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英語名:Hodgkin-Huxley Equations | 英語名:Hodgkin-Huxley Equations | ||
[[wikipedia:ja:アラン・ロイド・ホジキン|Alan Lloyd Hodgkin]]と[[wikipedia:ja:アンドリュー・フィールディング・ハクスリー|Andrew Fielding Huxley]]は[[wikipedia:ja:イカ|イカ]]の[[巨大軸索]]の[[活動電位]]を、[[ナトリウムチャネル|Na<sup>+</sup>チャネル]]、[[カリウムチャネル|K<sup>+</sup>チャネル]] | [[wikipedia:ja:アラン・ロイド・ホジキン|Alan Lloyd Hodgkin]]と[[wikipedia:ja:アンドリュー・フィールディング・ハクスリー|Andrew Fielding Huxley]]は[[wikipedia:ja:イカ|イカ]]の[[巨大軸索]]の[[活動電位]]を、[[ナトリウムチャネル|Na<sup>+</sup>チャネル]]、[[カリウムチャネル|K<sup>+</sup>チャネル]]の開閉を実験的に測定し、開閉の[[wikipedia:ja:非線形|非線形]]な動態を[[wikipedia:ja:微分方程式|微分方程式]]を含む数式で表わす事に成功した。これをHodgkin-Huxley方程式という。比較的少ない数のパラメータで神経[[軸索]]の[[活動電位]]の発生と伝播を示す事に成功した。チャネルの開閉特性を比較的少ないパラメータでかなり正確に表すことができる点で、今でも高く評価されている。現在広く行われている[[興奮性細胞]]([[神経細胞]]、[[wikipedia:ja:心筋|心筋細胞]]、[[wikipedia:ja:骨格筋|骨格筋]])の電位シミュレーションでは、通常、HHモデルもしくはそれに類似のモデルが用いられる。 | ||
==Hodgkin-Huxley方程式とは== | == Hodgkin-Huxley方程式とは == | ||
Alan Lloyd Hodgkin (1914-1998)とAndrew Fielding Huxley (1917-2012)は、ともに[[wikipedia:ja:イギリス|イギリス]]の電気生理学者である。イカの巨大軸索における活動電位の発生と伝搬を測定し、その解析から現在の電気生理学の基礎となる概念を生み出すとともに、興奮性細胞(神経細胞、心筋細胞、骨格筋細胞)の電気現象を定量的に扱う道を開いた<ref><pubmed> 12991237 </pubmed></ref><ref>Journal of Physiologyは、Hodgkin & Huxley (1952)論文の60周年を記念して、2012年5月にオンライン版の特別号を出版している。Hogkin & Huxleyおよび関係する論文は、このサイトからリンクされている。</ref> 。HodgkinとHuxleyは、電気生理学の基礎を築いた功績により、同じく電気生理学者の[[wikipedia:ja:ジョン・C・エックルス|John Carew Eccles]]と3人で、1963年の[[wikipedia:ja:ノーベル医学・生理学賞|ノーベル医学・生理学賞]]を受賞している。 | Alan Lloyd Hodgkin (1914-1998)とAndrew Fielding Huxley (1917-2012)は、ともに[[wikipedia:ja:イギリス|イギリス]]の電気生理学者である。イカの巨大軸索における活動電位の発生と伝搬を測定し、その解析から現在の電気生理学の基礎となる概念を生み出すとともに、興奮性細胞(神経細胞、心筋細胞、骨格筋細胞)の電気現象を定量的に扱う道を開いた<ref><pubmed> 12991237 </pubmed></ref><ref>Journal of Physiologyは、Hodgkin & Huxley (1952)論文の60周年を記念して、2012年5月にオンライン版の特別号を出版している。Hogkin & Huxleyおよび関係する論文は、このサイトからリンクされている。</ref> 。HodgkinとHuxleyは、電気生理学の基礎を築いた功績により、同じく電気生理学者の[[wikipedia:ja:ジョン・C・エックルス|John Carew Eccles]]と3人で、1963年の[[wikipedia:ja:ノーベル医学・生理学賞|ノーベル医学・生理学賞]]を受賞している。 | ||
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#活動電位発生時に、[[wikipedia:ja:ナトリウム|ナトリウム]]イオン(Na<sup>+</sup>)と[[wikipedia:ja:カリウム|カリウム]]イオン(K<sup>+</sup>)が、[[脱分極]]により開く[[細胞膜]]の別々の通路を通ることを示した。この発見はイオンチャネルの存在を予測するものであり、その後のイオンチャネル研究の源となった。なお当時の論文では、イオンチャネル・チャネルという用語は用いられておらず、[[wikipedia:ja:コンダクタンス|コンダクタンス]]という用語が使用されている。 | #活動電位発生時に、[[wikipedia:ja:ナトリウム|ナトリウム]]イオン(Na<sup>+</sup>)と[[wikipedia:ja:カリウム|カリウム]]イオン(K<sup>+</sup>)が、[[脱分極]]により開く[[細胞膜]]の別々の通路を通ることを示した。この発見はイオンチャネルの存在を予測するものであり、その後のイオンチャネル研究の源となった。なお当時の論文では、イオンチャネル・チャネルという用語は用いられておらず、[[wikipedia:ja:コンダクタンス|コンダクタンス]]という用語が使用されている。 | ||
#Na<sup>+</sup>チャネル、K<sup>+</sup> | #Na<sup>+</sup>チャネル、K<sup>+</sup>チャネルの開閉を実験的に測定し、開閉の非線形な動態を微分方程式を含む数式で表した。これらの式はまとめてHodgkin-Huxley (HH)方程式と呼ばれる。 | ||
#Na<sup>+</sup>チャネル、K<sup>+</sup>チャネルおよび[[ | #Na<sup>+</sup>チャネル、K<sup>+</sup>チャネルおよび[[Leakチャネル]]を示す数式を組み合わせ、活動電位の発生・伝播を数値的に再現した。現在行われている興奮性細胞の電位シミュレーションは、要素が増えるなどして複雑になっているが基本は変わらない。 | ||
== ''m''<sup>3</sup>''h''と''n''<sup>4</sup> == | == ''m''<sup>3</sup>''h''と''n''<sup>4</sup> == | ||
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Hodgkin-Huxley以前に、電気生理学の実験が行われていなかったわけではない。電流と電位変化に関する研究はかなり多く行われていた。しかしながら、細胞にはいろいろなイオンチャネルを通して電流が流れるため、細胞の電位''v''と外部から流す電流''I''<sub>ext</sub>の間の関係は、単純ではない。そこでHodgkinとHuxleyは、 voltage clamp(電位固定法)を用いて、コンダクタンスの変化を測定して解析した。 voltage clampは1940年代に[[wikipedia:ja:アメリカ|アメリカ]]の生物物理学者[[wikipedia:ja:Kenneth Stewart Cole|Kenneth Cole]] (1900 - 1984)らにより開発された。 | Hodgkin-Huxley以前に、電気生理学の実験が行われていなかったわけではない。電流と電位変化に関する研究はかなり多く行われていた。しかしながら、細胞にはいろいろなイオンチャネルを通して電流が流れるため、細胞の電位''v''と外部から流す電流''I''<sub>ext</sub>の間の関係は、単純ではない。そこでHodgkinとHuxleyは、 voltage clamp(電位固定法)を用いて、コンダクタンスの変化を測定して解析した。 voltage clampは1940年代に[[wikipedia:ja:アメリカ|アメリカ]]の生物物理学者[[wikipedia:ja:Kenneth Stewart Cole|Kenneth Cole]] (1900 - 1984)らにより開発された。 | ||
以下は数式的な説明。 | 以下は数式的な説明。 | ||
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163行目: | 163行目: | ||
#ゲート電流(gating current): チャネルタンパクの動きを反映すると考えられるゲート電流の電位依存性は、電流の電位依存性よりも過分極側にずれており、チャネルが最終的に開く過程は電位依存的ではないと推測された。<ref><pubmed>4700900</pubmed></ref> | #ゲート電流(gating current): チャネルタンパクの動きを反映すると考えられるゲート電流の電位依存性は、電流の電位依存性よりも過分極側にずれており、チャネルが最終的に開く過程は電位依存的ではないと推測された。<ref><pubmed>4700900</pubmed></ref> | ||
#Single-channel recording: Na<sup>+</sup>チャネルの開口時間は、HHモデルで予測されるよりも短く、脱分極から遅れてチャネルが開く場合が観察された。 <ref><pubmed>6316158</pubmed></ref> | #Single-channel recording: Na<sup>+</sup>チャネルの開口時間は、HHモデルで予測されるよりも短く、脱分極から遅れてチャネルが開く場合が観察された。 <ref><pubmed>6316158</pubmed></ref> | ||
#Markov過程モデル: HHモデルよりもより複雑な過程を示すことの出来るMarkov過程モデルの方が、より詳細なチャネルの性質や、変異による性質の変化を表すことが出来た。 <ref><pubmed>6094703</pubmed></ref> | #Markov過程モデル: HHモデルよりもより複雑な過程を示すことの出来るMarkov過程モデルの方が、より詳細なチャネルの性質や、変異による性質の変化を表すことが出来た。 <ref><pubmed>6094703</pubmed></ref> <ref><pubmed>10448858</pubmed></ref> | ||
== 現在におけるHHモデル == | == 現在におけるHHモデル == | ||
174行目: | 174行目: | ||
HH方程式の数値計算には、ノートPCレベルのコンピュータがあれば十分である。基本的には常微分方程式の数値積分なので、C/C++やFortranなどの通常の言語でプログラムを作成すればよい。しかしそのような計算を目的に開発されて来た[http://www.neuron.yale.edu NEURONシミュレータ]を用いると、電位固定でのチャネルの性質や、チャネルを細胞に組み込んだ時の電位の変化などを比較的容易に検証する事が出来る。 | HH方程式の数値計算には、ノートPCレベルのコンピュータがあれば十分である。基本的には常微分方程式の数値積分なので、C/C++やFortranなどの通常の言語でプログラムを作成すればよい。しかしそのような計算を目的に開発されて来た[http://www.neuron.yale.edu NEURONシミュレータ]を用いると、電位固定でのチャネルの性質や、チャネルを細胞に組み込んだ時の電位の変化などを比較的容易に検証する事が出来る。 | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> | ||
<br> (執筆者:井本敬二 担当編集委員:柚崎通介) | |||
(執筆者:井本敬二 担当編集委員:柚崎通介) |