「脳弓下器官」の版間の差分

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== 発現するセンサー分子及び受容体 ==
== 発現するセンサー分子及び受容体 ==


 脳弓下器官に発現するセンサータンパク質としては、体液ナトリウムセンサーNax<ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref>、[[カルシウム]]センサーCaR<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref>、浸透圧の感知に関与するとされるTRPV4チャンネル<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref>や水チャンネルのAQP-4<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref>が報告されている。ペプチド受容体としては、アンジオテンシンII受容体<ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref>、アミリン受容体<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref>、カルシトニン受容体<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>、ナトリウム利尿ペプチド受容体<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref>、[[エストロゲン受容体α]]<ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref>、[[糖質コルチコイド]]受容体<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref>などの発現が報告されてきたが、さらに、近年のマイクロアレイ実験からエンドセリンやアディポネクチン、アペリン、[[エンドカンナビノイド]]、レプチン、プロラクチン、甲状腺ホルモンの受容体の発現が、他の脳領域に比べて脳弓下器官に多いと報告されている<ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref>。
 脳弓下器官に発現するセンサータンパク質としては、体液ナトリウムセンサーNax<ref name=ref3><pubmed>11027237</pubmed></ref>、[[カルシウム]]センサーCaR<ref name=ref4><pubmed>9030412</pubmed></ref>、浸透圧の感知に関与するとされるTRPV4チャンネル<ref name=ref5><pubmed>11081638</pubmed></ref>や水チャンネルのAQP-4<ref name=ref6><pubmed>9548213</pubmed></ref>が報告されている。ペプチド受容体としては、アンジオテンシンII受容体<ref name=ref7><pubmed>1577995</pubmed></ref>、アミリン受容体<ref name=ref8><pubmed>14715154</pubmed></ref>、カルシトニン受容体<ref name=ref9><pubmed>6320949</pubmed></ref>、ナトリウム利尿ペプチド受容体<ref name=ref10><pubmed>2852316</pubmed></ref>、[[エストロゲン受容体α]]<ref name=ref11><pubmed>10098943</pubmed></ref>、[[糖質コルチコイド]]受容体<ref name=ref12><pubmed>9582428</pubmed></ref>などの発現が報告されてきたが、さらに、近年のマイクロアレイ実験からエンドセリンやアディポネクチン、アペリン、[[エンドカンナビノイド]]、レプチン、プロラクチン、甲状腺ホルモンの受容体の発現が、他の脳領域に比べて脳弓下器官に多いと報告されている<ref name=ref13><pubmed>18832082</pubmed></ref>。


== 体液ナトリウムレベル感知機構 ==
== 体液ナトリウムレベル感知機構 ==


 センサー分子の中で、生理機能が最もよくわかっているのはNaxである。Naxは電位依存性ナトリウムチャンネルと構造的に近いが電位感受性を示さないチャンネル分子である<ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref>。細胞外のナトリウムレベルが平常レベルから上昇したことに応答して開口する<ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>。脳弓下器官においてはエンドセリン3(ET-3)が発現しており、ETBR受容体を介した信号伝達によりNaxのナトリウム濃度感受性を高めている<ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref>。さらに脱水時には、このET-3の発現が上昇することがわかっている<ref name=ref16 />。脳弓下器官のグリア細胞(アストロサイト及び[[上衣細胞]])の多くは、膜状突起を伸ばして神経細胞を取り巻いているが、Naxは、主にその突起部に発現している<ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。長時間の絶水により体液(血液や脳脊髄液)のナトリウムレベルが通常レベルよりも上昇すると、Naxが開口してナトリウムイオンが流入し、Na/Kポンプ(Na+/K+-ATPase)が活性化される。これに伴い、嫌気的糖代謝活性が上昇し、最終代謝産物である乳酸が細胞外に放出される。この乳酸がグリア―ニューロン間の伝達物質として機能し、[[GABA]]ニューロンの発火活動が亢進することが確認されている<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref>。
 センサー分子の中で、生理機能が最もよくわかっているのはNaxである。Naxは電位依存性ナトリウムチャンネルと構造的に近いが電位感受性を示さないチャンネル分子である<ref name=ref14><pubmed>17350991</pubmed></ref>。細胞外のナトリウムレベルが平常レベルから上昇したことに応答して開口する<ref name=ref15><pubmed>11992118</pubmed></ref>。脳弓下器官においてはエンドセリン3(ET-3)が発現しており、ETBR受容体を介した信号伝達によりNaxのナトリウム濃度感受性を高めている<ref name=ref16><pubmed>23541371</pubmed></ref>。さらに脱水時には、このET-3の発現が上昇することがわかっている<ref name=ref16 />。脳弓下器官のグリア細胞(アストロサイト及び[[上衣細胞]])の多くは、膜状突起を伸ばして神経細胞を取り巻いているが、Naxは、主にその突起部に発現している<ref name=ref17><pubmed>16223844</pubmed></ref>。長時間の絶水により体液(血液や脳脊髄液)のナトリウムレベルが通常レベルよりも上昇すると、Naxが開口してナトリウムイオンが流入し、Na/Kポンプ(Na+/K+-ATPase)が活性化される。これに伴い、嫌気的糖代謝活性が上昇し、最終代謝産物である乳酸が細胞外に放出される。この乳酸がグリア―ニューロン間の伝達物質として機能し、[[GABA]]ニューロンの発火活動が亢進することが確認されている<ref name=ref18><pubmed>17408578</pubmed></ref>。


== 脳弓下器官と疾患 ==
== 脳弓下器官と疾患 ==


 血中ナトリウムレベルが持続的に高い症状を示す、本態性高ナトリウム血症の一部の患者の体内において、Naxに対する自己抗体の産生が報告された。Naxを発現している上衣細胞やアストロサイトは脳弓下器官の神経細胞を保護する役目も果たしており、補体活性化によるNax陽性グリア細胞の損傷によって抗利尿ホルモンの分泌を制御する神経の活動制御に異常を来たしたものと考えられた<ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref>。この患者では、脱水時の抗利尿ホルモンの分泌応答がなく、口渇感も欠損していた。
 血中ナトリウムレベルが持続的に高い症状を示す、本態性高ナトリウム血症の一部の患者の体内において、Naxに対する自己抗体の産生が報告された。Naxを発現している上衣細胞やアストロサイトは脳弓下器官の神経細胞を保護する役目も果たしており、補体活性化によるNax陽性グリア細胞の損傷によって抗利尿ホルモンの分泌を制御する神経の活動制御に異常を来たしたものと考えられた<ref name=ref19><pubmed>20510856</pubmed></ref>。この患者では、脱水時の抗利尿ホルモンの分泌応答がなく、口渇感も欠損していた。


 脳弓下器官を含む脳室周囲器官は、[[血液脳関門]]を欠くことから血中の病原物質に対して脆弱であり、脳への入り口となり得る。近年、敗血症、自己免疫性脳炎、全身性アミロイドーシス、[[プリオン]]感染等、幅広い疾患に関与する可能性が指摘されている<ref name=ref20><pubmed></pubmed></ref>。
 脳弓下器官を含む脳室周囲器官は、[[血液脳関門]]を欠くことから血中の病原物質に対して脆弱であり、脳への入り口となり得る。近年、敗血症、自己免疫性脳炎、全身性アミロイドーシス、[[プリオン]]感染等、幅広い疾患に関与する可能性が指摘されている<ref name=ref20><pubmed>20830478</pubmed></ref>。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==

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