「顔表情認知」の版間の差分

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== 前頭眼窩野 ==
== 前頭眼窩野 ==


 機能的脳画像研究から、前頭眼窩野が、情動表情に対して中性表情の場合よりも高く活動することが示されている<ref><pubmed></pubmed></ref>[18]。脳損傷研究から、前頭眼窩野の損傷により表情認識に障害が起こることが報告されている<ref><pubmed></pubmed></ref>[19]。前頭眼窩野は扁桃体と密な機能的関係を持ちその活動を調整するとされており<ref><pubmed></pubmed></ref>[20]、表情認知においても扁桃体と関連して情動的な処理を遂行することが考えられる。
 機能的脳画像研究から、前頭眼窩野が、情動表情に対して中性表情の場合よりも高く活動することが示されている<ref><pubmed>10355673</pubmed></ref>。脳損傷研究から、前頭眼窩野の損傷により表情認識に障害が起こることが報告されている<ref><pubmed>8657356</pubmed></ref>。前頭眼窩野は扁桃体と密な機能的関係を持ちその活動を調整するとされており<ref>'''Edmund T. Rolls'''<br>The Brain and Emotion. 1999. ''Oxford University Press'', New York. </ref>、表情認知においても扁桃体と関連して情動的な処理を遂行することが考えられる。


== 大脳基底核・島  ==
== 大脳基底核・島  ==


機能的脳画像研究から、嫌悪の表情に対して、中性表情の場合に比べて大脳基底核および島が強く活動することが示されている<ref><pubmed></pubmed></ref>[21]。また、嫌悪の表情を見ているときや、嗅覚刺激を嗅いで嫌悪情動を感じているときに、島の同じ領域が活動することが示されている<ref><pubmed></pubmed></ref>[22]。また、脳損傷研究から、大脳基底核と島に損傷がある患者において、嫌悪表情の認識が特異的に障害されることが報告されている<ref><pubmed></pubmed></ref>[23]。こうした知見から、大脳基底核および島は、特に嫌悪の情動の場合に、情動反応の喚起およびその情報を活用した情動認識に関与していると考えられる。  
機能的脳画像研究から、嫌悪の表情に対して、中性表情の場合に比べて大脳基底核および島が強く活動することが示されている<ref><pubmed>9333238</pubmed></ref>。また、嫌悪の表情を見ているときや、嗅覚刺激を嗅いで嫌悪情動を感じているときに、島の同じ領域が活動することが示されている<ref><pubmed>14642287</pubmed></ref>。また、脳損傷研究から、大脳基底核と島に損傷がある患者において、嫌悪表情の認識が特異的に障害されることが報告されている<ref><pubmed>11036262</pubmed></ref>。こうした知見から、大脳基底核および島は、特に嫌悪の情動の場合に、情動反応の喚起およびその情報を活用した情動認識に関与していると考えられる。  


== 顔表情認知の脳活動の時間特性 ==
== 顔表情認知の脳活動の時間特性 ==
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 電気生理学研究から、顔表情認知の脳活動の時間情報が報告されている。
 電気生理学研究から、顔表情認知の脳活動の時間情報が報告されている。


 多くの事象関連電位研究で報告されるのが、刺激呈示後200~400ミリ秒に後方部で記録されるEarly posterior negativity (EPN)と呼ばれる陰性変動である。この成分の振幅は、情動表情に対して中性表情よりも高くなることが報告されている<ref><pubmed></pubmed></ref>[24]。さらに、この成分の振幅は情動表情の検出速度や主観的な情動評定と対応することが示されており<ref><pubmed></pubmed></ref>[25]、表情に対する注意・知覚過程を反映すると考えられる。  
 多くの事象関連電位研究で報告されるのが、刺激呈示後200~400ミリ秒に後方部で記録されるEarly posterior negativity (EPN)と呼ばれる陰性変動である。この成分の振幅は、情動表情に対して中性表情よりも高くなることが報告されている<ref><pubmed>15222855</pubmed></ref>。さらに、この成分の振幅は情動表情の検出速度や主観的な情動評定と対応することが示されており<ref>'''Reiko Sawada, Wataru Sato, Shota Uono, Takanori Kochiyama, Motomi Toichi'''<br>Electrophysiological correlates of detecting emotional facial expressions. <br>Paper presented at Kick-off Symposium for MRI Laboratory, Kokoro Research Center, Kyoto, Japan, 2013. </ref>、表情に対する注意・知覚過程を反映すると考えられる。  


 またいくつかの事象関連電位研究からは、より初期の刺激呈示後約170ミリ秒に後方部で記録されるN170と呼ばれる陰性変動で、情動表情に対する振幅の促進が報告されている<ref><pubmed></pubmed></ref>[26]。この成分が顔についての新皮質での最初の視覚分析にあたるとされており<ref><pubmed></pubmed></ref>[27]、表情の視覚処理への影響がすばやいものであることが示唆される。
 またいくつかの事象関連電位研究からは、より初期の刺激呈示後約170ミリ秒に後方部で記録されるN170と呼ばれる陰性変動で、情動表情に対する振幅の促進が報告されている<ref><pubmed>12169251</pubmed></ref>。この成分が顔についての新皮質での最初の視覚分析にあたるとされており<ref><pubmed>18055223</pubmed></ref>、表情の視覚処理への影響がすばやいものであることが示唆される。


 また深部脳波研究からは、扁桃体において刺激呈示後50~150ミリ秒という速い段階で、恐怖表情に対して、中性表情より強い活動が起こることが報告されている<ref><pubmed></pubmed></ref>[28]。こうした扁桃体の活動は、表情に対するすばやい情動反応の喚起に関わっていると考えられ、また視覚野の活動調整に関与している可能性が示唆される。
 また深部脳波研究からは、扁桃体において刺激呈示後50~150ミリ秒という速い段階で、恐怖表情に対して、中性表情より強い活動が起こることが報告されている<ref><pubmed>21182851</pubmed></ref>。こうした扁桃体の活動は、表情に対するすばやい情動反応の喚起に関わっていると考えられ、また視覚野の活動調整に関与している可能性が示唆される。


== 残されている問題 ==
== 残されている問題 ==


 顔表情認知の神経メカニズムについては、残されている問題も多くある。例えば、現状では、顔における表情認知と人物認知の関係は明らかではない<ref><pubmed></pubmed></ref>[29]。脳損傷研究の知見から、表情認知と人物認知が独立の神経基盤で実現されると提案された<ref><pubmed></pubmed></ref>[30]が、脳損傷の影響の解離は必ずしも明確ではない。また、脳部位と情動カテゴリの関係も不明である。機能的脳画像研究が開始された当初は、扁桃体が恐怖表情の処理に特異的に関与する可能性が示唆された<ref><pubmed></pubmed></ref>[31]が、現在では扁桃体は他の不快情動や快情動の表情の処理にも関わることが示されている。さらに、各部位がどのような機能的ネットワークを形成しているかは明らかではない。皮質下および皮質上の経路があるなど、並列かつ階層的な神経ネットワークが関与することが示唆される<ref><pubmed></pubmed></ref>[32]。こうした問題について、今後のさらなる研究が望まれる。  
 顔表情認知の神経メカニズムについては、残されている問題も多くある。例えば、現状では、顔における表情認知と人物認知の関係は明らかではない<ref><pubmed>16062171</pubmed></ref>。脳損傷研究の知見から、表情認知と人物認知が独立の神経基盤で実現されると提案された<ref><pubmed>3756376</pubmed></ref>が、脳損傷の影響の解離は必ずしも明確ではない。また、脳部位と情動カテゴリの関係も不明である。機能的脳画像研究が開始された当初は、扁桃体が恐怖表情の処理に特異的に関与する可能性が示唆された<ref><pubmed>8893004</pubmed></ref>が、現在では扁桃体は他の不快情動や快情動の表情の処理にも関わることが示されている。さらに、各部位がどのような機能的ネットワークを形成しているかは明らかではない。皮質下および皮質上の経路があるなど、並列かつ階層的な神経ネットワークが関与することが示唆される<ref><pubmed>12740580</pubmed></ref>。こうした問題について、今後のさらなる研究が望まれる。  


== 引用文献 ==
== 引用文献 ==

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