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<font size="+1">[http://researchmap.jp/riekawa 河野利恵]、[http://researchmap.jp/kunimasaota 太田訓正]</font><br> | |||
''熊本大学 大学院生命科学研究部''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年10月9日 原稿完成日:2013年3月25日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br> | |||
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{{PBB|geneid=2932}} | {{PBB|geneid=2932}} | ||
英語名:Glycogen synthase kinase 3β 英略称:GSK-3β | 英語名:Glycogen synthase kinase 3β 英略称:GSK-3β | ||
{{box|text= | |||
グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK)は、[[wikipedia:ja:プロリン|プロリン]]指向性[[wikipedia:ja:セリン|セリン]]/[[wikipedia:ja:スレオニン|スレオニン]][[タンパク質リン酸化酵素|リン酸化酵素]]のひとつであり、最初に[[wikipedia:ja:グリコーゲン合成酵素|グリコーゲン合成酵素]]を[[リン酸化]]して不活化する酵素として見出された。そのうちGSK-3βは、[[Wnt]], [[Shh]]などの[[シグナル伝達]]の制御に関与しており、[[wikipedia:ja:胚発生|胚発生]]における[[wikipedia:ja:体軸|体軸]]形成や神経系の[[分化]]に重要な役割を果たしている<ref name=ref3><pubmed>1333807</pubmed></ref>。 | グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK)は、[[wikipedia:ja:プロリン|プロリン]]指向性[[wikipedia:ja:セリン|セリン]]/[[wikipedia:ja:スレオニン|スレオニン]][[タンパク質リン酸化酵素|リン酸化酵素]]のひとつであり、最初に[[wikipedia:ja:グリコーゲン合成酵素|グリコーゲン合成酵素]]を[[リン酸化]]して不活化する酵素として見出された。そのうちGSK-3βは、[[Wnt]], [[Shh]]などの[[シグナル伝達]]の制御に関与しており、[[wikipedia:ja:胚発生|胚発生]]における[[wikipedia:ja:体軸|体軸]]形成や神経系の[[分化]]に重要な役割を果たしている<ref name=ref3><pubmed>1333807</pubmed></ref>。 | ||
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==ファミリー== | ==ファミリー== | ||
[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]では、GSK-3は51 kDaのα (GSK-3α)と47kDaのβ(GSK-3β)の二つのアイソフォームに分類される<ref name=ref1><pubmed>7980435</pubmed></ref>。これらの2つのアイソフォームは、キナーゼドメイン内では98%と高い相同性を示すが、76個のC末アミノ酸残基では36%の相同性しかない。GSK- | [[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]では、GSK-3は51 kDaのα (GSK-3α)と47kDaのβ(GSK-3β)の二つのアイソフォームに分類される<ref name=ref1><pubmed>7980435</pubmed></ref>。これらの2つのアイソフォームは、キナーゼドメイン内では98%と高い相同性を示すが、76個のC末アミノ酸残基では36%の相同性しかない。GSK-3βには、GSK-3β1とその[[wikipedia:ja:選択的スプライシング|スプライシング変異体]]であるGSK-3β2が存在する。GSK-3β2の量はGSK-3β全体の15%以下であり、GSK-3βのキナーゼドメイン内に13アミノ酸残基の挿入を認める。 | ||
GSK-3β2は、[[tauタンパク質]]に対するキナーゼ活性がGSK-3βよりも減弱している<ref name=ref2><pubmed>19607922</pubmed></ref>。 | GSK-3β2は、[[tauタンパク質]]に対するキナーゼ活性がGSK-3βよりも減弱している<ref name=ref2><pubmed>19607922</pubmed></ref>。 | ||
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==構造== | ==構造== | ||
[[Image:gsk-3beta-1.png|thumb|300px|'''図1:Gsk-3βの2次元構造'''<br>Gsk-3βは、多くの"activation-segment"タンパクキナーゼと同様にアミノ末端βシートドメインとカルボシキル末端αへリックスドメインを持つ。<ref name=ref4 />より引用。]] | |||
[[Image:gsk-3beta-2.png|thumb|300px|'''図2:Gsk-3βのダイマー構造'''<br>Gsk-3βはダイマーとして結晶化されることより、ダイマー構造をとると考えられる。<ref name=ref4 />より引用。]] | |||
= | Gsk-3βは、多くの”activation-segment”タンパクキナーゼと同様にアミノ末端βシートドメインとカルボシキル末端αへリックスドメインを持つ(図1)。Gsk-3βはダイマーとして結晶化されることより、ダイマー構造をとっていると考えられる(図2)<ref name=ref4 /> 。 | ||
==活性調節== | |||
===基質のプライミングリン酸化による調節=== | |||
[[Image:gsk-3beta-3.png|thumb|300px|'''図3:Gsk-3βに対する基質結合モデル'''<br>Gsk-3βの活性中心(P0)に隣接するアルギニン96、アルギニン180、リシン205からなるpositively charged pocket(P+4)に”priming”残基のリン酸基が結合する。この結合によってGsk-3βのキナーゼドメインの方向が最適化され、基質がGsk-3βの活性中心の適切な位置にはまりリン酸化を受ける。<ref name=ref4 />より引用。]] | |||
= | Gsk-3βの基質は、グリコーゲン合成酵素、translation initiation factor elF2B, C/EBFα転写因子、βカテニンなどがあげられる。Gsk-3βの基質は、本来のリン酸化部位のカルボシキル末に位置する”priming”残基が先にリン酸化を受けることによって効率よくリン酸化を受ける。GSK-3βのactivation loop (T-loop)に位置するスレオニン216のリン酸化により基質結合部位が開き、その活性中心(P0)に隣接するアルギニン96、アルギニン180、リシン205からなるpositively charged pocket(P+4)に”priming”残基のリン酸基が結合する(図3)。この結合によってGsk-3βのキナーゼドメインの方向が最適化され、基質がGsk-3βの活性中心の適切な位置にはまりリン酸化を受ける。<ref name=ref4 /> | ||
===Aktによるリン酸化による調節=== | ===Aktによるリン酸化による調節=== | ||
=== | [[Image:gsk-3beta-4.png|thumb|300px|'''図4:セリン9のリン酸化によるGsk-3βキナーゼ活性の抑制'''<br>Gsk-3βのセリン9がpositively charged pocket(P+4)を占領することで、Gsk-3βのアミノ末端がcompetitive pseudosubstrateとしてGsk-3βの活性中心に結合する。<ref name=ref4 />より引用。]] | ||
GSK-3βは、細胞が静止状態にあるときには活性型である。細胞が[[wikipedia:ja:インスリン|インスリン]]などの物質で処理をされると、GSK-3βは[[ホスファチジルイノシトール#ホスファチジルイノシトール3キナーゼとPI3キナーゼシグナル伝達経路|ホスファチジルイノシトール‐3キナーゼ]](PI-3K)の関与で不活化される。つまり、インスリンなどで処理された細胞の内部ではPI-3K-[[Akt]]経路が活性化し、その結果GSK-3βのセリン9のリン酸化が起こり不活性型となる<ref name=ref4><pubmed>11440715</pubmed></ref>。 | |||
これはGsk-3βのセリン9がpositively charged pocket(P+4)を占領することでリン酸化されたGsk-3βのアミノ末端がcompetitive pseudosubstrateとしてGsk-3βの活性中心に結合するためでないかと考えられる(図4)。<ref name=ref4 /> | |||
==発現== | |||
[[Image:gsk-3beta-5.png|thumb|300px|'''図5:GSK3s不活性化モデル'''<br>a. Phosphatidylinositol 3-kinase pathwayによる不活性化<br> | |||
b. p38 mitogen-activated protein kinase (p38MAPK)による不活性化<br>c. Wnt pathwayによる不活性化<br>d. Disrupted in schizophremea 1(DISC1)との相互作用による調節<br>e. Partitioning defective homologue (PAR) complex による調節<br> <ref name=ref5><pubmed>20648061</pubmed></ref>より引用。]] | |||
===組織発現パターン=== | |||
Gsk-3β1の発現は様々な組織で認められるのに対して、Gsk-3β2は特に発生過程の脳に強く発現している<ref name=ref5><pubmed>20648061</pubmed></ref>。 | |||
===細胞内発現パターン=== | |||
細胞内でGsk-3βは、細胞質に存在し様々なタンパク質と相互作用し細胞内シグナル伝達に関与している(図5)<ref name=ref5><pubmed>20648061</pubmed></ref>。 | |||
==機能== | ==機能== | ||
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<references /> | <references /> | ||