「ホスファチジルイノシトール」の版間の差分

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 さらに、ホスファチジルイノシトールの代謝異常は多くの重大かつ重篤な疾患と密接に関連していることも明らかとなっている。PI(3,4,5)P<sub>3</sub>の代謝異常はがんや糖尿病の患者に多く認められている。これはがん細胞の増殖や浸潤転移、インスリンによる骨格筋や脂肪細胞への糖取込みにおいてPI(3,4,5)P<sub>3</sub>が必要であることに起因している。また、PI(4,5)P<sub>2</sub>の代謝異常がLowe症候群などの遺伝性疾患患者に認められている。  
 さらに、ホスファチジルイノシトールの代謝異常は多くの重大かつ重篤な疾患と密接に関連していることも明らかとなっている。PI(3,4,5)P<sub>3</sub>の代謝異常はがんや糖尿病の患者に多く認められている。これはがん細胞の増殖や浸潤転移、インスリンによる骨格筋や脂肪細胞への糖取込みにおいてPI(3,4,5)P<sub>3</sub>が必要であることに起因している。また、PI(4,5)P<sub>2</sub>の代謝異常がLowe症候群などの遺伝性疾患患者に認められている。  


==各ホスファチジルイノシトールの生合成経路と機能==
==生合成経路と機能==


=== PI(4)P  ===
=== PI(4)P  ===


PI(4)PはPIのイノシトール環の4位にPI4キナーゼによってリン酸化されて生成される。PI(4)Pは細胞膜、ゴルジ体、小胞体、エンドソームに局在しており、神経細胞のシナプス小胞にも多く存在する。PI4キナーゼは酵母に3種類、哺乳類に4種類存在している。哺乳類のPI4Kはその酵素学的性質からタイプIからタイプIIIに分別されるが、現在ではタイプIの分子はPI3キナーゼであることが明らかとなっている。タイプIIはPI4KIIαとPI4KIIβの二つの分子からなりアデノシンによって活性が阻害される性質を持つ。タイプIIのPI4キナーゼは形質膜におけるPI(4)P産生に関与しているが、ゴルジ体やエンドソームにも存在し、細胞膜への小胞輸送に関係していることが明らかになっている。一方、タイプIII PI4キナーゼはPI3キナーゼ阻害剤であるワートマニンによって活性が阻害される分子である。PI4KIIIαは小胞体と核周辺部に局在しているが、形質膜でのPI4P量を調節することが知られている。一方、PI4KIIIβは主にゴルジ体に存在し、形質膜への物質輸送を制御することが知られている。
 PI(4)PはPIのイノシトール環の4位に[[PI4キナーゼ]]によってリン酸化されて生成される。PI(4)Pは[[wikipedia:ja:]細胞膜|]細胞膜]]、[[wikipedia:ja:ゴルジ体|ゴルジ体]]、[[wikipedia:ja:小胞体|小胞体]]、[[wikipedia:ja:エンドソーム|エンドソーム]]に局在しており、神経細胞の[[シナプス小胞]]にも多く存在する。PI4キナーゼは[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]に3種類、哺乳類に4種類存在している。哺乳類のPI4Kはその酵素学的性質からタイプIからタイプIIIに分別されるが、現在ではタイプIの分子はPI3キナーゼであることが明らかとなっている。タイプIIはPI4KIIαとPI4KIIβの二つの分子からなり[[wikipedia:ja:アデノシン|アデノシン]]によって活性が阻害される性質を持つ。タイプIIのPI4キナーゼは形質膜におけるPI(4)P産生に関与しているが、ゴルジ体やエンドソームにも存在し、細胞膜への小胞輸送に関係していることが明らかになっている。一方、タイプIII PI4キナーゼはPI3キナーゼ阻害剤である[[ワートマニン]]によって活性が阻害される分子である。PI4KIIIαは小胞体と[[wikipedia:ja:核|核]]周辺部に局在しているが、形質膜でのPI4P量を調節することが知られている。一方、PI4KIIIβは主にゴルジ体に存在し、形質膜への物質輸送を制御することが知られている。


PI(4)PはPI(4,5)P<sub>2</sub>産生の基質であり、ホスホリパーゼCによるPI(4,5)P<sub>2</sub>の加水分解によるイノシトール3リン酸(イノシトール3リン酸の項参照)産生、カルシウム動員およびシグナル伝達制御を間接的に制御している。PI4KIIIαは細胞内のPI(4)PやPI(4,5)P<sub>2</sub>量を一定に保つ役割を担っている。一方で、PI(4)P自身に結合するエフェクター分子の機能を調節する役割も担っている。AP-1、GGA1やepsinRなどのアダプターや小胞の被覆分子、OSBP、CERT、FAPP1、FAPP2のような脂質を運搬する分子がPI(4)Pのエフェクター分子として知られている。これらのエフェクター分子は小胞体やゴルジ体からの輸送に関係しているものが多く、PI(4)Pは小胞体やゴルジ体の細胞膜へこれらの分子を局在させるための目印として機能していると思われる。  
 PI(4)PはPI(4,5)P<sub>2</sub>産生の基質であり、[[ホスホリパーゼC]]によるPI(4,5)P<sub>2</sub>の加水分解による[[イノシトール3リン酸]]産生、カルシウム動員およびシグナル伝達制御を間接的に制御している。PI4KIIIαは細胞内のPI(4)PやPI(4,5)P<sub>2</sub>量を一定に保つ役割を担っている。一方で、PI(4)P自身に結合するエフェクター分子の機能を調節する役割も担っている。[[AP-1]]、[[wikipedia:GGA1|GGA1]]や[[wikipedia:epsinR|epsinR]]などのアダプターや小胞の被覆分子、[[wikipedia:OSBP|OSBP]]、[[wikipedia:CERT|CERT]]、[[wikipedia:FAPP1|FAPP1]]、FAPP2のような脂質を運搬する分子がPI(4)Pのエフェクター分子として知られている。これらのエフェクター分子は小胞体やゴルジ体からの輸送に関係しているものが多く、PI(4)Pは小胞体やゴルジ体の細胞膜へこれらの分子を局在させるための目印として機能していると思われる。  


=== PI(5)P  ===
=== PI(5)P  ===
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PI(3,4,5)P<sub>3</sub>はPI3キナーゼによってPI(4,5)P<sub>2</sub>から産生される。Akt,Btk,PDK1などのPHドメインと結合して、これらの分子を細胞膜に局在させる働きを持つ。これらの分子はPI3キナーゼシグナル伝達経路の活性化を起こす。PI3キナーゼシグナル伝達経路に関しては後述する。  
PI(3,4,5)P<sub>3</sub>はPI3キナーゼによってPI(4,5)P<sub>2</sub>から産生される。Akt,Btk,PDK1などのPHドメインと結合して、これらの分子を細胞膜に局在させる働きを持つ。これらの分子はPI3キナーゼシグナル伝達経路の活性化を起こす。PI3キナーゼシグナル伝達経路に関しては後述する。  


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== '''ポリホスホイノシタイド結合ドメイン'''  ==
== '''ポリホスホイノシタイド結合ドメイン'''  ==

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