「ドーパミン仮説(統合失調症)」の版間の差分

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=== 統合失調症のドーパミン仮説の証拠を求めて ===
=== 統合失調症のドーパミン仮説の証拠を求めて ===
 1980年代から90年代にかけて、ドーパミン仮説の直接的な証拠を得ることを目指して、髄液、血液、尿、線維芽細胞、死後脳を用いてドーパミンやその前駆体、代謝産物が測定された。しかし、明確な、研究間で一致するような変化は見られなかった。
 1980年代から90年代にかけて、ドーパミン仮説の直接的な証拠を得ることを目指して、[[髄液]]、血液、尿、線維芽細胞、死後脳を用いてドーパミンやその前駆体、代謝産物が測定された。しかし、明確な、研究間で一致するような変化は見られなかった。


=== 修正ドーパミン仮説:ドーパミン系の領域特異的失調説 ===
=== 修正ドーパミン仮説:ドーパミン系の領域特異的失調説 ===
 1980年代には統合失調症の症状は陽性症状、陰性症状などに分類して考えられるようになり、陽性症状を緩和する薬物は陰性症状にはあまり効果がなかったり逆に悪化させたりという抗精神病薬による症状別の効果の違いが注目されるようになった。また、抗精神病薬に反応しない一群の患者が存在することや抗精神病薬クロザピンがD2アンタゴニストとしての効力が弱い点など、統合失調症のドーパミン仮説に対する疑問を投げかける薬理学的証拠がでてきて、統合失調症を単純にドーパミン機能過剰状態とすることは不十分であることは明らかとなってきた。
 1980年代には統合失調症の症状は陽性症状、陰性症状などに分類して考えられるようになり、陽性症状を緩和する薬物は陰性症状にはあまり効果がなかったり逆に悪化させたりという抗精神病薬による症状別の効果の違いが注目されるようになった。また、抗精神病薬に反応しない一群の患者が存在することや抗精神病薬クロザピンが[[D2]]アンタゴニストとしての効力が弱い点など、統合失調症のドーパミン仮説に対する疑問を投げかける薬理学的証拠がでてきて、統合失調症を単純にドーパミン機能過剰状態とすることは不十分であることは明らかとなってきた。


 抗精神病薬はドーパミン神経系全体に均等に効果を及ぼすのではなく、定型抗精神病薬はA9, A10細胞に影響を与え、[[非定型抗精神病薬]]はA10細胞にのみ影響することが実験的に示されていた<ref><pubmed> 3607497 </pubmed></ref>。また、統合失調症患者では前頭葉の血流、糖代謝が低下しており、ドーパミンアゴニストで中脳皮質ドーパミン系を活性化すると前頭前野の糖代謝は上昇し、回復することも知られており、1991年に統合失調症の修正ドーパミン仮説の論文が発表された<ref><pubmed> 1681750 </pubmed></ref>。この仮説では、統合失調症では脳の部位によりドーパミン系の低活動と過活動とが混在しており、中脳皮質ドーパミン系の低活動が認知障害や陰性症状に関わっている一方、皮質下ドーパミン系の過活動が陽性症状に関連しているとするものであった。統合失調症における脳の部位別機能不全は、統合失調症の[[前頭葉]]低活性 (hypofrontality) に関する画像研究のメタ解析でも支持され<ref><pubmed> 15352925 </pubmed></ref>、また、[[非定型抗精神病薬]]は陰性症状をもつ患者の[[前頭前野]]の活動性を上げるなどの臨床薬理学的証拠でも支持されている。
 抗精神病薬はドーパミン神経系全体に均等に効果を及ぼすのではなく、定型抗精神病薬はA9, A10細胞に影響を与え、[[非定型抗精神病薬]]はA10細胞にのみ影響することが実験的に示されていた<ref><pubmed> 3607497 </pubmed></ref>。また、統合失調症患者では前頭葉の血流、糖代謝が低下しており、ドーパミンアゴニストで中脳皮質ドーパミン系を活性化すると前頭前野の糖代謝は上昇し、回復することも知られており、1991年に統合失調症の修正ドーパミン仮説の論文が発表された<ref><pubmed> 1681750 </pubmed></ref>。この仮説では、統合失調症では脳の部位によりドーパミン系の低活動と過活動とが混在しており、中脳皮質ドーパミン系の低活動が認知障害や陰性症状に関わっている一方、皮質下ドーパミン系の過活動が陽性症状に関連しているとするものであった。統合失調症における脳の部位別機能不全は、統合失調症の[[前頭葉]]低活性 (hypofrontality) に関する画像研究のメタ解析でも支持され<ref><pubmed> 15352925 </pubmed></ref>、また、[[非定型抗精神病薬]]は陰性症状をもつ患者の[[前頭前野]]の活動性を上げるなどの臨床薬理学的証拠でも支持されている。
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=== ドーパミン受容体 ===
=== ドーパミン受容体 ===


 メタ解析によれば、線条体のドーパミンD2, D3受容体密度は統合失調症患者で若干上昇している<ref><pubmed> 11710751 </pubmed></ref>が、線条体以外では上昇していない。ドーパミンD2受容体には2つのアイソフォームがあるがそれと統合失調症との関係ははっきりしない。
 メタ解析によれば、線条体のドーパミンD2, [[D3]]受容体密度は統合失調症患者で若干上昇している<ref><pubmed> 11710751 </pubmed></ref>が、線条体以外では上昇していない。ドーパミンD2受容体には2つのアイソフォームがあるがそれと統合失調症との関係ははっきりしない。


 前頭前野ではドーパミン神経伝達は主に[[D1受容体]]を介しており、[[D1受容体]]の機能不全は統合失調症の認知障害、陰性症状と関係している<ref><pubmed> 17081078 </pubmed></ref>。統合失調症患者におけるD1受容体密度の研究は数少なく、トレーサーの問題もあり一致した結果となっていない。D1受容体密度と統合失調症における認知機能不全との関係も複雑である。
 前頭前野ではドーパミン神経伝達は主に[[D1受容体]]を介しており、[[D1受容体]]の機能不全は統合失調症の認知障害、陰性症状と関係している<ref><pubmed> 17081078 </pubmed></ref>。統合失調症患者における[[D1]]受容体密度の研究は数少なく、トレーサーの問題もあり一致した結果となっていない。D1受容体密度と統合失調症における認知機能不全との関係も複雑である。


=== 抗精神病薬治療とドーパミン受容体 ===
=== 抗精神病薬治療とドーパミン受容体 ===

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