「物体探索」の版間の差分

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 また、前述のThinus-Blanc et al.(1987)<ref name="Thi1987" />の実験によると、物体の配置の変化の仕方によって、配置が変わった物体だけでなく、配置が変わっていない物体に対しても探索量が増えることがある。したがって、位置関係の認知的処理ができているかどうかの判断は、単純に移動物体と固定物体の比較だけでは不十分であるだろう。  
 また、前述のThinus-Blanc et al.(1987)<ref name="Thi1987" />の実験によると、物体の配置の変化の仕方によって、配置が変わった物体だけでなく、配置が変わっていない物体に対しても探索量が増えることがある。したがって、位置関係の認知的処理ができているかどうかの判断は、単純に移動物体と固定物体の比較だけでは不十分であるだろう。  


== 物体認知の神経基盤 ==
==神経基盤 ==


 上述のように、物体探索課題を用いた海馬損傷実験では、海馬は物体の配置や物体の置かれた環境の符号化に必要であるが、物体認知そのものには重要でないと考えられている。これまでのところ、物体自体の認知に関わる脳領域について、物体探索課題では積極的な結果が得られていない。しかし、物体認知記憶を測定する[[遅延非見本合わせ課題]](delayed nonmatching to sample, DNMS)を用いた損傷研究により、[[嗅皮質]]([[rhinal cortex]])が物体認知に重要であると考えられている。この課題は、ある刺激を前に見たかどうかについての物体認知記憶を測定するために使用される。見本試行において、テーブル上に見本物体が短時間提示され、遅延時間後の選択試行では、見本物体と同じ物体が新奇物体とともに提示される。動物が新奇物体を選択すると報酬が与えられる。  
 上述のように、物体探索課題を用いた海馬損傷実験では、海馬は物体の配置や物体の置かれた環境の符号化に必要であるが、物体認知そのものには重要でないと考えられている。これまでのところ、物体自体の認知に関わる脳領域について、物体探索課題では積極的な結果が得られていない。しかし、物体認知記憶を測定する[[遅延非見本合わせ課題]](delayed nonmatching to sample, DNMS)を用いた損傷研究により、[[嗅皮質]]([[rhinal cortex]])が物体認知に重要であると考えられている。この課題は、ある刺激を前に見たかどうかについての物体認知記憶を測定するために使用される。見本試行において、テーブル上に見本物体が短時間提示され、遅延時間後の選択試行では、見本物体と同じ物体が新奇物体とともに提示される。動物が新奇物体を選択すると報酬が与えられる。  


 この課題を用いた初期の実験<ref><pubmed>418358</pubmed></ref>では、[[wikipedia:ja:マカクザル|マカクザル]]の海馬と[[扁桃体]]を含む頭葉内側部の損傷の効果が検討された。見本試行と選択試行の遅延時間が10秒以内である場合、この課題の遂行に損傷の影響はなかったが、それよりも長い遅延時間が挿入されると、その時間依存的に課題の正答率が低くなった。後に同研究者によって損傷の精度を高めて追試が行われた結果、この障害は海馬や扁桃体単独の損傷では生じず、むしろそれらの近辺領域にある嗅皮質の損傷が障害を引き起こしたことが明らかになった<ref><pubmed>9698344</pubmed></ref>。したがって、物体認知記憶には海馬や扁桃体ではなく嗅皮質が重要な役割を担うと考えられる。  
 この課題を用いた初期の実験<ref><pubmed>418358</pubmed></ref>では、[[wikipedia:ja:マカクザル|マカクザル]]の海馬と[[扁桃体]]を含む頭葉内側部の損傷の効果が検討された。見本試行と選択試行の遅延時間が10秒以内である場合、この課題の遂行に損傷の影響はなかったが、それよりも長い遅延時間が挿入されると、その時間依存的に課題の正答率が低くなった。後に同研究者によって損傷の精度を高めて追試が行われた結果、この障害は海馬や扁桃体単独の損傷では生じず、むしろそれらの近辺領域にある嗅皮質の損傷が障害を引き起こしたことが明らかになった<ref><pubmed>9698344</pubmed></ref>。したがって、物体認知記憶には海馬や扁桃体ではなく嗅皮質が重要な役割を担うと考えられる。


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==

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