16,039
回編集
細 (→交連ニューロンの分化) |
細編集の要約なし |
||
8行目: | 8行目: | ||
大脳皮質を構成する興奮性投射ニューロンは初期には[[脳室帯]](ventricular zone)から、大脳皮質の発生が進むにつれ[[脳室下帯]](subventricular zone)から産生され、これらニューロン産生帯における[[神経前駆細胞]]はそれぞれ[[apical progenitor]], [[basal progenitor]]と呼ばれる。大脳皮質の興奮性ニューロンは放射方向に6層の細胞層をなすが、室帯側の[[神経幹細胞]]から産生されるニューロンはより早く分化したニューロンがより脳室側(深層)に、より遅く分化したニューロンは軟膜側(浅層)に配置されるinside-outパターンを取る。交連ニューロンはより遅く産まれるニューロン群であり、そのほとんどが大脳皮質II/III層に位置し、一部はV層、VI層にも見られる<ref><pubmed> 12700818 </pubmed></ref>。よって交連ニューロンは皮質形成期を通じて産生される。VI層に位置する交連ニューロンはマウスではE (embryonic day)12.5に、V層に位置する交連ニューロンはE13.5に産まれる。しかしほとんどの交連ニューロンは浅層に位置し、これらはE15.5-E17.5に産生される<ref><pubmed>17533671</pubmed></ref>。この様に交連ニューロンの産生が大脳皮質発生過程のほとんどの時期にわたることは交連ニューロンが広汎な神経前駆細胞から生み出されることを意味するのみでなく、進化過程で大脳皮質の増大と交連ニューロンの産生量が増えることが関連していることを示唆している。 | 大脳皮質を構成する興奮性投射ニューロンは初期には[[脳室帯]](ventricular zone)から、大脳皮質の発生が進むにつれ[[脳室下帯]](subventricular zone)から産生され、これらニューロン産生帯における[[神経前駆細胞]]はそれぞれ[[apical progenitor]], [[basal progenitor]]と呼ばれる。大脳皮質の興奮性ニューロンは放射方向に6層の細胞層をなすが、室帯側の[[神経幹細胞]]から産生されるニューロンはより早く分化したニューロンがより脳室側(深層)に、より遅く分化したニューロンは軟膜側(浅層)に配置されるinside-outパターンを取る。交連ニューロンはより遅く産まれるニューロン群であり、そのほとんどが大脳皮質II/III層に位置し、一部はV層、VI層にも見られる<ref><pubmed> 12700818 </pubmed></ref>。よって交連ニューロンは皮質形成期を通じて産生される。VI層に位置する交連ニューロンはマウスではE (embryonic day)12.5に、V層に位置する交連ニューロンはE13.5に産まれる。しかしほとんどの交連ニューロンは浅層に位置し、これらはE15.5-E17.5に産生される<ref><pubmed>17533671</pubmed></ref>。この様に交連ニューロンの産生が大脳皮質発生過程のほとんどの時期にわたることは交連ニューロンが広汎な神経前駆細胞から生み出されることを意味するのみでなく、進化過程で大脳皮質の増大と交連ニューロンの産生量が増えることが関連していることを示唆している。 | ||
哺乳類の浅層ニューロンは基本的に脳室下帯から産生され、[[wikipedia:ja:霊長類|霊長類]]では内側脳室下帯と外側脳室下帯とに分けることができる<ref><pubmed>13181005</pubmed></ref><ref><pubmed> 11734531 </pubmed></ref>。ヒトではとくにSVZが著しく拡張されて外側脳室下帯となり、交連ニューロンの数を更に増大させることで、皮質全体のサイズ、神経回路やニューロン種の複雑さを作り、脳機能の発達の進化発生学的原因となっている可能性がある | 哺乳類の浅層ニューロンは基本的に脳室下帯から産生され、[[wikipedia:ja:霊長類|霊長類]]では内側脳室下帯と外側脳室下帯とに分けることができる<ref><pubmed>13181005</pubmed></ref><ref><pubmed> 11734531 </pubmed></ref>。ヒトではとくにSVZが著しく拡張されて外側脳室下帯となり、交連ニューロンの数を更に増大させることで、皮質全体のサイズ、神経回路やニューロン種の複雑さを作り、脳機能の発達の進化発生学的原因となっている可能性がある<ref><pubmed> 20154730 </pubmed></ref>。 | ||
==交連線維の形成== | ==交連線維の形成== | ||
交連ニューロンの軸索は前脳正中部にむかった後、反対側の大脳皮質へ投射する。この線維の束が脳梁となる。発生初期([[wikipedia:ja:マウス|マウス]]の場合、胎生期E14-E15)における正中部での左右半球の融合が起きない場合は脳梁形成が障害される | 交連ニューロンの軸索は前脳正中部にむかった後、反対側の大脳皮質へ投射する。この線維の束が脳梁となる。発生初期([[wikipedia:ja:マウス|マウス]]の場合、胎生期E14-E15)における正中部での左右半球の融合が起きない場合は脳梁形成が障害される<ref><pubmed> 17275286 </pubmed></ref>。この融合には正中部の[[グリア細胞]]が必要であると考えられている<ref><pubmed> 8087547 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11306627 </pubmed></ref>。マウスではE15頃になると帯状皮質領域深層に位置する早生まれ交連ユーロンの軸索が正中部に到達する。この軸索は後に続く交連軸索の投射のための[[パイオニア線維]]として働くと考えられている<ref><pubmed> 7130467 </pubmed></ref>。E16頃には交連ニューロンの軸索は正中域を通過し反対側大脳皮質に侵入する。[[Fgfr1]]変異マウスでみられるような[[灰白層グリア]](indusium griseum glia)とglial wedgeと言ったグリア性の構造の欠損によって交連線維は正中を超える事ができなくなる<ref><pubmed> 16715082 </pubmed></ref>。 | ||
==脳梁形成に関わる分子== | ==脳梁形成に関わる分子== | ||
交連線維の交差には以下の様な多くの[[ガイダンス分子]]が関わっている事が実験的に示されている。 | 交連線維の交差には以下の様な多くの[[ガイダンス分子]]が関わっている事が実験的に示されている。 | ||
*[[FGF]]<br> [[FGF受容体]]Fgfr1[[ノックアウトマウス]]のヘテロ変異体では正中グリア構造に異常はみられないが、交連線維は正中を超える事ができない。よってFGFシグナルはグリア性構造を作るのみでなく、脳梁線維の走行に直接に働いている可能性が示唆される | *[[FGF]]<br> [[FGF受容体]]Fgfr1[[ノックアウトマウス]]のヘテロ変異体では正中グリア構造に異常はみられないが、交連線維は正中を超える事ができない。よってFGFシグナルはグリア性構造を作るのみでなく、脳梁線維の走行に直接に働いている可能性が示唆される<ref><pubmed> 16309667 </pubmed></ref>。 | ||
*[[Slit]]<br> [[Slit2]]連合軸索が交差する領域に多く発現しており、交連軸索にはSlitの受容体である[[Robo1]]/[[Robo2]]ダブルノックアウトマウスでは交差せず正中付近で腹側へ延びる交連軸索が観察される | *[[Slit]]<br> [[Slit2]]連合軸索が交差する領域に多く発現しており、交連軸索にはSlitの受容体である[[Robo1]]/[[Robo2]]ダブルノックアウトマウスでは交差せず正中付近で腹側へ延びる交連軸索が観察される<ref><pubmed> 17392456 </pubmed></ref>。 | ||
*[[Wnt]]<br> [[Wnt5a]]が交連繊維の形成に必要であることが示されており、[[Wnt]][[受容体]]としては[[Frizzled3]], [[受容体型チロシンキナーゼ]][[Ryk]] | *[[Wnt]]<br> [[Wnt5a]]が交連繊維の形成に必要であることが示されており、[[Wnt]][[受容体]]としては[[Frizzled3]], [[受容体型チロシンキナーゼ]][[Ryk]]が働いている(文献をお願い致します)。 | ||
*[[Netrin]]<br> [[Netrin1]]ノックアウトマウスでは脳梁が形成されない | *[[Netrin]]<br> [[Netrin1]]ノックアウトマウスでは脳梁が形成されない<ref><pubmed> 8978605 </pubmed></ref>。受容体である[[DCC]]は交連ニューロンで発現している<ref><pubmed> 10581466 </pubmed></ref>。[[Draxin]]ノックアウトマウスでは脳梁が形成されない。また[[IGG]]が形成されない。Draxinは正中域グリア細胞で発現しており、とくに[[glial wedge]]が発現するDraxinよる神経線維の伸張抑制効果が交連繊維の交差に必要であると考えられる(Islam et al., 2009)。DraxinはDCCと結合することから、この受容体をNetrinと共用して軸索ガイダンスに関わっていると考えられる<ref><pubmed> 21957262 </pubmed></ref>。 | ||
*[[Ephrin]]<br> [[EphB2]], [[EphB3]]ノックアウトマウスでは脳梁繊維の走行に異常が見られる。[[EphA5]]の細胞内ドメインを欠損させたマウスでは交連繊維の交差しなくなる。[[EphrinB3]]ノックアウトマウスでも交連繊維が交差しなくなり、軸索は正中手前で絡み合った神経繊維の束(Probst’s bundle)を生じる | *[[Ephrin]]<br> [[EphB2]], [[EphB3]]ノックアウトマウスでは脳梁繊維の走行に異常が見られる。[[EphA5]]の細胞内ドメインを欠損させたマウスでは交連繊維の交差しなくなる。[[EphrinB3]]ノックアウトマウスでも交連繊維が交差しなくなり、軸索は正中手前で絡み合った神経繊維の束(Probst’s bundle)を生じる<ref><pubmed> 16421308 </pubmed></ref>。 | ||
*[[Semaphorin]]/[[Neuropilin]]<br> [[Neuropilin1]]の[[ドミナントネガティブ]]分子を交連ニューロンに発現させると、軸索は正中に向かわなくなる | *[[Semaphorin]]/[[Neuropilin]]<br> [[Neuropilin1]]の[[ドミナントネガティブ]]分子を交連ニューロンに発現させると、軸索は正中に向かわなくなる<ref><pubmed> 19296474 </pubmed></ref>。Neuropilin1は帯状皮質ニューロンにおいて発現しており、脳梁形成域ではクラス3 Semaphorinが発現している。帯状皮質から投射されるNeuropilin1陽性繊維は脳梁形成のパイオニア軸索と考えられる<ref><pubmed> 19357391 </pubmed></ref>。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== |