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英:adenosine 3', 5'-cyclic monophosphate、cyclic adenosine monophosphate 英略語:cyclic AMP、cAMP 同義語: 3'-5'-アデノシン一リン酸、環状アデノシン一リン酸、環状AMP  
英:adenosine 3', 5'-cyclic monophosphate、cyclic adenosine monophosphate、英略語:cyclic AMP、cAMP、同義語: 3'-5'-アデノシン一リン酸、環状アデノシン一リン酸、環状AMP  


 サイクリックAMP(3'-5'-アデノシン一リン酸)は、アデノシンのリボースの3'位、5'位とリン酸が環状になった構造をとる環状ヌクレオチドの一種で、細胞外リガンドに応じた細胞の多種多様な生理的応答を媒介する代表的な細胞内情報伝達物質(セカンドメッセンジャー)の一つである(図1)。[[ファイル:戸島図1.png|200px|thumb|right|図1 サイクリックAMPの構造]]サイクリックAMPは、細胞質においてアデニル酸シクラーゼ(adenylyl cyclase; AC)の働きによりアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate; ATP)から合成され、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(cyclic nucleotide phosphodiesterase; PDE)の働きにより速やかに分解されてアデノシン5'-リン酸(5'-AMP)となる。この合成と分解のバランスにより細胞内サイクリックAMP濃度が規定される。サイクリックAMPの効果器分子としては、プロテインキナーゼA(cAMP-dependent protein kinase A; PKA)、Epac(exchange protein directly activated by cAMP)、CNGチャネル(cyclic nucleotide gated channel; CNG channel)の3種が良く知られており、多種多様なサイクリックAMP下流シグナルを媒介する(図2)。[[ファイル:戸島図2.png|600px|thumb|right|図2 サイクリックAMP依存性シグナル伝達経路]]神経細胞においてサイクリックAMPは、分化、生存、極性形成、突起伸長、軸索ガイダンス、軸索再生、シナプス伝達、シナプス可塑性、ホルモン分泌など多種多彩な過程に関与する。  
 サイクリックAMP(3'-5'-アデノシン一リン酸)は、アデノシンのリボースの3'位、5'位とリン酸が環状になった構造をとる環状ヌクレオチドの一種で、細胞外リガンドに応じた細胞の多種多様な生理的応答を媒介する代表的な細胞内情報伝達物質(セカンドメッセンジャー)の一つである(図1)。[[ファイル:戸島図1.png|200px|thumb|right|図1 サイクリックAMPの分子構造]]サイクリックAMPは、細胞質においてアデニル酸シクラーゼ(adenylyl cyclase; AC)の働きによりアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate; ATP)から合成され、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(cyclic nucleotide phosphodiesterase; PDE)の働きにより速やかに分解されてアデノシン5'-リン酸(5'-AMP)となる。この合成と分解のバランスにより細胞内サイクリックAMP濃度が規定される。サイクリックAMPの効果器分子としては、プロテインキナーゼA(cAMP-dependent protein kinase A; PKA)、Epac(exchange protein directly activated by cAMP)、CNGチャネル(cyclic nucleotide gated channel; CNG channel)の3種が良く知られており、多種多様なサイクリックAMP下流シグナルを媒介する(図2)。[[ファイル:戸島図2.png|450px|thumb|right|図2 サイクリックAMP依存性シグナル伝達経路]]神経細胞においてサイクリックAMPは、分化、生存、極性形成、突起伸長、軸索ガイダンス、軸索再生、シナプス伝達、シナプス可塑性、ホルモン分泌など多種多彩な過程に関与する。  


 環状構造を持つAMPとしては、RNA加水分解の際に中間体として生成される2'-3'-アデノシン一リン酸も存在するが、生理的により重要性の高い3'-5'-アデノシン一リン酸を一般にサイクリックAMPと略記する。本項目においても全て3'-5'-アデノシン一リン酸について解説する。  
 環状構造を持つAMPとしては、RNA加水分解の際に中間体として生成される2'-3'-アデノシン一リン酸も存在するが、生理的により重要性の高い3'-5'-アデノシン一リン酸を一般にサイクリックAMPと略記する。本項目においても全て3'-5'-アデノシン一リン酸について解説する。  
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=== プロテインキナーゼA  ===
=== プロテインキナーゼA  ===


 プロテインキナーゼA(cAMP-dependent protein kinase A; PKA)<ref><pubmed> 11749379 </pubmed></ref>は、サイクリックAMP依存的に活性化されるセリン/スレオニンリン酸化酵素で、最も重要かつ広範に働くサイクリックAMP効果器である。プロテインキナーゼAは、サイクリックAMP 結合部位を持つ調節サブユニット二つと、リン酸化触媒部位を持つ触媒サブユニット二つにより構成される四量体ホロ酵素であり、サイクリックAMPが調節サブユニットに結合すると、調節サブユニットと触媒サブユニットの結合が解離し、これにより触媒サブユニットのリン酸化活性が出現する。調節サブユニットはRI&alpha;、RI&beta;、RII&alpha;、RII&beta;の4種、触媒サブユニットはC&alpha;、C&beta;、C&gamma;の3種があり、ホロ酵素としては調節サブユニットの種類によってタイプIとタイプIIの二種のアイソフォームに分類される。サイクリックAMP親和性はタイプIの方がより高い。プロテインキナーゼAによりリン酸化を受ける基質タンパク質は、電位依存性Ca2+チャネル、電位依存性Na+チャネル、AMPA型グルタミン酸受容体、IP3受容体等のイオンチャネル、Ena/VASP、SCG10等の細胞骨格制御因子、単量体Gタンパク質RhoA、接着分子4インテグリン、ミオシン軽鎖キナーゼ等、非常に多くの種類が同定されている。また、CREB(cAMP response element binding protein)<ref name=ref2><pubmed> 20223527 </pubmed></ref>、NF-&kappa;B、NFAT等の転写因子をリン酸化することで遺伝子発現をも制御する。  
 プロテインキナーゼA(cAMP-dependent protein kinase A; PKA)<ref><pubmed> 11749379 </pubmed></ref>は、サイクリックAMP依存的に活性化されるセリン/スレオニンリン酸化酵素で、最も重要かつ広範に働くサイクリックAMP効果器である。プロテインキナーゼAは、サイクリックAMP 結合部位を持つ調節サブユニット二つと、リン酸化触媒部位を持つ触媒サブユニット二つにより構成される四量体ホロ酵素であり、サイクリックAMPが調節サブユニットに結合すると、調節サブユニットと触媒サブユニットの結合が解離し、これにより触媒サブユニットのリン酸化活性が出現する。調節サブユニットはRI&alpha;、RI&beta;、RII&alpha;、RII&beta;の4種、触媒サブユニットはC&alpha;、C&beta;、C&gamma;の3種があり、ホロ酵素としては調節サブユニットの種類によってタイプIとタイプIIの二種のアイソフォームに分類される。サイクリックAMP親和性はタイプIの方がより高い。プロテインキナーゼAによりリン酸化を受ける基質タンパク質は、電位依存性Ca2+チャネル、電位依存性Na+チャネル、AMPA型グルタミン酸受容体、IP3受容体等のイオンチャネル、Ena/VASP、SCG10等の細胞骨格制御因子、単量体Gタンパク質RhoA、接着分子&alpha;4インテグリン、ミオシン軽鎖キナーゼ等、非常に多くの種類が同定されている。また、CREB(cAMP response element binding protein)<ref name=ref2><pubmed> 20223527 </pubmed></ref>、NF-&kappa;B、NFAT等の転写因子をリン酸化することで遺伝子発現をも制御する。  


=== Epac  ===
=== Epac  ===
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== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<br> <references />  
<references />  


(執筆者:戸島 拓郎、上口 裕之 担当編集委員:尾藤 晴彦)
(執筆者:戸島 拓郎、上口 裕之 担当編集委員:尾藤 晴彦)
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