「FM1-43」の版間の差分

14 バイト追加 、 2013年1月30日 (水)
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'''目次 <br>'''
'''目次 <br>'''
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  1. FM1-43とは <br>
  1. FM1-43 とは <br>
  2. 分子構造 <br>
  2. 分子構造 <br>
  3. 蛍光特性 <br>
  3. 蛍光特性 <br>
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構造は、親水性領域、二重結合領域、疎水性炭素鎖領域に分けられる。<br>
構造は、親水性領域、二重結合領域、疎水性炭素鎖領域に分けられる。<br>
親水性領域が正の電荷をもつため、膜を通過しない。二重結合の数は蛍光波長に関連する。<br>
親水性領域が正の電荷をもつため、膜を通過しない。二重結合の数は蛍光波長に関連する。<br>
二重結合が一つの FM1-43・FM1-84・FM2-10 は黄色蛍光を呈し、二重結合が二つのFM4-64・FM5-95 は赤色蛍光を呈する。<br>
二重結合が一つの FM1-43・FM1-84・FM2-10 は黄色蛍光を呈し、二重結合が二つの FM4-64・FM5-95 は赤色蛍光を呈する。<br>
疎水性炭素鎖の長さは細胞膜の染め方に関連し、長いものほど明るく、一旦膜に組み込まれると離脱しがたい<ref><pubmed> 10202529 </pubmed></ref>。
疎水性炭素鎖の長さは細胞膜の染め方に関連し、長いものほど明るく、一旦膜に組み込まれると離脱しがたい<ref><pubmed> 10202529 </pubmed></ref>。
FM1-43 の炭素鎖数は 4であり、解離時定数 τdissは 8msを示す。より短いFM2-10(炭素鎖数2)は、比較的離脱しやすい(τdiss= 6.4 ms)。逆に、より長い FM1-84(炭素鎖数5)は離脱に時間がかかる(τdiss= 36 ms)<ref><pubmed> 19580748 </pubmed></ref>。
FM1-43 の炭素鎖数は 4であり、解離時定数 τdiss は 8msを示す。より短い FM2-10(炭素鎖数 2)は、比較的離脱しやすい(τdiss =6.4 ms)。逆に、より長い FM1-84(炭素鎖数 5)は離脱に時間がかかる(τdiss =36 ms)<ref><pubmed> 19580748 </pubmed></ref>。
   
   
'''<br>蛍光特性<br>'''  
'''<br>蛍光特性<br>'''  
FM1-43 の励起には 1光子では波長 480nm光、2光子では波長 840 nm 光が頻用される。<br>
FM1-43 の励起には 1光子では波長 480 nm光、2光子では波長 840 nm 光が頻用される。<br>
極大蛍光波長はリポゾーム中にて 580 nm である。<br>
極大蛍光波長はリポゾーム中にて 580 nm である。<br>
波長 480 nm光の高出力励起(~150 μW)にてジアミノベンゼン(DAB)の光変換(photoconversion) を起こす。そのため、アルデヒドで固定可能な色素:FM1-43FX と DAB を細胞に与え、光変換させると、共局在部位で電子密度の高い産物が作られ、電子顕微鏡観察が可能となる。FM1-43を取り込んだ小胞が、高い電子密度で描出され、微細構造解析に利用されている。 <br>
波長 480 nm光の高出力励起(~150 μW)にてジアミノベンゼン(DAB)の光変換(photoconversion) を起こす。そのため、アルデヒドで固定可能な色素:FM1-43FX と DAB を細胞に与え、光変換させると、共局在部位で電子密度の高い産物が作られ、電子顕微鏡観察が可能となる。FM1-43を取り込んだ小胞が、高い電子密度で描出され、微細構造解析に利用されている。 <br>
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'''応用例<br>'''
'''応用例<br>'''
シナプス前機能の解析シナプス前終末における小胞プールの大きさと開口放出量の測定。<br>
シナプス前機能の解析シナプス前終末における小胞プールの大きさと開口放出量の測定。<br>
細胞外をFM1-43 で還流中に、短い放出刺激を与え(例 20 Hz、30 発)、開口放出した小胞の膜を染める。 <br>
細胞外を FM1-43 で還流中に、短い放出刺激を与え(例 20 Hz、30 発)、開口放出した小胞の膜を染める。 <br>
 
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<br>小胞は30-60秒で細胞内部にエンドサイトーシスで取り込まれる。その後、細胞外を、色素を含まない溶液で還流し、細胞外膜に結合した色素をwash out する。このような loading 過程を経て示される蛍光量は、30回の刺激時に開口放出した小胞にあたりReadily releasable pool (RRP)のサイズの指標となる。カエルNMJの場合、RRP の小胞数は神経終末内小胞の約15%(12-17%)と報告された<ref><pubmed> 15044806 </pubmed></ref>。<br>
<br>小胞は 30-60秒で細胞内部にエンドサイトーシスで取り込まれる。その後、細胞外を、色素を含まない溶液で還流し、細胞外膜に結合した色素をwash out する。このような loading 過程を経て示される蛍光量は、30回の刺激時に開口放出した小胞にあたり Readily releasable pool (RRP)のサイズの指標となる。カエル NMJの場合、RRP の小胞数は神経終末内小胞の約 15%(12-17%)と報告された<ref><pubmed> 15044806 </pubmed></ref>。<br>




次に、細胞外色素フリーの状態で放出刺激を与えると、前段階で染められた小胞は細胞膜と融合し、細胞外液への拡散により神経終末の蛍光は減弱する(destaining)。この減弱の程度や時間経過から、開口放出の量と速度が評価できる。蛍光減弱の時間経過は single exponential に近似されることから、Release probability(Pr) は蛍光減弱の時定数に反比例すると考えられる。Prの計算法として、(Recycling pool の小胞数×0.63)/ (37%に蛍光減弱するまでに与えた電気パルス数)で示す方法<ref><pubmed> 18701072 </pubmed></ref>
次に、細胞外色素フリーの状態で放出刺激を与えると、前段階で染められた小胞は細胞膜と融合し、細胞外液への拡散により神経終末の蛍光は減弱する(destaining)。この減弱の程度や時間経過から、開口放出の量と速度が評価できる。蛍光減弱の時間経過は single exponential に近似されることから、Release probability(Pr) は蛍光減弱の時定数に反比例すると考えられる。Prの計算法として、(Recycling pool の小胞数×0.63)/ (37%に蛍光減弱するまでに与えた電気パルス数)で示す方法<ref><pubmed> 18701072 </pubmed></ref>
が提起された。より簡易的には、FM1-43の蛍光半減期の逆数<ref><pubmed> 11426227 </pubmed></ref>で示されるケースもある。<br>
が提起された。より簡易的には、FM1-43 の蛍光半減期の逆数<ref><pubmed> 11426227 </pubmed></ref>で示されるケースもある。<br>


開口放出した顆粒は active zone の周辺から内部に取り込まれ(endocytosis)、再び放出可能となる(recycle)。このリサイクルにかかる時間は、海馬培養標本では 20-30秒、神経筋接合部では 60秒と見積もられた。そこで Recycling pool(= RRP + Reserve pool)の測定は、RRP測定時よりも長い時間電気刺激を与え、色素をロードする事により達成できる(例 10Hz 900 発)。リサイクルされた小胞は、元来小胞があった領域のほぼ全域に拡散し、core(中央部)への拡散のみが軽度に少なかった。また、リサイクルした小胞は、初めて刺激を受けたプール同様の放出確率を持つことが報告された<ref><pubmed> 1553547 </pubmed></ref> 。<br>
開口放出した顆粒は active zone の周辺から内部に取り込まれ(endocytosis)、再び放出可能となる(recycle)。このリサイクルにかかる時間は、海馬培養標本では 20-30秒、神経筋接合部では 60秒と見積もられた。そこで Recycling pool(= RRP + Reserve pool)の測定は、RRP 測定時よりも長い時間電気刺激を与え、色素をロードする事により達成できる(例 10Hz 900 発)。リサイクルされた小胞は、元来小胞があった領域のほぼ全域に拡散し、core(中央部)への拡散のみが軽度に少なかった。また、リサイクルした小胞は、初めて刺激を受けたプール同様の放出確率を持つことが報告された<ref><pubmed> 1553547 </pubmed></ref> 。<br>


FM 色素には、炭素鎖数の異なる複数種類の色素がある。これらが小胞膜を染める頻度を比較することにより、融合細孔の開放時間の長短が識別可能となる。<br>
FM 色素には、炭素鎖数の異なる複数種類の色素がある。これらが小胞膜を染める頻度を比較することにより、融合細孔の開放時間の長短が識別可能となる。<br>
FM2-10 や FM1-43 色素を用い、顆粒膜から離脱する完全融合型(full fusion)と、離脱しない不完全融合型(incomplete fusion)の識別が行われた<ref><pubmed> 9707119 </pubmed></ref>  <ref><pubmed> 12354398 </pubmed></ref>。<br>
FM2-10 や FM1-43 色素を用い、顆粒膜から離脱する完全融合型(full fusion)と、離脱しない不完全融合型(incomplete fusion)の識別が行われた<ref><pubmed> 9707119 </pubmed></ref>  <ref><pubmed> 12354398 </pubmed></ref>。<br>


'''開口放出現象の可視化<br>'''FM1-43を網膜双極性細胞のシナプス小胞に取り込ませて標識し、TIRF顕微鏡で細胞膜直下(~100nm)の観察を行い、単一小胞の開口放出現象の可視化が報告された<ref><pubmed> 10972279 </pubmed></ref> 。<br>
'''開口放出現象の可視化<br>'''FM1-43を網膜双極性細胞のシナプス小胞に取り込ませて標識し、TIRF 顕微鏡で細胞膜直下(~100nm)の観察を行い、単一小胞の開口放出現象の可視化が報告された<ref><pubmed> 10972279 </pubmed></ref> 。<br>
また、下垂体前葉細胞 (lactotrophs) や膵島細胞においても、大型有芯小胞の膜融合に伴い、開口放出部位においてFM1-43蛍光強度の上昇が報告された <ref><pubmed> 10953007 </pubmed></ref>。
また、下垂体前葉細胞 (lactotrophs) や膵島細胞においても、大型有芯小胞の膜融合に伴い、開口放出部位においてFM1-43蛍光強度の上昇が報告された <ref><pubmed> 10953007 </pubmed></ref>。


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