「抗精神病薬」の版間の差分

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 抗精神病薬の歴史は、1950年に中枢作用の強い抗[[ヒスタミン]](histamine)薬として開発された[[クロルプロマジン]](chlorpromazine)に端を発する。当初は外科医のLaboritが、強化[[wikipedia:JA:麻酔|麻酔]](人工冬眠)に用いて外科手術後のショックを予防する目的で使用した。その後、1952年に精神科医のDelayとDenikerが、統合失調症や[[躁病]]患者に投与したところ、覚醒状態で抗幻覚・妄想作用と鎮静作用を示すことを報告した。1958年にベルギーのJanssenは、[[ブチロフェノン]](butyrophenone)系抗精神病薬の[[ハロペリドール]](haloperidol)を開発した。1963年には[[wikipedia:JA:アルビド・カールソン|Carlsson]]とLindqvistが、これらの薬物が脳内[[ドーパミン]](dopamine)の代謝産物を増加させることを報告し、統合失調症の「[[ドーパミン仮説]]」(ドーパミン神経の過剰興奮が統合失調症の病因)の糸口を作った。その後[[ベンズアミド]](benzamide)系、[[イミノジベンジル]](iminodibenzyl)系などの第1世代(定型または従来型)抗精神病薬 (First-Generation Antipsychotics)が数多く開発され上市された。 第1世代抗精神病薬の開発コンセプトは、抗精神病薬の臨床用量(または血漿中濃度)が、[[ドーパミン|ドーパミン D<sub>2</sub>受容体]]遮断作用と正の相関を示すため、D<sub>2</sub>受容体の遮断作用が抗精神病効果の発現に本質的に重要であるというものであった。  
 抗精神病薬の歴史は、1950年に中枢作用の強い抗[[ヒスタミン]](histamine)薬として開発された[[クロルプロマジン]](chlorpromazine)に端を発する。当初は外科医のLaboritが、強化[[wikipedia:JA:麻酔|麻酔]](人工冬眠)に用いて外科手術後のショックを予防する目的で使用した。その後、1952年に精神科医のDelayとDenikerが、統合失調症や[[躁病]]患者に投与したところ、覚醒状態で抗幻覚・妄想作用と鎮静作用を示すことを報告した。1958年にベルギーのJanssenは、[[ブチロフェノン]](butyrophenone)系抗精神病薬の[[ハロペリドール]](haloperidol)を開発した。1963年には[[wikipedia:JA:アルビド・カールソン|Carlsson]]とLindqvistが、これらの薬物が脳内[[ドーパミン]](dopamine)の代謝産物を増加させることを報告し、統合失調症の「[[ドーパミン仮説]]」(ドーパミン神経の過剰興奮が統合失調症の病因)の糸口を作った。その後[[ベンズアミド]](benzamide)系、[[イミノジベンジル]](iminodibenzyl)系などの第1世代(定型または従来型)抗精神病薬 (First-Generation Antipsychotics)が数多く開発され上市された。 第1世代抗精神病薬の開発コンセプトは、抗精神病薬の臨床用量(または血漿中濃度)が、[[ドーパミン|ドーパミン D<sub>2</sub>受容体]]遮断作用と正の相関を示すため、D<sub>2</sub>受容体の遮断作用が抗精神病効果の発現に本質的に重要であるというものであった。  


 しかし第1世代抗精神病薬は、①[[アカシジア]] (akathisia)や遅発性[[ジスキネジア]] (tardive dyskinesia; TD)などの急性および慢性の[[錐体外路系]]副作用 (extrapyramidal side effects)を高率に生じさせたり、②乳汁分泌や性機能障害を生じる可能性のある高[[プロラクチン]](prolactin)血症を起こしたり、③[[陰性症状]](意欲低下、感情の平板化、社会的引きこもりなど)や認知機能障害(記憶力低下、注意力低下、遂行機能障害など)に対して無効あるいは増悪させたりするなどの宿命的問題点があった <ref name="ref1">'''Miyamoto S, Merrill DB, Lieberman JA, Fleischhacker WW, Marder SR''': <br>Antipsychotic Drugs, In PSYCHIATRY (Third edition) <br>'''Tasman A, Kay J, Lieberman JA, First MB, Maj M'''  eds<br>pp. 2161-2201<br>John Wiley & Sons, Ltd (Chichester):2008</ref>。  
 しかし第1世代抗精神病薬は、①[[アカシジア]] (akathisia)や遅発性[[ジスキネジア]] (tardive dyskinesia; TD)などの急性および慢性の[[錐体外路系]]副作用 (extrapyramidal side effects)を高率に生じさせたり、②乳汁[[分泌]]や性機能障害を生じる可能性のある高[[プロラクチン]](prolactin)血症を起こしたり、③[[陰性症状]](意欲低下、感情の平板化、社会的引きこもりなど)や認知機能障害(記憶力低下、注意力低下、[[遂行機能]]障害など)に対して無効あるいは増悪させたりするなどの宿命的問題点があった <ref name="ref1">'''Miyamoto S, Merrill DB, Lieberman JA, Fleischhacker WW, Marder SR''': <br>Antipsychotic Drugs, In PSYCHIATRY (Third edition) <br>'''Tasman A, Kay J, Lieberman JA, First MB, Maj M'''  eds<br>pp. 2161-2201<br>John Wiley & Sons, Ltd (Chichester):2008</ref>。  


 1958年に合成された第2世代(非定型または新規)抗精神病薬(Second-Generation Antipsychotics)の原型である[[クロザピン]](clozapine)は、第1世代抗精神病薬の欠点をかなり克服したが、約1%の頻度で[[wikipedia:JA:無顆粒球症|無顆粒球症]]という致死的副作用が発現したため、本邦を含む多くの国で開発が中断された。しかし、クロザピンの薬理作用の研究が進むにつれて、抗D<sub>2</sub>受容体作用に比べて相対的に強い[[セロトニン]](serotonin) [[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>2A</sub>受容体]]遮断作用が注目されるようになった。Janssenは、5-HT<sub>2A</sub>受容体遮断作用を有する[[ピパンペロン]](pipamperone)が、陰性症状に比較的有効で錐体外路症状の発現が少ない事実に気づき、1984年にセロトニンドーパミン遮断薬 (Serotonin Dopamine Antagonist; SDA)の原型といえる[[リスペリドン]](risperidone)の開発を導いた。  
 1958年に合成された第2世代(非定型または新規)抗精神病薬(Second-Generation Antipsychotics)の原型である[[クロザピン]](clozapine)は、第1世代抗精神病薬の欠点をかなり克服したが、約1%の頻度で[[wikipedia:JA:無顆粒球症|無顆粒球症]]という致死的副作用が発現したため、本邦を含む多くの国で開発が中断された。しかし、クロザピンの薬理作用の研究が進むにつれて、抗D<sub>2</sub>受容体作用に比べて相対的に強い[[セロトニン]]([[serotonin]]) [[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>2A</sub>受容体]]遮断作用が注目されるようになった。Janssenは、[[5-HT]]<sub>2A</sub>受容体遮断作用を有する[[ピパンペロン]](pipamperone)が、陰性症状に比較的有効で[[錐体外路症状]]の発現が少ない事実に[[気づき]]、1984年にセロトニンドーパミン遮断薬 ([[Serotonin]] Dopamine Antagonist; SDA)の原型といえる[[リスペリドン]](risperidone)の開発を導いた。  


 さらに無顆粒球症を伴わず、クロザピン類似の薬理学的プロフィールを持つ抗精神病薬の開発が進み、1982年に[[オランザピン]](olanzapine)、1985年に[[クエチアピン]](quetiapine)が合成された。本邦でも1987年にSDAとして[[ペロスピロン]](perospirone)が開発された。  
 さらに無顆粒球症を伴わず、クロザピン類似の薬理学的プロフィールを持つ抗精神病薬の開発が進み、1982年に[[オランザピン]](olanzapine)、1985年に[[クエチアピン]](quetiapine)が合成された。本邦でも1987年にSDAとして[[ペロスピロン]](perospirone)が開発された。  
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== 対象疾患  ==
== 対象疾患  ==


 抗精神病薬は、統合失調症、[[統合失調感情障害]]、短期(急性一過性)精神病性障害や[[妄想性障害]]といった統合失調症圏の精神病性障害を主な対象疾患とするが、双極性障害(躁うつ病)や[[認知症]]の問題行動(暴力や興奮など)にも有用である。さらに基礎疾患によらず、幻覚妄想状態や[[精神運動興奮]]を呈する場合は、保険適応外で使用されることが多い。また、強度の不安や焦燥感、重度のうつ状態や不眠、[[せん妄]]、悪心・嘔吐、吃逆に対する対処薬として利用される場合がある。  
 抗精神病薬は、統合失調症、[[統合失調感情障害]]、短期(急性一過性)精神病性障害や[[妄想性障害]]といった統合失調症圏の精神病性障害を主な対象疾患とするが、双極性障害([[躁うつ病]])や[[認知症]]の問題行動(暴力や興奮など)にも有用である。さらに基礎疾患によらず、幻覚妄想状態や[[精神運動興奮]]を呈する場合は、保険適応外で使用されることが多い。また、強度の不安や焦燥感、重度のうつ状態や不眠、[[せん妄]]、悪心・嘔吐、吃逆に対する対処薬として利用される場合がある。  


== 種類  ==
== 種類  ==
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=== 第2世代  ===
=== 第2世代  ===


 非定型抗精神病薬または新規抗精神病薬とも呼ぶ。セロトニンドーパミン遮断薬としてリスペリドン、ペロスピロン、[[パリペリドン]]、[[ルラシドン]](lurasidone)(本邦臨床試験中)、[[ジプラシドン]](ziprasidone)(本邦臨床試験中)、[[アセナピン]](asenapine)(本邦臨床試験中)がある。多元受容体標的化抗精神病薬 (multi-acting receptor-targeted antipsychotics; MARTA)としてクロザピン、オランザピン、クエチアピンがあるが、欧米ではMARTAの呼称は一般的ではない。[[ブロナンセリン]]はD<sub>2</sub>受容体の親和性が5-HT<sub>2A</sub>受容体の親和性よりも強い第2世代抗精神病薬であるため、dopamine serotonin antagonist (DSA)と呼ぶ研究者もいる。なお、本邦では未承認の[[アミスルプリド]](amisulpride)は、D<sub>2</sub>受容体よりもD<sub>3</sub>受容体に選択性が高いベンズアミド誘導体であり第2世代抗精神病薬に分類される(図2)。
 [[非定型抗精神病薬]]または新規抗精神病薬とも呼ぶ。セロトニンドーパミン遮断薬としてリスペリドン、ペロスピロン、[[パリペリドン]]、[[ルラシドン]](lurasidone)(本邦臨床試験中)、[[ジプラシドン]](ziprasidone)(本邦臨床試験中)、[[アセナピン]](asenapine)(本邦臨床試験中)がある。多元受容体標的化抗精神病薬 (multi-acting receptor-targeted antipsychotics; MARTA)としてクロザピン、オランザピン、クエチアピンがあるが、欧米ではMARTAの呼称は一般的ではない。[[ブロナンセリン]]はD<sub>2</sub>受容体の親和性が5-HT<sub>2A</sub>受容体の親和性よりも強い第2世代抗精神病薬であるため、dopamine serotonin antagonist (DSA)と呼ぶ研究者もいる。なお、本邦では未承認の[[アミスルプリド]](amisulpride)は、D<sub>2</sub>受容体よりもD<sub>3</sub>受容体に選択性が高いベンズアミド誘導体であり第2世代抗精神病薬に分類される(図2)。


=== 第3世代  ===
=== 第3世代  ===
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 ほとんどの第2世代抗精神病薬は、有効治療用量内では錐体外路症状や高プロラクチン血症の発現頻度が少ない。この第2世代抗精神病薬のメリットは、薬理学的に第1世代抗精神病薬とはいくつか異なった作用機序に由来する。ただし、D<sub>2</sub>受容体阻害作用を除いて、すべての第2世代抗精神病薬に共通する薬理学的作用機序はいまだ明らかでない。 Meltzerら<ref><pubmed> 2571717 </pubmed></ref>は1989年に、第2世代抗精神病薬の「非定型性 (atypicality)」すなわち錐体外路症状を惹起しない用量範囲内で抗精神病効果を示すという特性に対して最も重要なのは、D<sub>2</sub>受容体遮断作用に比べて5-HT<sub>2A</sub>受容体遮断作用が相対的に強いことであると主張し、「セロトニン-ドーパミン仮説」を提唱した。[[縫線核]]を起始核とする[[セロトニン神経]]は、[[中脳黒質]]から線条体に投射するドーパミン神経に対して抑制的に作用しており、ドーパミン神経上の5-HT<sub>2A</sub>受容体を遮断することで、ドーパミン神経の抑制が解除(脱抑制)されてドーパミンの放出を促進し、抗精神病薬によるD<sub>2</sub>受容体遮断を一部緩和して錐体外路症状を軽減すると考えられている。  
 ほとんどの第2世代抗精神病薬は、有効治療用量内では錐体外路症状や高プロラクチン血症の発現頻度が少ない。この第2世代抗精神病薬のメリットは、薬理学的に第1世代抗精神病薬とはいくつか異なった作用機序に由来する。ただし、D<sub>2</sub>受容体阻害作用を除いて、すべての第2世代抗精神病薬に共通する薬理学的作用機序はいまだ明らかでない。 Meltzerら<ref><pubmed> 2571717 </pubmed></ref>は1989年に、第2世代抗精神病薬の「非定型性 (atypicality)」すなわち錐体外路症状を惹起しない用量範囲内で抗精神病効果を示すという特性に対して最も重要なのは、D<sub>2</sub>受容体遮断作用に比べて5-HT<sub>2A</sub>受容体遮断作用が相対的に強いことであると主張し、「セロトニン-ドーパミン仮説」を提唱した。[[縫線核]]を起始核とする[[セロトニン神経]]は、[[中脳黒質]]から線条体に投射するドーパミン神経に対して抑制的に作用しており、ドーパミン神経上の5-HT<sub>2A</sub>受容体を遮断することで、ドーパミン神経の抑制が解除(脱抑制)されてドーパミンの放出を促進し、抗精神病薬によるD<sub>2</sub>受容体遮断を一部緩和して錐体外路症状を軽減すると考えられている。  


 またD<sub>2</sub>受容体遮断作用に5-HT<sub>2A</sub>受容体遮断作用が加わると、前頭前野や[[海馬]]でドーパミンの放出が亢進して、陰性症状や認知機能障害に対して効果を発揮すると推定されている。  
 またD<sub>2</sub>受容体遮断作用に5-HT<sub>2A</sub>受容体遮断作用が加わると、[[前頭前野]]や[[海馬]]でドーパミンの放出が亢進して、陰性症状や認知機能障害に対して効果を発揮すると推定されている。  


 次に多くの第2世代抗精神病薬は、第1世代抗精神病薬よりもD<sub>2</sub>受容体遮断作用が弱いという特徴がある。抗精神病薬のD<sub>2</sub>受容体に対する親和性の強さは、内因性のドーパミンと比較して強い場合には固い結合 (tight binding)、弱い場合には緩い結合 (loose binding)と呼ばれる。また抗精神病薬とD<sub>2</sub>受容体との結合-解離の時間経過に関して、PETやSPECTによる研究および血漿中プロラクチン値の変動などにより、1日1回投与でも24時間以上D<sub>2</sub>受容体の阻害が持続する抗精神病薬と、24時間以内にD<sub>2</sub>受容体の占拠率が速やかに低下するか、D<sub>2</sub>受容体から速やかに解離する薬物に分類される。  
 次に多くの第2世代抗精神病薬は、第1世代抗精神病薬よりもD<sub>2</sub>受容体遮断作用が弱いという特徴がある。抗精神病薬のD<sub>2</sub>受容体に対する親和性の強さは、内因性のドーパミンと比較して強い場合には固い結合 (tight binding)、弱い場合には緩い結合 (loose binding)と呼ばれる。また抗精神病薬とD<sub>2</sub>受容体との結合-解離の時間経過に関して、PETやSPECTによる研究および血漿中プロラクチン値の変動などにより、1日1回投与でも24時間以上D<sub>2</sub>受容体の阻害が持続する抗精神病薬と、24時間以内にD<sub>2</sub>受容体の占拠率が速やかに低下するか、D<sub>2</sub>受容体から速やかに解離する薬物に分類される。  
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 KapurとSeemanら <ref><pubmed> 11229973 </pubmed></ref>は、抗精神病薬がいかに速くD<sub>2</sub>受容体に結合するかよりも、D<sub>2</sub>受容体からいかに速く解離するか(k<sub>off</sub>で示す)が、第2世代抗精神病薬の“非定型性”に重要であるとする「急速解離 (fast dissociation)仮説」を提唱した。すなわちすべての抗精神病薬は、D<sub>2</sub>受容体からの解離の速度にかかわらず、その占拠率に応じて持続性の ドーパミン伝達を抑制する。しかし、D<sub>2</sub>受容体から素早く解離できる薬剤は、[[ストレス]]などによるドーパミンの一過性の過剰放出に反応して速やかに置換することで、ドーパミン伝達をより生理的に近い状態に保持できると考えた。Loose bindingは、内因性のドーパミンよりD<sub>2</sub>受容体に対する親和性が弱いクロザピン、クエチアピン、オランザピンで錐体外路症状が少ない理由の一つとなり、fast dissociationはクロザピン、クエチアピン、ペロスピロンによる錐体外路症状や高プロラクチン血症の発現頻度が少ない機序を説明可能である。しかしリスペリドンは、内因性のドーパミンより強く結合し、1日1回投与でも24時間以上D<sub>2</sub>受容体の阻害が持続する抗精神病薬であり、彼らの理論に当てはまらない。同様に、第2世代抗精神病薬のブロナンセリンやオランザピンは遅いk<sub>off</sub>を示す。したがって「セロトニン-ドーパミン仮説」や「急速解離仮説」は、多くの第2世代抗精神病薬の作用機序を説明できるのは事実であるが、すべての第2世代抗精神病薬に共通した機序ではない点に留意する必要がある <ref name="ref2"><pubmed> 15289815 </pubmed></ref>。  
 KapurとSeemanら <ref><pubmed> 11229973 </pubmed></ref>は、抗精神病薬がいかに速くD<sub>2</sub>受容体に結合するかよりも、D<sub>2</sub>受容体からいかに速く解離するか(k<sub>off</sub>で示す)が、第2世代抗精神病薬の“非定型性”に重要であるとする「急速解離 (fast dissociation)仮説」を提唱した。すなわちすべての抗精神病薬は、D<sub>2</sub>受容体からの解離の速度にかかわらず、その占拠率に応じて持続性の ドーパミン伝達を抑制する。しかし、D<sub>2</sub>受容体から素早く解離できる薬剤は、[[ストレス]]などによるドーパミンの一過性の過剰放出に反応して速やかに置換することで、ドーパミン伝達をより生理的に近い状態に保持できると考えた。Loose bindingは、内因性のドーパミンよりD<sub>2</sub>受容体に対する親和性が弱いクロザピン、クエチアピン、オランザピンで錐体外路症状が少ない理由の一つとなり、fast dissociationはクロザピン、クエチアピン、ペロスピロンによる錐体外路症状や高プロラクチン血症の発現頻度が少ない機序を説明可能である。しかしリスペリドンは、内因性のドーパミンより強く結合し、1日1回投与でも24時間以上D<sub>2</sub>受容体の阻害が持続する抗精神病薬であり、彼らの理論に当てはまらない。同様に、第2世代抗精神病薬のブロナンセリンやオランザピンは遅いk<sub>off</sub>を示す。したがって「セロトニン-ドーパミン仮説」や「急速解離仮説」は、多くの第2世代抗精神病薬の作用機序を説明できるのは事実であるが、すべての第2世代抗精神病薬に共通した機序ではない点に留意する必要がある <ref name="ref2"><pubmed> 15289815 </pubmed></ref>。  


 第2世代抗精神病薬の中には5-HT<sub>2C</sub>、[[セロトニン#5-HT6.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>6</sub>]]、[[セロトニン#5-HT7.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>7</sub>]]受容体遮断作用や[[セロトニン#5-HT1.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>1A</sub>]]受容体部分作動作用を有する薬剤がある。5-HT<sub>1A</sub>受容体は、縫線核ではシナプス前の[[細胞体]]に自己受容体として存在し、5-HT ニューロンの発火率を抑制する。また辺縁系や大脳皮質ではシナプス後に存在し、発火率を抑制している。クロザピン、ペロスピロン、クエチアピンおよびジプラシドンは、5-HT<sub>1A</sub>受容体部分作動作用を有しており、D<sub>2</sub>と5-HT<sub>2A</sub>受容体間の相互作用と5-HT<sub>1A</sub>受容体の機能的活性化を介して、前頭葉皮質のドーパミン遊離を促進することで、陰性症状や認知機能障害、不安・抑うつ症状に対する効果が期待できる可能性がある。
 第2世代抗精神病薬の中には5-HT<sub>2C</sub>、[[セロトニン#5-HT6.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>6</sub>]]、[[セロトニン#5-HT7.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>7</sub>]]受容体遮断作用や[[セロトニン#5-HT1.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>1A</sub>]]受容体部分作動作用を有する薬剤がある。5-HT<sub>1A</sub>受容体は、縫線核では[[シナプス前]]の[[細胞体]]に自己受容体として存在し、5-HT ニューロンの発火率を抑制する。また辺縁系や[[大脳皮質]]ではシナプス後に存在し、発火率を抑制している。クロザピン、ペロスピロン、クエチアピンおよびジプラシドンは、5-HT<sub>1A</sub>受容体部分作動作用を有しており、D<sub>2</sub>と5-HT<sub>2A</sub>受容体間の相互作用と5-HT<sub>1A</sub>受容体の機能的活性化を介して、[[前頭葉]]皮質のドーパミン遊離を促進することで、陰性症状や認知機能障害、不安・抑うつ症状に対する効果が期待できる可能性がある。


=== ドーパミン部分作動薬の作用機序  ===
=== ドーパミン部分作動薬の作用機序  ===
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== 副作用  ==
== 副作用  ==


 抗精神病薬は中枢性、末梢性に多様な副作用を示すが、その出現頻度や程度は薬物ごとに異なり用量も影響する。副作用はD<sub>2</sub> 受容体、[[アセチルコリン受容体|ムスカリン性acetylcholine (Ach)受容体]]、[[アドレナリン]] (α<sub>1</sub>)受容体、ヒスタミン (H<sub>1</sub>)受容体が、抗精神病薬で遮断された結果生じるものが多い <ref name="ref1" />。多くの副作用は投与早期に出現し、長期投与で耐性を生じやすいが、持続的使用の後出現するものもある。軽微な副作用は、抗精神病薬の減量や薬物の変更、副作用止めの薬物の追加などで対応可能な場合が多い。しかし、頻度は低いが[[wikipedia:JA:悪性症候群|悪性症候群]]など重篤な副作用もある。一般的に第2世代抗精神病薬は、第1世代抗精神病薬と比較して、錐体外路症状、過鎮静、抗コリン性副作用の発現頻度は低いが、体重増加や[[wikipedia:JA:高血糖|高血糖]]など代謝性の副作用に注意が必要である。  
 抗精神病薬は中枢性、末梢性に多様な副作用を示すが、その出現頻度や程度は薬物ごとに異なり用量も影響する。副作用はD<sub>2</sub> 受容体、[[アセチルコリン受容体|ムスカリン性acetylcholine (Ach)受容体]]、[[アドレナリン]] (α<sub>1</sub>)受容体、ヒスタミン (H<sub>1</sub>)受容体が、抗精神病薬で遮断された結果生じるものが多い <ref name="ref1" />。多くの副作用は投与早期に出現し、長期投与で耐性を生じやすいが、持続的使用の後出現するものもある。軽微な副作用は、抗精神病薬の減量や薬物の変更、副作用止めの薬物の追加などで対応可能な場合が多い。しかし、頻度は低いが[[wikipedia:JA:悪性症候群|悪性症候群]]など重篤な副作用もある。一般的に第2世代抗精神病薬は、第1世代抗精神病薬と比較して、錐体外路症状、過鎮静、抗[[コリン]]性副作用の発現頻度は低いが、体重増加や[[wikipedia:JA:高血糖|高血糖]]など代謝性の副作用に注意が必要である。  


=== 錐体外路症状  ===
=== 錐体外路症状  ===
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=== 悪性症候群  ===
=== 悪性症候群  ===


 抗精神病薬の投与開始や増量時、あるいは抗[[パーキンソン病]]薬や抗不安薬の減量・中止時に、脱水や身体的衰弱などが重なった場合に生じやすい。症状は高熱、錐体外路症状([[筋固縮]]、[[振戦]]、[[無動]]など)、[[自律神経症状]]([[wikipedia:JA:発汗|発汗]]、[[wikipedia:JA:頻脈|頻脈]]、[[wikipedia:JA:血圧|血圧]]変動など)、意識障害などが出現し、[[wikipedia:JA:CPK|CPK]]、血中・尿中[[wikipedia:JA:myoglobin|myoglobin]]の上昇などがみられ、重篤な場合は[[wikipedia:JA:腎不全|腎不全]]を合併し、死に至ることもある。[[wikipedia:JA:横紋筋融解症|横紋筋融解症]]を合併する時もある。  
 抗精神病薬の投与開始や増量時、あるいは抗[[パーキンソン病]]薬や抗不安薬の減量・中止時に、脱水や身体的衰弱などが重なった場合に生じやすい。症状は高熱、錐体外路症状([[筋固縮]]、[[振戦]]、[[無動]]など)、[[自律神経症状]]([[wikipedia:JA:発汗|発汗]]、[[wikipedia:JA:頻脈|頻脈]]、[[wikipedia:JA:血圧|血圧]]変動など)、[[意識障害]]などが出現し、[[wikipedia:JA:CPK|CPK]]、血中・尿中[[wikipedia:JA:myoglobin|myoglobin]]の上昇などがみられ、重篤な場合は[[wikipedia:JA:腎不全|腎不全]]を合併し、死に至ることもある。[[wikipedia:JA:横紋筋融解症|横紋筋融解症]]を合併する時もある。  


=== 自律神経症状  ===
=== 自律神経症状  ===

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