC6の欠損マウスにおいて、セロトニンの量、及び既存の[[抗うつ薬]]である[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]/[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]](Selective Serotonin Reuptake Inhibitors/ Serotonin &amp; Norepinephrine Reuptake Inhibitors:SSRI/SNRI)に対する応答性には変化がなく、SSRI/SNRIの急性投与による大幅なうつ様行動の改善はHDAC6の欠損マウスと野生型マウスで同程度である。このことからHDAC6阻害剤による抗うつ作用メカニズムは既存の抗うつ薬とは異なると考えられており、HDAC6の阻害はうつ病の病態解明や新規抗うつ薬の開発につながる可能性が示唆されている<ref><pubmed>22328923</pubmed></ref>。  
 しかし逆に、HDAC6はマウスの[[情動]]行動に関与し、HDAC6の欠損やHDAC6阻害剤が運動亢進、[[不安]]の軽減などの抗うつ様の行動を誘導することで、[[うつ病]]等の治療によい影響を与えることも明らかになっている。HDAC6は、[[気分障害]]等の精神疾患に深く関与する[[セロトニン神経細胞]]の豊富な中脳の[[縫線核]]、[[青斑核]]、黒質の神経細胞に多く存在している。しかし、HDAC6の欠損マウスにおいて、セロトニンの量、及び既存の[[抗うつ薬]]である[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]/[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]](Selective Serotonin Reuptake Inhibitors/ Serotonin &amp; Norepinephrine Reuptake Inhibitors:SSRI/SNRI)に対する応答性には変化がなく、SSRI/SNRIの急性投与による大幅なうつ様行動の改善はHDAC6の欠損マウスと野生型マウスで同程度である。このことからHDAC6阻害剤による抗うつ作用メカニズムは既存の抗うつ薬とは異なると考えられており、HDAC6の阻害はうつ病の病態解明や新規抗うつ薬の開発につながる可能性が示唆されている<ref><pubmed>22328923</pubmed></ref>。  


 上記の例に加えて、タンパク質のアセチル化と脳機能に関しては多くの報告がなされている。これらのことから、ヒストンのアセチル化や非ヒストンタンパク質のアセチル化は脳の発達や機能にさまざまな役割を果たしており、脳において重要な機構であるといえる。  
 上記の例に加えて、タンパク質のアセチル化と脳機能に関しては多くの報告がなされている。これらのことから、ヒストンのアセチル化や非ヒストンタンパク質のアセチル化は脳の発達や機能にさまざまな役割を果たしており、脳において重要な機構であるといえる。


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==

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