「探索眼球運動」の版間の差分

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 探索眼球運動はものを見ようとする時の注視点の動きで、認知心理学のNeisserによれば、被験者の主体性を反映している。精神疾患の統合失調症は、精神病理学、臨床精神医学からみれば自発性、主体性の障害が基本的な障害であるといわれてきた。探索眼球運動は統合失調症研究には極めて有効な方法と考えられる。横S字型の幾何学図形の標的図および標的図と一部異なった図を用い、記銘課題、比較照合課題、比較照合課題直後の念押し課題を行い注視点の動きを検討した。記銘課題時の注視点の運動数、平均移動距離、総移動距離、念押し課題時の反応的探索スコアが指標として用いられた。統合失調症患者では健常者に比べてこれらの指標は有意に低値を示したが、反応的探索スコアの低値が統合失調症に特徴的であり、脆弱性素因を反映し、中間表現型であることが確認された。これらを用いて統合失調症、うつ病患者、神経症患者、健常者を対象にして判別分析を行うと、反応的探索スコアと、運動数か総移動距離が選ばれ、これら2つの指標を用いて、臨床的に診断された統合失調症患者の70~75%が統合失調症と判別され、非統合失調症の80%が非統合失調症と判別された。統合失調症のうち、統合失調症判別群と非判別群についてBPRS(Brief Psychiatric Rating Scale)の臨床症状を因子分析した結果を比較すると、統合失調症判別群で敵意/興奮因子、陰性症状因子、まとまりの悪さの因子、BPRS総得点が有意に高く統合失調症判別群は中核型統合失調症であることが分かった。
 探索眼球運動はものを見ようとする時の[[注視点]]の動きで、認知心理学のNeisserによれば、被験者の[[主体性]]を反映している。精神疾患の[[統合失調症]]は、精神病理学、臨床精神医学からみれば[[自発性]]、主体性の障害が基本的な障害であるといわれてきた。探索眼球運動は統合失調症研究には極めて有効な方法と考えられる。横S字型の幾何学図形の標的図および標的図と一部異なった図を用い、記銘課題、比較照合課題、比較照合課題直後の念押し課題を行い注視点の動きを検討した。記銘課題時の注視点の運動数、平均移動距離、総移動距離、念押し課題時の反応的探索スコアが指標として用いられた。統合失調症患者では健常者に比べてこれらの指標は有意に低値を示したが、反応的探索スコアの低値が統合失調症に特徴的であり、脆弱性素因を反映し、[[中間表現型]]であることが確認された。これらを用いて統合失調症、[[うつ病]]患者、[[神経症]]患者、健常者を対象にして判別分析を行うと、反応的探索スコアと、運動数か総移動距離が選ばれ、これら2つの指標を用いて、臨床的に診断された統合失調症患者の70~75%が統合失調症と判別され、非統合失調症の80%が非統合失調症と判別された。統合失調症のうち、統合失調症判別群と非判別群についてBPRS(Brief Psychiatric Rating Scale)の臨床症状を因子分析した結果を比較すると、統合失調症判別群で敵意/興奮因子、[[陰性症状]]因子、まとまりの悪さの因子、BPRS総得点が有意に高く統合失調症判別群は[[中核型統合失調症]]であることが分かった。


 探索眼球運動によって中核型統合失調症が抽出され、異種性の問題が解決された。探索眼球運動は、臨床診断の補助的役割を果たすだけでなく、種々の研究や薬物の開発に役立つと考えられた。また、探索眼球運動は統合失調症の主体性の障害を抽出しており、長年の精神病理学、臨床精神医学における知見、例えば統合失調症の基本障害などの知見を科学的に裏付けている。
 探索眼球運動によって中核型統合失調症が抽出され、異種性の問題が解決された。探索眼球運動は、臨床診断の補助的役割を果たすだけでなく、種々の研究や薬物の開発に役立つと考えられた。また、探索眼球運動は統合失調症の主体性の障害を抽出しており、長年の精神病理学、臨床精神医学における知見、例えば統合失調症の基本障害などの知見を科学的に裏付けている。
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===アイマークレコーダー===
===アイマークレコーダー===
 アイマークレコーダーを用いて注視点の動きを記録した。原理は角膜に光源から光を当ててその反射光をカメラで捉える。眼球が動くと反射光もそれに対応して動くので、これと被験者が見ている背景を別のカメラで捉えた映像を重ね合わせることによって被験者がどこを見ているかを観察することができる。
 アイマークレコーダーを用いて注視点の動きを記録した。原理は[[wikipedia:ja:角膜|角膜]]に光源から光を当ててその反射光をカメラで捉える。眼球が動くと反射光もそれに対応して動くので、これと被験者が見ている背景を別のカメラで捉えた映像を重ね合わせることによって被験者がどこを見ているかを観察することができる。


===呈示図について===
===呈示図について===
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===課題の特徴===
===課題の特徴===
 ①横S字図形を呈示して(図2-a)「後で描いてもらいますのでよく見てください」という記銘課題、②標的図と一部異なった図(図2-b,c)をイメージ上の標的図と比較させる比較照合課題、③違いについて質問し他に違いはないかと質問し「ありません」と答えるときの念押し課題を行った。記銘課題と念押し課題の注視点の動きを用いて統合失調症と非統合失調症の判別分析(診断補助装置)を行っている。
#横S字図形を呈示して(図2-a)「後で描いてもらいますのでよく見てください」という記銘課題<br>
#標的図と一部異なった図(図2-b,c)をイメージ上の標的図と比較させる比較照合課題
#違いについて質問し他に違いはないかと質問し「ありません」と答えるときの念押し課題を行う。
 
 記銘課題と念押し課題の注視点の動きを用いて統合失調症と非統合失調症の判別分析(診断補助装置)を行っている。


===探索眼球運動の実際の記録法===
===探索眼球運動の実際の記録法===
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 (2)、(3)、(7)、(8)は記銘課題、(4)、(5)、(6)は比較照合課題および念押し課題である。
 (2)、(3)、(7)、(8)は記銘課題、(4)、(5)、(6)は比較照合課題および念押し課題である。


 以上のような課題を施行中の注視点の動きをビデオに記録し、注視点の動きについて解析専用ソフトを用いて、半自動的に解析していた。現在は非接触性のアイカメラを用い、検査者が指示を与える以外は自動的に刺激が呈示され、探索眼球運動の各要素が算出され、統合失調症か否かを判定し、臨床診断の補助装置として使用している。
 かつては以上のような課題を施行中の注視点の動きをビデオに記録し、注視点の動きについて解析専用ソフトを用いて、半自動的に解析していた。現在は非接触性のアイカメラを用い、検査者が指示を与える以外は自動的に刺激が呈示され、探索眼球運動の各要素が算出され、統合失調症か否かを判定し、臨床診断の補助装置として使用している。


== 測定指標について ==
== 測定指標について ==
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===念押し課題時の反応的探索スコア===
===念押し課題時の反応的探索スコア===
 前述した念押し課題時の5秒間の注視点をスコア化した。自動的に算出する。
 前述した念押し課題時の5秒間の注視点を自動的にスコア化する。


== 反応的探索スコアの抽出 ==
== 反応的探索スコアの抽出 ==
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 それではこの主体性を最大限に発揮する課題は何かを探した。その結果、反応的探索スコア(RSS)の課題に行き着いた。
 それではこの主体性を最大限に発揮する課題は何かを探した。その結果、反応的探索スコア(RSS)の課題に行き着いた。


 反応的探索スコアは、質問・回答が繰り返された後に引き続いて行う、念押しの質問に対する反応である。すなわちこれまでの課題と違い、①面接場面であることが大きく異なる。面接場面すなわち対人場面では緊張感が高まる。②「違いがあるかもしれない」という暗示を含んだ「他に違いはありませんか」という質問に対して被験者が「ありません」と答えている。すなわち念押し課題に対して明確な答えを求める課題である。緊張感が一層高まり確認の行動が起きやすくなる。③課題中(質問・回答中)の注視点の動きを評価しており、主体性を抽出しやすい指標を用いている。これら①②③によって最大の主体性を抽出できる課題と考えた。
 反応的探索スコアは、質問・回答が繰り返された後に引き続いて行う、念押しの質問に対する反応である。すなわちこれまでの課題と違い、
#面接場面であることが大きく異なる。面接場面すなわち対人場面では緊張感が高まる。
#「違いがあるかもしれない」という暗示を含んだ「他に違いはありませんか」という質問に対して被験者が「ありません」と答えている。すなわち念押し課題に対して明確な答えを求める課題である。緊張感が一層高まり確認の行動が起きやすくなる。
#課題中(質問・回答中)の注視点の動きを評価しており、主体性を抽出しやすい指標を用いている。
 
 これら①②③によって最大の主体性を抽出できる課題と考えた。


 統合失調症で主体性の障害が基本的なものとすれば、健常者が主体性を最大限に発発揮する指標は両者を判別する上で大きな力になると考えられる。
 統合失調症で主体性の障害が基本的なものとすれば、健常者が主体性を最大限に発発揮する指標は両者を判別する上で大きな力になると考えられる。
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<ref name=ref4><pubmed>2334747</pubmed></ref>
<ref name=ref4><pubmed>2334747</pubmed></ref>


 記憶課題時の要素的指標である運動数は急性、慢性、[[寛解]]統合失調症群とも健常者群よりも有意に減少していた。守屋<ref name=ref9>'''守屋裕文'''<br>注視点記録装置を用いた慢性分裂病患者とその家族の開瞼時眼球運動の研究<br>''精神経誌''、81:523-558, 1979</ref>の報告によれば統合失調症の家族でも健常者に比べて運動数が少なく、運動数は統合失調症の素因を反映していると考えられた。しかし別に調べたうつ病患者や[[覚せい剤]][[精神疾患]]患者でも運動数の減少があり統合失調症に特徴的な所見とはいえない。総移動距離は慢性患者群が他の3群に比し有意に短い結果であった。急性患者群の総移動距離は健常者群に比べて有意に短いものの、寛解患者群と健常者群との間に有意差はなかった。平均移動距離は慢性患者群でのみ他の3群に比べて有意に短い値を示していた。平均移動距離は統合失調症の慢性化の指標を示していると考えられた。
 記憶課題時の要素的指標である運動数は急性、慢性、[[寛解]]統合失調症群とも健常者群よりも有意に減少していた。守屋<ref name=ref9>'''守屋裕文'''<br>注視点記録装置を用いた慢性分裂病患者とその家族の開瞼時眼球運動の研究<br>''精神経誌''、81:523-558, 1979</ref>の報告によれば統合失調症の家族でも健常者に比べて運動数が少なく、運動数は統合失調症の素因を反映していると考えられた。しかし別に調べたうつ病患者や[[覚せい剤]]精神疾患患者でも運動数の減少があり統合失調症に特徴的な所見とはいえない。総移動距離は慢性患者群が他の3群に比し有意に短い結果であった。急性患者群の総移動距離は健常者群に比べて有意に短いものの、寛解患者群と健常者群との間に有意差はなかった。平均移動距離は慢性患者群でのみ他の3群に比べて有意に短い値を示していた。平均移動距離は統合失調症の慢性化の指標を示していると考えられた。


 反応的探索スコアについてみると、急性・慢性・寛解統合失調症群のいずれでも健常群よりも有意に低い値を示していた。これまで覚せい剤精神疾患患者<ref name=ref3><pubmed>3797583</pubmed></ref>、うつ病患者<ref name=ref4 /> <ref name=ref8><pubmed>11705714</pubmed></ref> <ref name=ref14 />、てんかん患者<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />、[[前頭葉]]損傷患者<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />、アルコール依存患者<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />等について検査を行ってきたがいずれの群でも反応的探索スコアは統合失調症群のそれよりも有意に高かった。このスコアの低値が統合失調症の特徴を示す指標と考えられた。
 反応的探索スコアについてみると、急性・慢性・寛解統合失調症群のいずれでも健常群よりも有意に低い値を示していた。これまで覚せい剤精神疾患患者<ref name=ref3><pubmed>3797583</pubmed></ref>、うつ病患者<ref name=ref4 /> <ref name=ref8><pubmed>11705714</pubmed></ref> <ref name=ref14 />、[[てんかん]]患者<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />、[[前頭葉]]損傷患者<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />、[[アルコール依存症]]患者<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />等について検査を行ってきたがいずれの群でも反応的探索スコアは統合失調症群のそれよりも有意に高かった。このスコアの低値が統合失調症の特徴を示す指標と考えられた。


== 精神症状および神経心理学的検査 ==
== 精神症状および神経心理学的検査 ==
<ref name=ref5><pubmed>1553506</pubmed></ref> <ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />
<ref name=ref5><pubmed>1553506</pubmed></ref> <ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />


 記銘課題時の3つの要素的指標および反応的探索スコアとBPRS (Brief Psychiatric Rating Scale)で測定した精神症状、SANS (Scale for Assessment of Negative Symptoms)で測定した精神症状の関係を調べたところ、反応的探索スコアとBPRSの感情的ひきこもり(-0.52),[[情動]]鈍麻もしくは不適切な情動(-0.57)SANSの情動の平板化・情動鈍麻(-0.50)、意欲・発動性欠如(-0.64)、注意の障害(-0.62)と逆相関していた。運動数とBPRSの心気的訴え(0.40)、高揚気分(0.47)と相関していた。すなわち反応的探索スコアが陰性症状と逆相関していた。また反応的探索スコアはWAISの動作性IQと相関していた(0.74)
 記銘課題時の3つの要素的指標および反応的探索スコアとBrief Psychiatric Rating Scale(BPRS)で測定した精神症状、Scale for Assessment of Negative Symptoms(SANS)で測定した精神症状の関係を調べたところ、反応的探索スコアとBPRSの[[感情的ひきこもり]](-0.52),[[情動鈍麻]]もしくは不適切な[[情動]]-0.57)SANSの情動の平板化・情動鈍麻(-0.50)、意欲・発動性欠如(-0.64)、注意の障害(-0.62)と逆相関していた。運動数とBPRSの心気的訴え(0.40)、高揚気分(0.47)と相関していた。すなわち反応的探索スコアが陰性症状と逆相関していた。また反応的探索スコアは[[WAIS]]の[[動作性IQ]]と相関していた(0.74)


== 統合失調症のハイリスク者と探索眼球運動 ==
== 統合失調症のハイリスク者と探索眼球運動 ==


 統合失調症になりやすさを反映する指標、脆弱性マーカーを調べるために、統合失調症のハイリスク群について探索眼球運動を調べた。反応的探索スコアは統合失調症の一卵性双生児の例で、一方が統合失調症患者、他方が健常者という不一致例同士の間においてその値が近似していた<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />。うつ病患者で1度の親族に統合失調症患者がいると、統合失調症患者がいないうつ病患者に比べてこのスコアが低値を示した<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />。統合失調症患者の同胞のスコアは統合失調症を発症していなくても健常者のスコアよりも有意に低かった<ref name=ref14 /> <ref name=ref16><pubmed>18950366</pubmed></ref> 。統合失調症で1度の親族に統合失調症患者が多いほどこのスコアが低値を示した<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />。以上の結果は反応的探索スコアが強力な統合失調症の脆弱性素因マーカー(遺伝素因マーカー)であることを示している。また、記銘課題時の注視点の運動数、総移動距離については、統合失調症の家族の値が統合失調症患者と健常者の間に位置していた<ref name=ref9 />。このことは運動数や総移動距離も程度は弱くても脆弱性素因マーカーということができる。
 統合失調症になりやすさを反映する指標、脆弱性マーカーを調べるために、統合失調症のハイリスク群について探索眼球運動を調べた。反応的探索スコアは統合失調症の[[wikipedia:ja:一卵性双生児|一卵性双生児]]の例で、一方が統合失調症患者、他方が健常者という不一致例同士の間においてその値が近似していた<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />。うつ病患者で1度の親族に統合失調症患者がいると、統合失調症患者がいないうつ病患者に比べてこのスコアが低値を示した<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />。統合失調症患者の同胞のスコアは統合失調症を発症していなくても健常者のスコアよりも有意に低かった<ref name=ref14 /> <ref name=ref16><pubmed>18950366</pubmed></ref> 。統合失調症で1度の親族に統合失調症患者が多いほどこのスコアが低値を示した<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />。以上の結果は反応的探索スコアが強力な統合失調症の脆弱性素因マーカー(遺伝素因マーカー)であることを示している。また、記銘課題時の注視点の運動数、総移動距離については、統合失調症の家族の値が統合失調症患者と健常者の間に位置していた<ref name=ref9 />。このことは運動数や総移動距離も程度は弱くても脆弱性素因マーカーということができる。


== 遺伝子研究 ==
== 遺伝子研究 ==


 探索眼球運動とくに反応的探索スコアの異常が統合失調症の[[中間表現型]]であることがわかり、これを用いて統合失調症患者、同胞を用いて連鎖解析を行ったところ、反応的探索時運動数(反応的探索スコア時の運動数)と22q11.2-12.1との連鎖が認められた<ref name=ref15><pubmed>14582142</pubmed></ref>。22q11は、統合失調症の連鎖領域の中でも最も注目されている場所のひとつであり、22q11.2欠失症候群患者は高い確率で統合失調症と診断されている<ref name=ref1><pubmed>16969581</pubmed></ref>。
 探索眼球運動とくに反応的探索スコアの異常が統合失調症の[[中間表現型]]であることがわかり、これを用いて統合失調症患者、同胞を用いて[[連鎖解析]]を行ったところ、反応的探索時運動数(反応的探索スコア時の運動数)と22q11.2-12.1との連鎖が認められた<ref name=ref15><pubmed>14582142</pubmed></ref>。22q11は、統合失調症の連鎖領域の中でも最も注目されている場所のひとつであり、22q11.2欠失症候群患者は高い確率で統合失調症と診断されている<ref name=ref1><pubmed>16969581</pubmed></ref>。


== 統合失調症とその他の疾患との判別分析―診断補助装置の開発 ==
== 統合失調症とその他の疾患との判別分析―診断補助装置の開発 ==


 統合失調症診断補助装置を開発し自動的に解析できるようにして多施設大量の対象者に判別分析を行った。統合失調症の脆弱性素因マーカーである、反応的探索スコアを含む探索眼球運動の4つの指標を用いた。すなわち「後で描いてもらいますからよくみてください」という記銘課題時の運動数、平均移動距離、総移動距離と「他に違いはありませんか」と聞く、念押し課題時の反応的探索スコア、合わせて4指標を用いて判別分析を行ったが、ステップワイズの指標選択でまず反応的探索スコアが選択され、次に運動数か総移動距離(記銘課題)が選択され、2つの指標で判別式が構成された<ref name=ref10><pubmed>9789207</pubmed></ref> <ref name=ref14 /> <ref name=ref17><pubmed>19165524</pubmed></ref>。反応的探索スコアは遺伝的素因と精神症状(陰性症状)を、運動数や総移動距離は主に精神症状(興味関心の低下など抑うつ症状)と一部遺伝素因を反映すると考えられる。これらの判別分析の研究結果では、臨床診断された統合失調症のうち探索眼球運動の2つの指標で統合失調症と診断できた割合(感受性)は70~75%であった。この値70%という割合は何を意味するだろうか。Gottesman<ref name=ref2>'''Gottesman I.I.'''<br>Schizophrenia Genesis  The Origins of Madness (1991)<br>(訳)内沼幸雄、南光進一郎<br>分裂病の起源 ''日本評論社 東京'' 1992</ref>によれば「人類遺伝学者が分裂病の罹病性における遺伝因の重要性を推定したところ、統計学でいう遺伝率は約70%である」と書かれており、統合失調症の遺伝率に近いと考えられる。判別結果は遺伝的素因を強く反映する反応的探索スコアと弱い遺伝的素因と精神症状等を反映する運動数や総移動距離によって判別されているが、主に反応的探索スコアによって素因の強い統合失調症が70%程度判別されていることを示唆している。
 統合失調症診断補助装置を開発し自動的に解析できるようにして多施設大量の対象者に判別分析を行った。統合失調症の脆弱性素因マーカーである、反応的探索スコアを含む探索眼球運動の4つの指標を用いた。すなわち「後で描いてもらいますからよくみてください」という記銘課題時の運動数、平均移動距離、総移動距離と「他に違いはありませんか」と聞く、念押し課題時の反応的探索スコア、合わせて4指標を用いて判別分析を行ったが、ステップワイズの指標選択でまず反応的探索スコアが選択され、次に運動数か総移動距離(記銘課題)が選択され、2つの指標で判別式が構成された<ref name=ref10><pubmed>9789207</pubmed></ref> <ref name=ref14 /> <ref name=ref17><pubmed>19165524</pubmed></ref>
 
 反応的探索スコアは遺伝的素因と精神症状(陰性症状)を、運動数や総移動距離は主に精神症状(興味関心の低下など[[抑うつ症状]])と一部遺伝素因を反映すると考えられる。これらの判別分析の研究結果では、臨床診断された統合失調症のうち探索眼球運動の2つの指標で統合失調症と診断できた割合(感受性)は70~75%であった。この値70%という割合は何を意味するだろうか。Gottesman<ref name=ref2>'''Gottesman I.I.'''<br>Schizophrenia Genesis  The Origins of Madness (1991)<br>(訳)内沼幸雄、南光進一郎<br>分裂病の起源 ''日本評論社 東京'' 1992</ref>によれば「人類遺伝学者が分裂病の罹病性における遺伝因の重要性を推定したところ、統計学でいう遺伝率は約70%である」と書かれており、統合失調症の遺伝率に近いと考えられる。判別結果は遺伝的素因を強く反映する反応的探索スコアと弱い遺伝的素因と精神症状等を反映する運動数や総移動距離によって判別されているが、主に反応的探索スコアによって素因の強い統合失調症が70%程度判別されていることを示唆している。


== 中核型統合失調症の抽出―異種性の問題を超えて ==
== 中核型統合失調症の抽出―異種性の問題を超えて ==

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