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現在では真核生物[[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]]の全遺伝子の約2%は[[セリン・スレオニンキナーゼ]]およびチロシンキナーゼをコードする事が知られている。[[wikipedia:ja:細菌|細菌]]や[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]にはチロシンキナーゼは存在せず、[[線虫]] ''C. elegans''(19,100遺伝子)には全キナーゼ数454(2.4%)の内チロシンキナーゼは90種、[[ショウジョウバエ]] ''D. melanogaster''(13,600遺伝子)には全キナーゼ数239(1.8%)の内チロシンキナーゼは32種、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]] ''H. sapiens''(23,000遺伝子)には全キナーゼ数518(2.2%)の内チロシンキナーゼは90種が存在する。ただしヒトの場合キナーゼ518種の内、約50種には活性がなく、また106種は[[wikipedia:ja:偽遺伝子|偽遺伝子]]であると考えられる。 | 現在では真核生物[[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]]の全遺伝子の約2%は[[セリン・スレオニンキナーゼ]]およびチロシンキナーゼをコードする事が知られている。[[wikipedia:ja:細菌|細菌]]や[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]にはチロシンキナーゼは存在せず、[[線虫]] ''C. elegans''(19,100遺伝子)には全キナーゼ数454(2.4%)の内チロシンキナーゼは90種、[[ショウジョウバエ]] ''D. melanogaster''(13,600遺伝子)には全キナーゼ数239(1.8%)の内チロシンキナーゼは32種、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]] ''H. sapiens''(23,000遺伝子)には全キナーゼ数518(2.2%)の内チロシンキナーゼは90種が存在する。ただしヒトの場合キナーゼ518種の内、約50種には活性がなく、また106種は[[wikipedia:ja:偽遺伝子|偽遺伝子]]であると考えられる。 | ||
構造的に、[[wikipedia:Transmembrane domain|膜貫通領域]]を持つ[[受容体]] | 構造的に、[[wikipedia:Transmembrane domain|膜貫通領域]]を持つ[[受容体]]型と膜貫通領域を持たない非受容体型とに大別される(表1)。ヒトには58種の[[受容体型チロシンキナーゼ]]と32種の[[非受容体型チロシンキナーゼ]]が存在する。受容体型は[[細胞膜]]上に、非受容体型は[[wikipedia:ja:細胞質|細胞質]]に存在する。 | ||
=== 受容体型チロシンキナーゼ=== | === 受容体型チロシンキナーゼ=== | ||
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脳神経系で機能する他の非受容体型チロシンキナーゼには、SrcファミリーチロシンキナーゼC末端のチロシン残基をリン酸化して不活性化する[[c-Src tyrosine kinase]] ([[Csk]])、[[細胞接着]]に関わる[[Focal Adhesion Kinase]] ([[FAK]])および[[Pyk2]]([[FAKファミリーチロシンキナーゼ]])、神経突起伸長に関わる[[Fes]]/[[Fps]]および[[Fer]](Fesファミリーチロシンキナーゼ)があり、それぞれ脳神経機能に重要な役割を担っている。 | 脳神経系で機能する他の非受容体型チロシンキナーゼには、SrcファミリーチロシンキナーゼC末端のチロシン残基をリン酸化して不活性化する[[c-Src tyrosine kinase]] ([[Csk]])、[[細胞接着]]に関わる[[Focal Adhesion Kinase]] ([[FAK]])および[[Pyk2]]([[FAKファミリーチロシンキナーゼ]])、神経突起伸長に関わる[[Fes]]/[[Fps]]および[[Fer]](Fesファミリーチロシンキナーゼ)があり、それぞれ脳神経機能に重要な役割を担っている。 | ||
多くの非受容体型チロシンキナーゼには、[[wikipedia:ja:SH2ドメイン|Src Homology 2]] (SH2)ドメインおよび[[wikipedia:SH3_domain|SH3]]ドメインとよばれるドメイン構造が存在する。SH2ドメインはリン酸化チロシン残基(pTyr)を、SH3ドメインは[[wikipedia:ja:プロリン|プロリン]]リッチ領域(X-Pro-X-X-Pro)を、それぞれ認識して結合することで、細胞内情報伝達系におけるタンパク質-タンパク質結合を制御する。これらのドメインは構造的に保存されたアミノ酸配列を持ち、Srcファミリーチロシンキナーゼにおいて最初に見出された。更に、[[ | 多くの非受容体型チロシンキナーゼには、[[wikipedia:ja:SH2ドメイン|Src Homology 2]] (SH2)ドメインおよび[[wikipedia:SH3_domain|SH3]]ドメインとよばれるドメイン構造が存在する。SH2ドメインはリン酸化チロシン残基(pTyr)を、SH3ドメインは[[wikipedia:ja:プロリン|プロリン]]リッチ領域(X-Pro-X-X-Pro)を、それぞれ認識して結合することで、細胞内情報伝達系におけるタンパク質-タンパク質結合を制御する。これらのドメインは構造的に保存されたアミノ酸配列を持ち、Srcファミリーチロシンキナーゼにおいて最初に見出された。更に、[[Abl]]、[[Fes]]、[[Syk]]/Zap70、[[Tec]]、[[Ack]]、[[Csk]]、[[Srm]]、[[Rak]]等の非受容体型チロシンキナーゼや、[[フォスファチジルイノシトール-3キナーゼ]] (PI3K)、[[フォスフォリパーゼC]] (PLC)-γ等のセリン・スレオニンキナーゼ、また[[Grb2]]、[[Nck]]等のアダプタータンパク質もこれらのドメイン構造を持つことが明らかになった。SH2ドメインは、約100アミノ酸残基の領域であり、2つの[[wikipedia:ja:αヘリックス|αヘリックス]]と7つの[[wikipedia:ja:βシート|βシート]]から構成される。SH3ドメインは、約60アミノ酸残基の領域であり、5つないし6つのβシートからなる典型的な[[wikipedia:ja:βバレル|βバレル]]構造をもつ。 | ||
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|+'''表1. チロシンキナーゼの一覧''' | |+'''表1. チロシンキナーゼの一覧''' Wikipediaより改変 | ||
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!colspan="3" align="center" style="background-color:lightskyblue;"|[[受容体型チロシンキナーゼ]] | !colspan="3" align="center" style="background-color:lightskyblue;"|[[受容体型チロシンキナーゼ]] | ||
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==チロシンフォスファターゼ== | ==チロシンフォスファターゼ== | ||
チロシンフォスファターゼには、107種が存在する。チロシンキナーゼと同様に、チロシンフォスファターゼは、膜貫通領域を持つ[[受容体型チロシンホスファターゼ]]および膜貫通領域を持たない[[非受容体型チロシンホスファターゼ]]に大別される<ref><pubmed>17057753</pubmed></ref>(表2)。チロシンキナーゼ同様に、チロシンフォスファターゼも、受容体型は細胞膜上に、非受容体型は細胞質に存在する。チロシンフォスファターゼはチロシンキナーゼと違いその基質特異性は低く、リン酸化チロシンを含む多くのタンパク質を認識してそれぞれ脱リン酸化する。神経発生の過程における[[細胞接着|神経接着]]や[[軸索]]の伸長と[[軸索ガイダンス|ガイダンス ]]、[[シナプス形成]]、[[シナプス可塑性]]の調節におけるチロシンフォスファターゼの機能が明らかにされている。 | |||
=== 受容体型チロシンフォスファターゼ=== | === 受容体型チロシンフォスファターゼ=== | ||
全ての受容体型チロシンフォスファターゼは、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内の2つのフォスファターゼドメイン(D1およびD2)を持つ。細胞外には、[[免疫グロブリンスーパーファミリー|免疫グロブリンドメイン]]や[[フィブロネクチン]]Ⅲ型ドメインの繰り返し配列を持つ例が知られる。 | |||
細胞内D1およびD2はそれぞれ280個程のアミノ酸残基からなり、高度に保存されている。細胞膜に近い側のD1ドメインはホスファターゼ活性を担っている。活性中心配列は(I/V)HCXAGXXR(S/T)Gである(この配列はD2にもあるのでしょうか?)。一方、C末端側のD2ドメインは様々な結合タンパク質と会合する<ref><pubmed>17085782</pubmed></ref>。(ホスファターゼドメインなのに活性はないのでしょうか?) | |||
神経系で重要な役割を果たすものとして、受容体型では[[wikipedia:PTPRF|LAR]]、[[wikipedia:PTPRS|PTPσ]]、[[wikipedia:PTPRD|PTPδ]]、[[wikipedia:PTPRZ1|PTPζ]]等がある。受容体型チロシンフォスファターゼのリガンド分子に付いては未だ不明な点が多いが、これまでに、 | |||
#ヘパラン硫酸プロテオグリカンであるSyndecanがLARと結合してそのフォスファターゼ活性を抑制し、軸索伸長を制御する(文献をお願いします) | |||
#PleiotrophinがリガンドとしてPTPζに結合し、その活性を低下させて基質であるβcateninのチロシンリン酸化を亢進し、神経細胞移動を制御する(文献をお願いします) | |||
#シナプス前膜側のPTPδがシナプス後膜側の精神疾患原因遺伝子IL1RAPL1と''trans''-synapticに結合し、シナプス形成を促進する(文献をお願いします) | |||
等の研究報告が知られている。 | |||
=== 非受容体型チロシンフォスファターゼ=== | === 非受容体型チロシンフォスファターゼ=== | ||
非受容体型チロシンフォスファターゼは受容体型チロシンフォスファターゼと異なり、膜貫通ドメインを持たず、1つのフォスファターゼドメインとそのN末かC末側に様々なドメインを有する。神経系で重要な役割を果たすものとして、[[PTP1B]]、[[PTEN]]、[[STEP]]、[[PTP-SL]]、[[SHP1]]、[[SHP-2]]、[[PTPMEG]]等などがある<ref><pubmed>14625689</pubmed></ref>。 | |||
小脳において、PTPMEGが[[グルタミン酸受容体]][[GluD2]]に結合し、[[AMPA型グルタミン酸受容体]][[GluA2]]サブユニットのチロシンリン酸化状態を制御して、シナプス上のAMPA型グルタミン酸受容体発現数を調節することにより、[[長期抑圧]]に関与する、等の研究報告が知られている<ref><pubmed>23431139</pubmed></ref>。 | |||
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'''表2. チロシンホスファターゼ一覧''' Wikipediaより改変。 | |||
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!rowspan="9" align="left" style="background-color:lightskyblue;"|[[クラスI]] | |||
!rowspan="2" align="left" style="background-color:lightskyblue;"|Classical PTPs | |||
!align="left" style="background-color:lightskyblue;"|'''[[受容体型チロシンフォスファターゼ]]''' | |||
|[[PTPRA]], [[PTPRB]], [[PTPRC]], [[PTPRD]], [[PTPRE]], [[PTPRF]], [[PTPRG]], [[PTPRH]], [[PTPRJ]], [[PTPRK]], [[PTPRM]], [[PTPRN]], [[PTPRN2]], [[PTPRO]], [[PTPRQ]], [[PTPRR]], [[PTPRS]], [[PTPRT]], [[PTPRU]], [[PTPRZ1]], [[PTPRZ2]] | |||
|- | |||
!align="left" style="background-color:lightskyblue;"|'''[[非受容体型チロシンフォスファターゼ]]''' | |||
|[[PTPN1]], [[PTPN2]], [[PTPN3]], [[PTPN4]], [[PTPN5]], [[PTPN6]], [[PTPN7]], [[PTPN9]], [[PTPN11]], [[PTPN12]], [[PTPN13]], [[PTPN14]], [[PTPN18]], [[PTPN20]], [[PTPN21]], [[PTPN22]], [[PTPN23]] | |||
|- | |||
!rowspan="7" align="left" style="background-color:lightskyblue;"|[[VH1様ホスファターゼ]]または[[二重特異性ホスファターゼ]] | |||
!style="background-color:lightskyblue;"|'''[[MAPK phosphatase]]s (MKPs)''' | |||
|[[DUSP1]], [[DUSP2]], [[DUSP4]], [[DUSP5]], [[DUSP6]], [[DUSP7]], [[DUSP8]], [[DUSP9]], [[DUSP10]], [[DUSP16]], [[MK-STYX]] | |||
|- | |||
!style="background-color:lightskyblue;"|'''Slingshots''' | |||
|[[SSH1]], [[SSH2]], [[SSH3]] | |||
|- | |||
!style="background-color:lightskyblue;"|'''PRLs''' | |||
|[[PTP4A1]], [[PTP4A2]], [[PTP4A3]] | |||
|- | |||
!style="background-color:lightskyblue;"|'''CDC14s''' | |||
|[[CDC14A]], [[CDC14B]], [[CDKN3]], [[PTP9Q22]] | |||
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!style="background-color:lightskyblue;"|'''Atypical DSPs''' | |||
|[[DUSP3]], [[DUSP11]], [[DUSP12]], [[DUSP13A]], [[DUSP13B]], [[DUSP14]], [[DUSP15]], [[DUSP18]], [[DUSP19]], [[DUSP21]], [[DUSP22]], [[DUSP23]], [[DUSP24]], [[DUSP25]], [[DUSP26]], [[DUSP27]], [[EMP2A]], [[RNGTT]], [[STYX]] | |||
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!style="background-color:lightskyblue;"|'''Phosphatase and tensin homologs (PTENs)''' | |||
| [[PTEN (gene)|PTEN]], [[TPIP]], [[TPTE]], [[TNS (gene)|TNS]], [[TENC1]] | |||
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!style="background-color:lightskyblue;"|'''[[Myotubularin]]s''' | |||
|[[Myotubularin 1|MTM1]], [[MTMR2]], [[MTMR3]], [[MTMR4]], [[MTMR5]], [[MTMR6]], [[MTMR7]], [[MTMR8]], [[MTMR9]], [[MTMR10]], [[MTMR11]], [[MTMR12]], [[MTMR13]], [[MTMR14]], [[MTMR15]] | |||
|- | |||
!colspan="3" align="left" style="background-color:lightskyblue;"|[[クラスII]] | |||
| [[ACP1]] | |||
|- | |||
!colspan="3" align="left" style="background-color:lightskyblue;"|[[クラスIII]] | |||
|[[Cdc25]], [[CDC25A]], [[CDC25B]], [[CDC25C]] | |||
|- | |||
!colspan="3" !align="left" style="background-color:lightskyblue;"|[[クラスIV]] | |||
|[[Eyes absent homolog]], [[EYA1]], [[EYA2]], [[EYA3]], [[EYA4]] | |||
|} | |||
==生理機能== | ==生理機能== |