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一方、ポリホスホイノシチドに特異的に結合するドメインはPHドメインで最初に同定され、現在では100種類以上の分子がなんらかの脂質特異的結合ドメインを持つことが明らかとなっている。しかし、同じPHドメインファミリーでもポリホスホイノシチドに対する特異性は異なる場合も多い。例えば[[wikipedia:Autophagy-related_protein_101#Gene_neighborhood|GRP1]]のPHドメインはPI(3,4,5)P<sub>3</sub>に特異的に結合するが、一方[[wikipedia:Oxysterol_binding_protein|OSBP1]]のPHドメインはPI(4)Pにのみ結合する。ドメイン内のわずかなアミノ酸の違いがこのような結合特異性の違いを産むことが分かっている。そのドメイン内には塩基性のアミノ酸が並んでいる部分があり、そこで特定のポリホスホイノシチドと結合していることが多い。ドメイン全体として脂肪酸部分を含むポリホスホイノシチドがちょうど入り込むポケットのような構造をとっている。この構造がドメインを介した結合が静電的結合より特異的な原因である。 | 一方、ポリホスホイノシチドに特異的に結合するドメインはPHドメインで最初に同定され、現在では100種類以上の分子がなんらかの脂質特異的結合ドメインを持つことが明らかとなっている。しかし、同じPHドメインファミリーでもポリホスホイノシチドに対する特異性は異なる場合も多い。例えば[[wikipedia:Autophagy-related_protein_101#Gene_neighborhood|GRP1]]のPHドメインはPI(3,4,5)P<sub>3</sub>に特異的に結合するが、一方[[wikipedia:Oxysterol_binding_protein|OSBP1]]のPHドメインはPI(4)Pにのみ結合する。ドメイン内のわずかなアミノ酸の違いがこのような結合特異性の違いを産むことが分かっている。そのドメイン内には塩基性のアミノ酸が並んでいる部分があり、そこで特定のポリホスホイノシチドと結合していることが多い。ドメイン全体として脂肪酸部分を含むポリホスホイノシチドがちょうど入り込むポケットのような構造をとっている。この構造がドメインを介した結合が静電的結合より特異的な原因である。 | ||
== | ==ホスファチジルイノシトールキナーゼ== | ||
ホスファチジルイノシトールのリン酸化酵素の総称。イノシトール環へのリン酸化の部位によって3-キナーゼ、4-キナーゼ、5-キナーゼに分類され、全部で約15種類存在する。 | |||
PI 4-キナーゼ(PI4K IIα,IIβ,IIIα,IIIβ)はPIの4位をリン酸化する分子でトランスゴルジでのPI4P産生を行う。 | |||
PIP 4-キナーゼ(PIP4Kα,β,γ)はPI(5)PからPI(4,5)P<sub>2</sub>を産生する。αとβは形質膜にγは小胞体に局在する。 | |||
PIP 5キナーゼは(PIP5Kα,β,γ)は形質膜でPI(4)PからPI(4,5)P<sub>2</sub>を産生する。 | |||
PIKfyveはエンドソームでPI(3)Pの5位をリン酸化してPI(3,5)P<sub>2</sub>を産生する。 | |||
このように数多くの分子が細胞内の特定のコンパートメントでホスファチジルイノシトールの産生を行っている。 | |||
PI 3キナーゼは基質特異性によって3種類に分類される。Vps34(Class III PI 3キナーゼ)はPIだけを基質とする酵素で、ゴルジ体やエンドソームでPI(3)Pを産生する。哺乳類から線虫に至るまで保存されている。線虫やショウジョウバエでは、この酵素がインスリンシグナル依存的な生存や寿命をコントロールしていることが知られている。Class II PI 3キナーゼはPIとPI(4)Pから、それぞれPI(3)PとPI(3,4)P<sub>2</sub>を産生する | |||
=== Class I ホスファチジルイノシトール3キナーゼとPI3キナーゼシグナル伝達経路 === | === Class I ホスファチジルイノシトール3キナーゼとPI3キナーゼシグナル伝達経路 === | ||
PI 3キナーゼの中でもClass I PI3キナーゼはPI(4,5)P<sub>2</sub>からPI(3,4,5)P<sub>3</sub>を産生する酵素である。調節サブユニット(p85やp101など)と活性サブユニット(p110)の二つのサブユニットから構成される。[[wikipedia:ja:上皮成長因子|上皮成長因子]](EGF)や[[wikipedia:ja:血小板由来成長因子|血小板由来成長因子]](PDGF)などの増殖因子や[[wikipedia:ja:リゾホスファチジン酸|リゾホスファチジン酸]]などによって[[受容体型チロシンキナーゼ]]や[[Gタンパク質共役型受容体]]が活性化されると、調節サブユニットが[[チロシンリン酸化]]された受容体に結合し、構造変化を起こすことによって活性サブユニットと結合できるようになる。刺激依存的に活性化されたPI3キナーゼは細胞膜においてPI(4,5)P<sub>2</sub>をリン酸化し、PI(3,4,5)P<sub>3</sub>を産生させる<ref><pubmed>16847462 <pubmed></ref>。産生されたPI(3,4,5)P<sub>3</sub>はAktのPHドメインと結合し、Aktを細胞膜へ局在させる。その結果、AktはPDK1や[[mTOR]]C2によってリン酸化されて、その[[タンパク質リン酸化酵素]]活性が活性化される。 | |||
< | Aktの下流には[[wikipedia:P70-S6 Kinase 1|p70 S6キナーゼ]],[[wikipedia:ja:GSK-3|GSK3]],[[wikipedia:ja:FOXO1A|FoxO]]などタンパク質合成を促進する分子、[[wikipedia:ja:糖代謝|糖代謝]]、脂質代謝やアポトーシス抑制を制御する分子が存在している。従って、PI(3,4,5)P<sub>3</sub>産生やPI3キナーゼシグナル伝達経路に異常がある場合、これらの基本的生命現象の劇的な変化に伴い、さまざまな疾患を引き起こす。骨格筋や脂肪組織におけるインスリン産生やインスリン抵抗性の惹起はPI3キナーゼシグナルの低下を引き起こし、血中からの糖取込みの欠失の結果、[[wikipedia:ja:高血糖症|高血糖症]]、糖尿病を引き起こす。また、PI3キナーゼの亢進による過増殖は細胞のがん化を引き起こす。実際、がん細胞では90%以上の割合でPI3キナーゼシグナル分子に変異が認められる。特に、PI(3,4,5)P<sub>3</sub>ホスファターゼPTENには多くの変異が認められることが明らかとなっている。そのため、PI3キナーゼシグナル伝達経路を調節する分子はがんや糖尿病治療の創薬における標的分子としての期待が集まっている。 | ||
== '''ホスファチジルイノシトールホスファターゼ''' == | == '''ホスファチジルイノシトールホスファターゼ''' == |