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しかし、このような大規模解析においては、行動表現型の解析はごく簡単なスクリーニングに限定されており、例えばIMPCにおいて必須の実施項目とされている行動テストは筋力 (grip strength) と感覚 (acoustic startle/PPI, auditory brain stem response) のテストのみである。このように現状では限られた行動テストしか実施されておらず、重要な行動表現型が見落とされてしまう可能性がある。今後、高次脳機能の解析を含めた行動テストバッテリーによる網羅的な解析プロジェクトが実施され、作製された遺伝子改変マウスの行動表現型が解析されれば、新たな精神疾患モデルマウスの同定や、さまざまな遺伝子の脳における新規機能の発見などの成果が次々と得られると期待される。 | しかし、このような大規模解析においては、行動表現型の解析はごく簡単なスクリーニングに限定されており、例えばIMPCにおいて必須の実施項目とされている行動テストは筋力 (grip strength) と感覚 (acoustic startle/PPI, auditory brain stem response) のテストのみである。このように現状では限られた行動テストしか実施されておらず、重要な行動表現型が見落とされてしまう可能性がある。今後、高次脳機能の解析を含めた行動テストバッテリーによる網羅的な解析プロジェクトが実施され、作製された遺伝子改変マウスの行動表現型が解析されれば、新たな精神疾患モデルマウスの同定や、さまざまな遺伝子の脳における新規機能の発見などの成果が次々と得られると期待される。 | ||
日本国内で行動テストバッテリーによるマウス解析を行っている施設としては、先述の藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 システム医科学研究部門および生理学研究所 行動・代謝分子解析センター 行動様式解析室のほか、[[wikipedia:ja:理化学研究所|理化学研究所]]、[[wikipedia:ja:国立遺伝学研究所 | 日本国内で行動テストバッテリーによるマウス解析を行っている施設としては、先述の藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 システム医科学研究部門および生理学研究所 行動・代謝分子解析センター 行動様式解析室のほか、[[wikipedia:ja:理化学研究所|理化学研究所]]、[[wikipedia:ja:国立遺伝学研究所|遺伝学研究所]]などがある。各施設で解析されたデータをまとめてデータベース化し、バイオインフォマティクス的な解析を可能にしようという試みがなされている<ref name=ref78>http://www.mouse-phenotype.org/ Mouse Phenotype Database</ref>。得られた大量のデータを解析することで、各種指標間の関係や環境パラメータの行動に与える影響などマウスの行動解析についての基礎的な知見が得られることが期待される。藤田保健衛生大学と生理学研究所では同一のプロトコルによってさまざまな遺伝子改変マウスが解析され、全て同じ形式でデータが蓄積されているため、得られたデータは容易に比較できる。しかし、異なる施設間では通常プロトコルが異なっており、さらにプロトコルの記述方法についても異なることが多いために、得られたデータの比較が難しいという問題がある。この問題を改善するためにプロトコルの記述方法の統一をする試みも進められている<ref name=ref57 />。 | ||
近年では、[[ゲノムワイド関連解析]] (GWAS, genome-wide association study, 脳科学辞典の該当項目参照) により、疾患や行動特性に関連を示す遺伝子や[[遺伝子多型]]が報告されるようになった。ヒトの[[認知機能]]に対しても、知能テストや言語機能テストなどで構成されるような高次脳機能テストバッテリーが実施されており、ヒトの各種の脳機能とそれらに関連する遺伝子の情報が得られている<ref name=ref79><pubmed>19734545</pubmed></ref> <ref name=ref80><pubmed>21835680</pubmed></ref>。これらの遺伝子の欠損や変異を導入したマウスを作製すれば、ヒトには適用できない各種の解析手法を用いて当該遺伝子やその多型の機能的意義をより詳細に評価することができる。また、遺伝子工学の技術が発展したことにより、マウスだけではなくラット<ref name=ref81><pubmed>15057803</pubmed></ref>、そして霊長類である[[wj:サル|サル]]([[マーモセット]])においても遺伝子改変動物を作製することが可能となった<ref name=ref82><pubmed>22225614</pubmed></ref>。霊長類のように高等な動物の脳機能は、より人間に近いと考えられており、高次脳機能における遺伝子の機能をさらに詳しく明らかにできると期待されている。このような目的のために、今後はマウスだけではなく、これらの動物種にも適用できる行動テストバッテリーの開発と整備が望まれる。 | 近年では、[[ゲノムワイド関連解析]] (GWAS, genome-wide association study, 脳科学辞典の該当項目参照) により、疾患や行動特性に関連を示す遺伝子や[[遺伝子多型]]が報告されるようになった。ヒトの[[認知機能]]に対しても、知能テストや言語機能テストなどで構成されるような高次脳機能テストバッテリーが実施されており、ヒトの各種の脳機能とそれらに関連する遺伝子の情報が得られている<ref name=ref79><pubmed>19734545</pubmed></ref> <ref name=ref80><pubmed>21835680</pubmed></ref>。これらの遺伝子の欠損や変異を導入したマウスを作製すれば、ヒトには適用できない各種の解析手法を用いて当該遺伝子やその多型の機能的意義をより詳細に評価することができる。また、遺伝子工学の技術が発展したことにより、マウスだけではなくラット<ref name=ref81><pubmed>15057803</pubmed></ref>、そして霊長類である[[wj:サル|サル]]([[マーモセット]])においても遺伝子改変動物を作製することが可能となった<ref name=ref82><pubmed>22225614</pubmed></ref>。霊長類のように高等な動物の脳機能は、より人間に近いと考えられており、高次脳機能における遺伝子の機能をさらに詳しく明らかにできると期待されている。このような目的のために、今後はマウスだけではなく、これらの動物種にも適用できる行動テストバッテリーの開発と整備が望まれる。 |