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1978年にKleeらが初めて精製し<ref><pubmed>201280</pubmed></ref>、[[ホスホジエステラーゼ]]の調節サブユニットとして報告し、カルシニューリン(calcineurin)と名付けられたが、その後1982年にCohenらによって[[脱リン酸化酵素]]であると同定された<ref><pubmed>6279434</pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]細胞においてCa<sup>2+</sup>により活性化される唯一の脱リン酸化酵素であり、脳神経系に豊富に発現する。進化的には、[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]から[[ショウジョウバエ|ハエ]]・哺乳類に至るまで保存されている。 | 1978年にKleeらが初めて精製し<ref><pubmed>201280</pubmed></ref>、[[ホスホジエステラーゼ]]の調節サブユニットとして報告し、カルシニューリン(calcineurin)と名付けられたが、その後1982年にCohenらによって[[脱リン酸化酵素]]であると同定された<ref><pubmed>6279434</pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]細胞においてCa<sup>2+</sup>により活性化される唯一の脱リン酸化酵素であり、脳神経系に豊富に発現する。進化的には、[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]から[[ショウジョウバエ|ハエ]]・哺乳類に至るまで保存されている。 | ||
== ドメイン構造 == | ==構造== | ||
=== ドメイン構造 === | |||
[[Image:Miononaka fig 1.jpg|thumb|right|300 px| '''図 カルシニューリンのドメイン構造''']] | [[Image:Miononaka fig 1.jpg|thumb|right|300 px| '''図 カルシニューリンのドメイン構造''']] | ||
カルシニューリンは 触媒サブユニットであるカルシニューリン A (57-59 kDa)と、修飾サブユニットであるカルシニューリン B (19-20 kDa)からなる。それぞれ、3種(PPP3CA、PPP3CB、and PPP3CC)と2種(PPP3R1、PPP3R2)の遺伝子にコードされる(表)。 | |||
カルシニューリンは 触媒サブユニットであるカルシニューリン A (57-59 kDa)と、修飾サブユニットであるカルシニューリン B (19-20 kDa)からなる。それぞれ、3種(PPP3CA、PPP3CB、and | |||
カルシニューリン A は、N末端より、触媒ドメイン・カルシニューリン B 結合ドメイン・[[カルモジュリン]](CaM)結合ドメイン・自己抑制ドメイン(AID)からなる(図)。触媒ドメインはPP2Aと49%、PP1と39%という高い相同性を持つ。 | カルシニューリン A は、N末端より、触媒ドメイン・カルシニューリン B 結合ドメイン・[[カルモジュリン]](CaM)結合ドメイン・自己抑制ドメイン(AID)からなる(図)。触媒ドメインはPP2Aと49%、PP1と39%という高い相同性を持つ。 | ||
カルシニューリン B はカルモジュリンと相同性があり、4つのCa<sup>2+</sup>結合ドメインである[[EF-hand]]を有し、N末端に[[ミリストイル化]]を受ける(図)。カルシニューリン Bの1つのCa<sup>2+</sup>結合ドメインは高親和性で(Kd = 10<sup>-7</sup> M)、その他は低親和性(Kd = 0.5 ~ 1 uM)であるが、カルモジュリンと異なり、カルシニューリン Bは[[wikipedia:EGTA|EGTA]]存在下でもカルシニューリン A に結合する<ref name = ref4><pubmed>8204620</pubmed></ref>。 | カルシニューリン B はカルモジュリンと相同性があり、4つのCa<sup>2+</sup>結合ドメインである[[EF-hand]]を有し、N末端に[[ミリストイル化]]を受ける(図)。カルシニューリン Bの1つのCa<sup>2+</sup>結合ドメインは高親和性で(Kd = 10<sup>-7</sup> M)、その他は低親和性(Kd = 0.5 ~ 1 uM)であるが、カルモジュリンと異なり、カルシニューリン Bは[[wikipedia:EGTA|EGTA]]存在下でもカルシニューリン A に結合する<ref name = ref4><pubmed>8204620</pubmed></ref>。 | ||
=== 立体構造 === | |||
1995年に、カルシニューリン(C末端のCaM結合ドメイン・AIDドメインを欠く)と FKBP12-FK506 との複合体の構造が発表された。 <ref><pubmed>8524402</pubmed></ref> <ref><pubmed>7543369</pubmed></ref> | |||
== 発現分布 == | == 発現分布 == | ||
[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/69817252 PPP3R2]は精巣特異的発現とされているが、その他はubiquitousに発現する<ref name=ref1 />。 | |||
[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70784994 PPP3CC]も精巣特異的とされていたが、脳における発現が確認されている。 | |||
マウス全脳のISHで[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/69817246 PPP3CA], [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/71325360 PPP3CB] および [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70812895 PPP3R1]は脳のほぼ全域における発現が確認されているが、特に[[大脳皮質]]・[[海馬]]・[[線条体]]に豊富に発現する。カルシニューリン A においては、ラット脳内ではPPP3CAの方がPPP3CBよりも豊富に発現しており、PPP3CAの酵素活性がほぼ9割を占める。 | |||
細胞内局在としては、主に細胞質に局在するが、NFATと共に核に移行し、また、精細胞においては主に核に局在するなど、核への分布も報告されている。脳の分画においては、細胞質および[[シナプトソーム]]に豊富に検出される。 | |||
{| class="wikitable" | |||
|+表 カルシニューリンサブユニット | |||
| align="center"|'''機能''' || align="center" |'''名称''' ||align="center" |'''サブユニット''' | |||
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| rowspan="3" align="center" |触媒サブユニット || rowspan="3" | カルシニューリン A || [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/69817246 PPP3CA] | |||
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|| [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/71325360 PPP3CB] | |||
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|| [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70784994 PPP3CC] | |||
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| rowspan="2" align="center" | 調節サブユニット|| rowspan="3" | カルシニューリン B || [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70812895 PPP3R1] | |||
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|| [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/69817252 PPP3R2] | |||
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|} | |||
遺伝子名はAllen Brain Atlasの[[in situハイブリダイゼーション]]データーへリンクしている。 | |||
== 酵素活性 == | == 酵素活性 == | ||
===調節機構=== | |||
カルシニューリンの活性中心には、phosphataseコンセンサス配列であるDXH(X)n GDXXDR(X)m GNHD/E を含む。活性中心には[[wikipedia:Fe3+|Fe<sup>3+</sup>]]と[[wikipedia:Zn2+|Zn<sup>2+</sup>]]([[wikipedia:ja:錯体|錯体]])が含まれる。酵素の活性化には Calcineurin B とCa<sup>2+</sup>/カルモジュリンの結合を必要とする。CaMKなどの[[Ca2+/カルモジュリン依存性リン酸化酵素|Ca<sup>2+</sup>/カルモジュリン依存性リン酸化酵素]]との類似性から、Ca<sup>2+</sup>/カルモジュリンの結合により自己抑制ドメイン(AID)が外れるなどの構造変化に基づく活性化メカニズムが唱えられている。 カルモジュリンによる、Ca<sup>2+</sup>依存的な酵素活性化は協同的である。(ヒル係数 = 2.8 - 3)<ref name=ref4 /> | カルシニューリンの活性中心には、phosphataseコンセンサス配列であるDXH(X)n GDXXDR(X)m GNHD/E を含む。活性中心には[[wikipedia:Fe3+|Fe<sup>3+</sup>]]と[[wikipedia:Zn2+|Zn<sup>2+</sup>]]([[wikipedia:ja:錯体|錯体]])が含まれる。酵素の活性化には Calcineurin B とCa<sup>2+</sup>/カルモジュリンの結合を必要とする。CaMKなどの[[Ca2+/カルモジュリン依存性リン酸化酵素|Ca<sup>2+</sup>/カルモジュリン依存性リン酸化酵素]]との類似性から、Ca<sup>2+</sup>/カルモジュリンの結合により自己抑制ドメイン(AID)が外れるなどの構造変化に基づく活性化メカニズムが唱えられている。 カルモジュリンによる、Ca<sup>2+</sup>依存的な酵素活性化は協同的である。(ヒル係数 = 2.8 - 3)<ref name=ref4 /> | ||
== 阻害剤 == | === 阻害剤 === | ||
[[Cyclosporine A]]、[[FK506]]は、それぞれ [[Cyclophilin]]、[[FKBP]] ([[FK506-binding protein]]) の[[Immunophilin]]と結合し、カルシニューリン活性を阻害する。免疫系で[[抗原提示細胞]]から[[T細胞]]への活性化、特に[[IL-2]]、[[IL-4]]遺伝子発現調節を担う転写因子NFATを脱リン酸化して活性化することから<ref><pubmed>19596245</pubmed></ref>、cyclosporinA や FK506といったカルシニューリン阻害剤は免疫抑制剤として使用されてきた。その他、[[PP1]]、PP2Aの阻害剤である[[wikipedia:ja:オカダ酸|オカダ酸]]も高い濃度(~4 uM)では、カルシニューリン活性を阻害する。 | [[Cyclosporine A]]、[[FK506]]は、それぞれ [[Cyclophilin]]、[[FKBP]] ([[FK506-binding protein]]) の[[Immunophilin]]と結合し、カルシニューリン活性を阻害する。免疫系で[[抗原提示細胞]]から[[T細胞]]への活性化、特に[[IL-2]]、[[IL-4]]遺伝子発現調節を担う転写因子NFATを脱リン酸化して活性化することから<ref><pubmed>19596245</pubmed></ref>、cyclosporinA や FK506といったカルシニューリン阻害剤は免疫抑制剤として使用されてきた。その他、[[PP1]]、PP2Aの阻害剤である[[wikipedia:ja:オカダ酸|オカダ酸]]も高い濃度(~4 uM)では、カルシニューリン活性を阻害する。 |