「プロテアソーム」の版間の差分

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 生体を構成する主要成分であり、生命現象を支える機能素子であるタンパク質は、細胞内で絶えず合成と分解を繰り返しており、きわめて動的なリサイクル(新陳代謝)システムを構成している。即ち、細胞内の全てのタンパク質は、千差万別の寿命をもってダイナミックにターンオーバー(代謝回転)しており、この新陳代謝の中心はタンパク質分解が担っている。タンパク質分解は多様な生体反応を不可逆的に制御する方法として発生や分化など様々な生命現象に不可欠な役割を果たしている。例えば、タンパク質分解は細胞内に生じた不良品の積極的な除去に深く関与しているほか、良品であっても不要な(細胞活動に支障をきたす)場合、あるいは緊急時の栄養素の確保のために、積極的に作動される。このようにタンパク質は細胞内でリサイクルし, 動的平衡を保つことによって身体の中を浄化(不要品のクリアランス)して新鮮さを保ち、健康を維持しているのである。即ち、細胞内のタンパク質は、恒常的な入れ替わり(ターンオーバー)によって品質を管理して健全な細胞活動に貢献していると言い換えることができる。
 生体を構成する主要成分であり、生命現象を支える機能素子であるタンパク質は、細胞内で絶えず合成と分解を繰り返しており、きわめて動的なリサイクル(新陳代謝)システムを構成している。即ち、細胞内の全てのタンパク質は、千差万別の寿命をもってダイナミックにターンオーバー(代謝回転)しており、この新陳代謝の中心はタンパク質分解が担っている。タンパク質分解は多様な生体反応を不可逆的に制御する方法として発生や分化など様々な生命現象に不可欠な役割を果たしている。例えば、タンパク質分解は細胞内に生じた不良品の積極的な除去に深く関与しているほか、良品であっても不要な(細胞活動に支障をきたす)場合、あるいは緊急時の栄養素の確保のために、積極的に作動される。このようにタンパク質は細胞内でリサイクルし, 動的平衡を保つことによって身体の中を浄化(不要品のクリアランス)して新鮮さを保ち、健康を維持しているのである。即ち、細胞内のタンパク質は、恒常的な入れ替わり(ターンオーバー)によって品質を管理して健全な細胞活動に貢献していると言い換えることができる。
 
 
 真核生物の細胞内には進化的に高度に保存された二つの大規模なタンパク質分解系、即ちユビキチン・プロテアソームシステム(UPS)とオートファジー・リソソームシステムが存在している。前者のUPSは選択的タンパク質を担う中心的な酵素系であり、後者は一般に非選択的なタンパク質を担っているが、最近、選択的なオートファジーが数多く発見され、注目されている(詳細は、オートファジーの項参照)。そしてこれらのタンパク質分解しステムは、時空間的に厳密に制御されており、その破綻が高齢化社会を迎えた今日急増しているガンや神経変性疾患などの重篤疾患を引き起こすことが相次いで判明している。
 真核生物の細胞内には進化的に高度に保存された二つの大規模なタンパク質分解系、即ちユビキチン・プロテアソームシステム(UPS)とオートファジー・リソソームシステムが存在している。前者のUPSは選択的タンパク質を担う中心的な酵素系であり、後者は一般に非選択的なタンパク質を担っているが、最近、選択的なオートファジーが数多く発見され、注目されている(詳細は、オートファジーの項参照)。そしてこれらのタンパク質分解しステムは、時空間的に厳密に制御されており、その破綻が高齢化社会を迎えた今日急増しているガンや神経変性疾患などの重篤疾患を引き起こすことが相次いで判明している。


== ユビキチンシステム ==
== ユビキチンシステム ==
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 他方、RP/PA700以外の活性化因子としては、PA28(α,β,γの3種のファミリーを構成)が存在する他<ref name=ref16><pubmed>10600633</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>21211719</pubmed></ref>、20Sプロテアソームの両端にPA700とPA28の両調節ユニットを併せ持った“ハイブリッドプロテアソーム”も存在する<ref name=ref18><pubmed>10799514</pubmed></ref>。ヘテロ7量体のPA28α/β(細胞質局在)はIFNγによって強く誘導され、内在性抗原のプロセッシングに関与している。ホモ7量体を形成しているPA28γ(核局在)の欠損マウスは成長が遅延する。さらにPA200と名付けられた活性化因子が酵母からヒトまで普遍的に存在するが、その役割は諸説あって確定していない<ref name=ref><pubmed>21389348</pubmed></ref>。また20Sプロテアソームが上記の活性化因子の介在なしに単独で、天然変成タンパク質や酸化修飾タンパク質を直接分解することも報告されている<ref name=ref20><pubmed>18636510</pubmed></ref> <ref name=ref21><pubmed>20498273</pubmed></ref>。このようにプロテアソームの作動機構は、複雑かつ多様である。
 他方、RP/PA700以外の活性化因子としては、PA28(α,β,γの3種のファミリーを構成)が存在する他<ref name=ref16><pubmed>10600633</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>21211719</pubmed></ref>、20Sプロテアソームの両端にPA700とPA28の両調節ユニットを併せ持った“ハイブリッドプロテアソーム”も存在する<ref name=ref18><pubmed>10799514</pubmed></ref>。ヘテロ7量体のPA28α/β(細胞質局在)はIFNγによって強く誘導され、内在性抗原のプロセッシングに関与している。ホモ7量体を形成しているPA28γ(核局在)の欠損マウスは成長が遅延する。さらにPA200と名付けられた活性化因子が酵母からヒトまで普遍的に存在するが、その役割は諸説あって確定していない<ref name=ref><pubmed>21389348</pubmed></ref>。また20Sプロテアソームが上記の活性化因子の介在なしに単独で、天然変成タンパク質や酸化修飾タンパク質を直接分解することも報告されている<ref name=ref20><pubmed>18636510</pubmed></ref> <ref name=ref21><pubmed>20498273</pubmed></ref>。このようにプロテアソームの作動機構は、複雑かつ多様である。
 
 
 プロテアソームは巨大で複雑な多成分複合体であり、その分子集合には専門的な多数のシャペロン分子が関与している(図4)<ref name=ref22><pubmed>19165213</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>21461838</pubmed></ref>。20Sプロテアソームの形成に特化した分子シャペロンであるPAC(Proteasome Assembling Chaperone)1-4は、生合成された7種のαサブユニットと階層性をもって結合し、αリングの形成を促進する。PAC1/PAC2ヘテロ二量体はαリング同士の凝集体の形成を阻止する働きを示し、PAC3/PAC4ヘテロ二量体はαリング上へのαサブユニットの段階的な会合を促進して、迅速に正確なαリングを形成させる。βサブユニット群は、逐次的にαリング上に会合してβリングを形成する。この段階的な会合にはβ2やβ5のプロペプチド及びβ2のC末端伸長領域などが“分子内シャペロン”として作用する<ref name=ref22><pubmed>19165213</pubmed></ref>。さらにもう一つのシャペロンUmp1/POMP/Proteassemblinは、βサブユニットの会合やハーフ・プロテアソームの重合プロセスに関与している<ref name=ref22><pubmed>19165213</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>18786393</pubmed></ref>。
 プロテアソームは巨大で複雑な多成分複合体であり、その分子集合には専門的な多数のシャペロン分子が関与している(図4)<ref name=ref22><pubmed>19165213</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>21461838</pubmed></ref>。20Sプロテアソームの形成に特化した分子シャペロンであるPAC(Proteasome Assembling Chaperone)1-4は、生合成された7種のαサブユニットと階層性をもって結合し、αリングの形成を促進する。PAC1/PAC2ヘテロ二量体はαリング同士の凝集体の形成を阻止する働きを示し、PAC3/PAC4ヘテロ二量体はαリング上へのαサブユニットの段階的な会合を促進して、迅速に正確なαリングを形成させる。βサブユニット群は、逐次的にαリング上に会合してβリングを形成する。この段階的な会合にはβ2やβ5のプロペプチド及びβ2のC末端伸長領域などが“分子内シャペロン”として作用する<ref name=ref22><pubmed>19165213</pubmed></ref>。さらにもう一つのシャペロンUmp1/POMP/Proteassemblinは、βサブユニットの会合やハーフ・プロテアソームの重合プロセスに関与している<ref name=ref22><pubmed>19165213</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>18786393</pubmed></ref>。


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  UPSをコードする遺伝子の数は、ゲノム総遺伝子数の3〜5 %を占めると推定されており、これが正確であるとすると、このシステムは予想外に多様で重要な役割を担っているのかもしれない<ref name=ref27><pubmed>21860393</pubmed></ref>。実際UPSは、多様な生体反応を迅速に、順序よく、一過的にかつ一方向に決定する合理的な手段として細胞周期・DNA修復・アポトーシス・シグナル伝達・転写制御・代謝調節・免疫応答・品質管理・ストレス応答・感染応答など生命科学の様々な領域で中心的な役割を果たしている(詳細はユビキチンの項参照)。この多様な生理作用は、細胞内における標的タンパク質の量の厳密な制御を反映しており、とくにユビキチンシステムの多様性に負うところが大きいと考えられている。一方、プロテアソームは単に分解マシーンとしての役割以外に、前駆体タンパク質のプロセシングによる活性型への転換(例えば、NF-κBの成熟プロセス)やその生成ペプチドを抗原エピトープとして利用するなどポジティブな生命応答に貢献していることも知られている。とくに後者は、適応(獲得)免疫の中心的なテーマである自己と非自己の識別において必須な役割を果たすために、プロテアソームのアイソフォーム(免疫型プロテアソーム)(図5)を造成して対処するといった際立った手段を駆使している<ref name=ref28><pubmed>9700509</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>12078479</pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed>21387144</pubmed></ref>。
  UPSをコードする遺伝子の数は、ゲノム総遺伝子数の3〜5 %を占めると推定されており、これが正確であるとすると、このシステムは予想外に多様で重要な役割を担っているのかもしれない<ref name=ref27><pubmed>21860393</pubmed></ref>。実際UPSは、多様な生体反応を迅速に、順序よく、一過的にかつ一方向に決定する合理的な手段として細胞周期・DNA修復・アポトーシス・シグナル伝達・転写制御・代謝調節・免疫応答・品質管理・ストレス応答・感染応答など生命科学の様々な領域で中心的な役割を果たしている(詳細はユビキチンの項参照)。この多様な生理作用は、細胞内における標的タンパク質の量の厳密な制御を反映しており、とくにユビキチンシステムの多様性に負うところが大きいと考えられている。一方、プロテアソームは単に分解マシーンとしての役割以外に、前駆体タンパク質のプロセシングによる活性型への転換(例えば、NF-κBの成熟プロセス)やその生成ペプチドを抗原エピトープとして利用するなどポジティブな生命応答に貢献していることも知られている。とくに後者は、適応(獲得)免疫の中心的なテーマである自己と非自己の識別において必須な役割を果たすために、プロテアソームのアイソフォーム(免疫型プロテアソーム)(図5)を造成して対処するといった際立った手段を駆使している<ref name=ref28><pubmed>9700509</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>12078479</pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed>21387144</pubmed></ref>。
 
 
 具体的な例を示すと、主要組織適合性遺伝子複合体MHCを獲得した有顎脊椎動物ではプロテアソームはMHCクラスI結合ペプチド産生の必須酵素でもあり、CD8+T細胞を介した細胞性免疫応答に不可欠な役割を果たしている。われわれは、このときウイルスやガン抗原等の内在性抗原のプロセシング酵素として専門的に作用する酵素が存在することを見出し、標準/構成型プロテアソーム(standard/constitutive proteasome)と区別して、1994年、“免疫プロテアソーム(immunoproteasome)”と名付けた<ref name=ref31><pubmed>8066462</pubmed></ref> <ref name=ref32><pubmed>8666937</pubmed></ref> <ref name=ref33><pubmed>7964165</pubmed></ref>。この亜型酵素はインターフェロンγ(IFNγ)などのサイトカインにより強く誘導される3種の新しいβ型触媒サブユニット(β1i, β2i, β5i)が優先的分子集合機構によって分子内置換した酵素である。免疫プロテアソームは高いキモトリプシン様活性を有し、MHCクラスIのペプチド収容溝に高い親和性をもつペプチドを効率的に産生することができる(分子レベルでの自己と非自己の識別)。当初免疫プロテアソームは抗原プロセシングに特化した酵素と見られていたが、最近、免疫プロテアソームが有害タンパク質の凝集阻止を通してインターフェロン依存的な酸化ストレスによる細胞死を防御していること<ref name=ref34><pubmed>20723761</pubmed></ref>やβ5iの特異的な阻害剤PR-957がサイトカインの産生や自己抗体レベルを低下させることから自己免疫疾患に関与していること<ref name=ref35><pubmed>19525961</pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed>20010787</pubmed></ref>などの新たな役割を担っていることが示唆されている。
 具体的な例を示すと、主要組織適合性遺伝子複合体MHCを獲得した有顎脊椎動物ではプロテアソームはMHCクラスI結合ペプチド産生の必須酵素でもあり、CD8+T細胞を介した細胞性免疫応答に不可欠な役割を果たしている。われわれは、このときウイルスやガン抗原等の内在性抗原のプロセシング酵素として専門的に作用する酵素が存在することを見出し、標準/構成型プロテアソーム(standard/constitutive proteasome)と区別して、1994年、“免疫プロテアソーム(immunoproteasome)”と名付けた<ref name=ref31><pubmed>8066462</pubmed></ref> <ref name=ref32><pubmed>8666937</pubmed></ref> <ref name=ref33><pubmed>7964165</pubmed></ref>。この亜型酵素はインターフェロンγ(IFNγ)などのサイトカインにより強く誘導される3種の新しいβ型触媒サブユニット(β1i, β2i, β5i)が優先的分子集合機構によって分子内置換した酵素である。免疫プロテアソームは高いキモトリプシン様活性を有し、MHCクラスIのペプチド収容溝に高い親和性をもつペプチドを効率的に産生することができる(分子レベルでの自己と非自己の識別)。当初免疫プロテアソームは抗原プロセシングに特化した酵素と見られていたが、最近、免疫プロテアソームが有害タンパク質の凝集阻止を通してインターフェロン依存的な酸化ストレスによる細胞死を防御していること<ref name=ref34><pubmed>20723761</pubmed></ref>やβ5iの特異的な阻害剤PR-957がサイトカインの産生や自己抗体レベルを低下させることから自己免疫疾患に関与していること<ref name=ref35><pubmed>19525961</pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed>20010787</pubmed></ref>などの新たな役割を担っていることが示唆されている。


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