「カイニン酸型グルタミン酸受容体」の版間の差分

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== 構造 ==
== 構造 ==
[[ファイル:Etaukosuzuki_Fig1.png|x300px |thumb|図1 カイニン酸受容体サブユニットの膜トポロジーと機能ドメイン。グルタミン酸はリガンド結合ドメインLBDに結合し、N末ドメインNTDはヘテロ4量体形成に関わる。(文献1より改変)
]]


カイニン酸受容体の分子構造は、同じイオンチャンネル型グルタミン酸受容体であるAMPA受容体と多くの共通点を有する<ref><pubmed> 21256604 </pubmed></ref>。他のイオンチャンネル型受容体が5つのサブユニットからなる5量体構造をとるのに対し、AMPA受容体と同様に4量体構造の受容体チャンネルを構成すると考えられている。同様に、各サブユニットの膜トポロジーについても、4つの疎水性配列M1-4のうち、M1、M3、M4は膜貫通ドメインを構成するが、M2は細胞膜を貫通せずヘアピンループ状に細胞内→細胞内へと折り返す点はAMPA受容体と共通である<ref><pubmed> 8041762 </pubmed></ref>。また、N末ドメイン(N-terminal domain: NTD)を介したサブユニット間の相互作用を介してヘテロ4量体を構成すると考えられている<ref><pubmed> 11498054 </pubmed></ref>。リガンド結合ドメイン(ligand-binding domain: LBD)はM1よりN末とM3-M4間の2つの細胞外領域が関与し、この点でもAMPA受容体と同様である<ref><pubmed> 15721240 </pubmed></ref>。GluK1、GluK2がRNA編集によるイオン透過性の修飾を受け、これが発達依存的にコントロールされる点もAMPA受容体サブユニットGluA2と類似する。
カイニン酸受容体の分子構造は、同じイオンチャンネル型グルタミン酸受容体であるAMPA受容体と多くの共通点を有する<ref><pubmed> 21256604 </pubmed></ref>。他のイオンチャンネル型受容体が5つのサブユニットからなる5量体構造をとるのに対し、AMPA受容体と同様に4量体構造の受容体チャンネルを構成すると考えられている。同様に、各サブユニットの膜トポロジーについても、4つの疎水性配列M1-4のうち、M1、M3、M4は膜貫通ドメインを構成するが、M2は細胞膜を貫通せずヘアピンループ状に細胞内→細胞内へと折り返す点はAMPA受容体と共通である<ref><pubmed> 8041762 </pubmed></ref>。また、N末ドメイン(N-terminal domain: NTD)を介したサブユニット間の相互作用を介してヘテロ4量体を構成すると考えられている<ref><pubmed> 11498054 </pubmed></ref>。リガンド結合ドメイン(ligand-binding domain: LBD)はM1よりN末とM3-M4間の2つの細胞外領域が関与し、この点でもAMPA受容体と同様である<ref><pubmed> 15721240 </pubmed></ref>。GluK1、GluK2がRNA編集によるイオン透過性の修飾を受け、これが発達依存的にコントロールされる点もAMPA受容体サブユニットGluA2と類似する。
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== 生理的機能 ==
== 生理的機能 ==
[[ファイル:Etsukosuzuki_Fig2.png|x300px |thumb|図2 スライスパッチクランプ法を用いて記録した海馬CA3野苔状線維シナプスのAMPA受容体とカイニン酸受容体を介する二成分からなる興奮性シナプス後電流(EPSC)の例(未発表データ)。標準液中で記録したEPSCにはAMPA受容体を介する速い成分とカイニン酸受容体を介する遅い成分の両者が混在する。選択的なAMPA受容体アンタゴニスト(GYKI 53655、 30 μM)存在下で記録したカイニン酸受容体応答(赤トレース)を、標準液中で記録した波形(黒トレース)から減算し、AMPA受容体応答(青トレース)を抽出した。]]
当初はAMPA受容体とカイニン酸受容体を区別するための選択的な薬剤が存在せず、中枢神経系におけるカイニン酸受容体の機能を研究することは難しかったが、GYKI53655などのAMPA受容体選択的なアンタゴニストの登場により、AMPA受容体を介した成分と分離することが可能となった<ref><pubmed> 7826635 </pubmed></ref>。最初にカイニン酸受容体を介した興奮性シナプス後電流(EPSC)が薬理学的に分離されたのは、海馬CA3野の苔状線維シナプスであった(<ref><pubmed> 9217159 </pubmed></ref>、<ref><pubmed> 9217158 </pubmed></ref>)。カイニン酸受容体が介するシナプス応答は、海馬CA3野の同じ錐体細胞から得られるAMPA受容体を介するシナプス応答に比べてゆっくりとした時間経過を示す(図2)。カイニン酸受容体を介するシナプス応答のピーク振幅は、AMPA受容体を介するシナプス応答の~10 %程度と小さな割合だが、持続時間が長いため興奮性シナプス後電位(EPSP)の加重によるスパイク発生に寄与すると考えられている。また、Gタンパク質を仲介する代謝型受容体の作用様式で、海馬CA1野の抑制ニューロン終末からのGABA放出を抑制するという報告や、遅い後過分極(Slow after hyperpolarization: slow AHP)を抑制するという報告もある。
当初はAMPA受容体とカイニン酸受容体を区別するための選択的な薬剤が存在せず、中枢神経系におけるカイニン酸受容体の機能を研究することは難しかったが、GYKI53655などのAMPA受容体選択的なアンタゴニストの登場により、AMPA受容体を介した成分と分離することが可能となった<ref><pubmed> 7826635 </pubmed></ref>。最初にカイニン酸受容体を介した興奮性シナプス後電流(EPSC)が薬理学的に分離されたのは、海馬CA3野の苔状線維シナプスであった(<ref><pubmed> 9217159 </pubmed></ref>、<ref><pubmed> 9217158 </pubmed></ref>)。カイニン酸受容体が介するシナプス応答は、海馬CA3野の同じ錐体細胞から得られるAMPA受容体を介するシナプス応答に比べてゆっくりとした時間経過を示す(図2)。カイニン酸受容体を介するシナプス応答のピーク振幅は、AMPA受容体を介するシナプス応答の~10 %程度と小さな割合だが、持続時間が長いため興奮性シナプス後電位(EPSP)の加重によるスパイク発生に寄与すると考えられている。また、Gタンパク質を仲介する代謝型受容体の作用様式で、海馬CA1野の抑制ニューロン終末からのGABA放出を抑制するという報告や、遅い後過分極(Slow after hyperpolarization: slow AHP)を抑制するという報告もある。


カイニン酸受容体がシナプス前部に発現しており、神経伝達物質の放出を調節する作用を持つことが報告されている。シナプス前部でのカイニン酸受容体の機能的意義は、古くは海馬CA3野の遊離神経終末を用いた研究により示されてきた。シナプス前部のカイニン酸受容体の作用の特徴として、投与するカイニン酸の濃度により双方向性に変化することが知られている。すなわち、低濃度のカイニン酸投与は神経伝達物質の放出を増大させるが、高濃度のカイニン酸投与は抑制することが海馬CA3野苔状線維シナプスなどで示されており、イオンチャンネル型のカイニン酸受容体がシナプス前部を脱分極させることで神経伝達物質放出を調節するというメカニズムが提唱されている。(<ref><pubmed> 10718745 </pubmed></ref>、<ref><pubmed> 11747895 </pubmed></ref>、<ref><pubmed> 11239159 </pubmed></ref>)。
カイニン酸受容体がシナプス前部に発現しており、神経伝達物質の放出を調節する作用を持つことが報告されている。シナプス前部でのカイニン酸受容体の機能的意義は、古くは海馬CA3野の遊離神経終末を用いた研究により示されてきた。シナプス前部のカイニン酸受容体の作用の特徴として、投与するカイニン酸の濃度により双方向性に変化することが知られている。すなわち、低濃度のカイニン酸投与は神経伝達物質の放出を増大させるが、高濃度のカイニン酸投与は抑制することが海馬CA3野苔状線維シナプスなどで示されており、イオンチャンネル型のカイニン酸受容体がシナプス前部を脱分極させることで神経伝達物質放出を調節するというメカニズムが提唱されている。(<ref><pubmed> 10718745 </pubmed></ref>、<ref><pubmed> 11747895 </pubmed></ref>、<ref><pubmed> 11239159 </pubmed></ref>)。
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