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| InChI = 1/C8H11NO2/c9-4-3-6-1-2-7(10)8(11)5-6/h1-2,5,10-11H,3-4,9H2 | | InChI = 1/C8H11NO2/c9-4-3-6-1-2-7(10)8(11)5-6/h1-2,5,10-11H,3-4,9H2 | ||
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| MolarMass=153.18 g/mol | | MolarMass=153.18 g/mol | ||
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| | | Density= 1.26 g/cm<sup>3</sup> | ||
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|Section3= {{Chembox Hazards | |Section3= {{Chembox Hazards | ||
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== 生合成と代謝 == | == 生合成と代謝 == | ||
L-チロシンから[[チロシン水酸化酵素]](tyrosine hydoxylase、TH)によって[[L-ドーパ]](レボドーパ)が合成され、さらに[[芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素]]([[Aromatic L-amino acid decarboxylase]]、[[AADC]] | L-チロシンから[[チロシン水酸化酵素]](tyrosine hydoxylase、TH)によって[[L-ドーパ]](レボドーパ)が合成され、さらに[[芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素]]([[Aromatic L-amino acid decarboxylase]]、[[AADC]])によってドーパミンが合成される。ドーパミンと同じくカテコールアミン類の伝達物質である[[ノルアドレナリン]]は[[ドーパミン-β-水酸化酵素]]によってドーパミンから合成される。 | ||
ドーパミン合成の[[律速酵素]]であるTHは、[[セロトニン]]合成経路の[[トリプトファン水酸化酵素]]と同様に[[テトラヒドロビオプテリン]]を[[補因子]] | ドーパミン合成の[[律速酵素]]であるTHは、[[セロトニン]]合成経路の[[トリプトファン水酸化酵素]]と同様に[[テトラヒドロビオプテリン]]を[[補因子]]とし、通常はチロシンで飽和している。THはしばしばドーパミン又はカテコールアミン作動性神経のマーカーとして用いられるが、THを発現していてもAADCを発現していない場合があり、THを発現していても必ずしもカテコールアミン作動性神経とは言えない<ref name="ref1"><pubmed> 17408759 </pubmed></ref>。 | ||
合成されたドーパミンは基質特異性の低い小胞モノアミントランスポーター([[vesicular monoamine transporter]]、[[VMAT]])によってシナプス小胞に貯蔵される<ref><pubmed> 20135628 </pubmed></ref>。VMATには[[VMAT1]]と[[VMAT2]]のアイソフォームが存在し、中枢神経系には主にVMAT2が発現している。 | |||
ドーパミンの代謝には[[モノアミン酸化酵素]]([[Monoamine oxidase]]、[[MAO]])による経路と[[カテコール-O-メチル基転移酵素]]([[Catechol-O-methyltransferase]]、[[COMT]])による経路の二通りがあり、両者とも最終的に代謝産物として[[ホモバニリン酸]]を生じる。MAOには[[MAOA|MAO<sub>A</sub>]]と[[MAOB|MAO<sub>B</sub>]]の二種類のアイソザイムが存在し、カテコールアミン作動性神経には主にMAO<sub>A</sub>が発現しているが、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の場合ドーパミンはMAO<sub>B</sub>によって代謝される<ref name="ref2"><pubmed> 10202537 </pubmed></ref>。 | ドーパミンの代謝には[[モノアミン酸化酵素]]([[Monoamine oxidase]]、[[MAO]])による経路と[[カテコール-O-メチル基転移酵素]]([[Catechol-O-methyltransferase]]、[[COMT]])による経路の二通りがあり、両者とも最終的に代謝産物として[[ホモバニリン酸]]を生じる。MAOには[[MAOA|MAO<sub>A</sub>]]と[[MAOB|MAO<sub>B</sub>]]の二種類のアイソザイムが存在し、カテコールアミン作動性神経には主にMAO<sub>A</sub>が発現しているが、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の場合ドーパミンはMAO<sub>B</sub>によって代謝される<ref name="ref2"><pubmed> 10202537 </pubmed></ref>。 | ||
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== 放出と信号伝達 == | == 放出と信号伝達 == | ||
小胞内に貯蔵されたドーパミンは開口放出によって細胞外に放出される。ドーパミン神経の投射部位のみならず黒質や腹側被蓋野でもドーパミンは放出される。これらの部位では細胞体や樹状突起からドーパミンが放出され、特に黒質ではそれが主であると考えられている。 | |||
軸索終末からの放出も[[細胞体]]・[[樹状突起]]からの放出も共に[[Ca2+|Ca<sup>2+</sup>]]依存性であるが、軸索における放出の方がより高濃度の細胞外Ca<sup>2+</sup>を必要とする<ref name="ref7"><pubmed> 21939738 </pubmed></ref>。線条体においてドーパミン放出部位と考えられる構造の60-70%は明確なシナプス構造を形成していない<ref name="ref7" />。また、ドーパミン受容体の大部分はシナプス外の部位に発現している<ref name="ref8"><pubmed> 9651506 </pubmed></ref>。従ってドーパミンによって担われる信号伝達は、主として放出部位から比較的離れた受容体に作用する[[拡散性伝達]]([[Volume transmission]])によると考えられる<ref name="ref8" />。 | 軸索終末からの放出も[[細胞体]]・[[樹状突起]]からの放出も共に[[Ca2+|Ca<sup>2+</sup>]]依存性であるが、軸索における放出の方がより高濃度の細胞外Ca<sup>2+</sup>を必要とする<ref name="ref7"><pubmed> 21939738 </pubmed></ref>。線条体においてドーパミン放出部位と考えられる構造の60-70%は明確なシナプス構造を形成していない<ref name="ref7" />。また、ドーパミン受容体の大部分はシナプス外の部位に発現している<ref name="ref8"><pubmed> 9651506 </pubmed></ref>。従ってドーパミンによって担われる信号伝達は、主として放出部位から比較的離れた受容体に作用する[[拡散性伝達]]([[Volume transmission]])によると考えられる<ref name="ref8" />。 | ||
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=== D<sub>2</sub>様受容体 === | === D<sub>2</sub>様受容体 === | ||
D<sub>2</sub>、D<sub>4</sub>受容体は線条体、大脳皮質、辺縁系などに強く発現している。D<sub>3</sub>受容体は主に中脳―皮質・辺縁系に発現しており、線条体での発現は弱い<ref name="ref13" />。アデニル酸シクラーゼの抑制以外に、[[Gβγ]] | D<sub>2</sub>、D<sub>4</sub>受容体は線条体、大脳皮質、辺縁系などに強く発現している。D<sub>3</sub>受容体は主に中脳―皮質・辺縁系に発現しており、線条体での発現は弱い<ref name="ref13" />。アデニル酸シクラーゼの抑制以外に、[[Gβγ]]を介してイオンチャネルの修飾とPLCの活性化を生じる<ref name="ref14" />。シナプス伝達に対して主に抑制的に働き、線条体ニューロンのup stateの興奮性を下げる<ref name="ref12" /><ref name="ref15" />。また、興奮性シナプス伝達の[[長期抑圧]]の形成に重要な役割を果たす<ref name="ref11" /><ref name="ref16" />。 | ||
D<sub>2</sub>受容体には[[D2L|D<sub>2L</sub>]](ロングフォーム)と[[D2S|D<sub>2S</sub>]](ショートフォーム)の[[スプライスバリアント]]が存在する。D<sub>2L</sub>とD<sub>2S</sub>は分布や機能が異なることが示されており、D<sub>2S</sub>はドーパミン細胞に発現する抑制性の自己受容体として機能する<ref name="ref18"><pubmed> 19138563 </pubmed></ref>。D<sub>3</sub>受容体も自己受容体として機能することが示唆されており<ref name="ref14" />、D<sub>4</sub>受容体もドーパミン神経系に何らかの抑制的働きを持つことが示唆されている<ref name="ref19"><pubmed> 15567422 </pubmed></ref>。 | D<sub>2</sub>受容体には[[D2L|D<sub>2L</sub>]](ロングフォーム)と[[D2S|D<sub>2S</sub>]](ショートフォーム)の[[スプライスバリアント]]が存在する。D<sub>2L</sub>とD<sub>2S</sub>は分布や機能が異なることが示されており、D<sub>2S</sub>はドーパミン細胞に発現する抑制性の自己受容体として機能する<ref name="ref18"><pubmed> 19138563 </pubmed></ref>。D<sub>3</sub>受容体も自己受容体として機能することが示唆されており<ref name="ref14" />、D<sub>4</sub>受容体もドーパミン神経系に何らかの抑制的働きを持つことが示唆されている<ref name="ref19"><pubmed> 15567422 </pubmed></ref>。 | ||
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== ドーパミントランスポーター == | == ドーパミントランスポーター == | ||
細胞外に放出されたドーパミンは細胞膜上の[[ドーパミントランスポーター]]([[Dopamine transporter]], [[DAT]])によって細胞内に取り込まれる。ノルアドレナリンやセロトニンのトランスポーターと同様にイオンの電気化学的勾配によって駆動される12回膜貫通構造を持つトランスポーターで、ドーパミン、Na<sup>+</sup>、Cl<sup>-</sup>を1:2:1の比で輸送する。ドーパミン神経や[[wikipedia:ja:腸管|腸管]]、[[wikipedia:ja:肺|肺]]、[[wikipedia:ja:膵臓|膵臓]]、[[wikipedia:ja:腎臓|腎臓]]、[[wikipedia:ja:リンパ球|リンパ球]]などに発現している<ref name="ref9"><pubmed> 16613553 </pubmed></ref>。 | |||
DATは[[シナプス]]直下ではなくシナプス周辺に主に発現しているため、シナプスにおけるドーパミン濃度よりもその周辺の細胞外液における濃度調節に重要と考えられている<ref name="ref8" /><ref name="ref9" />。DAT欠損マウスではドーパミンの基底濃度が上昇しており、一過性の濃度上昇からの回復が100-300倍遅くなっている<ref name="ref9" /><ref name="ref10"><pubmed> 8628395 </pubmed></ref>。[[コカイン]]や[[アンフェタミン]]などの[[精神刺激薬]]([[Psychostimulants]])はDATを主要なターゲットとし、ドーパミン取込の阻害又は逆輸送によるドーパミン放出を引き起こす。[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]や[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]にこれらの薬物を投与すると多動になる。DAT欠損マウスは野生型マウスよりも多動で、中枢刺激薬を投与しても行動量が変化しない<ref name="ref10" />。 | DATは[[シナプス]]直下ではなくシナプス周辺に主に発現しているため、シナプスにおけるドーパミン濃度よりもその周辺の細胞外液における濃度調節に重要と考えられている<ref name="ref8" /><ref name="ref9" />。DAT欠損マウスではドーパミンの基底濃度が上昇しており、一過性の濃度上昇からの回復が100-300倍遅くなっている<ref name="ref9" /><ref name="ref10"><pubmed> 8628395 </pubmed></ref>。[[コカイン]]や[[アンフェタミン]]などの[[精神刺激薬]]([[Psychostimulants]])はDATを主要なターゲットとし、ドーパミン取込の阻害又は逆輸送によるドーパミン放出を引き起こす。[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]や[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]にこれらの薬物を投与すると多動になる。DAT欠損マウスは野生型マウスよりも多動で、中枢刺激薬を投与しても行動量が変化しない<ref name="ref10" />。 | ||
112行目: | 112行目: | ||
黒質と腹側被蓋野からの線維投射は必ずしもこれらの経路に限られるのではなく、黒質から皮質、辺縁系に投射する線維や腹側被蓋野から線条体に投射する線維も存在する<ref name="ref1" />。 | 黒質と腹側被蓋野からの線維投射は必ずしもこれらの経路に限られるのではなく、黒質から皮質、辺縁系に投射する線維や腹側被蓋野から線条体に投射する線維も存在する<ref name="ref1" />。 | ||
大脳皮質に対する投射の中では、[[前頭前野]]に対する投射が良く知られており、その機能に関して豊富な知見があるが、他の皮質領域に対する投射も存在する<ref name="ref3"><pubmed> 19446627 </pubmed></ref>。これら以外に[[間脳]][[A11]]から脊髄に投射する下行性のドーパミン神経も存在し<ref name="ref4"><pubmed> 20503420 </pubmed></ref>、[[嗅球]]や[[網膜]]ではドーパミンが局所的に産生、放出される<ref name="ref5"><pubmed> 19731547 </pubmed></ref><ref name="ref6"><pubmed> 18061262 </pubmed></ref>。 | |||
== 中枢神経機能 == | == 中枢神経機能 == | ||
122行目: | 122行目: | ||
一般に実験動物において、細胞外ドーパミン濃度を上昇させる[[精神刺激薬]]やドーパミン受容体[[アゴニスト]]は活動量を増加させ、ドーパミン受容体[[アンタゴニスト]]は活動量を低下させる。線条体には主にD<sub>1</sub>受容体とD<sub>2</sub>受容体が発現しており、D<sub>2</sub>受容体欠損マウスでは活動量の低下が見られるが、D<sub>1</sub>受容体欠損マウスでは活動量が上昇することもある<ref name="ref13" /><ref name="ref19" />。D<sub>1</sub>様受容体アンタゴニストは活動量の低下を起こすが、この効果はD<sub>1</sub>受容体欠損マウスでは抑制されている。また、D<sub>1</sub>受容体欠損マウスは発育不全を示すが、その原因の一部は運動機能の異常にあると考えられる<ref name="ref19" />。 | 一般に実験動物において、細胞外ドーパミン濃度を上昇させる[[精神刺激薬]]やドーパミン受容体[[アゴニスト]]は活動量を増加させ、ドーパミン受容体[[アンタゴニスト]]は活動量を低下させる。線条体には主にD<sub>1</sub>受容体とD<sub>2</sub>受容体が発現しており、D<sub>2</sub>受容体欠損マウスでは活動量の低下が見られるが、D<sub>1</sub>受容体欠損マウスでは活動量が上昇することもある<ref name="ref13" /><ref name="ref19" />。D<sub>1</sub>様受容体アンタゴニストは活動量の低下を起こすが、この効果はD<sub>1</sub>受容体欠損マウスでは抑制されている。また、D<sub>1</sub>受容体欠損マウスは発育不全を示すが、その原因の一部は運動機能の異常にあると考えられる<ref name="ref19" />。 | ||
D<sub>5</sub>受容体欠損マウスでもD<sub>1</sub>様受容体アゴニストや精神刺激薬の効果が低下するため、D<sub>5</sub>受容体も[[運動調節]]に寄与する<ref name="ref19" /> | D<sub>5</sub>受容体欠損マウスでもD<sub>1</sub>様受容体アゴニストや精神刺激薬の効果が低下するため、D<sub>5</sub>受容体も[[運動調節]]に寄与する<ref name="ref19" />。大脳皮質[[運動野]]にも中脳からドーパミン神経の投射がある<ref name="ref3" />。この経路の機能の詳細は不明であるが、[[運動学習]]に関与することが示唆されている<ref name="ref22"><pubmed> 21325515 </pubmed></ref>。 | ||
=== 認知機能 === | === 認知機能 === | ||
128行目: | 128行目: | ||
ドーパミンは学習・記憶、[[注意]]、[[実行機能]]などの[[認知機能]]を調節することが示されており、特に[[作業記憶]]に対する寄与に関して多くの知見が存在する<ref name="ref23">'''T.W. Robbins'''<br>Role of cortical and striatal dopamine in cognitive function.<br>''Handbook of Chemical Neuroanatomy 21, Dopamine<br>Edited by A. S.B. Dunnett, M. Bentivoglio, A. Björklund, & T. Hökfelt'':2005<br>http://dx.doi.org/10.1016/S0924-8196(05)80011-9</ref>。 | ドーパミンは学習・記憶、[[注意]]、[[実行機能]]などの[[認知機能]]を調節することが示されており、特に[[作業記憶]]に対する寄与に関して多くの知見が存在する<ref name="ref23">'''T.W. Robbins'''<br>Role of cortical and striatal dopamine in cognitive function.<br>''Handbook of Chemical Neuroanatomy 21, Dopamine<br>Edited by A. S.B. Dunnett, M. Bentivoglio, A. Björklund, & T. Hökfelt'':2005<br>http://dx.doi.org/10.1016/S0924-8196(05)80011-9</ref>。 | ||
主にサルを用いた研究によって作業記憶課題中に前頭前野のドーパミンレベルが上昇し、前頭前野に対するドーパミン[[神経毒]]の注入、D<sub>1</sub>様受容体の遮断や過剰な活性化によって課題遂行が阻害されることが示されている<ref name="ref24"><pubmed> 15129848 </pubmed></ref><ref name="ref25"><pubmed> 21232555 </pubmed></ref>。前頭前野のみならず線条体のドーパミン系も作業記憶に関与することが示されており、パーキンソン病患者では作業記憶等の認知機能の障害が見られる<ref name="ref23" /><ref name="ref24" />。 | |||
海馬に対するドーパミン神経毒や受容体アゴニストの注入によって、空間記憶の保持や作業記憶課題が変化する<ref name="ref11" />。D<sub>1</sub>受容体欠損マウスでは[[恐怖記憶]]の消去や[[空間学習]]の障害が生じる<ref name="ref19" />。 | 海馬に対するドーパミン神経毒や受容体アゴニストの注入によって、空間記憶の保持や作業記憶課題が変化する<ref name="ref11" />。D<sub>1</sub>受容体欠損マウスでは[[恐怖記憶]]の消去や[[空間学習]]の障害が生じる<ref name="ref19" />。 | ||
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=== 神経内分泌 === | === 神経内分泌 === | ||
[[視床下部]]の隆起漏斗路のドーパミン神経系は[[下垂体]]からの[[プロラクチン]]放出を抑制する<ref name="ref30"><pubmed> 11739329 </pubmed></ref>。この神経系ではドーパミンは毛細血管近傍に放出されて[[門脈]]を介して[[下垂体前葉]]に到達する。ドーパミンはD<sub>2</sub>受容体を介してプロラクチン分泌細胞胞内のCa<sup>2+</sup>濃度を低下させてプロラクチン分泌を抑制する。さらに、プロラクチン遺伝子の発現を抑制し、プロラクチン分泌細胞の分裂を抑制すると考えられている。[[抗精神病薬]]などのD<sub>2</sub>遮断作用を持つ薬物は[[高プロラクチン血症]] | [[視床下部]]の隆起漏斗路のドーパミン神経系は[[下垂体]]からの[[プロラクチン]]放出を抑制する<ref name="ref30"><pubmed> 11739329 </pubmed></ref>。この神経系ではドーパミンは毛細血管近傍に放出されて[[門脈]]を介して[[下垂体前葉]]に到達する。ドーパミンはD<sub>2</sub>受容体を介してプロラクチン分泌細胞胞内のCa<sup>2+</sup>濃度を低下させてプロラクチン分泌を抑制する。さらに、プロラクチン遺伝子の発現を抑制し、プロラクチン分泌細胞の分裂を抑制すると考えられている。[[抗精神病薬]]などのD<sub>2</sub>遮断作用を持つ薬物は[[高プロラクチン血症]]を生じさせる。視床下部から下垂体に直接投射するドーパミン神経も存在する。 | ||
=== 視覚 === | === 視覚 === | ||
148行目: | 148行目: | ||
[[統合失調症]]及び[[精神病性障害]]にドーパミン神経系の異常が関与することが示唆されている<ref name="ref32"><pubmed> 19499420 </pubmed></ref>。この[[ドーパミン仮説]]は、これらの疾患、障害の治療薬である抗精神病薬にD<sub>2</sub>受容体の遮断作用があることから提唱されたものであるが、現在でもその直接的な証拠はない。ドーパミントランスポーターを主な標的とし、ドーパミン濃度を上昇させる[[精神刺激薬]]によって薬物性の精神病性症状が生じることもこの仮説を支持する証拠とされている。しかし、精神刺激薬によって生じる精神症状や行動異常は疾患の症状と必ずしも同一ではなく、精神刺激薬の標的もドーパミン神経系に限定したものではない。他にドーパミン仮説を支持する証拠として、統合失調症患者においてドーパミンの放出やドーパミン前駆物質ドーパの取込の増加などが示されている<ref name="ref32" />。 | [[統合失調症]]及び[[精神病性障害]]にドーパミン神経系の異常が関与することが示唆されている<ref name="ref32"><pubmed> 19499420 </pubmed></ref>。この[[ドーパミン仮説]]は、これらの疾患、障害の治療薬である抗精神病薬にD<sub>2</sub>受容体の遮断作用があることから提唱されたものであるが、現在でもその直接的な証拠はない。ドーパミントランスポーターを主な標的とし、ドーパミン濃度を上昇させる[[精神刺激薬]]によって薬物性の精神病性症状が生じることもこの仮説を支持する証拠とされている。しかし、精神刺激薬によって生じる精神症状や行動異常は疾患の症状と必ずしも同一ではなく、精神刺激薬の標的もドーパミン神経系に限定したものではない。他にドーパミン仮説を支持する証拠として、統合失調症患者においてドーパミンの放出やドーパミン前駆物質ドーパの取込の増加などが示されている<ref name="ref32" />。 | ||
ドーパミンは[[うつ病]]にも関与することが示唆されているが、これも確実な証拠はない<ref name="ref33"><pubmed> 20558238 </pubmed></ref>。パーキンソン病でうつ症状や不安が生じるため、ドーパミン系の機能不全がこれらの[[情動]]異常に関与する可能性がある。しかし、パーキンソン病の標準的治療薬であるドーパミン前駆物質レボドーパを投与しても、これらの症状は必ずしも改善しない<ref name="ref34"><pubmed> 20615430 </pubmed></ref>。抗うつ薬はセロトニン神経系やノルアドレナリン神経系を主な標的とするが、ドーパミン系にも変化を生じさせる<ref name="ref17" /><ref name="ref35"><pubmed> 11033341 </pubmed></ref>。精神刺激薬の[[メチルフェニデート]]がうつ病治療に用いられていたが現在は適応外である。また、ドーパミン取込阻害作用のある[[ブプロピオン]] | ドーパミンは[[うつ病]]にも関与することが示唆されているが、これも確実な証拠はない<ref name="ref33"><pubmed> 20558238 </pubmed></ref>。パーキンソン病でうつ症状や不安が生じるため、ドーパミン系の機能不全がこれらの[[情動]]異常に関与する可能性がある。しかし、パーキンソン病の標準的治療薬であるドーパミン前駆物質レボドーパを投与しても、これらの症状は必ずしも改善しない<ref name="ref34"><pubmed> 20615430 </pubmed></ref>。抗うつ薬はセロトニン神経系やノルアドレナリン神経系を主な標的とするが、ドーパミン系にも変化を生じさせる<ref name="ref17" /><ref name="ref35"><pubmed> 11033341 </pubmed></ref>。精神刺激薬の[[メチルフェニデート]]がうつ病治療に用いられていたが現在は適応外である。また、ドーパミン取込阻害作用のある[[ブプロピオン]]が抗うつ薬として用いられるが、日本では未承認である。メチルフェニデートは[[注意欠陥多動障害]]([[Attention-deficit hyperactivity disorder]]、[[ADHD]])の治療に用いられるが、この一見矛盾した治療効果のメカニズムの詳細は未だ明らかではない<ref name="ref36"><pubmed> 21550021 </pubmed></ref>。 | ||
== 関連項目 == | == 関連項目 == |