「プロテアソーム」の版間の差分

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[[image:プロテオソーム5.jpg|thumb|350px|'''図5.プロテアソームの多様性:免疫型酵素の発見'''<br>詳細は本文参照。図は文献[39]の図を改変。]]
[[image:プロテオソーム5.jpg|thumb|350px|'''図5.プロテアソームの多様性:免疫型酵素の発見'''<br>詳細は本文参照。図は文献[39]の図を改変。]]


  UPSをコードする遺伝子の数は、ゲノム総遺伝子数の3〜5 %を占めると推定されており、これが正確であるとすると、このシステムは予想外に多様で重要な役割を担っているのかもしれない<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[27]。実際UPSは、多様な生体反応を迅速に、順序よく、一過的にかつ一方向に決定する合理的な手段として細胞周期・DNA修復・アポトーシス・シグナル伝達・転写制御・代謝調節・免疫応答・品質管理・ストレス応答・感染応答など生命科学の様々な領域で中心的な役割を果たしている(詳細はユビキチンの項参照)。この多様な生理作用は、細胞内における標的タンパク質の量の厳密な制御を反映しており、とくにユビキチンシステムの多様性に負うところが大きいと考えられている。一方、プロテアソームは単に分解マシーンとしての役割以外に、前駆体タンパク質のプロセシングによる活性型への転換(例えば、NF-κBの成熟プロセス)やその生成ペプチドを抗原エピトープとして利用するなどポジティブな生命応答に貢献していることも知られている。とくに後者は、適応(獲得)免疫の中心的なテーマである自己と非自己の識別において必須な役割を果たすために、プロテアソームのアイソフォーム(免疫型プロテアソーム)(図5)を造成して対処するといった際立った手段を駆使している<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[28-30]
  UPSをコードする遺伝子の数は、ゲノム総遺伝子数の3〜5 %を占めると推定されており、これが正確であるとすると、このシステムは予想外に多様で重要な役割を担っているのかもしれない<ref name=ref27><pubmed>21860393</pubmed></ref>。実際UPSは、多様な生体反応を迅速に、順序よく、一過的にかつ一方向に決定する合理的な手段として細胞周期・DNA修復・アポトーシス・シグナル伝達・転写制御・代謝調節・免疫応答・品質管理・ストレス応答・感染応答など生命科学の様々な領域で中心的な役割を果たしている(詳細はユビキチンの項参照)。この多様な生理作用は、細胞内における標的タンパク質の量の厳密な制御を反映しており、とくにユビキチンシステムの多様性に負うところが大きいと考えられている。一方、プロテアソームは単に分解マシーンとしての役割以外に、前駆体タンパク質のプロセシングによる活性型への転換(例えば、NF-κBの成熟プロセス)やその生成ペプチドを抗原エピトープとして利用するなどポジティブな生命応答に貢献していることも知られている。とくに後者は、適応(獲得)免疫の中心的なテーマである自己と非自己の識別において必須な役割を果たすために、プロテアソームのアイソフォーム(免疫型プロテアソーム)(図5)を造成して対処するといった際立った手段を駆使している<ref name=ref28><pubmed>9700509</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>12078479</pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed>21387144</pubmed></ref>。
 
 
 具体的な例を示すと、主要組織適合性遺伝子複合体MHCを獲得した有顎脊椎動物ではプロテアソームはMHCクラスI結合ペプチド産生の必須酵素でもあり、CD8+T細胞を介した細胞性免疫応答に不可欠な役割を果たしている。われわれは、このときウイルスやガン抗原等の内在性抗原のプロセシング酵素として専門的に作用する酵素が存在することを見出し、標準/構成型プロテアソーム(standard/constitutive proteasome)と区別して、1994年、“免疫プロテアソーム(immunoproteasome)”と名付けた<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[31-33]。この亜型酵素はインターフェロンγ(IFNγ)などのサイトカインにより強く誘導される3種の新しいβ型触媒サブユニット(β1i, β2i, β5i)が優先的分子集合機構によって分子内置換した酵素である。免疫プロテアソームは高いキモトリプシン様活性を有し、MHCクラスIのペプチド収容溝に高い親和性をもつペプチドを効率的に産生することができる(分子レベルでの自己と非自己の識別)。当初免疫プロテアソームは抗原プロセシングに特化した酵素と見られていたが、最近、免疫プロテアソームが有害タンパク質の凝集阻止を通してインターフェロン依存的な酸化ストレスによる細胞死を防御していること<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[34]やβ5iの特異的な阻害剤PR-957がサイトカインの産生や自己抗体レベルを低下させることから自己免疫疾患に関与していること<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[35, 36]などの新たな役割を担っていることが示唆されている。
 具体的な例を示すと、主要組織適合性遺伝子複合体MHCを獲得した有顎脊椎動物ではプロテアソームはMHCクラスI結合ペプチド産生の必須酵素でもあり、CD8+T細胞を介した細胞性免疫応答に不可欠な役割を果たしている。われわれは、このときウイルスやガン抗原等の内在性抗原のプロセシング酵素として専門的に作用する酵素が存在することを見出し、標準/構成型プロテアソーム(standard/constitutive proteasome)と区別して、1994年、“免疫プロテアソーム(immunoproteasome)”と名付けた<ref name=ref31><pubmed>8066462</pubmed></ref> <ref name=ref32><pubmed>8666937</pubmed></ref> <ref name=ref33><pubmed>7964165</pubmed></ref>。この亜型酵素はインターフェロンγ(IFNγ)などのサイトカインにより強く誘導される3種の新しいβ型触媒サブユニット(β1i, β2i, β5i)が優先的分子集合機構によって分子内置換した酵素である。免疫プロテアソームは高いキモトリプシン様活性を有し、MHCクラスIのペプチド収容溝に高い親和性をもつペプチドを効率的に産生することができる(分子レベルでの自己と非自己の識別)。当初免疫プロテアソームは抗原プロセシングに特化した酵素と見られていたが、最近、免疫プロテアソームが有害タンパク質の凝集阻止を通してインターフェロン依存的な酸化ストレスによる細胞死を防御していること<ref name=ref34><pubmed>20723761</pubmed></ref>やβ5iの特異的な阻害剤PR-957がサイトカインの産生や自己抗体レベルを低下させることから自己免疫疾患に関与していること<ref name=ref35><pubmed>19525961</pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed>20010787</pubmed></ref>などの新たな役割を担っていることが示唆されている。


 さらにわれわれは、脊椎動物の胸腺皮質上皮細胞cTECにはβ5tという新規な触媒サブユニットが特異的に発現していることを見出した。そしてβ5tの組み込まれた(β1iとβ2iをパートナーとする)新種の亜型酵素を、2007年、胸腺プロテアソーム(thymoproteasome)と命名した<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[37, 38]。胸腺プロテアソームは、MHCクラスIに結合するリガンド(抗原エピトープ)の種類を変化させていると予想された。実際、β5t欠損マウスではCD8+T細胞が著明に減少し、リンパ球分化(様々なTCRを持った有用なCD8+T細胞のレパトア形成)に異常をきたしていることが判明し、胸腺プロテアソームが胸腺における“正の選択”を駆動する抗原ペプチドを生成していることが判明した(細胞レベルでの自己と非自己の識別)<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[39]。このように免疫型(免疫/胸腺)プロテアソームの遺伝子は、進化的には適応免疫の誕生と同時期に獲得していることは注目される<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>[28, 40]
 さらにわれわれは、脊椎動物の胸腺皮質上皮細胞cTECにはβ5tという新規な触媒サブユニットが特異的に発現していることを見出した。そしてβ5tの組み込まれた(β1iとβ2iをパートナーとする)新種の亜型酵素を、2007年、胸腺プロテアソーム(thymoproteasome)と命名した<ref name=ref37><pubmed>17540904</pubmed></ref> <ref name=ref38><pubmed>20045355</pubmed></ref>。胸腺プロテアソームは、MHCクラスIに結合するリガンド(抗原エピトープ)の種類を変化させていると予想された。実際、β5t欠損マウスではCD8+T細胞が著明に減少し、リンパ球分化(様々なTCRを持った有用なCD8+T細胞のレパトア形成)に異常をきたしていることが判明し、胸腺プロテアソームが胸腺における“正の選択”を駆動する抗原ペプチドを生成していることが判明した(細胞レベルでの自己と非自己の識別)<ref name=ref39><pubmed>19935803</pubmed></ref>。このように免疫型(免疫/胸腺)プロテアソームの遺伝子は、進化的には適応免疫の誕生と同時期に獲得していることは注目される<ref name=ref28 /> <ref name=ref40><pubmed>21748441</pubmed></ref>。


== 病理 ==
== 病理 ==
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===エイジングと神経変性疾患===
===エイジングと神経変性疾患===


[[image:プロテオソーム6.jpg|thumb|350px|'''図6.プロテアソーム分子集合因子PAC1の中枢神経系特異的欠損マウス'''<br>20Sプロテアソーム(αリング)の形成に必須な分子集合因子PAC1(図4参照)の条件的ノックアウトマウスをNestin-Creトランスジェニックマウス を交配させたマウスの生後3週間後の行動動態。詳細は本文及び文献[21]参照。]]
[[image:プロテオソーム6.jpg|thumb|350px|'''図6.プロテアソーム分子集合因子PAC1の中枢神経系特異的欠損マウス'''<br>20Sプロテアソーム(αリング)の形成に必須な分子集合因子PAC1(図4参照)の条件的ノックアウトマウスをNestin-Creトランスジェニックマウス を交配させたマウスの生後3週間後の行動動態。詳細は本文及び文献<ref name=ref21 />参照。]]
[[image:プロテオソーム7.jpg|thumb|350px|'''図7.PINK1/Parkin依存的な“ミトコンドリア品質管理”仮説のモデル図'''<br>詳細は本文参照。]]
[[image:プロテオソーム7.jpg|thumb|350px|'''図7.PINK1/Parkin依存的な“ミトコンドリア品質管理”仮説のモデル図'''<br>詳細は本文参照。]]


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