「トランスジェニック動物」の版間の差分

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 マウスの場合は、受精卵前核にDNAを顕微注入する方法が一般的である<ref name="ref1">'''Andras Nagy, Marina Gertsenstein, Kristina Vintersten, Richard Behringer'''<br>Manipulating the mouse embryo: A Laboratory Manual 3rd Ed.<br>'' Cold Spring Harbor Laboratory Press'':2003</ref>。これにより外来遺伝子はゲノム上の一か所に、複数コピーが一列に並んだ状態で挿入される。通常トランスジェニックマウスと言うと、このようにして外来遺伝子を導入したマウスを指し、後述の標的遺伝子組換えを行ったマウス([[ノックインマウス]]や[[ノックアウトマウス]]や[[Floxed mouse]])と区別する(ただし、厳密には全てトランスジェニックニック動物である)。  
 マウスの場合は、受精卵前核にDNAを顕微注入する方法が一般的である<ref name="ref1">'''Andras Nagy, Marina Gertsenstein, Kristina Vintersten, Richard Behringer'''<br>Manipulating the mouse embryo: A Laboratory Manual 3rd Ed.<br>'' Cold Spring Harbor Laboratory Press'':2003</ref>。これにより外来遺伝子はゲノム上の一か所に、複数コピーが一列に並んだ状態で挿入される。通常トランスジェニックマウスと言うと、このようにして外来遺伝子を導入したマウスを指し、後述の標的遺伝子組換えを行ったマウス([[ノックインマウス]]や[[ノックアウトマウス]]や[[Floxed mouse]])と区別する(ただし、厳密には全てトランスジェニックニック動物である)。  


=== マウス以外の哺乳類動物 ===
=== マウス以外の哺乳類動物 ===


 受精卵前核にDNAを顕微注入する、というマウスで一般的な方法は、他の哺乳類動物にも適応可能な場合が多い。しかしながらこの方法だと導入効率が悪く、通常数百個程度の受精卵が必要となり、マウス以外では非常に高価となる。さらに、多くの動物はマウスと異なり受精卵の細胞質が不透明なため、前核への正確な注入が困難となり、一層効率が下がる。そこで近年は、レトロウイルスの一種であるレンチウイルスを用いる方法が大きく注目されている。レトロウイルスは自身の遺伝子を感染した宿主細胞のゲノム中に挿入する性質がある。中でも、レンチウイルスは分裂中でない細胞にも感染しやすいことや、その遺伝子が宿主細胞によるサイレンシングを受けにくいなどの性質から、トランスジェニック動物作製に非常に有用である。外来遺伝子をDNAの状態で直接受精卵に注入する場合は卵細胞外内の前核に注入する必要がある。これにに対し、あらかじめレンチウイルスに導入してから注入する場合は、卵細胞外にある囲卵腔という空間に注入すればよく、しかも効率は遥かに高い。これまでに、マウス、ラット、ブタ、ウシなどに加え、霊長類であるコモンマーモセットでも、レンチウイルスを用いることで、効率よくトランスジェニック動物が作製できることが報告されている。  
 受精卵前核にDNAを顕微注入する、というマウスで一般的な方法は、他の哺乳類動物にも適応可能な場合が多い。しかしながらこの方法だと導入効率が悪く、通常数百個程度の受精卵が必要となり、マウス以外では非常に高価となる。さらに、多くの動物はマウスと異なり受精卵の細胞質が不透明なため、前核への正確な注入が困難となり、一層効率が下がる。そこで近年は、レトロウイルスの一種であるレンチウイルスを用いる方法が大きく注目されている。レトロウイルスは自身の遺伝子を感染した宿主細胞のゲノム中に挿入する性質がある。中でも、レンチウイルスは分裂中でない細胞にも感染しやすいことや、その遺伝子が宿主細胞によるサイレンシングを受けにくいなどの性質から、トランスジェニック動物作製に非常に有用である。外来遺伝子をDNAの状態で直接受精卵に注入する場合は卵細胞外内の前核に注入する必要がある。これにに対し、あらかじめレンチウイルスに導入してから注入する場合は、卵細胞外にある囲卵腔という空間に注入すればよく、しかも効率は遥かに高い。これまでに、マウス、ラット、ブタ、ウシなどに加え、霊長類であるコモンマーモセットでも、レンチウイルスを用いることで、効率よくトランスジェニック動物が作製できることが報告されている。  
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=== その他の動物種 ===
=== ショウジョウバエ ===


 多くの動物種では、単にDNAを注入しただけではゲノム中に取り込まれる確率が非常に低い。しかしこうした動物でも、[[wikipedia:ja:トランスポゾン|トランスポゾン]][[ウイルスベクター]][[wikipedia:ja:DNAエンドヌクレアーゼ|DNAエンドヌクレアーゼ]]などを利用することで、トランスジェニック動物の作製が可能となることがある。
  ショウジョウバエでは、[[wikipedia:ja:P因子|P因子]](P element)と呼ばれるトランスポゾンを利用する。このトランスポゾンは、トランスポゼースをコードする遺伝子と、トランスポゼースの認識配列からなる。導入したい遺伝子の前後に認識配列を付加し、トランスポゼースをコードする遺伝子も同時に胚に注入することで、トランスポゾンがゲノムに挿入されるのと同じ原理で目的の遺伝子が挿入される。現在では様々な[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]][[wikipedia:ja:無脊椎動物|無脊椎動物]]において、各動物種への遺伝子導入に適したトランスポゾンが同定されている<ref><pubmed> 18047686</pubmed></ref><ref><pubmed> 19478801 </pubmed></ref>。


 例えばショウジョウバエでは、[[wikipedia:ja:P因子|P因子]](P element)と呼ばれるトランスポゾンを利用する。このトランスポゾンは、トランスポゼースをコードする遺伝子と、トランスポゼースの認識配列からなる。導入したい遺伝子の前後に認識配列を付加し、トランスポゼースをコードする遺伝子も同時に胚に注入することで、トランスポゾンがゲノムに挿入されるのと同じ原理で目的の遺伝子が挿入される。現在では様々な[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]・[[wikipedia:ja:無脊椎動物|無脊椎動物]]において、各動物種への遺伝子導入に適したトランスポゾンが同定されている<ref><pubmed> 18047686</pubmed></ref><ref><pubmed> 19478801 </pubmed></ref>。
=== 線虫  ===


 なお線虫の場合は、生殖細胞に注入されたDNAがゲノムに挿入されることは滅多にないが、それでも細胞分裂の際に[[wikipedia:ja:染色体|染色体]]とは独立に複製、分配される<ref><pubmed> 3837845 </pubmed></ref>。これは、線虫の染色体がセントロメアに特化した部位を要さない性質(holocentric)と関係すると考えられる<ref><pubmed> 22018540 </pubmed></ref>。  
  分子生物学の研究材料としてよく用いられる線虫Caenorhabditis elegansの場合は、マウスと同様に生殖細胞に直接DNAを注入する方法が主流である。注入されたDNAがゲノムに挿入されることは極めて稀だが、それでも細胞分裂の際に[[wikipedia:ja:染色体|染色体]]とは独立に複製、分配される<ref><pubmed> 3837845 </pubmed></ref>。これは、線虫の染色体がセントロメアに特化した部位を要さない性質(holocentric)と関係すると考えられる<ref><pubmed> 22018540 </pubmed></ref>。  
 
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== 外来遺伝子をゲノム上の特定の位置に挿入する場合  ==
== 外来遺伝子をゲノム上の特定の位置に挿入する場合  ==
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