「メラトニン」の版間の差分

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<font size="+1">鳥居 雅樹、[http://researchmap.jp/read0180571 深田 吉孝]</font><br>
''東京大学 大学院理学系研究科 生物化学専攻''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月21日 原稿完成日:2013年3月27日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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| drug_name        = melatonin
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英語名: melatonin
英語名: melatonin 独:Melatonin 仏:mélatonine


同義語:''N''-アセチル-5-メトキシトリプタミン  
同義語:''N''-アセチル-5-メトキシトリプタミン  


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 [[概日リズム]]や[[光周性]]に重要な機能をもつ化合物。[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]においては、主に松果体において合成・分泌されて血中[[wikipedia:ja:ホルモン|ホルモン]]として機能するほか、[[網膜]]の主に[[視細胞]]において合成されて網膜の生理機能を調節する局所(網膜内)ホルモンとして機能する事が知られている。
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==メラトニンとは==
 メラトニンは[[生理活性アミン]]の誘導体である<ref> '''A. B. Lerner''' ''et al.'' (1959)<br>Structure of melatonin. ''<br>J. Am. Chem. Soc.'' 81, 6084</ref> 。[[wikipedia:ja:カエル|カエル]][[wikipedia:ja:皮膚|皮膚]]の[[wikipedia:ja:黒色素胞|黒色素胞]]を退色(白色化)させる物質として、[[wikipedia:ja:皮膚|ウシ]]の[[松果体]]から単離された<ref>'''A. B. Lerner''' ''et al.'' (1958)<br>Isolation of melatonin, the pineal gland factor that lightens melanocytes.<br>''J. Am. Chem. Soc.'' 80, 2587</ref>が、実は[[概日リズム]]や[[光周性]]に重要な機能をもつことが分かった。[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]においては、主に松果体において合成・分泌されて血中[[wikipedia:ja:ホルモン|ホルモン]]として機能するほか、[[網膜]]の主に[[視細胞]]において合成されて網膜の生理機能を調節する局所(網膜内)ホルモンとして機能する事が知られている。多くの動物において、メラトニンの合成と分泌の量は夜間に高く昼間に低い日内リズムを示す。このリズムは一日の中で光条件を一定にしても持続する事から、個体内の計時機構である[[概日時計]]の制御下にある事が分かる。動物の行動パターンが昼行性であるか夜行性であるかにかかわらず夜間に分泌量が多い事から「夜のホルモン」とも呼ばれている。メラトニンのこのような分泌リズムは、活動量の高い時間帯に分泌量が高い[[コルチゾール]]の分泌リズムと対照的である。  
 メラトニンは[[生理活性アミン]]の誘導体である<ref> '''A. B. Lerner''' ''et al.'' (1959)<br>Structure of melatonin. ''<br>J. Am. Chem. Soc.'' 81, 6084</ref> 。[[wikipedia:ja:カエル|カエル]][[wikipedia:ja:皮膚|皮膚]]の[[wikipedia:ja:黒色素胞|黒色素胞]]を退色(白色化)させる物質として、[[wikipedia:ja:皮膚|ウシ]]の[[松果体]]から単離された<ref>'''A. B. Lerner''' ''et al.'' (1958)<br>Isolation of melatonin, the pineal gland factor that lightens melanocytes.<br>''J. Am. Chem. Soc.'' 80, 2587</ref>が、実は[[概日リズム]]や[[光周性]]に重要な機能をもつことが分かった。[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]においては、主に松果体において合成・分泌されて血中[[wikipedia:ja:ホルモン|ホルモン]]として機能するほか、[[網膜]]の主に[[視細胞]]において合成されて網膜の生理機能を調節する局所(網膜内)ホルモンとして機能する事が知られている。多くの動物において、メラトニンの合成と分泌の量は夜間に高く昼間に低い日内リズムを示す。このリズムは一日の中で光条件を一定にしても持続する事から、個体内の計時機構である[[概日時計]]の制御下にある事が分かる。動物の行動パターンが昼行性であるか夜行性であるかにかかわらず夜間に分泌量が多い事から「夜のホルモン」とも呼ばれている。メラトニンのこのような分泌リズムは、活動量の高い時間帯に分泌量が高い[[コルチゾール]]の分泌リズムと対照的である。  


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====松果体  ====
====松果体  ====


 [[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]の松果体の場合、概日時計の中枢は[[視床下部]]の[[視交叉上核]]([[Suprachiasmatic nucleus]]、[[SCN]])に存在する。SCNは約1日周期の強力な振動体を持っており、松果体は複数の[[シナプス]]連絡を介してSCNからの時刻情報を受け取る。夜間におけるメラトニン合成の上昇は、松果体に入力する[[交感神経]]終末からの[[ノルアドレナリン]]の放出が引き金となり開始する。この終末から放出されたノルアドレナリンは、松果体に存在する[[&beta;アドレナリン受容体]]を介して細胞内[[cAMP]]濃度を上昇させ、活性化した[[PKA]]が[[CREB]]をリン酸化する。リン酸化されて活性したCREBは''Aa-nat''遺伝子の[[プロモーター]]領域に存在する[[CRE]]に結合して、''Aa-nat''遺伝子の転写を活性する。この結果、松果体における''Aa-nat'' mRNA量が夜(暗期)の開始から2時間以内に100倍以上に増加し、AA-NATタンパク質の急激な増加を引き起こし、メラトニンの合成量が急上昇する<ref name="ho"><pubmed>19860854</pubmed></ref>。  
 [[wj:哺乳類|哺乳類]]の松果体の場合、概日時計の中枢は[[視床下部]]の[[視交叉上核]]([[Suprachiasmatic nucleus]]、[[SCN]])に存在する。SCNは約1日周期の強力な振動体を持っており、松果体は複数の[[シナプス]]連絡を介してSCNからの時刻情報を受け取る。夜間におけるメラトニン合成の上昇は、松果体に入力する[[交感神経]]終末からの[[ノルアドレナリン]]の放出が引き金となり開始する。この終末から放出されたノルアドレナリンは、松果体に存在する[[&beta;アドレナリン受容体]]を介して細胞内[[cAMP]]濃度を上昇させ、活性化した[[PKA]]が[[CREB]]をリン酸化する。リン酸化されて活性したCREBは''Aa-nat''遺伝子の[[プロモーター]]領域に存在する[[CRE]]に結合して、''Aa-nat''遺伝子の転写を活性する。この結果、松果体における''Aa-nat'' [[mRNA]]量が夜(暗期)の開始から2時間以内に100倍以上に増加し、AA-NATタンパク質の急激な増加を引き起こし、メラトニンの合成量が急上昇する<ref name="ho"><pubmed>19860854</pubmed></ref>。


==== 網膜視細胞  ====
==== 網膜視細胞  ====
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== 生理作用  ==
== 生理作用  ==


 メラトニンは[[Gタンパク質共役型の受容体]]を介して生理作用を発揮する。哺乳類には2種類の[[メラトニン受容体]]が発見されているが、どちらの受容体もメラトニンと結合するとGiを活性化してアデニル酸シクラーゼ活性が低下し、細胞内cAMP濃度が低下する。
 メラトニンは[[Gタンパク質共役型の受容体]]を介して生理作用を発揮する。哺乳類には2種類の[[メラトニン受容体]]が発見されているが、どちらの受容体もメラトニンと結合すると[[Gi]]を活性化して[[アデニル酸シクラーゼ]]活性が低下し、細胞内cAMP濃度が低下する。


=== 概日リズム  ===
=== 概日リズム  ===
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== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />  
<references />
 
<br> (執筆者:鳥居雅樹、深田吉孝 担当編集委員:林康紀)

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