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[[image:KaeNakamura-Fig.png|thumb|300px|'''図.霊長類の縫線核'''<br>DRN,dorsal raphe nucleus; MRN,median raphe nucleus; NRM,nucleus raphe magnus; NRP,nucleus raphe pallidus; NRO,nucleus raphe obscures | [[image:KaeNakamura-Fig.png|thumb|300px|'''図.霊長類の縫線核'''<br>DRN,dorsal raphe nucleus; MRN,median raphe nucleus; NRM,nucleus raphe magnus; NRP,nucleus raphe pallidus; NRO,nucleus raphe obscures | ||
AC,anterior commissure; CC,corpus callosum; Am, Amygdala; CB, cingulum bundle; DG, dentate gyrus; DRCT,dorsal raphe cortical tract; F,fornix; H, hypothalamus; Hipp, hippocampus, IC,internal capsule IP,interpeduncular nucleus; LC, locus coeruleus; MB, mammillary body; MFB, medial forebrain bundle; OB, olfactory bulb; S, septum; SM, stria medullaris; Str, Striatum; SN, substantia nigra; VAFP, ventro amygdalofugal pathway<br> | AC,anterior commissure; CC,corpus callosum; Am, Amygdala; CB, cingulum bundle; DG, dentate gyrus; DRCT,dorsal raphe cortical tract; F,fornix; H, hypothalamus; Hipp, hippocampus, IC,internal capsule IP,interpeduncular nucleus; LC, locus coeruleus; MB, mammillary body; MFB, medial forebrain bundle; OB, olfactory bulb; S, septum; SM, stria medullaris; Str, Striatum; SN, substantia nigra; VAFP, ventro amygdalofugal pathway<br><ref name=ref3><pubmed>2418648</pubmed></ref>より改変 ]] | ||
縫線核は中脳から脳幹の内側部に分布する細胞集団で、複数の核よりなる縫線核「群」である。縫線核は元々ニッスル染色により同定されたが、後に免疫組織学的手法によりセロトニン細胞の分布とほぼ重なることが判明し、Dahlström とFuxe(1964)によって9つの神経核B1-B9の集合体として記載された。ただし、セロトニン細胞は縫線核外の近傍領域にも存在し、逆に、縫線核にはセロトニン以外の伝達物質を含む神経細胞も存在する。異なる縫線核は、菱脳節(rhombomere)の異なる領域から発生し、マウスでは吻側のrhombomere1(r1)からB4,6,7、その後さらに尾側のr2からB5,8,9, r5-8からB1,2,3が発生する。 | 縫線核は中脳から脳幹の内側部に分布する細胞集団で、複数の核よりなる縫線核「群」である。縫線核は元々ニッスル染色により同定されたが、後に免疫組織学的手法によりセロトニン細胞の分布とほぼ重なることが判明し、Dahlström とFuxe(1964)によって9つの神経核B1-B9の集合体として記載された。ただし、セロトニン細胞は縫線核外の近傍領域にも存在し、逆に、縫線核にはセロトニン以外の伝達物質を含む神経細胞も存在する。異なる縫線核は、菱脳節(rhombomere)の異なる領域から発生し、マウスでは吻側のrhombomere1(r1)からB4,6,7、その後さらに尾側のr2からB5,8,9, r5-8からB1,2,3が発生する。 | ||
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== 縫線核とは == | == 縫線核とは == | ||
中脳・脳幹を中心に、尾側から吻側へ9つの神経核B1-B9が分布する。尾側核群は橋、延髄腹側に分布し、淡蒼縫線核(nucleus raphe pallidus, NRP, B1)・不確縫線核(nucleus raphe obscures, NRO, B2)・大縫線核(nucleus raphe magnus ,B3)が含まれる。これらの核からは脊髄や脳幹内に投射している。吻側核群は中脳に分布し、そのうち最大の核B7とその尾側につながるやや小さいB6は合わせて背側縫線核(dorsal raphe nucleus, DRN)と呼ばれる。背側縫線核は中心灰白質の腹側、吻側は動眼神経核レベルから第4脳室尾側端まで分布する。背側縫線核はさらにinterfascicular、ventromedial, ventrolateral (いわゆるlateral wings)、caudal・rostral componentsに分けられ、それぞれからの入出力も異なる | 中脳・脳幹を中心に、尾側から吻側へ9つの神経核B1-B9が分布する。尾側核群は橋、延髄腹側に分布し、淡蒼縫線核(nucleus raphe pallidus, NRP, B1)・不確縫線核(nucleus raphe obscures, NRO, B2)・大縫線核(nucleus raphe magnus ,B3)が含まれる。これらの核からは脊髄や脳幹内に投射している。吻側核群は中脳に分布し、そのうち最大の核B7とその尾側につながるやや小さいB6は合わせて背側縫線核(dorsal raphe nucleus, DRN)と呼ばれる。背側縫線核は中心灰白質の腹側、吻側は動眼神経核レベルから第4脳室尾側端まで分布する。背側縫線核はさらにinterfascicular、ventromedial, ventrolateral (いわゆるlateral wings)、caudal・rostral componentsに分けられ、それぞれからの入出力も異なる<ref name=ref1><pubmed>1783685</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>9466453</pubmed></ref>。特に外側のwingsと呼ばれる部位は、ヒトやサルでは滑車神経周辺によく発達している。B8とB5は内側縫線核(median raphe)または上中心核(nucleus centralis superior)と呼ばれ、吻側は上小脳脚交叉レベル、尾側は顔面神経丘の吻側レベルまで分布する。これら吻側核群からの軸索は小脳、中脳、間脳、辺縁系、大脳皮質に投射する。また、内側縫線核から背側縫線核への、または背側縫線核内のセロトニン細胞間の相互連絡が豊富であり、セロトニン細胞の自己受容体を介した自己の発火率の調節の制御にかかわっている可能性がある。 | ||
== 縫線核からの投射== | == 縫線核からの投射== | ||
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=== 吻側核群からの投射 === | === 吻側核群からの投射 === | ||
背側縫線核・内側縫線核からの投射線維はともに視床下部内を上行する内側前脳束(medial forebrain bundle, MFB)の一部となって前脳領域に投射する。霊長類では約25%の線維は有髄で | 背側縫線核・内側縫線核からの投射線維はともに視床下部内を上行する内側前脳束(medial forebrain bundle, MFB)の一部となって前脳領域に投射する。霊長類では約25%の線維は有髄で<ref name=ref3 />, 背側縫線核から内包を通って皮質へ投射する経路が最大のものである。縫線核からの投射先は、ドパミン系のそれに比べると広汎で脳のほとんどの部位に投射しているが、一定の規則性はあり、例えば核の吻側の細胞は脳の吻側に、外側の細胞は外側に投射する。 | ||
縫線核細胞の前頭への投射線維の形態学的特徴や投射先はその起源核によって異なる(Hensler, 2006)。背側縫線核からの投射線維は小さな結節状構造varicosityを 持つ細い軸索が広汎に微細に分岐し、小型の多形性のsynaptic bouton を有し、大脳基底核や前頭皮質、外側中隔核、扁桃体、腹側海馬に投射する。内側縫線核からの投射線維は比較的太く結節状構造は有さず、分岐は短く細く、大きい球形のsynaptic bouton を有し、背側海馬や内側中隔核、視床下部に投射する。この形態学的差異はアンフェタミン誘導体である神経毒 PCA(parachloroamphetamine) やMDMA (3,4-methylenedioxymethamphetamine, 通称‘ecstasy’)に対するぜい弱性とも関連がある可能性があり、投与後、内側縫線核からの投射線維は保存されている一方背側縫線核からの投射線維は障害される(Molliver, 1987)。神経毒への感受性の差は、投射先のserotonin transporter (SERT)の分布の差とも関連があり、背側縫線核から微細な投射を受ける側坐核のほとんどの部位はSERT濃度が高く、内側縫線核から球状のシナプス投射を受ける尾側の側坐核shellではSERT濃度が非常に低い。 | 縫線核細胞の前頭への投射線維の形態学的特徴や投射先はその起源核によって異なる(Hensler, 2006)。背側縫線核からの投射線維は小さな結節状構造varicosityを 持つ細い軸索が広汎に微細に分岐し、小型の多形性のsynaptic bouton を有し、大脳基底核や前頭皮質、外側中隔核、扁桃体、腹側海馬に投射する。内側縫線核からの投射線維は比較的太く結節状構造は有さず、分岐は短く細く、大きい球形のsynaptic bouton を有し、背側海馬や内側中隔核、視床下部に投射する。この形態学的差異はアンフェタミン誘導体である神経毒 PCA(parachloroamphetamine) やMDMA (3,4-methylenedioxymethamphetamine, 通称‘ecstasy’)に対するぜい弱性とも関連がある可能性があり、投与後、内側縫線核からの投射線維は保存されている一方背側縫線核からの投射線維は障害される(Molliver, 1987)。神経毒への感受性の差は、投射先のserotonin transporter (SERT)の分布の差とも関連があり、背側縫線核から微細な投射を受ける側坐核のほとんどの部位はSERT濃度が高く、内側縫線核から球状のシナプス投射を受ける尾側の側坐核shellではSERT濃度が非常に低い。 |