「脊髄反射」の版間の差分

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伸張反射
伸張反射
最もシンプルな神経経路によって起こる反射は伸張反射(stretch reflex)である.この反射は反射弓に介在神経を含まず,筋紡錘からくる求心性神経が,直接に,同じ筋のアルファ運動ニューロンに[[興奮性シナプス]]を形成している(図1[[ファイル:Saekatomatsu_fig_01.jpg]]).シナプスがひとつしかないので,この関係を単シナプス性という.筋紡錘は筋の急激な伸張によって活動するので,その活動は脊髄に運ばれ,同じ筋(時にはほぼ同じ作用を持つ隣の筋も)を支配するアルファ運動ニューロンを興奮させ,筋を収縮させる.結果として,引き伸ばされた筋は素早く収縮して伸張に抵抗する.ある時はこの反射が筋を防御する役に立ち,またある時は手足の位置の意図的な維持を助けたりする.
最もシンプルな神経経路によって起こる反射は伸張反射(stretch reflex)である.この反射は反射弓に介在神経を含まず,筋紡錘からくる求心性神経が,直接に,同じ筋のアルファ運動ニューロンに[[興奮性シナプス]]を形成している(図1[[ファイル:Saekatomatsu_fig_01.pdf]]).シナプスがひとつしかないので,この関係を単シナプス性という.筋紡錘は筋の急激な伸張によって活動するので,その活動は脊髄に運ばれ,同じ筋(時にはほぼ同じ作用を持つ隣の筋も)を支配するアルファ運動ニューロンを興奮させ,筋を収縮させる.結果として,引き伸ばされた筋は素早く収縮して伸張に抵抗する.ある時はこの反射が筋を防御する役に立ち,またある時は手足の位置の意図的な維持を助けたりする.
実はこのとき,伸張反射を起こしている筋と逆の作用を持つ筋(拮抗筋,antagonist muscle)は収縮しないように抑制を受けて,弛緩している.これは筋紡錘からくる求心性神経が,抑制性の介在神経を介して拮抗筋のアルファ運動ニューロンを抑制していることによる.こちらの経路はシナプスをふたつ持つので2シナプス性である.このように,ある筋が興奮して収縮すると同時にその拮抗筋が抑制されるような神経支配を相反神経支配(reciprocal innervation)と呼び,これが合理的な反射運動を生起させる基盤となっている.
実はこのとき,伸張反射を起こしている筋と逆の作用を持つ筋(拮抗筋,antagonist muscle)は収縮しないように抑制を受けて,弛緩している.これは筋紡錘からくる求心性神経が,抑制性の介在神経を介して拮抗筋のアルファ運動ニューロンを抑制していることによる.こちらの経路はシナプスをふたつ持つので2シナプス性である.このように,ある筋が興奮して収縮すると同時にその拮抗筋が抑制されるような神経支配を相反神経支配(reciprocal innervation)と呼び,これが合理的な反射運動を生起させる基盤となっている.
伸張反射は,刺激となる事象が筋の伸張であることに由来する呼称である.反射弓の特徴から名付ければ単シナプス反射で,臨床的にはしばしば腱反射(tendon reflex, tendon jerk)と呼ばれる.これは臨床検査において腱をハンマーで叩くことによって筋の伸張を引き起こし,反射を誘発するからである.今日でも腱反射の減弱や消失,あるいは亢進が身体のどの部位で起こるかは,神経症診断における重要な手掛かりのひとつである.
伸張反射は,刺激となる事象が筋の伸張であることに由来する呼称である.反射弓の特徴から名付ければ単シナプス反射で,臨床的にはしばしば腱反射(tendon reflex, tendon jerk)と呼ばれる.これは臨床検査において腱をハンマーで叩くことによって筋の伸張を引き起こし,反射を誘発するからである.今日でも腱反射の減弱や消失,あるいは亢進が身体のどの部位で起こるかは,神経症診断における重要な手掛かりのひとつである.
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屈曲反射
屈曲反射
もうひとつの有名な脊髄反射の例は,痛みの刺激から手や足を引っ込める屈曲反射である.この反射は,刺激の種類から見れば痛み刺激反射であり,効果から見れば逃避反射である.引き起こされる身体反応は,刺激を受けた手だけにとどまらず,逆の手や足など広範囲に及び,全体として合理的な反応になっている.反応の及ぶ範囲は,痛み刺激が強いほど広い.これが意図的な行為でなく,脊髄反射であるといえるのは,脊髄を離断した後にも同様に起こるためである.
もうひとつの有名な脊髄反射の例は,痛みの刺激から手や足を引っ込める屈曲反射である.この反射は,刺激の種類から見れば痛み刺激反射であり,効果から見れば逃避反射である.引き起こされる身体反応は,刺激を受けた手だけにとどまらず,逆の手や足など広範囲に及び,全体として合理的な反応になっている.反応の及ぶ範囲は,痛み刺激が強いほど広い.これが意図的な行為でなく,脊髄反射であるといえるのは,脊髄を離断した後にも同様に起こるためである.
このような屈曲反射を可能にする介在神経回路は図2のようなものである.まず相反神経支配によって,刺激を受けた手足を屈曲して刺激から遠ざけるために屈筋を興奮させ,邪魔にならないよう伸筋を抑制する.片方の手足の屈曲による姿勢の崩れを防ぐためには,同時にもう一方の手足はふんばる必要がある.このため逆転した相反神経支配が,対側の伸筋を興奮させ,屈筋を抑制する.これは交差性伸展反射とも呼ばれる.ヒトの場合は手での必要性を理解にくいかもしれないが,四足動物では,手であれ足であれ必須であることが容易に想像できるだろう.
このような屈曲反射を可能にする介在神経回路は図2[[ファイル:Saekatomatsu_fig_02.pdf]]のようなものである.まず相反神経支配によって,刺激を受けた手足を屈曲して刺激から遠ざけるために屈筋を興奮させ,邪魔にならないよう伸筋を抑制する.片方の手足の屈曲による姿勢の崩れを防ぐためには,同時にもう一方の手足はふんばる必要がある.このため逆転した相反神経支配が,対側の伸筋を興奮させ,屈筋を抑制する.これは交差性伸展反射とも呼ばれる.ヒトの場合は手での必要性を理解にくいかもしれないが,四足動物では,手であれ足であれ必須であることが容易に想像できるだろう.


レンショウ抑制
レンショウ抑制
最近,反射強度を調節する回路として注目されている脊髄内メカニズムの一つに[[レンショウ細胞]](Renshaw cell)がある.レンショウ細胞はアルファ運動ニューロンの軸索側枝から興奮性シナプスを受け,そのアルファ運動ニューロンに対して抑制性シナプスを形成して反回抑制(recurrent inhibition)を構成する(図3).この回路はネガティブフィードバックシステムとなり,アルファ運動ニューロンの発火頻度を安定させる.レンショウ細胞は同時に,拮抗筋を抑制している抑制性介在細胞にも抑制性シナプスを形成し,拮抗筋の抑制強度に影響を及ぼす.レンショウ細胞には上位から多くのシナプス入力があり,運動課題の必要に応じてレンショウ細胞の興奮度合いを調整することで,反射の強度が調節されていると想定される。
最近,反射強度を調節する回路として注目されている脊髄内メカニズムの一つに[[レンショウ細胞]](Renshaw cell)がある.レンショウ細胞はアルファ運動ニューロンの軸索側枝から興奮性シナプスを受け,そのアルファ運動ニューロンに対して抑制性シナプスを形成して反回抑制(recurrent inhibition)を構成する(図3[[ファイル:Saekatomatsu_fig_03.pdf]]).この回路はネガティブフィードバックシステムとなり,アルファ運動ニューロンの発火頻度を安定させる.レンショウ細胞は同時に,拮抗筋を抑制している抑制性介在細胞にも抑制性シナプスを形成し,拮抗筋の抑制強度に影響を及ぼす.レンショウ細胞には上位から多くのシナプス入力があり,運動課題の必要に応じてレンショウ細胞の興奮度合いを調整することで,反射の強度が調節されていると想定される。
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