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Tomokouekita (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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==== 位置の変化==== | ==== 位置の変化==== | ||
複数の物体の位置的関係性の変化が、物体探索行動に影響することが示されている(Thinus-Blanc, Bouzouba, Chaix, Chapuis, Durup & Poucet, 1987)。使用された課題は、装置馴致および連続する3セッションからなる。1セッションは15分間、セッション間間隔は10時間程度であった。最初の2セッションは、物体馴致セッションであり、同じ配置の物体を繰り返し探索させる。第3セッションにおいて、新しい配置で同じ物体の探索を行わせる。もし新しい位置に移動した物体への探索行動が増加すれば、物体の位置関係についての認知的処理が行われたとみなすことができる。 | 複数の物体の位置的関係性の変化が、物体探索行動に影響することが示されている(Thinus-Blanc, Bouzouba, Chaix, Chapuis, Durup & Poucet, 1987)。使用された課題は、装置馴致および連続する3セッションからなる。1セッションは15分間、セッション間間隔は10時間程度であった。最初の2セッションは、物体馴致セッションであり、同じ配置の物体を繰り返し探索させる。第3セッションにおいて、新しい配置で同じ物体の探索を行わせる。もし新しい位置に移動した物体への探索行動が増加すれば、物体の位置関係についての認知的処理が行われたとみなすことができる。 | ||
探索行動の変化は物体の配置の変化の仕方によって異なる(Thinus-Blanc et al., 1987)。例えば、4つの物体を配置して馴致した後、第3セッションで1つの物体の配置を変化させると、配置が変わった物体に対して探索時間が増加した。4つの物体の配置を4角形から3角形へと幾何学的に変化させると、配置が変わった物体と変わっていない物体いずれに対しても探索量が増加した。興味深いことに、幾何学的配置を保ったまま、物体間の距離のみが変わった場合には探索時間の増加はみられなかった。また、1つの物体を取り除くと、残った物体への探索量が増加した。 | 探索行動の変化は物体の配置の変化の仕方によって異なる(Thinus-Blanc et al., 1987)。例えば、4つの物体を配置して馴致した後、第3セッションで1つの物体の配置を変化させると、配置が変わった物体に対して探索時間が増加した。4つの物体の配置を4角形から3角形へと幾何学的に変化させると、配置が変わった物体と変わっていない物体いずれに対しても探索量が増加した。興味深いことに、幾何学的配置を保ったまま、物体間の距離のみが変わった場合には探索時間の増加はみられなかった。また、1つの物体を取り除くと、残った物体への探索量が増加した。 | ||
物体の位置関係の認知と物体そのものの認知(2.2.1)やこれらに関わる神経基盤は、馴致、空間認識テスト、物体認識テストを含む一連のテストによって同時に検討することができる。Save, Poucet, Foreman, & Buhot (1992)は、円形の実験アリーナに5つの異なる物体を配置し、6分間これをラットに探索させた。全ての物体に対して馴染みを形成するため、物体馴致を3セッション繰り返した後、空間認識テストにおいて2個の物体を移動させた。統制群と前部頭頂皮質損傷群のラットは配置の変化した物体に対して変化していない物体よりも多く探索行動を示したが、海馬損傷群と後部頭頂皮質損傷群のラットではこのような傾向が見られず、物体の位置関係の認知に失敗した。次の物体認識テストでは、一つの物体を新しい物体に置き換えたところ、全ての群のラットが新しい物体に対して探索行動が増加した。これらの結果は、海馬や後部頭頂皮質が物体の位置関係の認知に関与するが、物体自体の認知には関与しない事を示している。位置関係の認知に選択的な障害は、げっ歯類デグーの海馬破壊(Uekita & Okanoya, 2011)やラットNMDA受容体の薬理学的阻害(関口, 1997)によっても生じることが報告されている。 | 物体の位置関係の認知と物体そのものの認知(2.2.1)やこれらに関わる神経基盤は、馴致、空間認識テスト、物体認識テストを含む一連のテストによって同時に検討することができる。Save, Poucet, Foreman, & Buhot (1992)は、円形の実験アリーナに5つの異なる物体を配置し、6分間これをラットに探索させた。全ての物体に対して馴染みを形成するため、物体馴致を3セッション繰り返した後、空間認識テストにおいて2個の物体を移動させた。統制群と前部頭頂皮質損傷群のラットは配置の変化した物体に対して変化していない物体よりも多く探索行動を示したが、海馬損傷群と後部頭頂皮質損傷群のラットではこのような傾向が見られず、物体の位置関係の認知に失敗した。次の物体認識テストでは、一つの物体を新しい物体に置き換えたところ、全ての群のラットが新しい物体に対して探索行動が増加した。これらの結果は、海馬や後部頭頂皮質が物体の位置関係の認知に関与するが、物体自体の認知には関与しない事を示している。位置関係の認知に選択的な障害は、げっ歯類デグーの海馬破壊(Uekita & Okanoya, 2011)やラットNMDA受容体の薬理学的阻害(関口, 1997)によっても生じることが報告されている。 | ||
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動物が実験環境に十分に慣れていない場合、フリーズが起こり、探索行動そのものが生じない可能性がある。したがって、実験前にラットを10分から15分の短時間の環境馴致を数試行行い、実験環境に慣れさせておく必要がある。 | 動物が実験環境に十分に慣れていない場合、フリーズが起こり、探索行動そのものが生じない可能性がある。したがって、実験前にラットを10分から15分の短時間の環境馴致を数試行行い、実験環境に慣れさせておく必要がある。 | ||
使用する物体に関して、物体の特徴や複雑さによって探索量が異なることがある。したがって、使用する物体がどのくらい探索を引き起こすかをあらかじめ調べ、あまりにも探索量が多い物体と、あまりにも少ない物体は使用しない方がよい。また、探索中に物体についた匂いなどによって物体を弁別する可能性を排除するため、物体はペアーで準備しておき、一方を見本段階、もう一方はテスト段階で用いるようにする必要がある。 | 使用する物体に関して、物体の特徴や複雑さによって探索量が異なることがある。したがって、使用する物体がどのくらい探索を引き起こすかをあらかじめ調べ、あまりにも探索量が多い物体と、あまりにも少ない物体は使用しない方がよい。また、探索中に物体についた匂いなどによって物体を弁別する可能性を排除するため、物体はペアーで準備しておき、一方を見本段階、もう一方はテスト段階で用いるようにする必要がある。 | ||
データ分析に関して、探索行動は、探索開始から1,2分間は強く現れるが、馴化は比較的素早く生じ、探索行動が終了する。探索終了後のデータは実験操作に対してノイズを加えることになり、テストの初期段階で起こっているだろう新奇嗜好性を不明瞭にしてしまう可能性がある。したがって、1分ごとに探索量を調べ、どのように新奇嗜好性が変化するかを確認する必要がある(Mumby et al., 2002)。 | データ分析に関して、探索行動は、探索開始から1,2分間は強く現れるが、馴化は比較的素早く生じ、探索行動が終了する。探索終了後のデータは実験操作に対してノイズを加えることになり、テストの初期段階で起こっているだろう新奇嗜好性を不明瞭にしてしまう可能性がある。したがって、1分ごとに探索量を調べ、どのように新奇嗜好性が変化するかを確認する必要がある(Mumby et al., 2002)。 | ||
新奇物体への嗜好性は、単純に新奇物体と馴染物体の探索量を比較することでも可能であるが、探索量の個体差の問題を除外するために、馴染物体と新奇物体の全探索量に対する新奇物体探索量の割合として示されることが多い。物体馴致セッションにおける探索量とテストにおける馴染物体または新奇物体の探索量の変化量を指標とすることもある。統計的に有意な嗜好性を示しているかどうかについて、ワンサンプルt検定により、群の平均探索率がチャンスレベルよりも有意に異なっているかどうかを調べることができる。ただし、新奇物体への嗜好性が強いということが、認知能力の高さを示しているかどうかは明らかでない(Mumby, 2005)。 | |||
また、上述のThinus-Blanc et al.(1987)の実験によると、物体の配置の変化の仕方によって、配置が変わった物体だけでなく、配置が変わっていない物体に対しても探索量が増えることがある。したがって、位置関係の認知的処理ができているかどうかの判断は、単純に移動物体と固定物体の比較だけでは不十分であるだろう。 | |||
== 物体認知の神経基盤 == | == 物体認知の神経基盤 == | ||
上述のように、物体探索課題を用いた海馬損傷実験では、海馬は物体の配置や物体の置かれた環境の符号化に必要であるが、物体認知そのものには重要でないと考えられている。これまでのところ、物体自体の認知に関わる脳領域について、物体探索課題では積極的な結果が得られていない。しかし、物体認知記憶を測定する遅延非見本合わせ課題(delayed nonmatching to sample,DNMS)を用いた損傷研究により、嗅皮質(rhinal cortex)が物体認知に重要であると考えられている。この課題は、ある刺激を前に見たかどうかについての物体認知記憶を測定するために使用される。見本試行において、テーブル上に見本物体が短時間提示され、遅延時間後の選択試行では、見本物体と同じ物体が新奇物体とともに提示される。動物が新奇物体を選択すると報酬が与えられる。 | 上述のように、物体探索課題を用いた海馬損傷実験では、海馬は物体の配置や物体の置かれた環境の符号化に必要であるが、物体認知そのものには重要でないと考えられている。これまでのところ、物体自体の認知に関わる脳領域について、物体探索課題では積極的な結果が得られていない。しかし、物体認知記憶を測定する遅延非見本合わせ課題(delayed nonmatching to sample,DNMS)を用いた損傷研究により、嗅皮質(rhinal cortex)が物体認知に重要であると考えられている。この課題は、ある刺激を前に見たかどうかについての物体認知記憶を測定するために使用される。見本試行において、テーブル上に見本物体が短時間提示され、遅延時間後の選択試行では、見本物体と同じ物体が新奇物体とともに提示される。動物が新奇物体を選択すると報酬が与えられる。 | ||
この課題を用いた初期の実験(Mishkin, 1979)では、マカクザルの海馬と扁桃体を含む頭葉内側部の損傷の効果が検討された。見本試行と選択試行の遅延時間が10秒以内である場合、この課題の遂行に損傷の影響はなかったが、それよりも長い遅延時間が挿入されると、その時間依存的に課題の正答率が低くなった。後に同研究者によって損傷の精度を高めて追試が行われた結果、この障害は海馬や扁桃体単独の損傷では生じず、むしろそれらの近辺領域にある嗅皮質の損傷が障害を引き起こしたことが明らかになった(Murray & Mishkin, 1998)。したがって、物体認知記憶には海馬や扁桃体ではなく嗅皮質が重要な役割を担うと考えられる。 | |||
== 関連項目 == | == 関連項目 == |
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