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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0164995 本多 真]</font><br> | |||
''東京都医学総合研究所''<br> | |||
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2012年9月25日 原稿完成日:2012年10月16日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | |||
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英語名:narcolepsy 独:Narkolepsie 仏:narcolepsie | 英語名:narcolepsy 独:Narkolepsie 仏:narcolepsie | ||
同義語:ジェリノー症候群、居眠り病 | 同義語:ジェリノー症候群、居眠り病 | ||
関連語:[[情動]]脱力発作を伴うナルコレプシー、ナルコレプシーカタプレキシー、オレキシン欠乏を伴うナルコレプシー | |||
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ナルコレプシーは日中の居眠りの反復と特異な[[情動脱力発作]]を中核症状とする[[睡眠障害]]である。随伴症状として[[睡眠麻痺]]、入眠時[[幻覚]]も多く見られる。通常10代に眠気で発症し、情動脱力発作がその後に生じる。検査所見では、[[反復睡眠潜時検査]](multiple sleep latency test, MSLT)で病的眠気とされる平均睡眠潜時の8分以下への短縮と2回以上の入眠時[[レム睡眠]]期が確認される。また日本人症例ではほぼ100%がHLA-DQB1*06:02遺伝子型をもつ。さらに90%の症例で[[脳脊髄液]]中の[[オレキシン]]A濃度が検出限界以下で、ナルコレプシーに特異的な所見とされる。診断は眠気持続と明確な情動脱力発作の既往でなされ、MSLT所見や脳脊髄液中オレキシンA濃度低値も参考として診断基準に含まれる。治療は生活指導と薬物療法を行う。ナルコレプシーは一般に薬物治療反応性が良い。眠気に対しては半減期を考慮して[[精神刺激薬]]を用い、情動脱力発作に対してはレム睡眠阻害作用のある[[クロミプラミン]]等を用いる。ナルコレプシーの病態は、覚醒性のオレキシン神経細胞が変性して、覚醒位相の維持ができなくなり居眠りする([[睡眠覚醒リズム]]の多相化)、そして[[睡眠]][[覚醒]]のスイッチが不安定となることで、覚醒とレム睡眠の中間的な寝ぼけ状態を呈する(レム睡眠関連症状)ことから理解可能である。 | ナルコレプシーは日中の居眠りの反復と特異な[[情動脱力発作]]を中核症状とする[[睡眠障害]]である。随伴症状として[[睡眠麻痺]]、入眠時[[幻覚]]も多く見られる。通常10代に眠気で発症し、情動脱力発作がその後に生じる。検査所見では、[[反復睡眠潜時検査]](multiple sleep latency test, MSLT)で病的眠気とされる平均睡眠潜時の8分以下への短縮と2回以上の入眠時[[レム睡眠]]期が確認される。また日本人症例ではほぼ100%がHLA-DQB1*06:02遺伝子型をもつ。さらに90%の症例で[[脳脊髄液]]中の[[オレキシン]]A濃度が検出限界以下で、ナルコレプシーに特異的な所見とされる。診断は眠気持続と明確な情動脱力発作の既往でなされ、MSLT所見や脳脊髄液中オレキシンA濃度低値も参考として診断基準に含まれる。治療は生活指導と薬物療法を行う。ナルコレプシーは一般に薬物治療反応性が良い。眠気に対しては半減期を考慮して[[精神刺激薬]]を用い、情動脱力発作に対してはレム睡眠阻害作用のある[[クロミプラミン]]等を用いる。ナルコレプシーの病態は、覚醒性のオレキシン神経細胞が変性して、覚醒位相の維持ができなくなり居眠りする([[睡眠覚醒リズム]]の多相化)、そして[[睡眠]][[覚醒]]のスイッチが不安定となることで、覚醒とレム睡眠の中間的な寝ぼけ状態を呈する(レム睡眠関連症状)ことから理解可能である。 | ||
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== はじめに == | == はじめに == | ||
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== 診断(診断基準、鑑別診断) == | == 診断(診断基準、鑑別診断) == | ||
狭義の過眠症の診断には、睡眠覚醒中枢の働きを直接評価する方法がないため、二次的に日中の眠気をきたす様々な疾患を否定してから行う除外診断が原則である。まず眠気をきたす薬物使用、[[季節性感情障害]]や[[筋強直性ジストロフィー]] | 狭義の過眠症の診断には、睡眠覚醒中枢の働きを直接評価する方法がないため、二次的に日中の眠気をきたす様々な疾患を否定してから行う除外診断が原則である。まず眠気をきたす薬物使用、[[季節性感情障害]]や[[筋強直性ジストロフィー]]など過眠を伴う[[精神神経疾患]]を除外する。次に様々な睡眠障害を順次鑑別する。睡眠表(睡眠日誌)により睡眠時間の不足や[[概日リズム睡眠障害]]を除外、そして睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害など夜間睡眠に質的障害をもたらす疾患がないことを終夜[[睡眠ポリグラフ検査]]で確認する。ナルコレプシーは日中の居眠りの反復と情動脱力発作の存在から、除外診断を待つだけでなく積極的に臨床診断を行うことが可能である。典型的な情動脱力発作の既往の確認が診断の鍵となるが、脱力の有無ではなく、発作経過の体験として聴取すると判断しやすい。 | ||
ナルコレプシーには診断に有用な3つの指標が存在する。 | ナルコレプシーには診断に有用な3つの指標が存在する。 | ||
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2つ目は情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者の約90%(日本人ではほぼ100%)が[[HLA]]-DQB1*06:02遺伝子型をもつことである。1983年に日本人ナルコレプシー症例とHLA-DR2血清型との密接な関連が報告され<ref name="ref15"><pubmed>6597978</pubmed></ref> <ref name="ref16">'''Honda Y, Asaka A, Tanaka Y, Juji T.'''<br>Discrimination of narcoleptic patients by using genetic markers and HLA. <br>''Sleep Res.'' 1983;12:254.</ref>、その後HLA-DQB1*06:02が人種を越えてナルコレプシーと強い連鎖を示すことが見いだされた<ref name="ref17"><pubmed>11179016</pubmed></ref>。日本人の一般人口では12-13%、白人では20-25%がこの遺伝子型をもつため疾患特異性は低いが、感度は高くHLA遺伝子型が不一致な例は診断を再考する必要がある。 | 2つ目は情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者の約90%(日本人ではほぼ100%)が[[HLA]]-DQB1*06:02遺伝子型をもつことである。1983年に日本人ナルコレプシー症例とHLA-DR2血清型との密接な関連が報告され<ref name="ref15"><pubmed>6597978</pubmed></ref> <ref name="ref16">'''Honda Y, Asaka A, Tanaka Y, Juji T.'''<br>Discrimination of narcoleptic patients by using genetic markers and HLA. <br>''Sleep Res.'' 1983;12:254.</ref>、その後HLA-DQB1*06:02が人種を越えてナルコレプシーと強い連鎖を示すことが見いだされた<ref name="ref17"><pubmed>11179016</pubmed></ref>。日本人の一般人口では12-13%、白人では20-25%がこの遺伝子型をもつため疾患特異性は低いが、感度は高くHLA遺伝子型が不一致な例は診断を再考する必要がある。 | ||
3つ目は、情動脱力発作を伴うナルコレプシーの約90% | 3つ目は、情動脱力発作を伴うナルコレプシーの約90%では脳脊[[髄液]]中のオレキシンAタンパク質濃度が測定限界値以下に低下していること、この所見がナルコレプシーに疾患特異的で発症直後から明瞭な差があることである<ref name="ref18"><pubmed>12374492</pubmed></ref>。死後脳を用いた検討で[[視床下部]]に局在する覚醒性のオレキシン細胞が変性脱落することが確認され、脳脊髄液中のオレキシン低値の原因と考えられる<ref name="ref19"><pubmed>10973318</pubmed></ref> <ref name="ref20"><pubmed>11055430</pubmed></ref>。この所見は早期診断のほか身体合併症例や小児例など診断が難しい場合に有用である。 2005年の国際睡眠障害分類第2版(ICSD2)<ref name="ref21">American Academy of Sleep Medicine. <br>The international classification of sleep disorders, 2nd ed.:Diagnostic & coding manual. <br>Westchester: American Academy of Sleep Medicine; 2005.</ref>(日本睡眠学会による翻訳版が入手可能<ref name="ref22">米国睡眠学会, 日本睡眠学会診断分類委員会訳.<br>睡眠障害国際分類第2版 診断とコードの手引き. <br>東京: 医学書院; 2010.</ref>)では、このうち入眠時レム睡眠期が生じやすい特徴を重視して、ナルコレプシーの病名を含む「情動脱力発作を伴うナルコレプシー」「情動脱力発作を伴わないナルコレプシー」「身体疾患によるナルコレプシー」を分類している。臨床的な持続性の過眠症状があり、終夜睡眠ポリグラフ検査で夜間睡眠が6時間以上で質的障害がないことを確認した上で、翌日のMSLTで眠気の重症度(平均睡眠潜時8分以下)とレム睡眠への移行のしやすさ(入眠後15分以内にレム睡眠期が生じることが2回以上)を確認することが、ICSD2におけるナルコレプシーの基本的な概念である。明確な情動脱力発作がある場合はPSG-MSLT検査は必須ではないが、確認することが推奨されている。ICSD2の診断基準の要点を表1に示す。 | ||
<br> '''表1.ナルコレプシーの診断基準''' ICSD2(文献<ref name="ref21" /><ref name="ref22" />)より改変 | <br> '''表1.ナルコレプシーの診断基準''' ICSD2(文献<ref name="ref21" /><ref name="ref22" />)より改変 | ||
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== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
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