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=== 静止膜電位の変化  ===
=== 静止膜電位の変化  ===


 ムスカリン受容体刺激は細胞のタイプや条件によりさまざまな[[膜電位]]変化(単相性の脱分極、単相性の[[過分極]]、両者が混ざったもの)をもたらす<ref><pubmed>20446119</pubmed></ref><ref><pubmed>15194117</pubmed></ref>。脱分極のメカニズムとしては、非選択性陽イオンチャネルの活性化とK<sup>+</sup>チャネルの抑制とがある。非選択性陽イオンチャネルの分子実態は不明であるが、TRPファミリーの一員である可能性が高く、TPRC4およびTRPC5の関与が示唆されている。これらのチャネルの活性化経路は不明であるが、PLCの下流の何らかのシグナルが関与していると考えられる。ムスカリン受容体刺激により抑制されるK<sup>+</sup>チャネルは主にMチャネルであるが、内向き整流K<sup>+</sup>チャネルやその他のK<sup>+</sup>チャネルの関与も示唆されている。メカニズムとしては、少なくともMチャネルの場合は、PIP<sub>2</sub>減少の関与の可能性が高い。過分極のメカニズムとしては、IP<sub>3</sub>を介する細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇により、[[アパミン]]感受性のCa<sup>2+</sup>依存性K<sup>+</sup>チャネル([[SKチャネル]])が活性化されることが考えられる。
 ムスカリン受容体刺激は細胞のタイプや条件によりさまざまな[[膜電位]]変化(単相性の脱分極、単相性の[[過分極]]、両者が混ざったもの)をもたらす<ref><pubmed>16770798</pubmed></ref>。脱分極のメカニズムとしては、非選択性陽イオンチャネルの活性化<ref><pubmed>11856534</pubmed></ref>とK<sup>+</sup>チャネルの抑制<ref><pubmed>10407010</pubmed></ref>とがある。非選択性陽イオンチャネルの分子実態は不明であるが、TRPファミリーの一員である可能性が高く、TPRC4およびTRPC5の関与が示唆されている<ref><pubmed>17593972</pubmed></ref>。これらのチャネルの活性化経路は不明であるが、PLCの下流の何らかのシグナルが関与していると考えられる。ムスカリン受容体刺激により抑制されるK<sup>+</sup>チャネルは主にMチャネルであるが<ref><pubmed>6128061</pubmed></ref>、内向き整流K<sup>+</sup>チャネルやその他のK<sup>+</sup>チャネルの関与も示唆されている<ref><pubmed>20433901</pubmed></ref>。メカニズムとしては、少なくともMチャネルの場合は、PIP<sub>2</sub>減少の関与の可能性が高い<ref><pubmed>20446119</pubmed></ref>。過分極のメカニズムとしては、IP<sub>3</sub>を介する細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇により、[[アパミン]]感受性のCa<sup>2+</sup>依存性K<sup>+</sup>チャネル([[SKチャネル]])が活性化されることが考えられる<ref><pubmed>17407133</pubmed></ref>。


=== 後脱分極  ===
=== 後脱分極  ===


 [[ムスカリン受容体]][[アゴニスト]]を投与すると、[[活動電位]]発生直後に脱分極がみられるようになる。また、活動電位の後の[[脱分極]]が長く続く場合もある。前者は[[slow after depolarization]](sADP)、後者は[[plateau potential]](PP)と呼ばれ、いずれも非選択性陽イオンチャネルの活性化およびMチャネルの抑制の関与が示唆されている。
 [[ムスカリン受容体]][[アゴニスト]]を投与すると、[[活動電位]]発生直後に脱分極がみられるようになる。また、活動電位の後の[[脱分極]]が長く続く場合もある。前者は[[slow after depolarization]](sADP)、後者は[[plateau potential]](PP)と呼ばれ<ref><pubmed>8753873</pubmed></ref>、いずれも非選択性陽イオンチャネルの活性化<ref><pubmed>20079344</pubmed></ref>およびMチャネルの抑制の関与が示唆<ref><pubmed>15140933</pubmed></ref>されている。


=== 細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇  ===
=== 細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇  ===


 ムスカリン受容体刺激は細胞内Ca2+濃度上昇をもたらす。メカニズムとしては、IP<sub>3</sub>を介して[[小胞体]]からCa<sup>2+</sup>が放出されること、PLCの下流の何らかのシグナルにより活性化された非選択性陽イオンチャネルを介してCa<sup>2+</sup>が流入すること、脱分極により活性化された[[電位依存性Ca2+チャネル|電位依存性Ca<sup>2+</sup>チャネル]]を介してCa<sup>2+</sup>が流入すること、などが関与しうる。[[樹状突起]]のムスカリン受容体を局所的に短時間刺激すると、Ca<sup>2+</sup>濃度上昇の波が[[細胞体]]に向かって伝播するのがみられる。このCa<sup>2+</sup> waveにおいてはIP<sub>3</sub>受容体を介するCa<sup>2+</sup>放出が重要な役割を担っている。
 ムスカリン受容体刺激は細胞内Ca2+濃度上昇をもたらす。メカニズムとしては、IP<sub>3</sub>を介して[[小胞体]]からCa<sup>2+</sup>が放出されること、PLCの下流の何らかのシグナルにより活性化された非選択性陽イオンチャネルを介してCa<sup>2+</sup>が流入すること、脱分極により活性化された[[電位依存性Ca2+チャネル|電位依存性Ca<sup>2+</sup>チャネル]]を介してCa<sup>2+</sup>が流入すること、などが関与しうる。[[樹状突起]]のムスカリン受容体を局所的に短時間刺激すると、Ca<sup>2+</sup>濃度上昇の波が[[細胞体]]に向かって伝播するのがみられる。このCa<sup>2+</sup> waveにおいてはIP<sub>3</sub>受容体を介するCa<sup>2+</sup>放出が重要な役割を担っている<ref><pubmed>11978822</pubmed></ref>。


=== NMDA受容体に及ぼす影響  ===
=== NMDA受容体に及ぼす影響  ===


 [[NMDA型グルタミン酸受容体]]は[[シナプス可塑性]]の誘導において重要な役割を担っている。ムスカリン受容体刺激はNMDA受容体のチャネル機能に影響を及ぼす。主たる作用は促進作用であるが、条件によっては抑制作用もみられる。促進作用についてはPKC、抑制作用については[[カルモジュリン]]の関与が報告されている。
 [[NMDA型グルタミン酸受容体]]は[[シナプス可塑性]]の誘導において重要な役割を担っている。ムスカリン受容体刺激はNMDA受容体のチャネル機能に影響を及ぼす。主たる作用は促進作用であるが、条件によっては抑制作用もみられる。促進作用についてはPKC<ref><pubmed>11554554</pubmed></ref>、抑制作用については[[カルモジュリン]]の関与<ref><pubmed></pubmed></ref>が報告されている。


=== シナプス可塑性の誘導および促進  ===
=== シナプス可塑性の誘導および促進  ===


 ムスカリン受容体刺激はシナプス可塑性にも影響をおよぼす。[[CA1]][[錐体細胞]]への興奮性入力において、ムスカリン受容体刺激は、[[長期抑圧]](long-term depression, LTD)や[[長期増強]](long-term potentiation, LTP)を単独で誘導し、また、電気刺激で誘導されるLTPを促進することが報告されている。LTDの誘導にはCa<sup>2+</sup>濃度上昇と蛋白合成が必要であること、LTPの誘導にはIP<sub>3</sub>受容体を介するCa<sup>2+</sup>放出とPKCが関与すること、LTPの促進については、前述のNMDA受容体に対する促進作用やSKチャネルの抑制が関与すること、などの報告がある。SKチャネル抑制の関与については、M1受容体の活性化によりPKCを介してSKチャネルが抑制され、それによりLTP誘導時の[[興奮性シナプス後電位]](excitatory postsynaptic potential, EPSP)の持続時間が延び、それによりNMDA受容体のチャネル機能が促進される、と説明されている。
 ムスカリン受容体刺激はシナプス可塑性にも影響をおよぼす。[[CA1]][[錐体細胞]]への興奮性入力において、ムスカリン受容体刺激は、[[長期抑圧]](long-term depression, LTD)や[[長期増強]](long-term potentiation, LTP)を単独で誘導し、また、電気刺激で誘導されるLTPを促進することが報告されている。LTDの誘導にはCa<sup>2+</sup>濃度上昇と蛋白合成が必要であること<ref><pubmed></pubmed></ref>、LTPの誘導にはIP<sub>3</sub>受容体を介するCa<sup>2+</sup>放出<ref><pubmed></pubmed></ref>とPKCが関与すること<ref><pubmed></pubmed></ref>、LTPの促進については、前述のNMDA受容体に対する促進作用やSKチャネルの抑制が関与すること、などの報告がある。SKチャネル抑制の関与については、M1受容体の活性化によりPKCを介してSKチャネルが抑制され、それによりLTP誘導時の[[興奮性シナプス後電位]](excitatory postsynaptic potential, EPSP)の持続時間が延び、それによりNMDA受容体のチャネル機能が促進される、と説明されている<ref><pubmed></pubmed></ref>。


=== 内因性カンナビノイド2-AGの放出  ===
=== 内因性カンナビノイド2-AGの放出  ===


 シナプス後側のムスカリン受容体刺激はPLCβを介してDAGを、さらにDGLを介して2-AGを生成する。2-AGは細胞外へと拡散し、[[シナプス前終末]]のCB1受容体に結合し、伝達物質の放出を抑制する<ref><pubmed>19126760</pubmed></ref>。  
 シナプス後側のムスカリン受容体刺激はPLCβを介してDAGを、さらにDGLを介して2-AGを生成する。2-AGは細胞外へと拡散し、[[シナプス前終末]]のCB1受容体に結合し、伝達物質の放出を抑制する<ref><pubmed>19126760</pubmed></ref><ref><pubmed></pubmed></ref>。  


 海馬のムスカリン受容体の場合を例に挙げたが、他の脳領域や他のGq共役型受容体の場合も同様に考えることができる。しかし、どの受容体を介してどのような反応が引き起こされるのかは細胞により大きく異なり、発現しているシグナル関連分子の発現量や分布様式により決まると考えられる。  
 海馬のムスカリン受容体の場合を例に挙げたが、他の脳領域や他のGq共役型受容体の場合も同様に考えることができる。しかし、どの受容体を介してどのような反応が引き起こされるのかは細胞により大きく異なり、発現しているシグナル関連分子の発現量や分布様式により決まると考えられる。  
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