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== 歴史的推移 == | == 歴史的推移 == | ||
1997年、チロシンキナーゼSrcに結合するタンパク質が探索され、当時未知のタンパク質であった、disabled-1 homolog 1 (Dab1)(Drosophilaで同定されていたdisabled-1遺伝子と相同性があった為命名)が同定された<ref name="ref1"><pubmed>9009273</pubmed></ref>。Dab1は N末端領域にPTBドメインを持つアダプタータンパク質で、Srcによりリン酸化されることが明らかになった<ref name="ref1" />。dab1ノックアウトマウスが作成された所、大脳新皮質、海馬、小脳において神経細胞の配置異常が観察された<ref><pubmed>9338785</pubmed></ref>。この表現型は1951年に報告され、その原因遺伝子reelinが1995年に明らかにされた、リーラー(reeler)マウスの表現型(リーラーフェノタイプ)<ref>'''Two new mutants trembler and reeler, with neurological actionss in the house mouse'''<br>J. Genet..: 1951, 51, 192-201[http://link.springer.com/article/10.1007%2FBF02996215 論文掲載サイト]</ref>と酷似していた。さらに、リーラーフェノタイプ示すことが知られていたyotariマウスとscramblerマウスの原因遺伝子がdab1であることが明らかになり<ref><pubmed>9338784</pubmed></ref>、dab1とreelinとの関連性が示唆された。実際、reelerマウスでは、(1)Dab1のmRNA量は変化しないが、タンパク質量が上昇していること、<ref><pubmed>9716537</pubmed></ref>、(2)Reelinは脳表層に分布するカハールレティウス(Cajal-Retzius)細胞に主に発現が観察されるが、Dab1はそれに隣接する神経細胞に発現が観察され、相補的な発現パターンになっていること | 1997年、チロシンキナーゼSrcに結合するタンパク質が探索され、当時未知のタンパク質であった、disabled-1 homolog 1 (Dab1)(Drosophilaで同定されていたdisabled-1遺伝子と相同性があった為命名)が同定された<ref name="ref1"><pubmed>9009273</pubmed></ref>。Dab1は N末端領域にPTBドメインを持つアダプタータンパク質で、Srcによりリン酸化されることが明らかになった<ref name="ref1" />。dab1ノックアウトマウスが作成された所、大脳新皮質、海馬、小脳において神経細胞の配置異常が観察された<ref><pubmed>9338785</pubmed></ref>。この表現型は1951年に報告され、その原因遺伝子reelinが1995年に明らかにされた、リーラー(reeler)マウスの表現型(リーラーフェノタイプ)<ref>'''Two new mutants trembler and reeler, with neurological actionss in the house mouse'''<br>J. Genet..: 1951, 51, 192-201[http://link.springer.com/article/10.1007%2FBF02996215 論文掲載サイト]</ref>と酷似していた。さらに、リーラーフェノタイプ示すことが知られていたyotariマウスとscramblerマウスの原因遺伝子がdab1であることが明らかになり<ref><pubmed>9338784</pubmed></ref>、dab1とreelinとの関連性が示唆された。実際、reelerマウスでは、(1)Dab1のmRNA量は変化しないが、タンパク質量が上昇していること、<ref><pubmed>9716537</pubmed></ref>、(2)Reelinは脳表層に分布するカハールレティウス(Cajal-Retzius)細胞に主に発現が観察されるが、Dab1はそれに隣接する神経細胞に発現が観察され、相補的な発現パターンになっていること<ref><pubmed>9716537</pubmed></ref>、(3)Reelin刺激によりDab1のチロシンリン酸化が観察されること<ref><pubmed>10090720</pubmed></ref>等から、Dab1はReelinシグナルを細胞内で伝達する役割を果たしているのではないかと推定された。 | ||
2000年になり、low density lipoprotein receptor-related protein 8 (LRP8またはApoER2)とvery low density lipoprotein | 2000年になり、low density lipoprotein receptor-related protein 8 (LRP8またはApoER2)とvery low density lipoprotein receptor(VLDLR)のダブルノックアウトマウスが、リーラーフェノタイプになること<ref name=ref2><pubmed>10380922</pubmed></ref>が明らかになり、さらに生化学的結合実験等により、ApoER2とVLDLRがReelinのレセプターであることが示された<ref><pubmed>10571241</pubmed></ref><ref><pubmed>10571240</pubmed></ref>。またApoER2とVLDLRの細胞内ドメインのNPxYモチーフにDab1のPTBドメインを介して結合出来る事が示され、Dab1はReelinシグナルをApoER2、VLDLRを介して受け取る事が示唆された<ref name=ref2 />。また同年、活性化型Srcによってチロシンリン酸化を受ける可能性のある5つのチロシンが同定され、この5つのチロシンリン酸化部位全てをフェニルアラニンに変異させたノックインマウスが、リーラーフェノタイプになる事が示された<ref><pubmed>10959835</pubmed></ref>。この実験結果により、Dab1のチロシンリン酸化はReelinシグナルにとって必須であることが示された。 | ||
2003年以降、チロシンリン酸化されたDab1に結合する様々なタンパク質が報告され、現在までにPI3K<ref><pubmed>12882964</pubmed></ref>、SOCS3<ref><pubmed>17974915</pubmed></ref>、Nck<math>\beta</math><ref><pubmed>14517291</pubmed></ref>、Lis1<ref><pubmed>14578885</pubmed></ref>、SFKs<ref name="ref1" /><ref><pubmed>18981215</pubmed></ref>、Crkファミリータンパク質(Crk、CrkL)<ref><pubmed>15062102</pubmed></ref><ref><pubmed>15316068</pubmed></ref><ref><pubmed>15110774</pubmed></ref>がDab1のチロシンリン酸化依存的に結合することが報告されている。このうちCrkとCrkLダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>19074029</pubmed></ref>、C3Gのジーントラップ系統マウス<ref><pubmed>18506028</pubmed></ref>、及びSrcとFynのダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>16162939</pubmed></ref>においてはリーラーフェノタイプ様の異常が生じることが報告されている。 | |||
2004年には、dab1欠損マウスの海馬歯状回の顆粒細胞の樹状突起が野生型に比べて突起の数が減少していること<ref><pubmed></pubmed></ref>、dab1欠損マウス由来の培養海馬神経細胞の樹状突起が短くなり、枝分かれの数も減少すること<ref><pubmed></pubmed></ref>が報告された。また、2006年、Dab1のノックダウン実験により、神経細胞の樹状突起形成が阻害されること<ref><pubmed></pubmed></ref>、生後三日目からdab1を時期特異的にノックアウトした場合、海馬の樹状突起形成が阻害される<ref><pubmed></pubmed></ref>ことが、報告され、dab1は神経細胞の移動過程以外にも、神経細胞の樹状突起の発達にも関与することが示唆された。 | |||
2011年から現在にかけて、Dab1の下流分子としてN- | 2011年から現在にかけて、Dab1の下流分子としてN-cadherin<ref><pubmed></pubmed></ref>と<math>\alpha</math>5<math>\beta</math>1 Integrin<ref><pubmed></pubmed></ref>が神経細胞の移動を制御しいている可能性が示唆されている。これまでの観察で、培養神経細胞のReelin刺激が、Dab1リン酸化を介してCrk-C3G-Rap1パスウェイを活性化すること<ref><pubmed></pubmed></ref>が報告されていたことから、Rap1のエフェクター分子が調べられた。その結果、Reelin-Dab1シグナルはN-cadherinを介して神経細胞のロコモーションと呼ばれる移動過程<ref><pubmed></pubmed></ref>を、Integrin a5b1を介してターミナルトランスロケーションと呼ばれる移動過程に関与している<ref><pubmed></pubmed></ref>可能性が示唆された。 | ||
== 分子構造 == | == 分子構造 == | ||
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[[Image:Fig1 Dab1 primary structure.png|thumb|500px|<b>図1 Dab1のドメイン構造</b>]] | [[Image:Fig1 Dab1 primary structure.png|thumb|500px|<b>図1 Dab1のドメイン構造</b>]] | ||
マウスではオルタナティブスプライシングにより13種のバリアントが存在することが報告されている<ref><pubmed>22586277</pubmed></ref>が、発達過程の中枢神経系では555アミノ酸を持つバリアント、Dab1 p80が最も多く発現している<ref><pubmed></pubmed></ref>。Dab1(p80)はN末端側からPhosphotyrosine-binding (PTB) domain、チロシンリン酸化部位を持つ細胞内タンパク質である(図1)。PTBドメインは、細胞内ドメインにNPxYモチーフを持つ膜タンパク質と結合する。これまでに、ApoER2<ref><pubmed></pubmed></ref>、VLDLR<ref><pubmed></pubmed></ref>、mPcdh18<ref><pubmed></pubmed></ref>、APP<ref><pubmed></pubmed></ref>、APLP1<ref><pubmed></pubmed></ref>、 APLP2<ref><pubmed></pubmed></ref>との結合が報告されている。これらの結合にはNPxYモチーフのチロシン残基のリン酸化は必要としない。PTBドメインにはplekstrin homology (PH)ドメイン様構造が含まれており、リン脂質(PtdIns4P and PtdIns4,5P2)に結合することが出来る。また、PTBドメインのN末端側には核移行シグナル(Nuclear localization Signal: NLS)、PTBドメインのC末端側に二つの核外移行シグナル(Nuclear Export Signal: NES)を持っており、核と細胞質間を移行する能力を有している<ref><pubmed></pubmed></ref>。PTBドメインのC末端側、分子の中程にチロシンリン酸化を受ける部位が5カ所(Y185、Y198、Y200、Y220、Y232)同定されており<ref><pubmed></pubmed></ref>、このうちの4つがシグナルの伝達に重要な役割を果たしている事が明らかにされている<ref><pubmed></pubmed></ref>。4つのチロシンリン酸化サイトは配列の相同性からYQXI配列を持つ2つ(Y185、Y198)とYXVP配列を持つ二つ(Y220、Y232)に分けられる。 興奮性神経細胞の移動に関しては、YQXI配列を持つY185とY198の間、およびYXVP配列を持つY220とY232の間で冗長性を持つ。一方、両相同染色体にY185・Y198変異を持つマウスと、Y220・Y232に変異を持つマウスではそれぞれリーラーフェノタイプを示す。一方、片方の相同染色体でY185・Y198に変異を持ち、もう片方の相同染色体のY220・Y232に変異を持つ変異マウスではリーラーフェノタイプを示さないことから、Y185・Y198とY220・Y232はそれぞれ独立の機能を持ち、さらに相互依存する関係であることが示されている。Y200の生理的役割は不明である。 | |||
== サブファミリー == | == サブファミリー == |
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