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ユビキチンは二つの異なったタイプの遺伝子にコードされている。一つは、ユビキチンとリボソームタンパク質の融合遺伝子であり、もう一つは数個〜10数個のユビキチンがタンデムに連なったポリユビキチン遺伝子である。後者のポリユビキチン遺伝子は、1回の転写・翻訳で多数のユビキチンを合成することができる点で秀逸であり、かつ熱ショック応答遺伝子でもあることから、細胞は環境ストレスに曝されたとき、必要とするユビキチンを迅速に生成することができるように合理的に設計されている。このことは、細胞内のユビキチンレベルが外環境の変化に応答して厳格に制御されていることを示唆している<ref name=ref3 />。 | ユビキチンは二つの異なったタイプの遺伝子にコードされている。一つは、ユビキチンとリボソームタンパク質の融合遺伝子であり、もう一つは数個〜10数個のユビキチンがタンデムに連なったポリユビキチン遺伝子である。後者のポリユビキチン遺伝子は、1回の転写・翻訳で多数のユビキチンを合成することができる点で秀逸であり、かつ熱ショック応答遺伝子でもあることから、細胞は環境ストレスに曝されたとき、必要とするユビキチンを迅速に生成することができるように合理的に設計されている。このことは、細胞内のユビキチンレベルが外環境の変化に応答して厳格に制御されていることを示唆している<ref name=ref3 />。 | ||
興味深いことに細胞内には、ユビキチン化の逆反応を触媒する脱ユビキチン酵素(deubiquitylating enzyme:DUB)が存在し、それらは生物種を問わず大きな遺伝子ファミリーを形成している。ヒトゲノムには、典型的な55種のDUBを含めて80種を越える脱ユビキチン酵素がコードされており、これらは6種のサブファミリー(4 UCH, 52 USP, 7 ULP, 2 Josephin domain-type, 16 OTU, 2 JAMM)に細分される<ref name= | 興味深いことに細胞内には、ユビキチン化の逆反応を触媒する脱ユビキチン酵素(deubiquitylating enzyme:DUB)が存在し、それらは生物種を問わず大きな遺伝子ファミリーを形成している。ヒトゲノムには、典型的な55種のDUBを含めて80種を越える脱ユビキチン酵素がコードされており、これらは6種のサブファミリー(4 UCH, 52 USP, 7 ULP, 2 Josephin domain-type, 16 OTU, 2 JAMM)に細分される<ref name=ref5><pubmed>19489724</pubmed></ref>。多数のDUBが存在することは、ユビキチン化による翻訳後修飾が可逆的かつ多面的であることを示唆している。このようにUSPは、リン酸化- 脱リン酸化システムに匹敵する細胞内制御系と考えられる。 | ||
== 分子構造と作動機構 == | == 分子構造と作動機構 == | ||
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[[image:プロテオソーム4.jpg|thumb|350px|'''図4.26Sプロテアソームの分子集合機構パスウエイ'''<br>詳細は本文及び文献[25]参照。]] | [[image:プロテオソーム4.jpg|thumb|350px|'''図4.26Sプロテアソームの分子集合機構パスウエイ'''<br>詳細は本文及び文献[25]参照。]] | ||
1983年、われわれはユビキチン化タンパク質の分解にもATPのエネルギーが必要であることを見出し“エネルギー依存性タンパク質分解機構の2段階説”を発表した<ref name= | 1983年、われわれはユビキチン化タンパク質の分解にもATPのエネルギーが必要であることを見出し“エネルギー依存性タンパク質分解機構の2段階説”を発表した<ref name=ref6><pubmed>6304111</pubmed></ref>。後に、このATP要求性のタンパク質分解反応を触媒する酵素が、真核生物のATP依存性プロテアーゼであることが判明し、1988年、Proteasome(protease活性を有した巨大粒子〜some)と命名した(厳密には20Sプロテアソームの発見に対する命名:後述)。その後の研究から、このユビキチン化タンパク質を分解する巨大で複雑なタンパク質分解装置は、真核生物のATP依存性プロテアーゼ(26Sプロテアソーム)であり、触媒粒子であるcore particle(CP、別名20Sプロテアソーム)の両端に調節粒子であるregulatory particle (19S RP)が会合した分子量250万、総サブユニット数66個から構成された多成分複合体であることが判明した(図2)<ref name=ref7><pubmed>8811196</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>9476896</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>19145068</pubmed></ref>。CPはαリングとβリング(各々7種のサブユニットから構成)がαββαの順で会合した分子量75万の円筒型粒子である。本酵素はカスパーゼ型(β1)、トリプシン型(β2),キモトリプシン型(β5)の触媒活性を有しており、これらの活性中心はβリングの内表面に露出している。CPは、通常、αリングが閉じているため細胞内では不活性型として存在している。2011年、タンパク質合成装置である真核生物リボソームの高次構造がX線結晶解析から解明された(古細菌リボソームの構造と機能に対する研究に対して2009年、ノーベル化学賞が授与された)が、26Sプロテアソームの原子レベルでの構造は不明であり、現在、Cryo-electron microscopy(Cryo-EM:極低温電子顕微鏡)による単粒子解析が進行中である<ref name=ref10><pubmed>21098295</pubmed></ref>。 | ||
RP(別称:PA700)はlid(蓋部)とbase(基底部)から構成されており,lid複合体とbase複合体は、夫々10個と9個のサブユニットから構成されている。ごく最近、二つのユビキチンリセプターRpn10とRpn13は分子表面の離れた位置に存在してユビキチン化タンパク質を補足していることが判明した<ref name= | RP(別称:PA700)はlid(蓋部)とbase(基底部)から構成されており,lid複合体とbase複合体は、夫々10個と9個のサブユニットから構成されている。ごく最近、二つのユビキチンリセプターRpn10とRpn13は分子表面の離れた位置に存在してユビキチン化タンパク質を補足していることが判明した<ref name=ref11><pubmed>22215586</pubmed></ref>。RPにはポリユビキチン鎖を根本から切断して解離するRpn11とそれ以外に末端からユビキチンを1個ずつ解離させる酵素USP14(酵母のUbp6)とUch37(酵母には存在しない)の3つのDUBが存在する。ごく最近、lidサブユニット群の位置情報がCryo-EMよる解析から明らかにされた<ref name=ref12><pubmed>22237024</pubmed></ref>。またbaseは6種のAAA型ATPaseサブユニット(Rpt1〜Rpt6)を含んでおり、この冠(Crown)型構造のATPaseリングは,CPのαリングと結合してその中央部のゲートを開き,基質タンパク質の通過を可能にさせる機能を有している他、ATPの加水分解エネルギーを利用してタンパク質の3次元構造を破壊(アンフォールディング)し,変性した基質がαリングを通ってβリングの内部に到達できるようにするアンチシャペロン作用を持っている<ref name=ref13><pubmed>19489727</pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed>17889660</pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed>21335235</pubmed></ref>。このプロテアソームの作動機構を図3に模式化して示した。 | ||
他方、RP/PA700以外の活性化因子としては、PA28(α,β,γの3種のファミリーを構成)が存在する他<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[16, 17]、20Sプロテアソームの両端にPA700とPA28の両調節ユニットを併せ持った“ハイブリッドプロテアソーム”も存在する<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[18]。ヘテロ7量体のPA28α/β(細胞質局在)はIFNγによって強く誘導され、内在性抗原のプロセッシングに関与している。ホモ7量体を形成しているPA28γ(核局在)の欠損マウスは成長が遅延する。さらにPA200と名付けられた活性化因子が酵母からヒトまで普遍的に存在するが、その役割は諸説あって確定していない<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[19]。また20Sプロテアソームが上記の活性化因子の介在なしに単独で、天然変成タンパク質や酸化修飾タンパク質を直接分解することも報告されている<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[20, 21]。このようにプロテアソームの作動機構は、複雑かつ多様である。 | 他方、RP/PA700以外の活性化因子としては、PA28(α,β,γの3種のファミリーを構成)が存在する他<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[16, 17]、20Sプロテアソームの両端にPA700とPA28の両調節ユニットを併せ持った“ハイブリッドプロテアソーム”も存在する<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[18]。ヘテロ7量体のPA28α/β(細胞質局在)はIFNγによって強く誘導され、内在性抗原のプロセッシングに関与している。ホモ7量体を形成しているPA28γ(核局在)の欠損マウスは成長が遅延する。さらにPA200と名付けられた活性化因子が酵母からヒトまで普遍的に存在するが、その役割は諸説あって確定していない<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[19]。また20Sプロテアソームが上記の活性化因子の介在なしに単独で、天然変成タンパク質や酸化修飾タンパク質を直接分解することも報告されている<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[20, 21]。このようにプロテアソームの作動機構は、複雑かつ多様である。 |