「塩素チャネル」の版間の差分

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== カルシウム依存性塩素チャネル  ==
== カルシウム依存性塩素チャネル  ==
 
[[Image:CaCC.JPG|thumb|right|270px|'''図2.カルシウム依存性塩素チャネルの一つAno1(TMEM16A)チャネルの構造'''<br>細胞質側にN末端とC末端を持ち、8回膜貫通領域から成る構造が示唆されている。(<ref name=ref8 />より転載)。]]
 細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度の上昇に応じて活性化される塩素チャネルである。古くから神経系の細胞を含む、様々な細胞種で確認されていた最も典型的なCaCCの主な責任分子が、近年Anoctamin/TMEM16ファミリーのAno1/TMEM16A及びAno2/TMEM16Bであることが確定した<ref name="ref2"><pubmed>22090471</pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed>19827947</pubmed></ref>。また、卵黄状黄斑ジストロフィ(ベスト病)の原因遺伝子として主に網膜色素上皮に発現し、神経系全般にも或る程度の発現が認められているBestrophinファミリー(Best1-4)もCaCC活性を持つことが知られている<ref name="ref4"><pubmed>18391176</pubmed></ref>。(なお、かつてCaCCの候補として挙げられていたCLCA及びTTYHファミリーのCaCCとしての機能については、現在否定的な見解が占める。)  
 細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度の上昇に応じて活性化される塩素チャネルである。古くから神経系の細胞を含む、様々な細胞種で確認されていた最も典型的なCaCCの主な責任分子が、近年Anoctamin/TMEM16ファミリーのAno1/TMEM16A及びAno2/TMEM16Bであることが確定した<ref name="ref2"><pubmed>22090471</pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed>19827947</pubmed></ref>。また、卵黄状黄斑ジストロフィ(ベスト病)の原因遺伝子として主に網膜色素上皮に発現し、神経系全般にも或る程度の発現が認められているBestrophinファミリー(Best1-4)もCaCC活性を持つことが知られている<ref name="ref4"><pubmed>18391176</pubmed></ref>。(なお、かつてCaCCの候補として挙げられていたCLCA及びTTYHファミリーのCaCCとしての機能については、現在否定的な見解が占める。)  


=== 構造  ===
=== 構造  ===
[[Image:CaCC.JPG|thumb|right|270px|'''図2.カルシウム依存性塩素チャネルの一つAno1(TMEM16A)チャネルの構造'''<br>細胞質側にN末端とC末端を持ち、8回膜貫通領域から成る構造が示唆されている。(<ref name=ref8 />より転載)。]]
==== Anoctamin/TMEM16ファミリー  ====
==== Anoctamin/TMEM16ファミリー  ====


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 Ano1/TMEM16Aが発現する後根神経節細胞は細胞内Cl<sup>–</sup>濃度が高く(&gt;30 mM)、古くからCaCC活性化による活動電位の後脱分極相の形成が知られている。即ち、この神経でのAno1/TMEM16Aの活性化は膜興奮性を高め、それが例えば発痛物質ブラジキニンの作用後の細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇に伴う痛覚神経の発火頻度上昇に関わることが知られている<ref name="ref13"><pubmed>20335661</pubmed></ref>。また、嗅神経の嗅毛では、におい物質のGタンパク質共役型受容体への結合により、cAMP依存性陽イオンチャネルとともにAno2/TMEM16Bが活性化され、ともに脱分極性の電流をもたらすことで嗅神経の発火を誘起することが知られている。但し、Ano2/TMEM16B KOマウスでそのCaCC成分が消失しても、嗅覚自体にはそれほど強い影響を与えないことも報告されている<ref name="ref14"><pubmed>21516098</pubmed></ref>。一方、細胞内Cl<sup>–</sup>濃度が低い(&lt;10 mM)多くの成熟神経細胞では、CaCC活性は膜興奮性を抑制する。例えば海馬の錐体細胞では、活動電位中のCa<sup>2+</sup>流入により活性化されたAno2/TMEM16Bによる活動電位の再分極の促進や、興奮性シナプス入力時のCa<sup>2+</sup>流入により活性化されたAno2/TMEM16Bによるシナプス後電位の抑制が認められている<ref name="ref15"><pubmed>22500639</pubmed></ref>。  
 Ano1/TMEM16Aが発現する後根神経節細胞は細胞内Cl<sup>–</sup>濃度が高く(&gt;30 mM)、古くからCaCC活性化による活動電位の後脱分極相の形成が知られている。即ち、この神経でのAno1/TMEM16Aの活性化は膜興奮性を高め、それが例えば発痛物質ブラジキニンの作用後の細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇に伴う痛覚神経の発火頻度上昇に関わることが知られている<ref name="ref13"><pubmed>20335661</pubmed></ref>。また、嗅神経の嗅毛では、におい物質のGタンパク質共役型受容体への結合により、cAMP依存性陽イオンチャネルとともにAno2/TMEM16Bが活性化され、ともに脱分極性の電流をもたらすことで嗅神経の発火を誘起することが知られている。但し、Ano2/TMEM16B KOマウスでそのCaCC成分が消失しても、嗅覚自体にはそれほど強い影響を与えないことも報告されている<ref name="ref14"><pubmed>21516098</pubmed></ref>。一方、細胞内Cl<sup>–</sup>濃度が低い(&lt;10 mM)多くの成熟神経細胞では、CaCC活性は膜興奮性を抑制する。例えば海馬の錐体細胞では、活動電位中のCa<sup>2+</sup>流入により活性化されたAno2/TMEM16Bによる活動電位の再分極の促進や、興奮性シナプス入力時のCa<sup>2+</sup>流入により活性化されたAno2/TMEM16Bによるシナプス後電位の抑制が認められている<ref name="ref15"><pubmed>22500639</pubmed></ref>。  


 Best1については、近年アストログリアの主なCaCCであると報告されると同時に、同チャネルを通じてグルタミン酸やGABAがアストログリアから周囲に放出されることにより、シナプス機能や神経興奮性の調節が行われるとの報告がなされた<ref name="ref16"><pubmed>20929730</pubmed></ref><ref name="ref17"><pubmed>23021213</pubmed></ref>。Best2はかつて嗅神経でのCaCC候補の1つであったが、Best2 KOマウスとWTマウスでCaCCに大きな相違が認められず、後に嗅神経でのCaCCは上記のようにAno2/TMEM16Bによることが確定している。Best3・Best4の神経系での機能は未だ調べられていない。BestrophinチャネルはHCO<sub>3</sub><sup>–</sup>に対する透過性が高く、またL型電位依存性Ca<sup>2+</sup>チャネルとの相互作用を介してCa<sup>2+</sup>流入量も変化させうることから、細胞内Ca<sup>2+</sup>動態やpHの恒常性維持にも寄与している可能性が示唆されている<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。  
 Best1については、近年アストログリアの主なCaCCであると報告されると同時に、同チャネルを通じてグルタミン酸やGABAがアストログリアから周囲に放出されることにより、シナプス機能や神経興奮性の調節が行われるとの報告がなされた<ref name="ref16"><pubmed>20929730</pubmed></ref><ref name="ref17"><pubmed>23021213</pubmed></ref>。Best2はかつて嗅神経でのCaCC候補の1つであったが、Best2 KOマウスとWTマウスでCaCCに大きな相違が認められず、後に嗅神経でのCaCCは上記のようにAno2/TMEM16Bによることが確定している。Best3・Best4の神経系での機能は未だ調べられていない。BestrophinチャネルはHCO<sub>3</sub><sup>–</sup>に対する透過性が高く、またL型電位依存性Ca<sup>2+</sup>チャネルとの相互作用を介してCa<sup>2+</sup>流入量も変化させうることから、細胞内Ca<sup>2+</sup>動態やpHの恒常性維持にも寄与している可能性が示唆されている<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。


== 細胞容積感受性塩素チャネル  ==
== 細胞容積感受性塩素チャネル  ==

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