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防衛機制

250 バイト追加, 2013年3月8日 (金) 13:55
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== 防衛機制と脳科学 ==
 防衛機制の概念を初めて提唱し、精神分析療法の創始者でもあるフロイトその人は、もともとは神経科学者であった。それにも関わらず、1985年に「Project for a scientific psychology」という本のなかで行った神経科学と精神分析における諸概念を統合する試みを最後に、その後の生涯で、神経科学について言及することは無かった。フロイトがなぜ神経科学を捨てたのかに関しては諸論があるものの、当時の神経科学技術はこころという現象に迫るうえで十分に発達していなかったということが最も大きな理由とされる <ref name=ref6><pubmed>10200728</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>22485098</pubmed></ref>。
 近年の神経科学技術の飛躍的発展を受けて神経科学と精神分析の融合を推進する動きもある一方で、人のこころを客観的に量的に評価することで生きた主観体験がないがしろにされてしまうという批判もある<ref name=ref5><pubmed>12777353</pubmed></ref>。とりわけ防衛機制は本人にも意識されない心的働きを含むため、測定が難しい。しかし、「カロリンスカ心理力動プロフィール」(Karolinska psychodynamic profile) <ref name=ref21><pubmed>2011958</pubmed></ref> <ref name=ref22><pubmed>2011959</pubmed></ref>や「防衛機制評価尺度」(Defense Mechanism Rating Scales)<ref name=ref14><pubmed>2712663</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>3729674</pubmed></ref>、「防衛スタイル質問票」(Defense Style Questionnaire 40) <ref name=ref1><pubmed>6830412</pubmed></ref>などによって測定することは不可能ではないとも言われる<ref name=ref11><pubmed>17426413</pubmed></ref>。
 とはいえ、精神分析の諸概念に対する実証的研究は非常に限られているうえに、その神経科学的機序についてはほとんど検証されていない。一定の可能性が示唆される抑圧と退行について取り上げる。
===抑圧===
 一言に抑圧といっても、含まれる心的働きは幅広い。たとえば、上述のヒステリー症状や、意識・記憶・パーソナリティの不連続性を示す解離性症状 (dissociative symptoms) は、もともとは抑圧から生じた精神症状であるとフロイトは記述している<ref name=ref2>'''Freud, S.'''<pubmedbr>The neuro-psychoses of defence.</pubmedbr>1984</ref>[注:アーネスト・ヒルガード (Ernest R. Hilgard, 1904- 2001) は、解離を抑圧とは異なる機制として位置付けている<ref name=ref4>'''Hilgard, E.'''<pubmedbr>Divided consciousness.</pubmedbr>W''illey'', New York.1977</ref>。
 たとえば解離症状は、トラウマ体験の記憶を抑圧し、こころの奥深くにしまい込む心的外傷後ストレス障害(PTSD)においても認められる。解離症状が優勢なPTSD患者では、トラウマ体験想起時に、扁桃体活動や島で活動の低下がみられるのに対し、内側前頭前皮質(mPFC)や前帯状皮質 (ACC) の吻側部(rACC)では活動の増加がみとめられるという<ref name=ref7><pubmed>20360318</pubmed></ref>。一般的に、交感神経系の活動亢進がみとめられる不安障害では、情動刺激処理時には、扁桃体や島の活動は増加しており、mPFCやrACCの活動は低下している<ref name=ref16><pubmed>19625997</pubmed></ref>。これは、通常mPFCやrACCは情動中枢である扁桃体や身体感覚への気づきを司る島の働きを制御しているが、不安障害ではその機能が低下して、扁桃体や島の過剰活動を制御できなくなっているためと考えられている<ref name=ref15><pubmed>19625997</pubmed></ref> <ref name=ref16 />。しかし、解離症状主体のPTSDは、これとは真逆のパターンを示すのである。このことから、解離において過剰に働いているのはむしろmPFCやrACCで、扁桃体や島は本来あるべき機能を果たすことができない状態に陥っているという可能性が指摘されている<ref name=ref7 />。
 一方、ヒステリー症状を呈する転換性障害でも、上述と類似する脳領域で機能異常が認められている。たとえば左腕麻痺を示す転換性障害患者に対し、右腕を刺激した際には感覚運動野の活動が認められるが、麻痺している左腕を刺激しても、感覚運動野の活動は生じない。しかし代わりに、前頭眼窩皮質 (OFC) とACC (特にその脳梁膝周囲部) の賦活がみられることが報告されている<ref name=ref3><pubmed>17159115</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>9342933</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>11353724</pubmed></ref>。特に、ACCは部位によって複数の機能に関与するが、これらの部位の働きは互い拮抗し合うとされる。たとえば、尾側部のACCは意志により発動される運動を司るが、脳梁膝周囲部は情動処理に関与する。脳梁膝周囲部が強い情動を処理している間は、尾側部の活動は抑制されてしまう<ref name=ref18><pubmed>19733363</pubmed></ref>。このように転換は、意識的制御とは独立して防衛的に働く原始的反射メカニズムであり、特定の機能的領域が拮抗的に相互作用した結果として生じる一病態と考えられている<ref name=ref19><pubmed>16186033</pubmed></ref>。
===退行===
 カタトニア (catatonia, 緊張性昏迷強硬症) は統合失調症にみられ、激しい精神運動性の興奮状態と昏迷状態を繰り返し顕わす病態である。ハリー・サリヴァン (Harry S. Sullivan,1892-1949) は、強力な不安の影響下で自己体系がその統一を失う事態を統合失調症と捉え、カタトニアは未熟で小児的な体験様式が蘇ってくるために出現すると考えた。このため精神分析的立場では、カタトニアは感覚運動性の退行として捉えられる。
 無動性カタトニアを持つ統合失調症患者では、無動性カタトニアを持たない統合失調症患者や健常者と比べて、情動刺激処理時、内側OFCからmPFC、運動前野および運動野に対する機能的連結性 (functional connectivity) が有意に減少していたことが報告されている<ref name=ref13><pubmed>15279056</pubmed></ref>。このため、内側OFCやmPFCといった大脳皮質正中内側部構造(Cortical Midline Structures)は、カタトニア患者における自己関連づけや同時発生的動作 (concurrent behavior) の破綻に関与し、感覚運動性の退行と関連する可能性が指摘されている<ref name=ref10><pubmed>15301749</pubmed></ref> <ref name=ref11 /> <ref name=ref12><pubmed>14755839</pubmed></ref>。しかしながら、この他に退行について検証した神経科学研究は乏しく、退行の神経機序に迫るためには様々な対象者における多面的検証が必要である。
== 参考文献 ==

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