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<font size="+1">[http://researchmap.jp/yfurutani 古谷 裕]、[http://researchmap.jp/yoshihiroyoshihara 吉原 良浩]</font><br> | |||
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月11日 原稿完成日:2013年3月24日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br> | |||
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英語名:cell adhesion molecules 独:Zelladhäsionsmolekül 仏:protéine d'adhésion cellulaire | 英語名:cell adhesion molecules 独:Zelladhäsionsmolekül 仏:protéine d'adhésion cellulaire | ||
細胞が互いに認識・結合し、組織や器官を形成し、これらが集まり合うことで[[wikipedia:jp:多細胞生物|多細胞生物]]の[[wikipedia:ja:個体|個体]]が形作られる。また、細胞外環境に存在する[[細胞外マトリックス]]([[細胞外基質]])分子や分泌因子あるいは他の細胞の[[wikipedia:ja: | {{box|text= | ||
細胞が互いに認識・結合し、組織や器官を形成し、これらが集まり合うことで[[wikipedia:jp:多細胞生物|多細胞生物]]の[[wikipedia:ja:個体|個体]]が形作られる。また、細胞外環境に存在する[[細胞外マトリックス]]([[細胞外基質]])分子や分泌因子あるいは他の細胞の[[wikipedia:ja:膜タンパク質|膜]]タンパク質など、多種多様な細胞外情報が[[wikipedia:ja:細胞接着・認識分子|細胞接着・認識分子]]群によって読み取られ、[[移動]]・[[接着]]・[[シグナル伝達]]・[[分化]]などの細胞の行動・運命が決定される。このように生物のかたちの形成と維持のみならず、生体機能の発現過程において多種多様な細胞接着分子群が機能している。神経系の発生・発達・機能発現の諸過程においても細胞接着分子群が重要な役割を果たしている。例えば、[[幹細胞]]の維持、[[細胞移動]]、[[軸索伸長]]・[[ガイダンス]]、[[樹状突起]]形成、[[シナプス]]形成、[[ニューロン]]-[[グリア]]細胞間結合、[[シナプス可塑性]]などの様々な場面における細胞接着分子群の機能が報告されている。 | |||
細胞接着は、細胞同士の結合、細胞と細胞外マトリックスとの結合に大別される。細胞同士の結合はさらに、[[カドヘリン]]や[[免疫グロブリンスーパーファミリー]]などによる膜タンパク質同士の相互作用による特異的認識と接着、[[ | 細胞接着は、細胞同士の結合、細胞と細胞外マトリックスとの結合に大別される。細胞同士の結合はさらに、[[カドヘリン]]や[[免疫グロブリンスーパーファミリー]]などによる膜タンパク質同士の相互作用による特異的認識と接着、[[細胞接着分子#タイトジャンクション|タイトジャンクション]]における強固な細胞間接着に分類することができる。細胞外マトリックス分子との接着はおもに[[インテグリン]]・ファミリー分子群が細胞膜受容体としてはたらく。 | ||
}} | |||
== 細胞接着における分子間の結合様式 == | == 細胞接着における分子間の結合様式 == | ||
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=== カドヘリン・スーパーファミリー === | === カドヘリン・スーパーファミリー === | ||
[[Image:Furutani fig 2.jpg|thumb|300px|'''図2.カドヘリン・スーパーファミリー'''<br> | [[Image:Furutani fig 2.jpg|thumb|300px|'''図2.カドヘリン・スーパーファミリー'''<br>カドヘリンは細胞外領域に複数のカドヘリンドメインを持つタンパク質である。プロトカドヘリン1-21のカドヘリン様ドメイン数は分子によって異なる(6個または7個)。]] | ||
カドヘリン・スーパーファミリー(Cadherin superfamily)は、細胞外領域にカドヘリン様ドメインを有し、[[カルシウム]]イオン依存的なホモフィリック結合により細胞接着活性を現す膜タンパク質群の総称である<ref><pubmed>17133224</pubmed></ref>。マウスにおいて少なくとも80種類のメンバーが存在する(図2)。これまでのカドヘリン分子群の発見及び機能解析においては、多くの日本人研究者が中心的役割と果たしてきた。1980年代に[[竹市雅俊]]らによって次々と発見されたクラシックカドヘリンファミリー([[N-カドヘリン|N-]]、[[E-カドヘリン|E-]]、[[P-カドヘリン|P-]]、[[R-カドヘリン]])は、細胞内領域で[[カテニン]]と結合し、[[アクチン]][[細胞骨格]]系や様々なシグナル伝達を制御する<ref><pubmed>2197976</pubmed></ref>。 | カドヘリン・スーパーファミリー(Cadherin superfamily)は、細胞外領域にカドヘリン様ドメインを有し、[[カルシウム]]イオン依存的なホモフィリック結合により細胞接着活性を現す膜タンパク質群の総称である<ref><pubmed>17133224</pubmed></ref>。マウスにおいて少なくとも80種類のメンバーが存在する(図2)。これまでのカドヘリン分子群の発見及び機能解析においては、多くの日本人研究者が中心的役割と果たしてきた。1980年代に[[竹市雅俊]]らによって次々と発見されたクラシックカドヘリンファミリー([[N-カドヘリン|N-]]、[[E-カドヘリン|E-]]、[[P-カドヘリン|P-]]、[[R-カドヘリン]])は、細胞内領域で[[カテニン]]と結合し、[[アクチン]][[細胞骨格]]系や様々なシグナル伝達を制御する<ref><pubmed>2197976</pubmed></ref>。 | ||
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=== 免疫グロブリンスーパーファミリー === | === 免疫グロブリンスーパーファミリー === | ||
[[Image:Furutani fig 3.jpg|thumb|300px|'''図3.神経系に発現する免疫グロブリンスーパーファミリー'''<br> | [[Image:Furutani fig 3.jpg|thumb|300px|'''図3.神経系に発現する免疫グロブリンスーパーファミリー'''<br>細胞外領域に1つまたは複数のIgドメインを持つタンパク質群を免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSF)と総称する。神経系には100種類以上のIgSF分子群が存在する。 Cys: Cysteine-rich domain, EGF: [[epidermal growth factor]]-like repeat, Kr: Kringle domain, LRR: leucine-rich repeat, MAM: meprin/A5/protein tyrosine phosphatase μdomain, Sema: [[semaphorin]] domain, TK: [[tyrosine kinase]], TP: [[tyrosine phosphatase]], TS: [[thrombospondin domain]].]] | ||
[[wikipedia:jp:抗体|抗体]]分子([[wikipedia:ja:免疫グロブリン|免疫グロブリン]]:Ig)の構造と類似した免疫グロブリン様ドメイン(Igドメイン)を細胞外領域に有する膜タンパク質群を免疫グロブリンスーパーファミリー(Immunoglobulin superfamily, IgSF)と総称する<ref><pubmed>1710044</pubmed></ref><ref><pubmed>8528906</pubmed></ref>。 | [[wikipedia:jp:抗体|抗体]]分子([[wikipedia:ja:免疫グロブリン|免疫グロブリン]]:Ig)の構造と類似した免疫グロブリン様ドメイン(Igドメイン)を細胞外領域に有する膜タンパク質群を免疫グロブリンスーパーファミリー(Immunoglobulin superfamily, IgSF)と総称する<ref><pubmed>1710044</pubmed></ref><ref><pubmed>8528906</pubmed></ref>。 | ||
1987年、EdelmanらはIgドメインを有し、神経細胞に発現する膜タンパク質[[NCAM]]([[Neural cell adhesion molecule]])を最初に発見した<ref><pubmed>3576199</pubmed></ref>。その後、神経系に発現する100種類以上ものIgSFが同定された(図3)。代表的なIgSF分子として、軸索伸長・ガイダンスに機能する[[L1]]、Contactin、[[DCC]]、[[Robo]]、樹状突起発達、シナプス形成に関与する[[Telencephalin]]、[[SynCAM]]、[[Dscam]]、[[Sidekick]]、髄鞘形成を司るP0などがあり、神経系発達の様々な過程で機能的役割を果たしている(詳細は「[[免疫グロブリンスーパーファミリー]]」の項を参照)。 | 1987年、EdelmanらはIgドメインを有し、神経細胞に発現する膜タンパク質[[NCAM]]([[Neural cell adhesion molecule]])を最初に発見した<ref><pubmed>3576199</pubmed></ref>。その後、神経系に発現する100種類以上ものIgSFが同定された(図3)。代表的なIgSF分子として、軸索伸長・ガイダンスに機能する[[L1]]、Contactin、[[DCC]]、[[Robo]]、樹状突起発達、シナプス形成に関与する[[Telencephalin]]、[[SynCAM]]、[[Dscam]]、[[Sidekick]]、髄鞘形成を司るP0などがあり、神経系発達の様々な過程で機能的役割を果たしている(詳細は「[[免疫グロブリンスーパーファミリー]]」の項を参照)。 | ||
=== インテグリン・ファミリー === | === インテグリン・ファミリー === | ||
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Integrin family | Integrin family | ||
[[Image:Furutani fig 4.jpg|thumb|300px|'''図4.インテグリン'''<br>'''A. インテグリンの構造''' インテグリンはα、βサブユニットのヘテロ2量体からなる。<br>''' B. α、βサブユニットの組み合わせとそのリガンド分子''' Col: Collagen, Fb: Fibrinogen, Fn: Fibronectin, FX: factor X, ICAM: Intercellular adhesion molecule, Ln: Laminin, MadCAM: Mucosal addressin cell adhesion molecule, Tn: Tenascin, VCAM: Vascular cell adhesion molecules, vWF: von Willebrand’s factor.]] | [[Image:Furutani fig 4.jpg|thumb|300px|'''図4.インテグリン'''<br>'''A. インテグリンの構造''' インテグリンはα、βサブユニットのヘテロ2量体からなる。<br>''' B. α、βサブユニットの組み合わせとそのリガンド分子''' Col: [[Collagen]], Fb: [[Fibrinogen]], Fn: [[Fibronectin]], FX: [[factor X]], ICAM: [[Intercellular adhesion molecule]], Ln: [[Laminin]], MadCAM: [[Mucosal addressin cell adhesion molecule]], Tn: [[Tenascin]], VCAM: [[Vascular cell adhesion molecules]], vWF: [[von Willebrand’s factor]].]] | ||
インテグリンはαサブユニットとβサブユニットのヘテロ2量体からなる2価[[wikipedia:ja:カチオン|カチオン]](Mg<sup>2+</sup>あるいはCa<sup>2+</sup>)依存性の接着分子である。マウスでは16種類のαサブユニットと8種類のβサブユニット遺伝子が存在し、図4に示す組み合わせにより機能的なヘテロ2量体を形成する。 | インテグリンはαサブユニットとβサブユニットのヘテロ2量体からなる2価[[wikipedia:ja:カチオン|カチオン]](Mg<sup>2+</sup>あるいはCa<sup>2+</sup>)依存性の接着分子である。マウスでは16種類のαサブユニットと8種類のβサブユニット遺伝子が存在し、図4に示す組み合わせにより機能的なヘテロ2量体を形成する。 | ||
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多くのインテグリンは、[[コラーゲン]]、[[ビトロネクチン]]、[[ラミニン]]、[[フィブロネクチン]]などの細胞外マトリックスタンパク質をリガンドとして細胞−基質間の接着を司る。一方、一部のインテグリンはIgSFやカドヘリンと結合することで細胞間接着を担う。例えばβ2サブユニットを含むインテグリンLFA-1(αLβ2; CD11a/CD18)は、Telencephalin([[ICAM-5]])などのICAMファミリーIgSF分子群と結合し、免疫系および神経系における細胞間認識・接着において機能することが報告されている<ref><pubmed>17201681</pubmed></ref><ref><pubmed>18367254</pubmed></ref>。 | 多くのインテグリンは、[[コラーゲン]]、[[ビトロネクチン]]、[[ラミニン]]、[[フィブロネクチン]]などの細胞外マトリックスタンパク質をリガンドとして細胞−基質間の接着を司る。一方、一部のインテグリンはIgSFやカドヘリンと結合することで細胞間接着を担う。例えばβ2サブユニットを含むインテグリンLFA-1(αLβ2; CD11a/CD18)は、Telencephalin([[ICAM-5]])などのICAMファミリーIgSF分子群と結合し、免疫系および神経系における細胞間認識・接着において機能することが報告されている<ref><pubmed>17201681</pubmed></ref><ref><pubmed>18367254</pubmed></ref>。 | ||
インテグリンの細胞内領域は[[Talin]]、[[ | インテグリンの細胞内領域は[[Talin]]、[[α-actinin]]、[[Vinculin]]などと結合し、アクチン細胞骨格系や様々な細胞内シグナル伝達系を制御する<ref><pubmed>12297042</pubmed></ref>。神経系におけるインテグリンの機能として、ニューロンの移動、軸索の伸長、シナプスの形成、神経可塑性の制御などが報告されている<ref><pubmed>15250583</pubmed></ref><ref><pubmed>17049262</pubmed></ref><ref><pubmed>16567651</pubmed></ref><ref><pubmed>19047646</pubmed></ref><ref><pubmed>19758485</pubmed></ref><ref><pubmed>22232691</pubmed></ref><ref><pubmed>23083738</pubmed></ref>。 | ||
=== その他のシナプス接着分子 === | === その他のシナプス接着分子 === | ||
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細胞外マトリックスは単に細胞間を埋め尽くしているだけでなく、細胞を支える構造体となり、細胞の増殖、分化、行動、運命などを決定する。細胞外マトリックス分子の情報は主にインテグリンを介して細胞内へと伝えられる。その他、Telencephalin、NeclなどのIgSF分子群も[[ビトロネクチン]]などの細胞外マトリックスタンパク質と結合することで細胞内へと情報を伝える<ref><pubmed>17446174</pubmed></ref><ref name="ref33"><pubmed>23019340</pubmed></ref>。 | 細胞外マトリックスは単に細胞間を埋め尽くしているだけでなく、細胞を支える構造体となり、細胞の増殖、分化、行動、運命などを決定する。細胞外マトリックス分子の情報は主にインテグリンを介して細胞内へと伝えられる。その他、Telencephalin、NeclなどのIgSF分子群も[[ビトロネクチン]]などの細胞外マトリックスタンパク質と結合することで細胞内へと情報を伝える<ref><pubmed>17446174</pubmed></ref><ref name="ref33"><pubmed>23019340</pubmed></ref>。 | ||
[[運動ニューロン]]と筋細胞のシナプス([[神経筋接合部]])ではシート状の細胞外マトリックス([[基底膜]])が存在し、細胞外マトリックスタンパク質がシナプス形成を制御している<ref><pubmed>10202544</pubmed></ref>。一方、中枢神経系におけるシナプスでは明らかな細胞外マトリックス構造が見られないが、ビトロネクチンや[[トロンボスポンジン]]などの細胞外マトリックスタンパク質が[[スパイン]]成熟やシナプス形成を制御している<ref><pubmed>15707899</pubmed></ref><ref name="ref33" />。また、細胞外マトリックス分子はシナプス形成のみならず、幹細胞の維持、細胞移動の制御、軸索伸長の促進・抑制などにも関与している<ref><pubmed>20497467</pubmed></ref><ref><pubmed>21898854</pubmed></ref><ref><pubmed>23083738</pubmed></ref> | [[運動ニューロン]]と筋細胞のシナプス([[神経筋接合部]])ではシート状の細胞外マトリックス([[基底膜]])が存在し、細胞外マトリックスタンパク質がシナプス形成を制御している<ref><pubmed>10202544</pubmed></ref>。一方、中枢神経系におけるシナプスでは明らかな細胞外マトリックス構造が見られないが、ビトロネクチンや[[トロンボスポンジン]]などの細胞外マトリックスタンパク質が[[スパイン]]成熟やシナプス形成を制御している<ref><pubmed>15707899</pubmed></ref><ref name="ref33" />。また、細胞外マトリックス分子はシナプス形成のみならず、幹細胞の維持、細胞移動の制御、軸索伸長の促進・抑制などにも関与している<ref><pubmed>20497467</pubmed></ref><ref><pubmed>21898854</pubmed></ref><ref><pubmed>23083738</pubmed></ref>。(詳細は「[[細胞外マトリックス]]」の項を参照) | ||
== ギャップジャンクション == | == ギャップジャンクション == | ||
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== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> | ||