「物体探索」の版間の差分

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 物体の位置関係の認知と物体そのものの認知(2.2.1)やこれらに関わる神経基盤は、物体馴致セッション、空間認識テスト、物体認[[Image:Uekita Ob Fig.3.jpg|right|400px|図3 場所認知と物体認知の複合課題 (Save et al. (1992)をもとに作成)]]識テストを含む一連の手続きによって同時に検討することができる(図3)。Save, Poucet, Foreman, &amp; Buhot (1992)<ref><pubmed>1616611</pubmed></ref> は、円形の実験アリーナに5つの異なる物体を配置し、6分間これをラットに探索させた。全ての物体に対して馴染みを形成するため、物体馴致を3セッション繰り返した後、空間認識テストにおいて2個の物体を移動させた。統制群と前部頭頂皮質損傷群のラットは配置の変化した物体に対して変化していない物体よりも多く探索行動を示したが、海馬損傷群と後部頭頂皮質損傷群のラットではこのような傾向が見られず、物体の位置関係の認知に失敗した。次の物体認識テストでは、一つの物体を新しい物体に置き換えたところ、全ての群のラットが新しい物体に対して探索行動が増加した。これらの結果は、海馬や後部頭頂皮質が物体の位置関係の認知に関与するが、物体自体の認知には関与しない事を示している。位置関係の認知に選択的な障害は、げっ歯類デグーの海馬破壊<ref><pubmed>21291914</pubmed></ref>やラットNMDA受容体の薬理学的阻害<ref>'''関口理久子'''<br>ラットの空間探索行動に及ぼすNMDAアンタゴニスト,MK-801の効果''<br>''心理学研究'':1997,68,88-94</ref>によっても生じることが報告されている。  
 物体の位置関係の認知と物体そのものの認知(2.2.1)やこれらに関わる神経基盤は、物体馴致セッション、空間認識テスト、物体認[[Image:Uekita Ob Fig.3.jpg|right|400px|図3 場所認知と物体認知の複合課題 (Save et al. (1992)をもとに作成)]]識テストを含む一連の手続きによって同時に検討することができる(図3)。Save, Poucet, Foreman, &amp; Buhot (1992)<ref><pubmed>1616611</pubmed></ref> は、円形の実験アリーナに5つの異なる物体を配置し、6分間これをラットに探索させた。全ての物体に対して馴染みを形成するため、物体馴致を3セッション繰り返した後、空間認識テストにおいて2個の物体を移動させた。統制群と前部頭頂皮質損傷群のラットは配置の変化した物体に対して変化していない物体よりも多く探索行動を示したが、海馬損傷群と後部頭頂皮質損傷群のラットではこのような傾向が見られず、物体の位置関係の認知に失敗した。次の物体認識テストでは、一つの物体を新しい物体に置き換えたところ、全ての群のラットが新しい物体に対して探索行動が増加した。これらの結果は、海馬や後部頭頂皮質が物体の位置関係の認知に関与するが、物体自体の認知には関与しない事を示している。位置関係の認知に選択的な障害は、げっ歯類デグーの海馬破壊<ref><pubmed>21291914</pubmed></ref>やラットNMDA受容体の薬理学的阻害<ref>'''関口理久子'''<br>ラットの空間探索行動に及ぼすNMDAアンタゴニスト,MK-801の効果''<br>''心理学研究'':1997,68,88-94</ref>によっても生じることが報告されている。  


==== 環境の変化 [[Image:Uekita Ob Fig.4 new.jpg|right|350px|図4 環境の認知を調べる課題 (Dix & Aggleton, (1999)をもとに作成)]]  ====
==== 環境の変化 [[Image:Uekita Ob Fig.4 new.jpg|right|350px|図4 環境の認知を調べる課題 (Dix & Aggleton, (1999)をもとに作成)丸は物体A、三角は物体Bを示す。]]  ====


 あらかじめ探索させた物体を異なる環境で再度探索させると、正常な動物では、環境の変化に応じて物体への探索行動が増加することが報告された<ref name="Dix" />。この課題では、セッション1において、相同の二つの物体(A1とA2)を環境Xで探索させ、異なる相同の2つの物体 (B1とB2)を環境Yで探索させる。それぞれの環境で、3分間のセッションを2試行ずつ実施する(見本段階)。5分間の遅延後、ペアー物体のうちの一つの環境を入れ換える(テスト段階)。例えば、環境Xに物体A1と物体B1を配置し探索させる(図4)。この時、物体A1は環境一致物体、物体B1は環境不一致物体である。セッション2において、見本段階での試行の順序を入れ換えて3分間のセッションを2試行ずつ実施し、テスト段階では環境Yに物体A1と物体B1を配置し探索させる。この時、物体A1は環境不一致物体、物体B1は環境一致物体である。このように、それぞれの環境においてテストした結果、正常なラットは、環境一致物体よりも環境不一致物体に対して長い探索行動を示したが、海馬 <ref name="mum2002"><pubmed>11992015</pubmed></ref>や後嗅領皮質 <ref><pubmed>15839802</pubmed></ref>を破壊された動物は両物体への探索行動に違いがなく、環境と物体の組み合わせの変化に反応を示さないことが報告されている。  
 あらかじめ探索させた物体を異なる環境で再度探索させると、正常な動物では、環境の変化に応じて物体への探索行動が増加することが報告された<ref name="Dix" />。この課題では、セッション1において、相同の二つの物体(A1とA2)を環境Xで探索させ、異なる相同の2つの物体 (B1とB2)を環境Yで探索させる。それぞれの環境で、3分間のセッションを2試行ずつ実施する(見本段階)。5分間の遅延後、ペアー物体のうちの一つの環境を入れ換える(テスト段階)。例えば、環境Xに物体A1と物体B1を配置し探索させる(図4)。この時、物体A1は環境一致物体、物体B1は環境不一致物体である。セッション2において、見本段階での試行の順序を入れ換えて3分間のセッションを2試行ずつ実施し、テスト段階では環境Yに物体A1と物体B1を配置し探索させる。この時、物体A1は環境不一致物体、物体B1は環境一致物体である。このように、それぞれの環境においてテストした結果、正常なラットは、環境一致物体よりも環境不一致物体に対して長い探索行動を示したが、海馬 <ref name="mum2002"><pubmed>11992015</pubmed></ref>や後嗅領皮質 <ref><pubmed>15839802</pubmed></ref>を破壊された動物は両物体への探索行動に違いがなく、環境と物体の組み合わせの変化に反応を示さないことが報告されている。  
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