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Ⅱ.分子構造による分類 | Ⅱ.分子構造による分類 | ||
PLCは構造的に& | PLCは構造的にβ、γ、δ、ε、ζ、ηの6つのタイプに分類され、ほ乳動物ではβ1-4、γ1-2、δ1,3-4、ε、ζ、η1-2の合わせて13種類のサブタイプが同定されている。また、いくつかのサブタイプについてはsplicing variantが報告されている。splicing variantの一部を除くと、すべてのPLCは酵素活性を司るXドメインとYドメインの他に、さまざまなシグナル関連物質と相互作用するPHドメイン(ζ型を除く)、Ca<sup>2+</sup>結合能を有するEFハンドモチーフやC2ドメインなどを共通に有する。これらの基本的なドメイン構造に加え、PLCγではSH2およびSH3, PLCεではCDC25およびRAなど、各タイプに特徴的なドメイン構造がみられる。 | ||
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哺乳動物におけるPLCの各サブタイプの発現量は、組織により、また、脳の部位や細胞の種類により大きく異なる。各タイプの高発現部位は以下の通りである。 | 哺乳動物におけるPLCの各サブタイプの発現量は、組織により、また、脳の部位や細胞の種類により大きく異なる。各タイプの高発現部位は以下の通りである。 | ||
(1)PLCβ<ref><pubmed>9753089</pubmed></ref> | |||
PLCβ1, 3, 4は脳で発現が高いが、その分布は脳領域により異なる。PLCβ1は主に大脳で、PLCβ3 は小脳尾側部で、PLCβ4は小脳吻側部、視床、脳幹に分布する。PLCβ2は脳での発現は低い。脳以外の部位としては、PLCβ2は造血由来細胞で、PLCβ3は肝臓、耳下腺で、PLC-β4は網膜に多く分布する。 | |||
(2)PLCγ | |||
PLCγ1は脳および胎生組織で発現が高く、脳内では広く分布している。一方、PLCγ2は造血組織由来細胞で発現が高く、脳内では下垂体前葉や小脳などの限られた領域に選択的に発現している。 | |||
(3)PLCδ | |||
PLCδはPLCβやPLCγに比べると相対的に量は少ない。PLCδ1はPLCδタイプの中で最も量が多くかつ広く分布しており、高発現組織は骨格筋、脾臓、精巣、肺などである。脳では主にアストログリアに発現し、ニューロンでは少ない。PLCδ3は腎臓および心臓に、PLCδ4は脳、骨格筋、精巣、腎臓に発現している。 | |||
(4)PLCε | |||
PLCεは心臓で最も発現が高く、腎臓、肺、脳がその後に続く。 | |||
(5)PLCζ | |||
精巣でのみ発現がみられる。 | 精巣でのみ発現がみられる。 | ||
(6)PLCη | |||
PLCη1は主に神経系で発現しており、海馬や小脳プルキンエ細胞での発現が高い。PLCηηも同様にニューロン特異的酵素であり、海馬、大脳皮質、嗅球で発現が高い。 | |||
Ⅳ.活性調節<ref><pubmed>11015615</pubmed></ref><ref><pubmed>11395409</pubmed></ref><ref><pubmed>16310357</pubmed></ref><ref><pubmed>17054901</pubmed></ref> | Ⅳ.活性調節<ref><pubmed>11015615</pubmed></ref><ref><pubmed>11395409</pubmed></ref><ref><pubmed>16310357</pubmed></ref><ref><pubmed>17054901</pubmed></ref> | ||
各タイプはそれぞれ異なる活性調節を受ける。精巣にのみ発現するPLCζを除く5つのタイプについて、どのようなシグナルにより活性化されるのかを神経系の場合を念頭において説明する。図2は、各タイプのPLCが細胞膜のどのタイプの受容体の下流にあるのかをおおまかに示したものである。 | |||
(1)PLCβ | |||
主な活性化経路は7回膜貫通型3量体G蛋白質共役型受容体(以下、G蛋白質共役型受容体)を介したものである。Gq共役型受容体を介して活性化される3量体G蛋白のαサブユニットが作用する経路と、Gi共役型受容体刺激により遊離するβγサブユニットが作用する経路とがある。PLCβを活性化しうるαサブユニットはGαqファミリー(脳ではGαqおよびGα11)であり、PLCβのC末の調節ドメインに結合し作用する。PLCβ1-4のいずれも活性化しうるがPLCβ1およびPLCβ4への作用が最も強く、PLCβ2への作用が最も弱い。一方、GβγサブユニットはPLCβ2およびPLCβ3に作用するが、PLCβ1への作用は弱く、PLCβ4には作用しない。また、PLCβ2およびPLCβ3は、Racなどの低分子量G蛋白質による活性化も報告されている。 | |||
(2)PLCγ | |||
主な活性化経路は増殖因子や神経栄養因子などに対するチロシンキナーゼ活性を有する受容体を介したものである。リガンドの結合により受容体の自己チロシンリン酸化が起こり、その部位にPLCγがSH2ドメインを介して結合し、その後PLCγ自身もチロシンリン酸化され活性化される。それと同時に、受容体はフォスファチジルイノシトール3-キナーゼ(phosphatidylinositol 3-kinase, PI3K)を活性化し、それにより産生されるフォスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(phosphatidylinositol 3,4,5-triphosphate, PIP3)はPLCγを膜へ移動させ活性化を促進する。 | |||
また、G蛋白質共役型受容体などのチロシンキナーゼ活性を持たない受容体がチロシンキナーゼ活性を有する受容体あるいは非受容体性チロシンキナーゼを介してPLCγを活性化させる経路、さらにはチロシンリン酸化を介さない経路など、さまざまな活性化経路が報告されている。 | |||
(3)PLCδ | |||
主な活性化因子は細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇(1-10μM)であると考えられている。Ca<sup>2+</sup> | 主な活性化因子は細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇(1-10μM)であると考えられている。Ca<sup>2+</sup>イオンはPLCδのPHドメインとPIP<sub>2</sub>との結合を促進させるなどの作用によりPLCδを膜に移動させ酵素活性を高める。細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇はPLCの下流シグナルでもあることから、膜の受容体を介して他のタイプのPLCが活性化されCa<sup>2+</sup>濃度上昇が起こると、さらにPLCδが活性化されシグナルが増幅される、という可能性が示唆されている。また、PLCδ1については、トランスグルタミナーゼ活性を有するG蛋白質の1種Ghによる活性調節が報告されている。 | ||
(4)PLCε | |||
PLCεの活性化経路は多様であり、様々な低分子量G蛋白質やG蛋白質共役型受容体を介する経路が報告されている。RasファミリーのRasやRapはGTP依存的にPLCεのRAドメインに結合し、RhoファミリーのRhoA、RhoB、RhoCはYドメインのPLCε固有のアミノ酸配列に結合し、それぞれPLCεを活性化する。また、β2アドレナリン受容体やプロスタグランジンE1受容体などのGs共役型受容体を介してcAMPが産生されると、cAMP依存性グアニンヌクレオチド交換反応促進因子を介してRap2Bが活性化され、それがPLCεのRAドメインに結合しPLCεを活性化する。また、PLCεは3量体G蛋白質のGα12やGβγサブユニットによっても活性化されることが報告されている。 | |||
(5)PLCη | |||
2005年に発見された最も新しいタイプのPLCであり、その活性化経路については不明の点が多い。PLCη1、PLCη2ともにCa<sup>2+</sup>に対する感受性が高く、また、PLCβ2やPLCβ3と同様に3量体G蛋白質のβγサブユニットにより活性化されることからG蛋白質共役型受容体を介する経路が示唆されている。しかし、Gβγの作用が直接的なのか間接的なのかは明らかではない。 | |||
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(2)IP<sub>3</sub> | (2)IP<sub>3</sub> | ||
PLCにより生成されるIP<sub>3</sub>は、IP<sub>3</sub>受容体に結合し小胞体からCa<sup>2+</sup>を放出させ、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇をもたらす。Gq共役型受容体刺激により起こる初期のCa<sup>2+</sup> | PLCにより生成されるIP<sub>3</sub>は、IP<sub>3</sub>受容体に結合し小胞体からCa<sup>2+</sup>を放出させ、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇をもたらす。Gq共役型受容体刺激により起こる初期のCa<sup>2+</sup>濃度上昇の少なくとも一部は、PLCβを介してこの経路が働くことによる。 | ||
(3)DAG | (3)DAG | ||
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Ⅵ.Gq共役型受容体- | Ⅵ.Gq共役型受容体-PLCβを介する反応の例 | ||
神経系、特に中枢ニューロンのPLCの働きに関する研究のほとんどは、Gq共役型受容体–PLCβを介する反応を調べたものである。そこで、海馬ニューロンのムスカリン性受容体を介する反応を例に挙げ説明する。海馬ニューロンにおいて、電気刺激による内在アセチルコリンの遊離、あるいはアセチルコリン受容体アゴニストの投与によりさまざまな反応が引き起こされることが報告されている。その中からPLCβを介すると思われるものを以下に示す。一部の反応については、ノックアウトマウスを用いて、関与する受容体とPLCのタイプが主にM1受容体とPLCβ1であることが証明されている。すべて証明された訳ではないが、他の反応も同様であると思われる。 | |||
(1)静止膜電位の変化<ref><pubmed>20446119</pubmed></ref><ref><pubmed>15194117</pubmed></ref> | (1)静止膜電位の変化<ref><pubmed>20446119</pubmed></ref><ref><pubmed>15194117</pubmed></ref> | ||
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(6)内因性カンナビノイド2-AGの放出<ref><pubmed>19126760</pubmed></ref> | (6)内因性カンナビノイド2-AGの放出<ref><pubmed>19126760</pubmed></ref> | ||
シナプス後側のムスカリン受容体刺激はPLCβを介してDAGを、さらにDGLを介して2-AGを生成する。2-AGは細胞外へと拡散し、シナプス前終末のCB1受容体に結合し、伝達物質の放出を抑制する。 | |||
海馬のムスカリン受容体の場合を例に挙げたが、他の脳領域や他のGq共役型受容体の場合も同様に考えることができる。しかし、どの受容体を介してどのような反応が引き起こされるのかは細胞により大きく異なり、発現しているシグナル関連分子の発現量や分布様式により決まると考えられる。 | 海馬のムスカリン受容体の場合を例に挙げたが、他の脳領域や他のGq共役型受容体の場合も同様に考えることができる。しかし、どの受容体を介してどのような反応が引き起こされるのかは細胞により大きく異なり、発現しているシグナル関連分子の発現量や分布様式により決まると考えられる。 |
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