「心身症」の版間の差分

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===ストレス===
===ストレス===


{| class="wikitable" style="float:right"
{| class="wikitable" style="float:right"
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| 自分の将来のことについて<br>家族の将来のことについて<br>自分の健康(体力の衰えや目・耳の衰えを含む)について<br>家族の健康について<br>出費がかさんで負担であることについて<br>借金やローンをかかえて苦しいことについて<br>家族に対する責任が重すぎることについて<br>仕事(家事・勉強等を含む)の量が多すぎて負担であることについて<br>異性関係について<br>職場(学生の場合学校)や取引先の人とうまくやっていけないことについて<br>家族とうまくやっていけないことについて<br>親戚や友人とうまくやっていけないことについて<br>近所とうまくやっていけないことについて<br>家事や育児が大変であることについて<br>いつ解雇(学生の場合退学)させられるかということについて<br>退職後の生活について<br>今の仕事(家事・勉学等を含む)が好きでないことについて<br>他人に妨害されたり、足をひっぱられることについて<br>義理のつき合いで負担であることについて<br>暇をもてあましがちであることについて<br>どうしてもやり遂げなければならないことをひかえていることについて<br>自分の外見や容姿に自信がもてないことについて<br>生活していく上で性差別を感じることについて<br>不規則な生活がつづいていることについて<br>まわりからの期待が高すぎて負担を感じることについて<br>陰口をたたかれたり、うわさ話をせれるのが辛いことについて<br>過去のことで深く公開しつづけていることについて<br>公害(大気汚染や近隣騒音など)があることについて<br>コンピューターなどの新しい機械についていけないことについて<br>朝夕のラッシュや遠距離通勤(通学を含む)に負担を感じることについて<br>
| 自分の将来のことについて<br>家族の将来のことについて<br>自分の健康(体力の衰えや目・耳の衰えを含む)について<br>家族の健康について<br>出費がかさんで負担であることについて<br>借金やローンをかかえて苦しいことについて<br>家族に対する責任が重すぎることについて<br>仕事(家事・勉強等を含む)の量が多すぎて負担であることについて<br>異性関係について<br>職場(学生の場合学校)や取引先の人とうまくやっていけないことについて<br>家族とうまくやっていけないことについて<br>親戚や友人とうまくやっていけないことについて<br>近所とうまくやっていけないことについて<br>家事や育児が大変であることについて<br>いつ解雇(学生の場合退学)させられるかということについて<br>退職後の生活について<br>今の仕事(家事・勉学等を含む)が好きでないことについて<br>他人に妨害されたり、足をひっぱられることについて<br>義理のつき合いで負担であることについて<br>暇をもてあましがちであることについて<br>どうしてもやり遂げなければならないことをひかえていることについて<br>自分の外見や容姿に自信がもてないことについて<br>生活していく上で性差別を感じることについて<br>不規則な生活がつづいていることについて<br>まわりからの期待が高すぎて負担を感じることについて<br>陰口をたたかれたり、うわさ話をせれるのが辛いことについて<br>過去のことで深く公開しつづけていることについて<br>公害(大気汚染や近隣騒音など)があることについて<br>コンピューターなどの新しい機械についていけないことについて<br>朝夕のラッシュや遠距離通勤(通学を含む)に負担を感じることについて<br>
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|-
|}
{| class="wikitable"
|+表3.社会的再適応評価尺度
|-
| style="text-align:center" | 出来事
| style="text-align:center" | ストレス値
| style="text-align:center" | 出来事
| style="text-align:center" | ストレス値
|-
| 配偶者の死
| style="text-align:center" | 100
| 子どもの独立
| style="text-align:center" | 29
|-
| 離婚
| style="text-align:center" | 73
| 親戚とのトラブル
| style="text-align:center" | 29
|-
| 夫婦の別居
| style="text-align:center" | 65
| 自分の輝かしい成功
| style="text-align:center" | 28
|-
| 留置所などへの拘留
| style="text-align:center" | 63
| 妻の転職や離職
| style="text-align:center" | 26
|-
| 家族の死
| style="text-align:center" | 63
| 入学・卒業・退学
| style="text-align:center" | 26
|-
| ケガや病気
| style="text-align:center" | 53
| 生活の変化
| style="text-align:center" | 25
|-
| 結婚
| style="text-align:center" | 50
| 習慣の変化
| style="text-align:center" | 24
|-
| 失業
| style="text-align:center" | 47
| 上司とのトラブル
| style="text-align:center" | 23
|-
| 夫婦の和解
| style="text-align:center" | 45
| 労働時間や労働条件の変化
| style="text-align:center" | 20
|-
| 退職
| style="text-align:center" | 45
| 転居
| style="text-align:center" | 20
|-
| 家族の病気
| style="text-align:center" | 44
| 転校
| style="text-align:center" | 20
|-
| 妊娠
| style="text-align:center" | 40
| 趣味やレジャーの変化
| style="text-align:center" | 19
|-
| 性の悩み
| style="text-align:center" | 39
| 宗教活動の変化
| style="text-align:center" | 19
|-
| 新しい家族が増える
| style="text-align:center" | 39
| 社会活動の変化
| style="text-align:center" | 18
|-
| 転職
| style="text-align:center" | 39
| 1万ドル以下の抵当か借金
| style="text-align:center" | 17
|-
| 経済状態の変化
| style="text-align:center" | 38
| 睡眠習慣の変化
| style="text-align:center" | 16
|-
| 親友の死
| style="text-align:center" | 37
| 家族だんらんの変化
| style="text-align:center" | 15
|-
| 職場の配置転換
| style="text-align:center" | 36
| 食習慣の変化
| style="text-align:center" | 15
|-
| 夫婦ゲンカ
| style="text-align:center" | 35
| 長期休暇
| style="text-align:center" | 13
|-
| 1万ドル以上の抵当か借金
| style="text-align:center" | 31
| クリスマス
| style="text-align:center" | 12
|-
| 担保・貸付金の損失
| style="text-align:center" | 30
| 軽度な法律違反
| style="text-align:center" | 11
|-
| 職場での責任の変化
| style="text-align:center" | 29
|
| style="text-align:center" |
|-
|}
|}


 ストレス研究の歴史で最も大きな意味を持つのは、Selyeのストレス学説<ref>''' Selye, H '''<br> A syndrome produced by diverse nocuous agents.<br>'' Nature, 1936. 138: p. 32'':1936</ref> <ref><pubmed> 9722327 </pubmed></ref>である。Selyeは、ストレスによって起こる生体の非特異的な生体防御反応としての「[[一般適応症候群]]」を提唱し、ストレス後のステージとして、段階的に警告反応期(ショック相、反ショック相)、抵抗期、症憊期と進行し、[[wj:副腎皮質|副腎皮質]]の肥大、[[wj:胸腺|胸腺]]萎縮、[[wj:胃・十二指腸潰瘍|胃・十二指腸潰瘍]]の3つの症状が起こるとした。ここで重要なのは、物理的・科学的・生物学的ストレッサーと同様に、心理的ストレッサーも同じような反応が起きるということを提唱したことである。
 ストレス研究の歴史で最も大きな意味を持つのは、Selyeのストレス学説<ref>''' Selye, H '''<br> A syndrome produced by diverse nocuous agents.<br>'' Nature, 1936. 138: p. 32'':1936</ref> <ref><pubmed> 9722327 </pubmed></ref>である。Selyeは、ストレスによって起こる生体の非特異的な生体防御反応としての「[[一般適応症候群]]」を提唱し、ストレス後のステージとして、段階的に警告反応期(ショック相、反ショック相)、抵抗期、症憊期と進行し、[[wj:副腎皮質|副腎皮質]]の肥大、[[wj:胸腺|胸腺]]萎縮、[[wj:胃・十二指腸潰瘍|胃・十二指腸潰瘍]]の3つの症状が起こるとした。ここで重要なのは、物理的・科学的・生物学的ストレッサーと同様に、心理的ストレッサーも同じような反応が起きるということを提唱したことである。


 心理社会的ストレスの研究として有名なものとして、Holmes and Raheによるライフイベントによるストレスモデルがある。彼らはストレスを「日常生活上の様々な変化(ライフイベント)に再適応するために必要な努力」と定義して、その努力によってエネルギーが費やされ蓄積し、個人の対応能力を超えた際に疾患が生じると考え、表のような尺度を作成した(表3)[[Image:Yoshiyamoriguchi_fig_3.png|thumb|300px|'''表3.社会的再適応評価尺度'''<br>]] <ref><pubmed> 6059863 </pubmed></ref><ref><pubmed> 6059865 </pubmed></ref>。対してLazarus <ref>''' Lazarus, R. S. '''<br> Psychological stress and the coping process.<br>'' McGraw-Hill, New York'':1966</ref>は、「日常生活の些事により、常に長期間繰り返され、かつ意識されないうちに経験されるストレス」の重要性を強調した(表4)。重大なライフイベントであれ日常のいらだちの蓄積であれ、彼らが提言したことは、人間であれば誰もが遭遇する可能性のある出来事が、[[ストレス反応]]を引き起こし、心身症につながる可能性があるということである。また、突発的な急性のストレス反応でも、それが繰り返され蓄積し慢性化することにより、その身体症状が遷延化することにつながる。もちろん、大きなストレス反応であれば、一回の急性のストレス反応が重大な心身の問題を引き起こすことになる。
 心理社会的ストレスの研究として有名なものとして、Holmes and Raheによるライフイベントによるストレスモデルがある。彼らはストレスを「日常生活上の様々な変化(ライフイベント)に再適応するために必要な努力」と定義して、その努力によってエネルギーが費やされ蓄積し、個人の対応能力を超えた際に疾患が生じると考え、表のような尺度を作成した(表3)<ref><pubmed> 6059863 </pubmed></ref><ref><pubmed> 6059865 </pubmed></ref>。対してLazarus <ref>''' Lazarus, R. S. '''<br> Psychological stress and the coping process.<br>'' McGraw-Hill, New York'':1966</ref>は、「日常生活の些事により、常に長期間繰り返され、かつ意識されないうちに経験されるストレス」の重要性を強調した(表4)。重大なライフイベントであれ日常のいらだちの蓄積であれ、彼らが提言したことは、人間であれば誰もが遭遇する可能性のある出来事が、[[ストレス反応]]を引き起こし、心身症につながる可能性があるということである。また、突発的な急性のストレス反応でも、それが繰り返され蓄積し慢性化することにより、その身体症状が遷延化することにつながる。もちろん、大きなストレス反応であれば、一回の急性のストレス反応が重大な心身の問題を引き起こすことになる。


 また、外からみると同じにみえるストレスでも、個人によってストレスとして感じやすい傾向は違う。この個体差を説明するために、疾病発症のモデルとして語られるものとして、ストレス脆弱性モデルがある(図1)[[Image:Yoshiyamoriguchi_fig_5.png|thumb|300px|'''図1.ストレス脆弱性モデル '''<br>]]。これは、何らかの脳機能不全として語られる内因に、ストレス(外因)が加わり、疾病を発症するとするものである。この文脈で語られる脆弱性(内因)としては、遺伝的素因を含むが、後天的に獲得されたものも個体の脆弱性となり得る。
 また、外からみると同じにみえるストレスでも、個人によってストレスとして感じやすい傾向は違う。この個体差を説明するために、疾病発症のモデルとして語られるものとして、ストレス脆弱性モデルがある(図1)[[Image:Yoshiyamoriguchi_fig_5.png|thumb|300px|'''図1.ストレス脆弱性モデル '''<br>]]。これは、何らかの脳機能不全として語られる内因に、ストレス(外因)が加わり、疾病を発症するとするものである。この文脈で語られる脆弱性(内因)としては、遺伝的素因を含むが、後天的に獲得されたものも個体の脆弱性となり得る。

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