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== 行為としての知覚  ==
== 行為としての知覚  ==


 これまでの心理学・生理学における感覚作用に関する知見は、感覚作用の性質は特定な受容器の興奮の性質であり、相互に独立していると考えに基づいている(特殊神経エネルギー仮説)。この仮説を前提とすれば、知覚は、感覚を(知覚者の内部過程で)間接的に加工(推論、演繹、統合など)して得られると結論づけられる。この点に関して、 知覚が要素の複合なのか、あるいはある種の構造による体制化なのかという疑問が、[[経験主義心理学]]と[[ゲシュタルト心理学]]の間で議論された(文献をご指示下さい)。経験主義者は、学習、あるいは連合が知覚の唯一の体制化原理とし、ゲシュタルト理論家は、脳内の自律的な「[[場の力]]」が知覚の体制化の原理だと主張した。  
 これまでの心理学・生理学における感覚作用に関する知見は、感覚作用の性質は特定な受容器の興奮の性質であり、相互に独立していると考えに基づいている。これを特殊神経エネルギー仮説という。この仮説を前提とすれば、知覚は、感覚を(知覚者の内部過程で)間接的に加工(推論、演繹、統合など)して得られると結論づけられる。この点に関して、 知覚が要素の複合なのか、あるいはある種の構造による体制化なのかという疑問が、[[経験主義心理学]]と[[ゲシュタルト心理学]]の間で議論された。経験主義者は、学習、あるいは連合が知覚の唯一の体制化原理とし、ゲシュタルト理論家は、脳内の自律的な「[[場の力]]」が知覚の体制化の原理だと主張した。 (文献をいれる)


 これに対し、J.J. Gibsonは、受容器に特定的な感覚質を想定しない直接的な知覚経験の可能性を主張した(Gibson, 1983)(文献をご指示下さい)。この理論では、知覚は動物や人が能動的に、見る、聴く、嗅ぐ、味わう、触ることで獲得する(ピックアップする)情報であるとし、諸感覚器官と神経系を基盤とした 知覚システム(基礎定位、聴覚、触覚、味覚−嗅覚、視覚)を構成する。Gibsonによれば、知覚システムへの神経入力は、身体と環境との相互作用によって入力の段階で既に組織されているので(直接知覚)、脳内で改めて連合形成や、記憶照合をする必要がないという。この理論のもう一つの特徴は、各知覚システムが身体−環境システムとして外界を知覚すると主張する点である。例えば、視覚システムについては、「一つの眼球は、既に網膜像を鮮明に調節する[[wikipedia:ja:水晶体|水晶体]]と、光の強度を最適にするための[[wikipedia:ja:瞳孔|瞳孔]]を持つ器官であるが、それらは低次のシステムである。この眼球についた筋肉が高次のシステムである。それは内耳の働きによって、動く頭部の中にあっても環境に対して安定しており、環境をスキャンすることができる。二つの眼が一緒に動くとさらに高次な二重のシステムができる。・・・両眼と頭部と身体からなるシステムは、姿勢の平衡や移動とともに動くことで、世界を歩き回り、すべてのものを見ることができる」と述べている。
 これに対し、J.J. Gibsonは、受容器に特定的な感覚質を想定しない直接的な知覚経験の可能性を主張した(Gibson, 1983)(文献をご指示下さい)。この理論では、知覚は動物や人が能動的に、見る、聴く、嗅ぐ、味わう、触ることで獲得する(ピックアップする)情報であるとし、諸感覚器官と神経系を基盤とした 知覚システム(基礎定位、聴覚、触覚、味覚−嗅覚、視覚)を構成する。Gibsonによれば、知覚システムへの神経入力は、身体と環境との相互作用によって入力の段階で既に組織されているので(直接知覚)、脳内で改めて連合形成や、記憶照合をする必要がないという。


 古典的な知覚理論に対する同様の批判は、Merleau-Pontyの議論の中にも見ることができる(文献をご指示下さい)。Merleau-Pontyは、知覚をめぐる古典的な分析が知覚の能動的側面を見失っていると主張し、身体と環境との相互作用が知覚経験の基盤であると強調した。  
 古典的な知覚理論に対する同様の批判は、Merleau-Pontyの議論の中にも見ることができる(文献をご指示下さい)。Merleau-Pontyは、知覚をめぐる古典的な分析が知覚の能動的側面を見失っていると主張し、身体と環境との相互作用が知覚経験の基盤であると強調した。  


 彼によれば、感覚することとは、感覚される対象から、一方的に印象を受けることではなく、むしろ感覚する者と感覚されるものの「共存」である。私たちは、感覚を通じて環境と能動的に交流し、情報を交換していてる。Gibsonも主張したように、諸感覚は相互に独立ではない。バラの棘が見て取られる場合、人は同時に、指で触れた時の触感も「見ている」。 Merleau-Pontyによれば、 諸感覚は相互に浸透して、共鳴する。 また、身体を問題にすることは「知覚する主体と知覚される世界」の両方を共に問題にすることであるという。世界を知覚するとは常に「どこからかみること」であるはずだが、その「どこか」とは、普遍的な視点などではなく、私の身体の位置する場所、つまり「ここ」に他ならないからである。Merleau-Pontyは、幻影肢をはじめとする身体図式に関わる神経心理的な症状を題材に、身体と知覚の相互作用について論じた。
 彼によれば、感覚することとは、感覚される対象から、一方的に印象を受けることではなく、むしろ感覚する者と感覚されるものの「共存」である。私たちは、感覚を通じて環境と能動的に交流し、情報を交換していてる。Gibsonも主張したように、諸感覚は相互に独立ではない。バラの棘が見て取られる場合、人は同時に、指で触れた時の触感も「見ている」。Merleau-Pontyは、幻影肢をはじめとする身体図式に関わる神経心理的な症状を題材に、身体と知覚の相互作用について論じた。 Merleau-Pontyによれば、身体を問題にすることは「知覚する主体と知覚される世界」の両方を共に問題にすることであるという。世界を知覚するとは常に「どこからかみること」であるはずだが、その「どこか」とは、普遍的な視点などではなく、私の身体の位置する場所、つまり「ここ」に他ならないからである。


== 感覚統合と知覚(認知)  ==
== 感覚統合と知覚(認知)  ==
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 感覚統合は、大脳皮質連合野に限定された脳機能ではない。[[外側溝]]内側に畳み込まれた[[島皮質]]は、体性感覚、味覚、嗅覚を含めた特殊感覚、内臓感覚を含めた全感覚の統合に関わっている<ref name="ref1"><pubmed>8957561</pubmed></ref> <ref name="ref6"><pubmed>7174907</pubmed></ref> 。島皮質は、情動、言語、更には、身体知覚に基づいた自己意識に関わると考えられている<ref name="ref3"><pubmed>12965300</pubmed></ref> <ref name="ref10"><pubmed>19643659</pubmed></ref>。一方、臨床的な観点からは、島皮質が[[気分障害]]<ref name="ref7"><pubmed>17416488</pubmed></ref> <ref name="ref11"><pubmed>21531027</pubmed></ref>、[[神経性食欲不振症]]<ref name="ref9"><pubmed>18406432</pubmed></ref>、[[統合失調症]]<ref name="ref4"><pubmed>18486104</pubmed></ref> <ref name="ref5"><pubmed>14609882</pubmed></ref>などに関わることが示唆されている。  
 感覚統合は、大脳皮質連合野に限定された脳機能ではない。[[外側溝]]内側に畳み込まれた[[島皮質]]は、体性感覚、味覚、嗅覚を含めた特殊感覚、内臓感覚を含めた全感覚の統合に関わっている<ref name="ref1"><pubmed>8957561</pubmed></ref> <ref name="ref6"><pubmed>7174907</pubmed></ref> 。島皮質は、情動、言語、更には、身体知覚に基づいた自己意識に関わると考えられている<ref name="ref3"><pubmed>12965300</pubmed></ref> <ref name="ref10"><pubmed>19643659</pubmed></ref>。一方、臨床的な観点からは、島皮質が[[気分障害]]<ref name="ref7"><pubmed>17416488</pubmed></ref> <ref name="ref11"><pubmed>21531027</pubmed></ref>、[[神経性食欲不振症]]<ref name="ref9"><pubmed>18406432</pubmed></ref>、[[統合失調症]]<ref name="ref4"><pubmed>18486104</pubmed></ref> <ref name="ref5"><pubmed>14609882</pubmed></ref>などに関わることが示唆されている。  


== 情報通信技術との関わり  ==
 情報通信技術による視覚と聴覚情報の伝達は、日常的に行われている。視覚と聴覚情報以外の感覚に関わる情報が伝達されることにより、より自然なコミュニケーションがなされる可能性がある。能動的な触覚、食物を味わうことに関わる脳内機序はまだ未知の部分が多い。さらに、異種感覚の相互作用に関わる脳内機序を知ることは、他者とのコミュニケーションを支える新しい情報通信技術の開発に結び付くと考えられる。特に医療・福祉においては、遠隔医療・遠隔手術や障害者の活動支援が実現できると期待されている。


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==
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