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<font size="+1">[http://researchmap.jp/kkatsutky 小林克典]</font><br> | |||
''日本医科大学 薬理学講座''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年4月8日 原稿完成日:2013年6月21日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | |||
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{{chembox | {{chembox | ||
| verifiedrevid = 464188976 | | verifiedrevid = 464188976 | ||
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英語名:dopamine 独:Dopamin 仏:dopamine | 英語名:dopamine 独:Dopamin 仏:dopamine | ||
{{box|text= | |||
[[wikipedia:ja:カテコール核|カテコール核]]を持つ[[wikipedia:ja:アミン|アミン]]([[カテコールアミン]])で、[[中枢神経系]]の[[伝達物質]]、及び末梢のシグナル分子として働く。生体内のドーパミンは[[wikipedia:ja:チロシン|チロシン]]から二段階の酵素反応によって合成され、[[小胞モノアミントランスポーター]]によって細胞内の小胞に取り込まれる。[[開口放出]]によって放出されたドーパミンは放出部位から比較的離れた場所に存在する[[受容体]]に結合して標的細胞の生理機能を調節する。ドーパミン受容体は全て[[Gタンパク質共役型]]で、遅い信号伝達もしくは神経細胞機能の修飾を担う。[[中脳]]から[[大脳]]に投射するドーパミン神経が中枢のドーパミン神経系の大部分を占め、[[運動]]機能、[[認知]]機能などの中枢機能の調節に関与する。また、ドーパミン神経系は[[精神疾患]]の病態生理に対する関与が示唆されており、[[抗精神病薬]]等の治療薬や[[依存性薬物]]の標的となる。 | [[wikipedia:ja:カテコール核|カテコール核]]を持つ[[wikipedia:ja:アミン|アミン]]([[カテコールアミン]])で、[[中枢神経系]]の[[伝達物質]]、及び末梢のシグナル分子として働く。生体内のドーパミンは[[wikipedia:ja:チロシン|チロシン]]から二段階の酵素反応によって合成され、[[小胞モノアミントランスポーター]]によって細胞内の小胞に取り込まれる。[[開口放出]]によって放出されたドーパミンは放出部位から比較的離れた場所に存在する[[受容体]]に結合して標的細胞の生理機能を調節する。ドーパミン受容体は全て[[Gタンパク質共役型]]で、遅い信号伝達もしくは神経細胞機能の修飾を担う。[[中脳]]から[[大脳]]に投射するドーパミン神経が中枢のドーパミン神経系の大部分を占め、[[運動]]機能、[[認知]]機能などの中枢機能の調節に関与する。また、ドーパミン神経系は[[精神疾患]]の病態生理に対する関与が示唆されており、[[抗精神病薬]]等の治療薬や[[依存性薬物]]の標的となる。 | ||
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== 生合成と代謝 == | == 生合成と代謝 == | ||
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L-チロシンから[[チロシン水酸化酵素]](tyrosine hydoxylase、TH)によって[[L-ドーパ]](レボドーパ)が合成され、さらに[[芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素]]([[Aromatic L-amino acid decarboxylase]]、[[AADC]])によってドーパミンが合成される。ドーパミンと同じくカテコールアミン類の伝達物質である[[ノルアドレナリン]]は[[ドーパミン-β-水酸化酵素]]によってドーパミンから合成される。 | L-チロシンから[[チロシン水酸化酵素]](tyrosine hydoxylase、TH)によって[[L-ドーパ]](レボドーパ)が合成され、さらに[[芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素]]([[Aromatic L-amino acid decarboxylase]]、[[AADC]])によってドーパミンが合成される。ドーパミンと同じくカテコールアミン類の伝達物質である[[ノルアドレナリン]]は[[ドーパミン-β-水酸化酵素]]によってドーパミンから合成される。 | ||
ドーパミン合成の[[律速酵素]]であるTHは、[[セロトニン]]合成経路の[[トリプトファン水酸化酵素]]と同様に[[テトラヒドロビオプテリン]]を[[補因子]]とし、通常はチロシンで飽和している。THはしばしばドーパミン又はカテコールアミン作動性神経のマーカーとして用いられるが、THを発現していてもAADCを発現していない場合があり、THを発現していても必ずしもカテコールアミン作動性神経とは言えない<ref name="ref1"><pubmed> 17408759 </pubmed></ref> | ドーパミン合成の[[律速酵素]]であるTHは、[[セロトニン]]合成経路の[[トリプトファン水酸化酵素]]と同様に[[テトラヒドロビオプテリン]]を[[補因子]]とし、通常はチロシンで飽和している。THはしばしばドーパミン又はカテコールアミン作動性神経のマーカーとして用いられるが、THを発現していてもAADCを発現していない場合があり、THを発現していても必ずしもカテコールアミン作動性神経とは言えない<ref name="ref1"><pubmed> 17408759 </pubmed></ref>。 | ||
合成されたドーパミンは基質特異性の低い小胞モノアミントランスポーター([[vesicular monoamine transporter]]、[[VMAT]])によってシナプス小胞に貯蔵される<ref><pubmed> 20135628 </pubmed></ref>。VMATには[[VMAT1]]と[[VMAT2]]のアイソフォームが存在し、中枢神経系には主にVMAT2が発現している。 | |||
ドーパミンの代謝には[[モノアミン酸化酵素]]([[Monoamine oxidase]]、[[MAO]])による経路と[[カテコール-O-メチル基転移酵素]]([[Catechol-O-methyltransferase]]、[[COMT]])による経路の二通りがあり、両者とも最終的に代謝産物として[[ホモバニリン酸]]を生じる。MAOには[[MAOA|MAO<sub>A</sub>]]と[[MAOB|MAO<sub>B</sub>]]の二種類のアイソザイムが存在し、カテコールアミン作動性神経には主にMAO<sub>A</sub>が発現しているが、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の場合ドーパミンはMAO<sub>B</sub>によって代謝される<ref name="ref2"><pubmed> 10202537 </pubmed></ref>。 | |||
== 放出と信号伝達 == | == 放出と信号伝達 == | ||
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小胞内に貯蔵されたドーパミンは開口放出によって細胞外に放出される。ドーパミン神経の投射部位のみならず黒質や腹側被蓋野でもドーパミンは放出される。これらの部位では細胞体や樹状突起からドーパミンが放出され、特に黒質ではそれが主であると考えられている。 | 小胞内に貯蔵されたドーパミンは開口放出によって細胞外に放出される。ドーパミン神経の投射部位のみならず黒質や腹側被蓋野でもドーパミンは放出される。これらの部位では細胞体や樹状突起からドーパミンが放出され、特に黒質ではそれが主であると考えられている。 | ||
軸索終末からの放出も[[細胞体]]・[[樹状突起]]からの放出も共に[[Ca2+|Ca<sup>2+</sup>]]依存性であるが、軸索における放出の方がより高濃度の細胞外Ca<sup>2+</sup>を必要とする<ref name="ref7"><pubmed> 21939738 </pubmed></ref>。線条体においてドーパミン放出部位と考えられる構造の60-70%は明確なシナプス構造を形成していない<ref name="ref7" />。また、ドーパミン受容体の大部分はシナプス外の部位に発現している<ref name="ref8"><pubmed> 9651506 </pubmed></ref>。従ってドーパミンによって担われる信号伝達は、主として放出部位から比較的離れた受容体に作用する[[拡散性伝達]]([[Volume transmission]])によると考えられる<ref name="ref8" />。 | 軸索終末からの放出も[[細胞体]]・[[樹状突起]]からの放出も共に[[Ca2+|Ca<sup>2+</sup>]]依存性であるが、軸索における放出の方がより高濃度の細胞外Ca<sup>2+</sup>を必要とする<ref name="ref7"><pubmed> 21939738 </pubmed></ref>。線条体においてドーパミン放出部位と考えられる構造の60-70%は明確なシナプス構造を形成していない<ref name="ref7" />。また、ドーパミン受容体の大部分はシナプス外の部位に発現している<ref name="ref8"><pubmed> 9651506 </pubmed></ref>。従ってドーパミンによって担われる信号伝達は、主として放出部位から比較的離れた受容体に作用する[[拡散性伝達]]([[Volume transmission]])によると考えられる<ref name="ref8" />。 | ||
== 受容体 == | == 受容体 == | ||
[[D1|D<sub>1</sub>]]、[[D2|D<sub>2</sub>]]、[[D3|D<sub>3</sub>]]、[[D4|D<sub>4</sub>]]、[[D5|D<sub>5</sub>]]のサブタイプが存在し、全て7回膜貫通構造を持つ[[Gタンパク質共役型受容体]]である。[[Gs]]/[[Golf|olf]]に共役して[[アデニル酸シクラーゼ]]を活性化する[[D1様受容体|D<sub>1</sub>様受容体]](D<sub>1</sub>、D<sub>5</sub>)と[[Gi]]/[[Go|o]]に共役してアデニル酸シクラーゼを抑制する[[D2様受容体|D<sub>2</sub>様受容体]](D<sub>2</sub>、D<sub>3</sub>、D<sub>4</sub>)に大きく分類される。[[線条体]]、[[前頭前野]]、[[海馬]]、[[側坐核]]などにおいて、神経細胞の興奮性や[[シナプス伝達]]に対して多様な修飾作用を持つ<ref name="ref11"><pubmed> 12880632 </pubmed></ref><ref name="ref12"><pubmed> 23040805 </pubmed></ref>。 | [[ドーパミン受容体]]の活性化によって興奮性の変化やシナプス伝達の修飾が起きる。 | ||
ドーパミン受容体には[[D1|D<sub>1</sub>]]、[[D2|D<sub>2</sub>]]、[[D3|D<sub>3</sub>]]、[[D4|D<sub>4</sub>]]、[[D5|D<sub>5</sub>]]のサブタイプが存在し、全て7回膜貫通構造を持つ[[Gタンパク質共役型受容体]]である。[[Gs]]/[[Golf|olf]]に共役して[[アデニル酸シクラーゼ]]を活性化する[[D1様受容体|D<sub>1</sub>様受容体]](D<sub>1</sub>、D<sub>5</sub>)と[[Gi]]/[[Go|o]]に共役してアデニル酸シクラーゼを抑制する[[D2様受容体|D<sub>2</sub>様受容体]](D<sub>2</sub>、D<sub>3</sub>、D<sub>4</sub>)に大きく分類される。[[線条体]]、[[前頭前野]]、[[海馬]]、[[側坐核]]などにおいて、神経細胞の興奮性や[[シナプス伝達]]に対して多様な修飾作用を持つ<ref name="ref11"><pubmed> 12880632 </pubmed></ref><ref name="ref12"><pubmed> 23040805 </pubmed></ref>。 | |||
=== D<sub>1</sub>様受容体 === | === D<sub>1</sub>様受容体 === | ||
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== ドーパミン神経系 == | == ドーパミン神経系 == | ||
中枢におけるドーパミン神経はしばしば4つの主要経路に分類される。 | |||
*[[黒質-線条体路]]:[[中脳]]の[[黒質]]から[[線条体]]([[被殻]] + [[尾状核]])に投射 | *[[黒質-線条体路]]:[[中脳]]の[[黒質]]から[[線条体]]([[被殻]] + [[尾状核]])に投射 | ||
145行目: | 161行目: | ||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
*[[ドーパミン仮説(統合失調症)]] | *[[ドーパミン仮説(統合失調症)]] | ||
*[[報酬系]] | *[[報酬系]] | ||
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<references /> | <references /> | ||