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めまいは身体の安定感が失われたと言う自覚的な症状を総称する言葉である。[[回転性めまい]]、[[浮動性めまい]]、[[循環不全にともなうめまい感]]に分類される。原因としては中枢性、末梢性のものがある。治療薬には全般に[[ベンゾジアゼピン]]系の[[抗不安薬]]、抗[[ヒスタミン]]剤、[[wikipedia:ja:炭酸水素ナトリウム|炭酸水素ナトリウム]]も有効である。循環器の異常など、原因が他にある時にはそちらの治療を優先する。 | |||
== 定義と種類 == | == 定義と種類 == | ||
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=== 中枢性めまい === | === 中枢性めまい === | ||
前庭神経核を含む脳幹、小脳、そして大脳皮質の前庭機能に関係した部位である前庭皮質の異常に起因する。ヒトの前庭皮質は複数の部位に拡がっていると考えられているが、代表的な部位として[[側頭]]・[[頭頂]]接合部や[[島]]後部、[[下前頭回]]などを挙げる報告が多い。中枢神経系の器質的異常を背景とすることが多いため、しばしば平衡機能異常だけではなく、[[眼球運動障害]]などの[[脳神経]]系異常や[[運動失調]]など他の神経症状をともなう。脳MRIなどによる脳画像検査とともに神経診察が診断上特に重要である。 | 前庭神経核を含む脳幹、小脳、そして大脳皮質の前庭機能に関係した部位である前庭皮質の異常に起因する。ヒトの前庭皮質は複数の部位に拡がっていると考えられているが、代表的な部位として[[側頭葉|側頭]]・[[頭頂葉|頭頂]]接合部や[[島]]後部、[[下前頭回]]などを挙げる報告が多い。中枢神経系の器質的異常を背景とすることが多いため、しばしば平衡機能異常だけではなく、[[眼球運動障害]]などの[[脳神経]]系異常や[[運動失調]]など他の神経症状をともなう。脳MRIなどによる脳画像検査とともに神経診察が診断上特に重要である。 | ||
=== その他 === | === その他 === | ||
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Benign paroxysmal positional vertigo: BPPV | Benign paroxysmal positional vertigo: BPPV | ||
[[良性発作性頭位性眩暈]]は頭位の変換、または特定の頭位を取ることで誘発される回転性めまいを特徴とし、しばしば悪心嘔吐を伴なう。頻度は多く、めまいを愁訴で医療機関を訪れる患者の半数近くを占めるとの報告もある。耳鳴・難聴はなく、耳石器の障害に伴って生じる前庭神経系の機能異常により生じる代表的な末梢性めまいである。予後は良好で数日~数週間で後遺障害を残すことなく改善するが、しばしば再発する。 | |||
=== メニエール病 === | === メニエール病 === | ||
Ménière’s disease | Ménière’s disease | ||
[[メニエール病]]は回転性めまいとともに、耳鳴・難聴・[[wikipedia:ja:耳閉塞感|耳閉塞感]]と言った症状をいう。通常数十分から数時間程度の激しいめまいが発作性に生じ、一度収まった後も数日~数ヶ月毎に何度も繰り返す。内耳の[[wikipedia:ja:内リンパ水腫|内リンパ水腫]]による前庭神経系と蝸牛神経系の障害に起因する末梢性めまいである。 | |||
=== 前庭神経炎 === | === 前庭神経炎 === | ||
Vestibular neuritis | Vestibular neuritis | ||
[[前庭神経炎]]は良性発作性頭位性眩暈、メニエール病に次いで多い末梢性めまいである。前庭神経の炎症により生じる回転性めまいを特徴とするが、耳鳴難聴は伴わない。 | |||
=== 椎骨脳底動脈不全 === | === 椎骨脳底動脈不全 === | ||
Vertebro-basilar insufficiency | Vertebro-basilar insufficiency | ||
浮動性めまいを呈する代表的な中枢性めまい症である。[[ | 浮動性めまいを呈する代表的な中枢性めまい症である。[[椎骨脳底動脈]]系の狭窄や血管壁の硬化等による自動循環調節能の低下に起因すると考えられている。発作を繰り返す内に脳幹・小脳系に器質的な脳血管障害を生じることが多いため、しばしば脳神経系の障害や失調など他の神経症状をともなう。MRI、[[MRアンギオ]]による脳・脳血管の画像検査が診断上重要となる。 | ||
=== 小脳・脳幹の器質的異常 === | === 小脳・脳幹の器質的異常 === | ||
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== 治療 == | == 治療 == | ||
=== 急性期対症療法 === | === 急性期対症療法 === | ||
原因の如何に関わらずめまいの急性期では[[ベンゾジアゼピン]]系の[[抗不安薬]] | 原因の如何に関わらずめまいの急性期では[[ベンゾジアゼピン]]系の[[抗不安薬]]が有効である<ref name=kawamura>'''河村 満編'''<br>標準的神経治療:めまい<br>''[https://www.jsnt.gr.jp/guideline/memai.html 日本神経治療学会]'':2011</ref> | ||
。また鎮静効果とともに前庭神経機能抑制効果があるとされる抗[[ヒスタミン]]剤([[ドロキシジン]]注射液など)も良く用いられる<ref name=kawamura />。 | |||
世界的に本邦のみで用いられるにも関わらず、臨床現場で今もしばしば使用されているのが7%[[wikipedia:ja:炭酸水素ナトリウム|炭酸水素ナトリウム]] | 世界的に本邦のみで用いられるにも関わらず、臨床現場で今もしばしば使用されているのが7%[[wikipedia:ja:炭酸水素ナトリウム|炭酸水素ナトリウム]]注射液の静注である。投与による血中炭酸ガスの増加にともなう末梢・中枢の血流増加がその作用機序と想定されているが、十分に解明されているとは言えない<ref name=kawamura />。 | ||
最近、[[扁桃体]]の神経細胞に[[化学受容体]]が発現していることが報告され<ref><pubmed> 19945383 </pubmed></ref>、血液が酸性に傾くと扁桃体の異常な興奮とともに不安症状が生じること、さらに血液をアルカリ性に傾けることで扁桃体の異常興奮をともなう不安症状を和らげることができることが報告されている。あるいはこうした情動面の作用も炭酸水素ナトリウム静注の作用機序の一つであるかもしれない。 | 最近、[[扁桃体]]の神経細胞に[[化学受容体]]が発現していることが報告され<ref><pubmed> 19945383 </pubmed></ref>、血液が酸性に傾くと扁桃体の異常な興奮とともに不安症状が生じること、さらに血液をアルカリ性に傾けることで扁桃体の異常興奮をともなう不安症状を和らげることができることが報告されている。あるいはこうした情動面の作用も炭酸水素ナトリウム静注の作用機序の一つであるかもしれない。 | ||
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=== 慢性期対症療法 === | === 慢性期対症療法 === | ||
慢性期には内耳の血流を改善させると言われる[[ベタヒスチン]]や[[ジフェニドール]] | 慢性期には内耳の血流を改善させると言われる[[ベタヒスチン]]や[[ジフェニドール]]が頻用される<ref name=kawamura />。 | ||
=== それぞれの原疾患に即した特異的治療法 === | === それぞれの原疾患に即した特異的治療法 === | ||
良性発作性頭位性眩暈ではめまい発作の原因となっている耳石断片等の浮遊物を問題部位から除去するための[[wikipedia:ja:理学療法|理学療法]]([[wikipedia:ja:Epley法|Epley法]] | 良性発作性頭位性眩暈ではめまい発作の原因となっている耳石断片等の浮遊物を問題部位から除去するための[[wikipedia:ja:理学療法|理学療法]]([[wikipedia:ja:Epley法|Epley法]]など)が推奨されている<ref name=kawamura />。 | ||
メニエール病では内リンパ水腫を改善させるために[[イソソルビド]]などの[[利尿剤]]や[[ステロイド]] | メニエール病では内リンパ水腫を改善させるために[[イソソルビド]]などの[[利尿剤]]や[[ステロイド]]剤も用いられる。重症例には外科治療も試みられる。前庭神経炎の多くは対症療法でめまい症状の改善を図る内に軽快して行くが重症例ではやはりステロイド剤が用いられる<ref name=kawamura />。 | ||
椎骨脳底動脈不全症では通常、[[脳血流改善薬]] | 椎骨脳底動脈不全症では通常、[[脳血流改善薬]]を使用する<ref name=kawamura />。 | ||
循環動態の異常に起因する場合は循環系の治療を優先する。例えば不整脈の治療、[[wikipedia:ja:昇圧剤|昇圧剤]]による[[wikipedia:ja:低血圧|低血圧]] | 循環動態の異常に起因する場合は循環系の治療を優先する。例えば不整脈の治療、[[wikipedia:ja:昇圧剤|昇圧剤]]による[[wikipedia:ja:低血圧|低血圧]]の治療などを行う<ref name=kawamura />。 | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == |