「ネプリライシン」の版間の差分

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'''6.3 ネプリライシン活性の調節'''
'''6.3 ネプリライシン活性の調節'''
ネプリライシンの発現は様々な組織で認められるが、その発現制御は組織または細胞特異的である。線維芽細胞、好中球、骨芽細胞や骨髄細胞などの末梢系の細胞では、サブスタンスP、オピオイドやカルルシトニンによって、ネプリライシンレベルが上昇する [33][34][35][36]。脳内においてはネプリライシンの発現を制御する神経細胞特異的な因子としてソマトスタチンが同定されている[3][4][37][38]
ネプリライシンの発現は様々な組織で認められるが、その発現制御は組織または細胞特異的である。線維芽細胞、好中球、骨芽細胞や骨髄細胞などの末梢系の細胞では、サブスタンスP、オピオイドやカルルシトニンによって、ネプリライシンレベルが上昇する<ref name=ref33><pubmed> 8439284 </pubmed></ref><ref name=ref34><pubmed> 12021551 </pubmed></ref><ref name=ref35><pubmed> 11675340 </pubmed></ref><ref name=ref36><pubmed> 12844556 </pubmed></ref>。脳内においてはネプリライシンの発現を制御する神経細胞特異的な因子としてソマトスタチンが同定されている<ref name=ref3 /><ref name=ref4 /><ref name=ref37><pubmed> 15778722 </pubmed></ref><ref name=ref38><pubmed> 6107862 </pubmed></ref>
脳内ソマトスタチンレベルもアルツハイマー病脳で低下することが古くから知られ、[3][4][37][38]、最近の研究ではヒトや霊長類の脳では加齢と共に低下(ヒトの場合は40歳以降から低下)することが明らかになっている[39]。このように、加齢に伴うソマトスタチンの低下がネプリライシンの活性減弱を通してAβ量を上昇させると考えられ、ソマトスタチン量やネプリライシン活性の低下速度の個人差が、アルツハイマー病の発症の有無や発症年齢を決定するという仮説が提唱されている[3][4]。  
脳内ソマトスタチンレベルもアルツハイマー病脳で低下することが古くから知られ、<ref name=ref3 /><ref name=ref4 /><ref name=ref37 /><ref name=ref38 />、最近の研究ではヒトや霊長類の脳では加齢と共に低下(ヒトの場合は40歳以降から低下)することが明らかになっている<ref name=ref39><pubmed> 15190254 </pubmed></ref>。このように、加齢に伴うソマトスタチンの低下がネプリライシンの活性減弱を通してAβ量を上昇させると考えられ、ソマトスタチン量やネプリライシン活性の低下速度の個人差が、アルツハイマー病の発症の有無や発症年齢を決定するという仮説が提唱されている<ref name=ref3 /><ref name=ref4 />。  


'''6.4 ネプリライシン遺伝子を利用したアルツハイマー病の遺伝子治療'''[40][41][42]
'''6.4 ネプリライシン遺伝子を利用したアルツハイマー病の遺伝子治療'''<ref name=ref40><pubmed> 14749444 </pubmed></ref><ref name=ref41><pubmed> 20158567 </pubmed></ref><ref name=ref42><pubmed> 23503602 </pubmed></ref>
加齢脳やアルツハイマー病脳で低下したネプリライシン活性を補うことで、脳内に蓄積していくAβを分解・除去できるとして、ネプリライシン遺伝子を脳内に導入する遺伝子治療実験がモデルマウスで試みられている。中枢神経系の遺伝子治療では、定位脳手術によりウイルスベクターを脳の実質に直接注入する必要があったが、最近では遺伝子工学技術の進歩により、末梢血から投与して脳の神経細胞にだけ遺伝子発現を行う遺伝子治療用のウイルスベクターが開発されており、これによりモデルマウス脳内のアミロイド蓄積を回避し、障害を受けた認知機能が回復することが報告されている。
加齢脳やアルツハイマー病脳で低下したネプリライシン活性を補うことで、脳内に蓄積していくAβを分解・除去できるとして、ネプリライシン遺伝子を脳内に導入する遺伝子治療実験がモデルマウスで試みられている。中枢神経系の遺伝子治療では、定位脳手術によりウイルスベクターを脳の実質に直接注入する必要があったが、最近では遺伝子工学技術の進歩により、末梢血から投与して脳の神経細胞にだけ遺伝子発現を行う遺伝子治療用のウイルスベクターが開発されており、これによりモデルマウス脳内のアミロイド蓄積を回避し、障害を受けた認知機能が回復することが報告されている。


'''7. がんとの関連'''[1][2]
'''7. がんとの関連'''<ref name=ref1 /><ref name=ref2 />
別名、急性リンパ性白血病共通抗原(CALLA)としても知られているように、白血病小児の特定のリンパ球の細胞表面に一過性に過剰発現するため、診断マーカーとしても用いられている。また、血液系以外にも、前立腺、子宮内膜、腎臓および肺などのがんの進行にも関与している。特に注目されているのは前立腺がんで、ネプリライシンの発現レベルの低下により、ボンベシンなどの細胞増殖作用を持つペプチドの分解低下を通してアンドロゲン非依存的にがんの進行に関わるとされている。実際、in vitroで前立腺がん細胞にネプリライシン遺伝子を過剰発現させると腫瘍の増殖が抑制されることが示されている。
別名、急性リンパ性白血病共通抗原(CALLA)としても知られているように、白血病小児の特定のリンパ球の細胞表面に一過性に過剰発現するため、診断マーカーとしても用いられている。また、血液系以外にも、前立腺、子宮内膜、腎臓および肺などのがんの進行にも関与している。特に注目されているのは前立腺がんで、ネプリライシンの発現レベルの低下により、ボンベシンなどの細胞増殖作用を持つペプチドの分解低下を通してアンドロゲン非依存的にがんの進行に関わるとされている。実際、in vitroで前立腺がん細胞にネプリライシン遺伝子を過剰発現させると腫瘍の増殖が抑制されることが示されている。


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