「ハンチントン病」の版間の差分

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 ハンチントン病を最初に報告したのは[[wikipedia:George Huntington|George Huntington]]である。彼は米国New York州のLong Islandで祖父の代から開業していたが、その地域に広く見られる「あの病気」と言われる疾患の存在を父から知らされていた。彼はそれを詳細に調査し、成人発症で遺伝性の精神症状と舞踏運動を伴う疾患として1872年に発表した。時にHuntington舞踏病と呼ばれたが、舞踏運動以外の症状も重要であることより、現在ではHuntington病と呼ばれる。  
 ハンチントン病を最初に報告したのは[[wikipedia:George Huntington|George Huntington]]である。彼は米国New York州のLong Islandで祖父の代から開業していたが、その地域に広く見られる「あの病気」と言われる疾患の存在を父から知らされていた。彼はそれを詳細に調査し、成人発症で遺伝性の精神症状と舞踏運動を伴う疾患として1872年に発表した。時にHuntington舞踏病と呼ばれたが、舞踏運動以外の症状も重要であることより、現在ではHuntington病と呼ばれる。  


== 臨床的特徴  ==
==症状 ==
===臨床症状===
 典型的には舞踏運動発症の10年程前に[[うつ]]や[[易刺激性]]などの[[精神障害]]あるいは[[行動異常]]が出現し、次いで手足や口唇に舞踏運動が出現し、それにより[[構音障害]]も伴う。進行に伴い[[認知機能]]低下が出現する。[[ジストニア]]や[[アテトーゼ]]といった他の[[不随意運動]]を伴うこともある。10%未満を占める20歳以下で発症する若年型は、臨床像は多彩であるが、[[筋強剛]]や[[痙攣]]、[[知的機能障害]]が目立つ症例が多い。特に筋強剛型は若年型の1/3を占める。また、若年型はCAGリピート数が多いことが知られている。一方で高齢発症の症例としては60~70歳代での発症があるが、この場合リピート数は38-39程度であり、不随意運動のみで認知機能が保たれる場合が多い。
===臨床経過===
(予後など特記すべきこと、ございましたら御記述ください)
==診断==
===基準===
(ございましたら御記述ください)
===検査所見===
 検査所見として、次に述べる病理変化に対応して頭部[[CT]]、[[MRI]]にて[[尾状核]]の萎縮と[[側脳室]]前角の拡大が認められることが特徴的である。進行に伴い[[大脳]]萎縮も認める。
===鑑別診断===
(ございましたら御記述ください)


==疫学==
 発症年齢は30~40歳代が多いがばらつきがある。CAGリピート数と発症年齢は逆相関し、また父親から遺伝する場合には発症年齢の低下、臨床症候の重症化が認められる。この現象を[[表現促進現象]](anticipation)という。我が国における有病率は100万人あたり7人程度であり、[[wikipedia:ja:コーカソイド|コーカソイド]]の10分の1程度である。  
 発症年齢は30~40歳代が多いがばらつきがある。CAGリピート数と発症年齢は逆相関し、また父親から遺伝する場合には発症年齢の低下、臨床症候の重症化が認められる。この現象を[[表現促進現象]](anticipation)という。我が国における有病率は100万人あたり7人程度であり、[[wikipedia:ja:コーカソイド|コーカソイド]]の10分の1程度である。  
 典型的には舞踏運動発症の10年程前に[[うつ]]や[[易刺激性]]などの[[精神障害]]あるいは[[行動異常]]が出現し、次いで手足や口唇に舞踏運動が出現し、それにより[[構音障害]]も伴う。進行に伴い[[認知機能]]低下が出現する。[[ジストニア]]や[[アテトーゼ]]といった他の[[不随意運動]]を伴うこともある。10%未満を占める20歳以下で発症する若年型は、臨床像は多彩であるが、[[筋強剛]]や[[痙攣]]、[[知的機能障害]]が目立つ症例が多い。特に筋強剛型は若年型の1/3を占める。また、若年型はCAGリピート数が多いことが知られている。一方で高齢発症の症例としては60~70歳代での発症があるが、この場合リピート数は38-39程度であり、不随意運動のみで認知機能が保たれる場合が多い。
 検査所見として、次に述べる病理変化に対応して頭部[[CT]]、[[MRI]]にて[[尾状核]]の萎縮と[[側脳室]]前角の拡大が認められることが特徴的である。進行に伴い[[大脳]]萎縮も認める。


== 病理所見  ==
== 病理所見  ==
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 病理学的には[[尾状核]]と[[被殻]]の神経細胞脱落と[[グリオーシス]]が見られる。特に[[線条体]]では[[GABA]]作動性小型細胞の脱落が顕著であり、[[アセチルコリン]]作動性の大型細胞は比較的残存する。[[ユビキチン]]あるいはハンチンチンの免疫染色により、[[核内封入体]]が認められる。大脳皮質の神経突起内にもユビキチン陽性封入体を認める。  
 病理学的には[[尾状核]]と[[被殻]]の神経細胞脱落と[[グリオーシス]]が見られる。特に[[線条体]]では[[GABA]]作動性小型細胞の脱落が顕著であり、[[アセチルコリン]]作動性の大型細胞は比較的残存する。[[ユビキチン]]あるいはハンチンチンの免疫染色により、[[核内封入体]]が認められる。大脳皮質の神経突起内にもユビキチン陽性封入体を認める。  


== ハンチンチンの構造・機能  ==
==病態生理==
=== ハンチンチンの構造・機能  ===


 病因遺伝子産物のハンチンチンは3145アミノ酸残基、分子量約330 kDaの巨大なタンパク質である。生理的に神経細胞を含む全身の細胞に発現し、正常では[[核]]内に局在する。ハンチンチンは最N末端領域とC末端領域にnuclear export signal(NES)を持ち、全長にわたってタンパク質間相互作用を司ると想定されるHuntingtin, [[wikipedia:Elongator factor3|Elongator factor3]], [[wikipedia:PR65/A regulatory subunit of PP2A|PR65/A regulatory subunit of PP2A]], and [[wikipedia:Tor1|Tor1]](HEAT)リピートを有する。[[wikipedia:ja:HEATリピート|HEATリピート]]領域は構造の弾性を生み、立体構造をとるための折りたたみ機能も持つと考えられている。またN末端領域のpolyQ鎖は何らかの重要な神経機能に関わることが示唆されている<ref><pubmed>22180703</pubmed></ref>。  
 病因遺伝子産物のハンチンチンは3145アミノ酸残基、分子量約330 kDaの巨大なタンパク質である。生理的に神経細胞を含む全身の細胞に発現し、正常では[[核]]内に局在する。ハンチンチンは最N末端領域とC末端領域にnuclear export signal(NES)を持ち、全長にわたってタンパク質間相互作用を司ると想定されるHuntingtin, [[wikipedia:Elongator factor3|Elongator factor3]], [[wikipedia:PR65/A regulatory subunit of PP2A|PR65/A regulatory subunit of PP2A]], and [[wikipedia:Tor1|Tor1]](HEAT)リピートを有する。[[wikipedia:ja:HEATリピート|HEATリピート]]領域は構造の弾性を生み、立体構造をとるための折りたたみ機能も持つと考えられている。またN末端領域のpolyQ鎖は何らかの重要な神経機能に関わることが示唆されている<ref><pubmed>22180703</pubmed></ref>。  


 ''HTT''ホモログである''Hdh''の[[ノックアウトマウス]]では、''Hdh''を発現する[[wikipedia:ja:外胚葉|外胚葉]]において[[アポトーシス]]の増加が認められ、早期の胎生致死となることが示されている。  
 ''HTT''ホモログである''Hdh''の[[ノックアウトマウス]]では、''Hdh''を発現する[[wikipedia:ja:外胚葉|外胚葉]]において[[アポトーシス]]の増加が認められ、早期の胎生致死となることが示されている。  
== 病態生理  ==


 ハンチントン病患者に発現している伸長したpolyQ鎖を含む変異型ハンチンチンがどのように病態に関与するかについて多角的に検討されており、またそのような研究を通じて多岐にわたるハンチンチンの生理機能が部分的に解明されてきている。  
 ハンチントン病患者に発現している伸長したpolyQ鎖を含む変異型ハンチンチンがどのように病態に関与するかについて多角的に検討されており、またそのような研究を通じて多岐にわたるハンチンチンの生理機能が部分的に解明されてきている。  
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 今後有望な治療薬は上記でも述べたが、現在のところ個々の症状に対する対症療法のみで有効とされる根本療法はない。  
 今後有望な治療薬は上記でも述べたが、現在のところ個々の症状に対する対症療法のみで有効とされる根本療法はない。  


 少数例ではあるが胎児線条体の移植も試みられており、良好な経過をたどった症例では5年間を超えるフォローアップで臨床的な改善、PETにてD<sub>2</sub>受容体結合能の改善が続いていることが示されている<ref><pubmed>18356253</pubmed></ref>。また、トランスジェニックマウスでは[[AAVベクター]]を用いたハンチンチンに対する[[RNAi]]治療により臨床症状の改善を示すことに成功しており、患者への応用が期待される<ref><pubmed>15811941</pubmed></ref>。  
 少数例ではあるが胎児線条体の移植も試みられており、良好な経過をたどった症例では5年間を超えるフォローアップで臨床的な改善、PETにて[[D2受容体|D<sub>2</sub>受容体]]結合能の改善が続いていることが示されている<ref><pubmed>18356253</pubmed></ref>。また、トランスジェニックマウスでは[[AAVベクター]]を用いたハンチンチンに対する[[RNAi]]治療により臨床症状の改善を示すことに成功しており、患者への応用が期待される<ref><pubmed>15811941</pubmed></ref>。  


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==

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