9,444
回編集
細編集の要約なし |
細編集の要約なし |
||
36行目: | 36行目: | ||
eye-centerred corrdinate | eye-centerred corrdinate | ||
眼窩の中において、目の位置(向き)を中心にした空間座標。現在の眼球の位置情報を元にした眼球を中心とした不変な空間ベクトルで表現される(図1b、c、d青丸)。Angle –Gaze effect<ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>は、網膜上同じ位置に視覚刺激を出しても眼球位置により、その視覚反応が異なるニューロン応答のことで、網膜座標系での視覚刺激の位置情報と眼球の位置情報の統合し、網膜座標系から頭部中心座標系への変換過程にあると考えられる。[[頭頂連合野]]のLIP、7a、PRR、VIP<ref name=ref1 /> <ref name=ref12 />V3A<ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref>にそうした座標表現に関わるニューロン活動が認められる。 | 眼窩の中において、目の位置(向き)を中心にした空間座標。現在の眼球の位置情報を元にした眼球を中心とした不変な空間ベクトルで表現される(図1b、c、d青丸)。Angle –Gaze effect<ref name=ref15><pubmed>6827308</pubmed></ref>は、網膜上同じ位置に視覚刺激を出しても眼球位置により、その視覚反応が異なるニューロン応答のことで、網膜座標系での視覚刺激の位置情報と眼球の位置情報の統合し、網膜座標系から頭部中心座標系への変換過程にあると考えられる。[[頭頂連合野]]のLIP、7a、PRR、VIP<ref name=ref1 /> <ref name=ref12 />V3A<ref name=ref16><pubmed>2703870</pubmed></ref>にそうした座標表現に関わるニューロン活動が認められる。 | ||
===網膜座標系と眼球中心座標系=== | ===網膜座標系と眼球中心座標系=== | ||
網膜座標系は外界像を2次元座標系として記述する。網膜座標系を[[符号化]]する神経活動は、網膜上の刺激に依存するため、眼球の位置に関わらず網膜上の同じ位置に視覚刺激が像を結べば、同様の応答を示す。一方、眼球中心座標系は現在の眼球の位置情報を使い、注視点から対象物までの変位ベクトルを表現する。輻輳角も考えれば、3次元座標系での対象の位置の表現も可能となる<ref name=ref7 />。眼球中心座標系を符号化する神経活動は、眼の位置によって、たとえ視覚刺激が網膜上同じ位置にあっても、異なる応答をしめす<ref name=ref1 />。したがって、両者とも注視点が変化すると、見かけ上空間表現が変化するため、網膜座標系と眼球中心座標系は時として混同されるが、同じではない。 | 網膜座標系は外界像を2次元座標系として記述する。網膜座標系を[[符号化]]する神経活動は、網膜上の刺激に依存するため、眼球の位置に関わらず網膜上の同じ位置に視覚刺激が像を結べば、同様の応答を示す。一方、眼球中心座標系は現在の眼球の位置情報を使い、注視点から対象物までの変位ベクトルを表現する。輻輳角も考えれば、3次元座標系での対象の位置の表現も可能となる<ref name=ref7 />。眼球中心座標系を符号化する神経活動は、眼の位置によって、たとえ視覚刺激が網膜上同じ位置にあっても、異なる応答をしめす<ref name=ref1 />。したがって、両者とも注視点が変化すると、見かけ上空間表現が変化するため、網膜座標系と眼球中心座標系は時として混同されるが、同じではない。 | ||
この二つの座標系の違いを明らかにする例として、ダブルステップサッケード課題を考える。ある点を注視する被験者に二つのサッケードのターゲットA、Bを短時間順番に提示し(例:ターゲットA→B)、ターゲットを消した後に、それらの提示の順番に続けてサッケードを行わせる。まず、最初に網膜座標系にターゲットAとBの位置が表現される。その情報に従って1つ目のターゲット(A)にサッケードを行うことは可能である。しかし、Bへのサッケードは最初の網膜座標系に表現された情報だけでは不可能である。眼球位置が変化しているので、中心窩からターゲットBへのベクトルではターゲットに到達しない。これを成功させるためには、ターゲットAにおける眼球位置を元にしたターゲットBへのベクトルを表現(眼球中心座標系)しなければならない。HallettとLightstoneはこうした課題を用いることで、運動制御や空間認知には網膜座標系だけではなく、ターゲットの空間位置を修正するための他の座標系システムが必要であることを体系的に示した<ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。実際、後[[頭頂葉]]の患者では、ダブルステップサッケード課題で最初のターゲットにはうまくサッケードできるが、二番目のサッケードができない症状が知られている<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref>。これは網膜座標系を使ってサッケードはできるが、目の位置に対するターゲットの位置を計算ができないことを示している<ref name=ref19>< | この二つの座標系の違いを明らかにする例として、ダブルステップサッケード課題を考える。ある点を注視する被験者に二つのサッケードのターゲットA、Bを短時間順番に提示し(例:ターゲットA→B)、ターゲットを消した後に、それらの提示の順番に続けてサッケードを行わせる。まず、最初に網膜座標系にターゲットAとBの位置が表現される。その情報に従って1つ目のターゲット(A)にサッケードを行うことは可能である。しかし、Bへのサッケードは最初の網膜座標系に表現された情報だけでは不可能である。眼球位置が変化しているので、中心窩からターゲットBへのベクトルではターゲットに到達しない。これを成功させるためには、ターゲットAにおける眼球位置を元にしたターゲットBへのベクトルを表現(眼球中心座標系)しなければならない。HallettとLightstoneはこうした課題を用いることで、運動制御や空間認知には網膜座標系だけではなく、ターゲットの空間位置を修正するための他の座標系システムが必要であることを体系的に示した<ref name=ref17><pubmed> 1258395</pubmed></ref>。実際、後[[頭頂葉]]の患者では、ダブルステップサッケード課題で最初のターゲットにはうまくサッケードできるが、二番目のサッケードができない症状が知られている<ref name=ref18><pubmed>1553535</pubmed></ref>。これは網膜座標系を使ってサッケードはできるが、目の位置に対するターゲットの位置を計算ができないことを示している<ref name=ref19>'''Powell, K.D., et al.'''<br>Space and saliance in parietal cortex, in Current Oculomotor Research: Physiological and Psychological Aspects.<br>W. Becker and H. Deubel, Editors.<br>''Plenum Press'': New York. 1999</ref>。 | ||
===頭部中心座標系・身体中心座標系=== | ===頭部中心座標系・身体中心座標系=== | ||
head centered/body centered coordinate | head centered/body centered coordinate | ||
眼球の位置によらず頭部ないしは身体軸を中心にした座標系(図1c、d)。LIP<ref name=ref20><pubmed></pubmed></ref>、V6A<ref name=ref10 />、VIP<ref name=ref12 /> <ref name=ref21><pubmed></pubmed></ref>などの領域において、眼球位置に依存しない空間位置表現が認められる。たとえば、V6Aのニューロン<ref name=ref22><pubmed></pubmed></ref>は、注視点の位置をいろいろに変えて、網膜中心座標系での同じ位置に視覚刺激を出してやると、視線がある方向にあるときにだけ反応した。一見、眼球中心座標系の表現に見えるが、実はこのニューロンは、視線の向きに関わらず、視覚刺激が頭部から見てある特定の位置にあるときにだけ反応するニューロンであった。つまり、頭部中心座標系での空間表現をしているといえる。また、VIPやPRR、聴覚関連領域では、聴覚のモダリティによる頭部中心座標系の表現が認められる<ref name=ref1 />。 | 眼球の位置によらず頭部ないしは身体軸を中心にした座標系(図1c、d)。LIP<ref name=ref20><pubmed>9732870</pubmed></ref>、V6A<ref name=ref10 />、VIP<ref name=ref12 /> <ref name=ref21><pubmed>15207243</pubmed></ref>などの領域において、眼球位置に依存しない空間位置表現が認められる。たとえば、V6Aのニューロン<ref name=ref22><pubmed>8270019</pubmed></ref>は、注視点の位置をいろいろに変えて、網膜中心座標系での同じ位置に視覚刺激を出してやると、視線がある方向にあるときにだけ反応した。一見、眼球中心座標系の表現に見えるが、実はこのニューロンは、視線の向きに関わらず、視覚刺激が頭部から見てある特定の位置にあるときにだけ反応するニューロンであった。つまり、頭部中心座標系での空間表現をしているといえる。また、VIPやPRR、聴覚関連領域では、聴覚のモダリティによる頭部中心座標系の表現が認められる<ref name=ref1 />。 | ||
===身体部位中心座標系=== | ===身体部位中心座標系=== | ||
body parts centered coordinate | body parts centered coordinate | ||
身体の部位を中心とした座標系。主に[[体性感覚]]や視覚を統合した多種感覚ニューロンによって表現される。体性感覚[[受容野]]の存在する皮膚部位(手、腕、肩、顔の一部など)を中心として、その周辺の一定の空間内に視覚刺激が入ると反応する。身体部位が動いても受容野はその部位と共に動く。こういった神経活動は被殻<ref name=ref23><pubmed></pubmed></ref>、 VIP<ref name=ref24><pubmed></pubmed></ref>、腹側運動前野のF4<ref name=ref3 />などに存在する。これらは、眼球や頭部の動きとは無関係で、ある身体部位を中心とした身体部位中心座標系で対象物を符号化していると考えられる<ref name=ref2 />。また、視覚のみならず、聴覚のモダリティでも表現される。視覚の反応は、自己の身体の周辺の空間に限られ、身体周辺空間(ペリパーソナルスペース)と呼ばれる自己の身体の一体となった空間表現の神経基盤となっている。また、こうした身体周辺空間に関わるニューロンの視覚受容野が、道具を使った時に道具先端にまで拡大する現象が知られている<ref name=ref25><pubmed></pubmed></ref>。これは、道具の使用による身体イメージの拡張に関わると考えられている。 | 身体の部位を中心とした座標系。主に[[体性感覚]]や視覚を統合した多種感覚ニューロンによって表現される。体性感覚[[受容野]]の存在する皮膚部位(手、腕、肩、顔の一部など)を中心として、その周辺の一定の空間内に視覚刺激が入ると反応する。身体部位が動いても受容野はその部位と共に動く。こういった神経活動は被殻<ref name=ref23><pubmed>8131835</pubmed></ref>、 VIP<ref name=ref24><pubmed>9425183</pubmed></ref>、腹側運動前野のF4<ref name=ref3 />などに存在する。これらは、眼球や頭部の動きとは無関係で、ある身体部位を中心とした身体部位中心座標系で対象物を符号化していると考えられる<ref name=ref2 />。また、視覚のみならず、聴覚のモダリティでも表現される。視覚の反応は、自己の身体の周辺の空間に限られ、身体周辺空間(ペリパーソナルスペース)と呼ばれる自己の身体の一体となった空間表現の神経基盤となっている。また、こうした身体周辺空間に関わるニューロンの視覚受容野が、道具を使った時に道具先端にまで拡大する現象が知られている<ref name=ref25><pubmed>8951846</pubmed></ref>。これは、道具の使用による身体イメージの拡張に関わると考えられている。 | ||
===物体中心座標系=== | ===物体中心座標系=== | ||
object-centered coordinates | object-centered coordinates | ||
物体の中での目標の相対的位置。目標とする物体の中での位置(前後左右上下)を表現する。複雑な形状をした物体のある部分に働きかけるためには、物体を中心としてその位置がどこにあるのかを表現しておく必要がある。さらに、自己の身体を中心とした座標系のみでは、自分が動いたときにその都度、表現モデルを変更しなければならないが、物体を中心とした座標系で対象物を記述しておけば、自己の動きに不変な内部表現を得ることができる<ref name=ref7 />。このような空間表現は物体中心座標系で規定されると考えられており、サルの7a野やAIPでは物体内での相対的位置や物体中心座標系に関わると考えられる神経活動がみつかっている<ref name=ref26><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref28>< | 物体の中での目標の相対的位置。目標とする物体の中での位置(前後左右上下)を表現する。複雑な形状をした物体のある部分に働きかけるためには、物体を中心としてその位置がどこにあるのかを表現しておく必要がある。さらに、自己の身体を中心とした座標系のみでは、自分が動いたときにその都度、表現モデルを変更しなければならないが、物体を中心とした座標系で対象物を記述しておけば、自己の動きに不変な内部表現を得ることができる<ref name=ref7 />。このような空間表現は物体中心座標系で規定されると考えられており、サルの7a野やAIPでは物体内での相対的位置や物体中心座標系に関わると考えられる神経活動がみつかっている<ref name=ref26><pubmed>17389630</pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed>15635058</pubmed></ref> <ref name=ref28>'''WinNyiShein, et al.'''<br>サル頭頂葉の手操作目標の相対的位置の選択性<br>''日大医誌''、1999. 58: p. 558-569.</ref>。またこうした座標系は物体の構造の記述にも必要であり、把持運動に関わるAIPやF5では、把持運動の対象となる三次元的物体を表現している<ref name=ref29><pubmed>10805659</pubmed></ref>が、これらの領域のニューロンが両眼視差に応答することが明らかになっている<ref name=ref30><pubmed>21456959</pubmed></ref>。 | ||
===外界中心座標系・環境中心座標系=== | ===外界中心座標系・環境中心座標系=== | ||
world-centered coordinates | world-centered coordinates | ||
外界あるいは環境の中での自己の位置。移動においては、自己が環境の中でどの位置にいるかを脳内では表現される必要がある。Allocentric reference frameとも呼ばれる。これに対応する自己の位置を中心した座標系をEgocentric reference frameという。齧歯類の[[海馬]]では、ある特定の場所に動物が来たときに反応する[[場所細胞]](place neuron)が知られている。サルでは7a野のニューロンは、自己の身体の向きに依存しない空間内の位置を表現するニューロン活動が知られている<ref name=ref20 />。また、この領域と結合のある内側頭頂葉、後部帯状回皮質や脳梁[[膨大部]]後部領域、海馬を含む内側側頭葉で環境内のある特定の場所に選択的に反応するニューロンや、環境中心座標系における空間表現が知られている<ref name=ref5 /> <ref name=ref31><pubmed></pubmed></ref>。これらの領域は、ナビゲーションや認知地図に関わると考えられている<ref name=ref5 />。 | 外界あるいは環境の中での自己の位置。移動においては、自己が環境の中でどの位置にいるかを脳内では表現される必要がある。Allocentric reference frameとも呼ばれる。これに対応する自己の位置を中心した座標系をEgocentric reference frameという。齧歯類の[[海馬]]では、ある特定の場所に動物が来たときに反応する[[場所細胞]](place neuron)が知られている。サルでは7a野のニューロンは、自己の身体の向きに依存しない空間内の位置を表現するニューロン活動が知られている<ref name=ref20 />。また、この領域と結合のある内側頭頂葉、後部帯状回皮質や脳梁[[膨大部]]後部領域、海馬を含む内側側頭葉で環境内のある特定の場所に選択的に反応するニューロンや、環境中心座標系における空間表現が知られている<ref name=ref5 /> <ref name=ref31><pubmed>19620622</pubmed></ref>。これらの領域は、ナビゲーションや認知地図に関わると考えられている<ref name=ref5 />。 | ||
== 運動と空間座標 == | == 運動と空間座標 == | ||
98行目: | 98行目: | ||
== 関節・筋座標系 == | == 関節・筋座標系 == | ||
運動の実行に際しては、空間座標を関節や筋の座標に変換する必要がある。到達運動を考えるとき、空間内の目標がきまると、身体中心座標系において物体と現在の手先の位置をマップする。これを作業空間ともいう<ref name=ref7 />。また、身体部位中心座標系(手先座標系)において、手先を中心にした物体の位置も記述される。このときの姿勢(関節角)は、筋や関節などからの固有感覚や皮膚からの[[触覚]]によって、[[体性感覚野]]あるいは運動野にマップされる<ref name=ref32>< | 運動の実行に際しては、空間座標を関節や筋の座標に変換する必要がある。到達運動を考えるとき、空間内の目標がきまると、身体中心座標系において物体と現在の手先の位置をマップする。これを作業空間ともいう<ref name=ref7 />。また、身体部位中心座標系(手先座標系)において、手先を中心にした物体の位置も記述される。このときの姿勢(関節角)は、筋や関節などからの固有感覚や皮膚からの[[触覚]]によって、[[体性感覚野]]あるいは運動野にマップされる<ref name=ref32>'''内藤栄一、 et al.'''<br>感覚刺激と運動学習 特集 運動学習と理学療法<br>''理学療法ジャーナル''、2012. 46(1): p. 25-35.</ref>。この情報は視覚や前庭覚などの情報と共に統合されて身体の表現として頭頂連合野にも表現されている。このような、脳内の身体表現は[[身体図式]](Body schema)ないしは身体イメージ(body image)と呼ばれる。古典的には身体図式は、体性感覚入力を主に念頭に置き、[[無意識]]下の表現であると考えられている。一方、視覚が関わり意識に上る場合には身体イメージと呼んで区別されている<ref name=ref33>'''田中彰吾'''<br>身体イメージの哲学<br>''Clinical Neuroscience'', 2011. 29(8): p. 868-871.</ref>。いずれにしろ身体の表現は、動きとともに常に変化するため、感覚フィードバックや遠心性コピーにより常にアップデートされる必要がある。 | ||
運動の計画においては、作業空間内に手先の軌道がマップされる必要がある。目標の運動を実行するにあたっては、どの身体部位をどのような順序で動かすかの運動という運動の系列がプレランされ、それをどのように動かすか運動のパターン、手先の軌道が決められる<ref name=ref7 />。 | 運動の計画においては、作業空間内に手先の軌道がマップされる必要がある。目標の運動を実行するにあたっては、どの身体部位をどのような順序で動かすかの運動という運動の系列がプレランされ、それをどのように動かすか運動のパターン、手先の軌道が決められる<ref name=ref7 />。 | ||
104行目: | 104行目: | ||
軌道を実現するためには、関節座標へ、さらに筋座標への変換が行われる、計算論においては、手先位置と関節角あるいは関節トルクとの関係を、関節座標系と呼ぶ。さらに、筋の長さ・張力と関節角・トルクとの関係を筋座標系という。手先の軌道を実現するために、手先の位置から関節角度、関節トルクへの変換が起こり、さらに個々の筋活動への変換を経て適切な運動が実行される。この際、関節・筋座標系における冗長な自由度をへらすために、適切な拘束条件をみいだし筋や関節レベルのインピーダンス調整が行われている<ref name=ref7 />。 | 軌道を実現するためには、関節座標へ、さらに筋座標への変換が行われる、計算論においては、手先位置と関節角あるいは関節トルクとの関係を、関節座標系と呼ぶ。さらに、筋の長さ・張力と関節角・トルクとの関係を筋座標系という。手先の軌道を実現するために、手先の位置から関節角度、関節トルクへの変換が起こり、さらに個々の筋活動への変換を経て適切な運動が実行される。この際、関節・筋座標系における冗長な自由度をへらすために、適切な拘束条件をみいだし筋や関節レベルのインピーダンス調整が行われている<ref name=ref7 />。 | ||
脳内でのこのような、空間座標、関節座標、筋座標への変換過程しめす神経活動が、上頭頂葉、腹側運動前野、一次運動野などの領域で知られている。例えば、手首の屈曲伸展運動を考える場合に、手掌が上向きか下向きの姿勢によって、外部空間内での手首の動きの向きと、関節や筋肉が表現するベクトルを区別することができる。このとき、サルの頭頂連合野のニューロンは、関節の屈曲か伸展か表現するニューロンとともに、手のひらの向きに関わらず、(暗闇の中で)空間内の手のうごきの方向を表現するニューロンが見つかっている<ref name=ref34>< | 脳内でのこのような、空間座標、関節座標、筋座標への変換過程しめす神経活動が、上頭頂葉、腹側運動前野、一次運動野などの領域で知られている。例えば、手首の屈曲伸展運動を考える場合に、手掌が上向きか下向きの姿勢によって、外部空間内での手首の動きの向きと、関節や筋肉が表現するベクトルを区別することができる。このとき、サルの頭頂連合野のニューロンは、関節の屈曲か伸展か表現するニューロンとともに、手のひらの向きに関わらず、(暗闇の中で)空間内の手のうごきの方向を表現するニューロンが見つかっている<ref name=ref34>'''Tanaka, M., et al.'''<br>Monkey postcentral joint neurons responding to visual stimuli.<br>in Annual meeting of the Japan neuroscience society. 1999. Osaka: Elsevier.</ref>。また、腹側運動前野では、関節の屈曲・伸展に関わらず手の動きを外部空間内の向きで表現するニューロンが多く、一次運動野では、空間内の向きとともに筋のベクトルで表現するニューロンがあることがわかっている<ref name=ref35><pubmed> 10497133</pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed>11547338</pubmed></ref>。 | ||
==参考文献 == | ==参考文献 == | ||
<references /> | <references /> |