「ナトリウムチャネル」の版間の差分

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<div align="right"> 
<font size="+1">坂田 宗平、[http://researchmap.jp/yasushiokamura 岡村 康司]</font><br>
''大阪大学 医学系研究科''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年5月7日 原稿完成日:2012年6月11日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
</div>
英語名:sodium channel 独:Natriumkanal 仏:canal sodium  
英語名:sodium channel 独:Natriumkanal 仏:canal sodium  


{{box|text=
 ナトリウムチャネルは高い選択性を持って[[wikipedia:JA:ナトリウム|ナトリウム]]イオンを透過させる[[イオンチャネル]]である。ナトリウムチャネルとしては、[[電位依存性ナトリウムチャネル]](Navチャネル)、および[[上皮性ナトリウムチャネル]](ENaC)が知られているが、これらは分子構造が全く異なっているため、本項目では電位依存性ナトリウムチャネルについてのみ記述する。電位依存性ナトリウムチャネルは[[wikipedia:ja:アラン・ロイド・ホジキン|ホジキン]](Alan Lloyd Hodgkin)と[[wikipedia:ja:アンドリュー・フィールディング・ハクスりー|ハクスレー]](Andrew Fielding Huxley)による[[wikipedia:JA:イカ|イカ]]の[[巨大軸索]]を用いた研究によりその存在が予測され、1984年に[[wikipedia:ja:沼正作|沼]]博士らによって遺伝子が同定された。Navチャネルは細胞外に量が最も多い陽イオンであるナトリウムイオンを透過させることで、大きな内向き電流を生じ脱分極を効率よくもたらすことができる。[[中枢神経]]や[[末梢神経]]、[[骨格筋]]、[[心筋]]、[[内分泌細胞]]等に存在し、[[電位依存性カリウムチャネル]]と[[膜電位]]を介して機能的に共役することで、[[活動電位]]の開始および伝搬に本質的な役割を担っている。  
 ナトリウムチャネルは高い選択性を持って[[wikipedia:JA:ナトリウム|ナトリウム]]イオンを透過させる[[イオンチャネル]]である。ナトリウムチャネルとしては、[[電位依存性ナトリウムチャネル]](Navチャネル)、および[[上皮性ナトリウムチャネル]](ENaC)が知られているが、これらは分子構造が全く異なっているため、本項目では電位依存性ナトリウムチャネルについてのみ記述する。電位依存性ナトリウムチャネルは[[wikipedia:ja:アラン・ロイド・ホジキン|ホジキン]](Alan Lloyd Hodgkin)と[[wikipedia:ja:アンドリュー・フィールディング・ハクスりー|ハクスレー]](Andrew Fielding Huxley)による[[wikipedia:JA:イカ|イカ]]の[[巨大軸索]]を用いた研究によりその存在が予測され、1984年に[[wikipedia:ja:沼正作|沼]]博士らによって遺伝子が同定された。Navチャネルは細胞外に量が最も多い陽イオンであるナトリウムイオンを透過させることで、大きな内向き電流を生じ脱分極を効率よくもたらすことができる。[[中枢神経]]や[[末梢神経]]、[[骨格筋]]、[[心筋]]、[[内分泌細胞]]等に存在し、[[電位依存性カリウムチャネル]]と[[膜電位]]を介して機能的に共役することで、[[活動電位]]の開始および伝搬に本質的な役割を担っている。  
}}


== 神経細胞における分布  ==
== 神経細胞における分布  ==


 Navチャネルは広く[[神経細胞]]において発現し、[[樹状突起]]、[[細胞体]]、[[軸索]]に存在しているが、一様に発現しているのではなく、[[有髄神経]]の軸索に存在する[[ランビエ紋輪]](nodes of Ranvier)、および[[軸索起始部]](axon initial segment)に強く局在する。ランビエ紋輪とaxon initial segmentでのNavチャネルは、[[アダプタータンパク質]]である[[アンキリン]]を介して細胞の裏打ち構造に繋ぎとめられることで局在が可能になっている。 [[Image:Nav channelの2次元構造.png|thumb|300px|<b>図1 電位依存性ナトリウムチャネルの二次構造</b>]]  
 Navチャネルは広く[[神経細胞]]において発現し、[[樹状突起]]、[[細胞体]]、[[軸索]]に存在しているが、一様に発現しているのではなく、[[有髄神経]]の軸索に存在する[[ランビエ紋輪]](nodes of Ranvier)、および[[軸索起始部]](axon initial segment)に強く局在する。ランビエ紋輪とaxon initial segmentでのNavチャネルは、[[アダプタータンパク質]]である[[アンキリン]]を介して細胞の裏打ち構造に繋ぎとめられることで局在が可能になっている。
 
[[Image:Nav channelの2次元構造.png|thumb|300px|<b>図1.電位依存性ナトリウムチャネルの二次構造</b>]]  


== 構造  ==
== 構造  ==


 脳および心筋のNavチャネルは分子量約260kのαサブユニットと1回膜貫通型のβサブユニットから構成されている。神経細胞や心筋に存在するチャネルは1つのαサブユニットとβ1、β2もしくはβ3、β4の二つのβサブユニットで構成され、骨格筋ではαサブユニットと1つのβサブユニットにより構成されている。 [[Image:Tree.png|thumb|300px|<b>図2 サブユニットの系統樹</b>]]  
 脳および心筋のNavチャネルは分子量約260kのαサブユニットと1回膜貫通型のβサブユニットから構成されている。神経細胞や心筋に存在するチャネルは1つのαサブユニットとβ1、β2もしくはβ3、β4の二つのβサブユニットで構成され、骨格筋ではαサブユニットと1つのβサブユニットにより構成されている。
 
[[Image:Tree.png|thumb|300px|<b>図2.サブユニットの系統樹</b>]]  


=== αサブユニット  ===
=== αサブユニット  ===


 αサブユニットは4つの相同性の高いドメインの反復で構成されており、各ドメインは6つの膜貫通[[wikipedia:ja:Αヘリックス|ヘリックス]]を含んでいる(図1参照)。基本的なαサブユニットの二次構造は他の[[電位依存性イオンチャネル]]([[電位依存性カルシウムチャネル]]、[[電位依存性カリウムチャネル]]など)と同様で あり、各ドメインの最初の4つの膜貫通ヘリックス(S1-S4)は膜電位を感知する電位センサーとして働き、残りの2つ(S5,S6)はナトリウムイオンを透過させるための孔(ポアドメイン)を構成する。  
 αサブユニットは4つの相同性の高いドメインの反復で構成されており、各ドメインは6つの膜貫通[[wikipedia:ja:Aヘリックス|ヘリックス]]を含んでいる(図1参照)。基本的なαサブユニットの二次構造は他の[[電位依存性イオンチャネル]]([[電位依存性カルシウムチャネル]]、[[電位依存性カリウムチャネル]]など)と同様で あり、各ドメインの最初の4つの膜貫通ヘリックス(S1-S4)は膜電位を感知する電位センサーとして働き、残りの2つ(S5,S6)はナトリウムイオンを透過させるための孔(ポアドメイン)を構成する。  


 [[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]では9つの[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]が知られている。それぞれ発現場所や発生段階における発現のタイミング、および分子特性や薬理学的作用などが異なっている(表、図2参照)。Nav1.4は骨格筋、Nav1.5は心筋に多く発現し、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9は[[末梢神経]]に発現している。Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3およびNav1.6は主に[[中枢神経]]で発現しているが、一部は末梢神経にも存在する。軸索起始部(axon initial segment)とランビエ紋輪のNavチャネルの多くはNav1.6であることが知られている。中枢神経細胞の樹状突起にもNav1.6は分布する。  
 [[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]では9つの[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]が知られている。それぞれ発現場所や発生段階における発現のタイミング、および分子特性や薬理学的作用などが異なっている(表、図2参照)。Nav1.4は骨格筋、Nav1.5は心筋に多く発現し、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9は[[末梢神経]]に発現している。Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3およびNav1.6は主に[[中枢神経]]で発現しているが、一部は末梢神経にも存在する。軸索起始部(axon initial segment)とランビエ紋輪のNavチャネルの多くはNav1.6であることが知られている。中枢神経細胞の樹状突起にもNav1.6は分布する。  


 またNavチャネルと似た配列を持つ[[Nax]]と呼ばれるタンパク質が存在する。アミノ酸配列上、Navチャネルと同様、電位センサーおよびポアドメインに似た構造を持っているが、電位依存的にナトリウムイオンを透過させる機能を持っていない。Naxは中枢神経系などに発現し、チャネルではなくナトリウムセンサーとして働いているという報告がある<ref><pubmed> 11992118 </pubmed></ref>。  
 またNavチャネルと似た配列を持つ[[Nax]]と呼ばれるタンパク質が存在する。アミノ酸配列上、Navチャネルと同様、電位センサーおよびポアドメインに似た構造を持っているが、電位依存的にナトリウムイオンを透過させる機能を持っていない。Naxは中枢神経系などに発現し、チャネルではなくナトリウムセンサーとして働いているという報告がある<ref><pubmed> 11992118 </pubmed></ref>。  
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=== βサブユニット  ===
=== βサブユニット  ===


 βサブユニットは1回膜貫通型のサブユニットで、αサブユニットと相互作用してその機能を調節する役割を担っている。β1からβ4まで4種類存在する。Navチャネルはこれまでの研究によりαサブユニットだけでも、電位依存的にNavチャネルを透過させる機能を保持していることが分かっているが、βサブユニットはαサブユニットと共に存在することで、Navチャネルの機能を変える。また細胞外側に免疫グロブリンドメインを持っており、チャネルの機能を補完するだけでなく、種々の[[細胞接着因子]]と結合し、細胞運動や細胞接着、[[神経突起]]の伸長に重要な役割を担っていることが知られている<ref name="ref1"><pubmed>20600605</pubmed></ref>。 またβ4が細胞内側からのblocking particleとして作用し、[[Resurgent電流]]の形成に関わるという報告<ref><pubmed>15664175</pubmed></ref>もある。  
 βサブユニットは1回膜貫通型のサブユニットで、αサブユニットと相互作用してその機能を調節する役割を担っている。β1からβ4まで4種類存在する。Navチャネルはこれまでの研究によりαサブユニットだけでも、電位依存的にNavチャネルを透過させる機能を保持していることが分かっているが、βサブユニットはαサブユニットと共に存在することで、Navチャネルの機能を変える。また細胞外側に免疫グロブリンドメインを持っており、チャネルの機能を補完するだけでなく、種々の[[細胞接着因子]]と結合し、細胞運動や細胞接着、[[神経突起]]の伸長に重要な役割を担っていることが知られている<ref name="ref1"><pubmed>20600605</pubmed></ref>。 またβ4が細胞内側からのblocking particleとして作用し、[[Resurgent電流]]の形成に関わるという報告<ref><pubmed>15664175</pubmed></ref>もある。  


[[Image:Nachannel-TopView.png|thumb|300px|<b>図3 電位依存性ナトリウムチャネル(NaChBac)の立体構造</b><br />この図ではポアドメインの中央部に、構造を決定する際に使用した水銀原子が見える。(Payandeh et al. 2011より転載)]]  
[[Image:Nachannel-TopView.png|thumb|300px|<b>図3.電位依存性ナトリウムチャネル(NaChBac)の立体構造</b><br />この図ではポアドメインの中央部に、構造を決定する際に使用した水銀原子が見える。(Payandeh et al. 2011より転載)]]  


=== 立体構造  ===
=== 立体構造  ===


 2011年、Catterallらは[[wikipedia:ja:真正細菌|真正細菌]]の一種である[[wikipedia:Arcobacter|Arcobacter butzleri]]由来の電位依存性ナトリウムチャネル(NaChBac)を用いてX線結晶構造解析を行い、その[[wikipedia:JA:三次元構造|三次元構造]]を明らかにした<ref><pubmed> 21743477 </pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:真核生物|真核生物]]のNavチャネルが1分子に4つのリピート構造を含んでいるのに対して、NachBacはホモ4量体として機能する。電位依存性カリウムチャネルの構造と同様に、αサブユニットの各リピートのS5およびS6が集まってポアドメインを形成し、その四隅にS1からS4によって構成される電位センサーが配置する(図3参照)。
 2011年、Catterallらは[[wikipedia:ja:真正細菌|真正細菌]]の一種である[[wikipedia:Arcobacter|Arcobacter butzleri]]由来の電位依存性ナトリウムチャネル(NaChBac)を用いてX線結晶構造解析を行い、その[[wikipedia:JA:三次元構造|三次元構造]]を明らかにした<ref><pubmed> 21743477 </pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:真核生物|真核生物]]のNavチャネルが1分子に4つのリピート構造を含んでいるのに対して、NachBacはホモ4量体として機能する。電位依存性カリウムチャネルの構造と同様に、αサブユニットの各リピートのS5およびS6が集まってポアドメインを形成し、その四隅にS1からS4によって構成される電位センサーが配置する(図3参照)。


 イオン選択性は孔が一番狭くなっている[[イオン選択性フィルター]]と呼ばれる部分で決定されている。Navチャネルは[[wikipedia:JA:グアニジン|グアニジウムイオン]]などの[[wikipedia:ja:イオン半径|イオン半径]]の大きいイオンに対してもある程度の透過性を持つことから、Navチャネルのイオン選択性フィルターの幅はナトリウムイオンよりも大きく、ナトリウムイオン1分子に対し、1分子の水を配位した状態で、孔を選択的に透過するという考えが提唱されてきた<ref>'''Bertil Hille''' <br>Ion Channels of Excitable Membrane third edition<br>Sinauer Associates,Inc.(Massachusetts,USA)</ref>。実際、NaChBacの立体構造を見てみると、イオン選択性フィルターの一番狭くなっている部分の幅は、ちょうどナトリウムイオンに水分子が1つ配位したときのサイズに近いことが明らかになった。
 イオン選択性は孔が一番狭くなっている[[イオン選択性フィルター]]と呼ばれる部分で決定されている。Navチャネルは[[wikipedia:JA:グアニジン|グアニジウムイオン]]などの[[wikipedia:ja:イオン半径|イオン半径]]の大きいイオンに対してもある程度の透過性を持つことから、Navチャネルのイオン選択性フィルターの幅はナトリウムイオンよりも大きく、ナトリウムイオン1分子に対し、1分子の水を配位した状態で、孔を選択的に透過するという考えが提唱されてきた<ref>'''Bertil Hille''' <br>Ion Channels of Excitable Membrane third edition<br>Sinauer Associates,Inc.(Massachusetts,USA)</ref>。実際、NaChBacの立体構造を見てみると、イオン選択性フィルターの一番狭くなっている部分の幅は、ちょうどナトリウムイオンに水分子が1つ配位したときのサイズに近いことが明らかになった。


== イオン選択性   ==
== イオン選択性   ==


  [[Image:SelectiveFilter付近のアミノ酸配列.png|thumb|300px|<b>図4  電位依存性ナトリウムチャネル、およびカルシウムチャネルのselective filter 付近のアミノ酸配列の比較</b><br />イオン選択性に最も重要であると考えられる部分をboxで囲んだ。]]イオン選択性に関わるselective filterは5番目のヘリックス(S5)と6番目のヘリックス(S6)の間に存在する。1価の[[wikipedia:JA:正電荷|正電荷]]を持つイオンの透過性はイオン半径に比例している。イオン半径の小さい[[wikipedia:JA:プロトン|プロトン]]に対して、非常に強い透過性を持ち、Li<sup>+</sup>≈Na<sup>+</sup>&gt;K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>の順に透過性が高い。またグアニジウムイオンはK<sup>+</sup>より透過しやすい。図4に真核生物のNavチャネルのselective filterのアミノ酸配列を示した。電位依存性カルシウムチャネルでは4つのリピート、すべてがマイナス電荷を持った[[グルタミン酸]]になっているが、Navチャネルではこの部位のアミノ酸は各リピートで異なり、電荷を持たない [[アミノ酸]]も含まれている。[[アスパラギン酸]]、グルタミン酸、リジン、アラニンが形成する環状の配置が、ナトリウムイオンの選択性に重要であると考えられている。 リピートIII, IVの[[wikipedia:JA:リジン|リジン]]、[[アラニン]]のいずれかをグルタミン酸に変異させると、ナトリウムイオンだけでなく、カリウムイオン、アンモニウムイオン、さらにカルシウムイオンに対しても透過性が現れる。両方ともグルタミン酸に置き換えると、ナトリウムイオンよりカルシウムイオンに対して選択性が大きくなる<ref><pubmed> 1313551 </pubmed></ref>。  
  [[Image:SelectiveFilter付近のアミノ酸配列.png|thumb|300px|<b>図4.電位依存性ナトリウムチャネル、およびカルシウムチャネルのselective filter 付近のアミノ酸配列の比較</b><br />イオン選択性に最も重要であると考えられる部分をboxで囲んだ。]]
 
 イオン選択性に関わるselective filterは5番目のヘリックス(S5)と6番目のヘリックス(S6)の間に存在する。1価の[[wikipedia:JA:正電荷|正電荷]]を持つイオンの透過性はイオン半径に比例している。イオン半径の小さい[[wikipedia:JA:プロトン|プロトン]]に対して、非常に強い透過性を持ち、Li<sup>+</sup>≈Na<sup>+</sup>&gt;K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>の順に透過性が高い。またグアニジウムイオンはK<sup>+</sup>より透過しやすい。図4に真核生物のNavチャネルのselective filterのアミノ酸配列を示した。電位依存性カルシウムチャネルでは4つのリピート、すべてがマイナス電荷を持った[[グルタミン酸]]になっているが、Navチャネルではこの部位のアミノ酸は各リピートで異なり、電荷を持たない [[アミノ酸]]も含まれている。[[アスパラギン酸]]、グルタミン酸、リジン、アラニンが形成する環状の配置が、ナトリウムイオンの選択性に重要であると考えられている。リピートIII, IVの[[wikipedia:JA:リジン|リジン]]、[[アラニン]]のいずれかをグルタミン酸に変異させると、ナトリウムイオンだけでなく、カリウムイオン、アンモニウムイオン、さらにカルシウムイオンに対しても透過性が現れる。両方ともグルタミン酸に置き換えると、ナトリウムイオンよりカルシウムイオンに対して選択性が大きくなる<ref><pubmed> 1313551 </pubmed></ref>。  


== 膜電位依存的な活性化および不活性化  ==
== 膜電位依存的な活性化および不活性化  ==


 一般に、イオンチャネルの電位センサー([[膜電位センサー]]の項参照)は4つの膜貫通ヘリックスで構成されており、4番目のヘッリクス(S4)に存在するプラス電荷を帯びた塩基性アミノ酸が電位の感知に重要であることが分かっている。[[細胞膜]]が脱分極すると電位センサーが動き、“ゲート“が開くことで、ナトリウムイオンが流れる。  
 一般に、イオンチャネルの電位センサー([[膜電位センサー]]の項参照)は4つの膜貫通ヘリックスで構成されており、4番目のヘッリクス(S4)に存在するプラス電荷を帯びた塩基性アミノ酸が電位の感知に重要であることが分かっている。[[細胞膜]]が脱分極すると電位センサーが動き、“ゲート“が開くことで、ナトリウムイオンが流れる。  


 Navチャネルは脱分極により活性化された後、”[[不活性化]]”する。不活性化とは一旦開いたチャネルを閉じる機構で、連続的な活動電位の形成に必須である。またこの機構が存在することで、活動電位に[[不応期]]が生じる。不活性化には数ミリ秒単位の”速い”不活性化と数十ミリ秒単位の”遅い”不活性化の2つの機構が存在する。”速い”不活性化については電位依存性カリウムチャネル(Kv1、[[Shaker]]型)のメカニズムと同様のball and chain modelによる孔の細胞内側からのブロックであることが知られている。リピートIIIとリピートIVの間のリンカー部分を認識する[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]を細胞内側から投与すると不活性化が遅くなる<ref><pubmed> 2554301 </pubmed></ref>、またリンカー部分を欠失したチャネルは不活性が著しく遅いこと<ref><pubmed> 2543931 </pubmed></ref>、さらにリンカーを欠失したチャネルに、“ball”に相当するペプチド(IFM)を細胞内側から投与すると、”速い”不活性化が起ることが分かっている<ref><pubmed> 8185942 </pubmed></ref>。  
 Navチャネルは脱分極により活性化された後、”[[不活性化]]”する。不活性化とは一旦開いたチャネルを閉じる機構で、連続的な活動電位の形成に必須である。またこの機構が存在することで、活動電位に[[不応期]]が生じる。不活性化には数ミリ秒単位の”速い”不活性化と数十ミリ秒単位の”遅い”不活性化の2つの機構が存在する。”速い”不活性化については電位依存性カリウムチャネル(Kv1、[[Shaker]]型)のメカニズムと同様のball and chain modelによる孔の細胞内側からのブロックであることが知られている。リピートIIIとリピートIVの間のリンカー部分を認識する[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]を細胞内側から投与すると不活性化が遅くなる<ref><pubmed> 2554301 </pubmed></ref>、またリンカー部分を欠失したチャネルは不活性が著しく遅いこと<ref><pubmed> 2543931 </pubmed></ref>、さらにリンカーを欠失したチャネルに、“ball”に相当するペプチド(IFM)を細胞内側から投与すると、”速い”不活性化が起ることが分かっている<ref><pubmed> 8185942 </pubmed></ref>。  


 ”遅い”不活性化については”速い”不活性化ほど分子機構は明瞭ではない。[[ヒト]]の[[wikipedia:JA:骨格筋|骨格筋]]や[[wikipedia:JA:心筋|心筋]]の興奮性の異常を示すいくつかの遺伝病の研究により、”遅い”不活性化の異常を引き起こすアミノ酸変異が見つかっている。変異は複数の部分に渡っているため、”遅い”不活性化の過程には複数のドメインが関与していると考えられる。  
 ”遅い”不活性化については”速い”不活性化ほど分子機構は明瞭ではない。[[ヒト]]の[[wikipedia:JA:骨格筋|骨格筋]]や[[wikipedia:JA:心筋|心筋]]の興奮性の異常を示すいくつかの遺伝病の研究により、”遅い”不活性化の異常を引き起こすアミノ酸変異が見つかっている。変異は複数の部分に渡っているため、”遅い”不活性化の過程には複数のドメインが関与していると考えられる。  
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== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />  
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<br> (執筆者:坂田宗平、岡村康司  担当編集委員:林康紀)

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