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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0150214 河野 孝夫]、[http://researchmap.jp/read0184909 服部 光治]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0150214 河野 孝夫]、[http://researchmap.jp/read0184909 服部 光治]</font><br> | ||
''名古屋市立大学 大学院薬学研究科 病態生化学分野 大学院薬学研究科''<br> | ''名古屋市立大学 大学院薬学研究科 病態生化学分野 大学院薬学研究科''<br> | ||
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年9月3日 原稿完成日:2013年月日<br> | DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年9月3日 原稿完成日:2013年月日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br> | ||
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英語名:Reelin | 英語名:Reelin | ||
{{box|text= | {{box|text= リーリンは全長約3500アミノ酸残基からなる巨大分泌[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]であり、歩行時によろめく表現型を持つ自然発症[[マウス]]「[[リーラー]]」において欠損する分子として同定された。[[リポタンパク質受容体]]として知られる[[ApoER2]]や[[VLDLR]]に結合し、細胞内タンパク質[[Dab1]]の[[リン酸化]]を誘導する。この[[シグナル経路]]の活性化により、胎生期では[[神経細胞]]の[[移動]]や形態形成が、成体期では[[記憶]]の形成や[[シナプス可塑性]]が制御される。欠損はヒトでも報告されており、[[てんかん]]や[[精神遅滞]]を呈する[[滑脳症]]を引き起こす。近年、[[統合失調症]]や[[アルツハイマー病]]患者におけるリーリンの発現量低下や[[一塩基多型]]が多く報告され、[[精神神経疾患]]の発症との関連が示唆されている。}} | ||
リーリンは全長約3500アミノ酸残基からなる巨大分泌[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]であり、歩行時によろめく表現型を持つ自然発症[[マウス]]「[[リーラー]]」において欠損する分子として同定された。 | {{PBB|geneid=5649}} | ||
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== 同定 == | == 同定 == | ||
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[[ファイル:Takao Kohno Fig 1.jpg|thumb|right|500px|'''図1.リーリンタンパク質の構造''']] | [[ファイル:Takao Kohno Fig 1.jpg|thumb|right|500px|'''図1.リーリンタンパク質の構造''']] | ||
リーリンは、マウスでは全長3461アミノ酸残基からなり、[[分泌]]シグナルに続いてN末端領域、8回の繰り返し構造(リーリンリピート)、そして塩基性アミノ酸に富むC末端領域(CTR)からなる<ref><pubmed> 7715726 </pubmed></ref>。 | |||
N末端領域は、[[F-スポンジン]]との相同性を弱く持つが、他の領域に関しては、相同性の高いタンパク質は存在しない。それぞれのリーリンリピートは、3つのドメインを持ち、中央に[[EGF]]様モチーフ、さらにこれを挟むようにサブリピートAとサブリピートBが存在する。3番目のリーリンリピートの構造解析の結果、サブリピート同士は互いに接し、馬蹄の様な構造をとる事が分かった<ref><pubmed> 18787202 </pubmed></ref>。CTRは、わずか32アミノ酸残基からなり塩基性に富み、その一次構造は種を超えて高度に保存されている<ref name=ref5><pubmed> 17504759 </pubmed></ref>。フレームシフト変異により8番目のリーリンリピートの一部とCTRを欠くリーリンを発現するリーラーオルレアンマウスでは、リーリンは細胞外に分泌されない<ref><pubmed> 11745613 </pubmed></ref>。そのため、リーリンのCTRはリーリンの分泌に必須であると考えられてきた。しかし、CTRのみを欠くリーリンは分泌効率が低いものの細胞外に分泌されること、CTRをFLAG-tagなどに置換した場合では効率的に分泌されることが判った。そのため、CTRは分泌には必須ではないことが明らかになった<ref name=ref5 />。 | N末端領域は、[[F-スポンジン]]との相同性を弱く持つが、他の領域に関しては、相同性の高いタンパク質は存在しない。それぞれのリーリンリピートは、3つのドメインを持ち、中央に[[EGF]]様モチーフ、さらにこれを挟むようにサブリピートAとサブリピートBが存在する。3番目のリーリンリピートの構造解析の結果、サブリピート同士は互いに接し、馬蹄の様な構造をとる事が分かった<ref><pubmed> 18787202 </pubmed></ref>。CTRは、わずか32アミノ酸残基からなり塩基性に富み、その一次構造は種を超えて高度に保存されている<ref name=ref5><pubmed> 17504759 </pubmed></ref>。フレームシフト変異により8番目のリーリンリピートの一部とCTRを欠くリーリンを発現するリーラーオルレアンマウスでは、リーリンは細胞外に分泌されない<ref><pubmed> 11745613 </pubmed></ref>。そのため、リーリンのCTRはリーリンの分泌に必須であると考えられてきた。しかし、CTRのみを欠くリーリンは分泌効率が低いものの細胞外に分泌されること、CTRをFLAG-tagなどに置換した場合では効率的に分泌されることが判った。そのため、CTRは分泌には必須ではないことが明らかになった<ref name=ref5 />。 | ||
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== 発現 == | == 発現 == | ||
[[胎生期]]では、大脳皮質の[[辺縁層]]に位置するカハール・レチウス細胞、[[海馬]]の辺縁層の外側(将来の[[網状分子層]])に強く発現する。 | |||
成体期になると、大脳皮質のカハール・レチウス細胞での発現が弱まり、[[GABA作動性神経細胞]]に発現が見られる。[[小脳]]では[[外顆粒細胞]]に発現する。 | 成体期になると、大脳皮質のカハール・レチウス細胞での発現が弱まり、[[GABA作動性神経細胞]]に発現が見られる。[[小脳]]では[[外顆粒細胞]]に発現する。 | ||
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Dab1のY220及びY232のリン酸化は、[[Crk]]/[[Crkl]]-[[C3G]]複合体をリクルートし、[[低分子量Gタンパク質]]である[[Rap1]]のリン酸化を促す<ref><pubmed> 15062102 </pubmed></ref>。 | Dab1のY220及びY232のリン酸化は、[[Crk]]/[[Crkl]]-[[C3G]]複合体をリクルートし、[[低分子量Gタンパク質]]である[[Rap1]]のリン酸化を促す<ref><pubmed> 15062102 </pubmed></ref>。 | ||
最近、大脳[[皮質形成]]の最終段階における、リーリン-Crk/CrkL-C3G-Rap1経路の重要性が明らかとなり、神経細胞が[[原皮質帯]]と呼ばれる領域へ進入する際に、この経路を介した[[インテグリンα5β1]]の活性化が必要であることが明らかになった<ref><pubmed> 23083738 </pubmed></ref>。 | |||
また、Dab1を介したRap1の活性化は、[[カドヘリン]]の機能を調節し、早生まれの神経細胞の細胞体トランスロケーションや、遅生まれの神経細胞の多極性移動に重要な役割を担うことも明らかになった<ref><pubmed> 21315259 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21516100 </pubmed></ref>。また、PI3Kの下流で、[[n-cofilin]]のリン酸化が誘導され、これにより[[アクチン]]骨格系が安定化されることも報告されている<ref><pubmed> 19129405 </pubmed></ref>。 | また、Dab1を介したRap1の活性化は、[[カドヘリン]]の機能を調節し、早生まれの神経細胞の細胞体トランスロケーションや、遅生まれの神経細胞の多極性移動に重要な役割を担うことも明らかになった<ref><pubmed> 21315259 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21516100 </pubmed></ref>。また、PI3Kの下流で、[[n-cofilin]]のリン酸化が誘導され、これにより[[アクチン]]骨格系が安定化されることも報告されている<ref><pubmed> 19129405 </pubmed></ref>。 | ||
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発生初期の大脳皮質は、[[プレプレート]]と呼ばれる層と、神経細胞が新たに生まれる[[脳室帯]]からなる。脳室帯で生まれた神経細胞はプレプレートに侵入し、プレプレートは、[[辺縁帯]]とサブプレートに分離する(この現象は[[プレプレートスプリッティング]]と呼ばれる)。これに続いて、脳室帯で生まれた神経細胞は、サブプレートを越え放射状に移動し(この時、遅生まれの神経細胞は、早生まれの神経細胞を追い越すように移動する)、辺縁帯の直前で移動を停止する。このようにして、大脳皮質は、早生まれの神経細胞が[[脳室]]側に、遅生まれの神経細胞が表層側に配置される。 | 発生初期の大脳皮質は、[[プレプレート]]と呼ばれる層と、神経細胞が新たに生まれる[[脳室帯]]からなる。脳室帯で生まれた神経細胞はプレプレートに侵入し、プレプレートは、[[辺縁帯]]とサブプレートに分離する(この現象は[[プレプレートスプリッティング]]と呼ばれる)。これに続いて、脳室帯で生まれた神経細胞は、サブプレートを越え放射状に移動し(この時、遅生まれの神経細胞は、早生まれの神経細胞を追い越すように移動する)、辺縁帯の直前で移動を停止する。このようにして、大脳皮質は、早生まれの神経細胞が[[脳室]]側に、遅生まれの神経細胞が表層側に配置される。 | ||
リーリンを欠損するリーラーマウスでは、まずプレプレートスプリッティングが起きない。また、脳室帯で生まれた神経細胞は、早生まれの神経細胞を追い越すことができず、野生型の場合と比べて神経細胞の位置が概ね逆転する。このことから、まずリーリンはプレプレートスプリッティングを起こすために必要であると考えられる。またリーラーマウスにおける[[神経細胞移動]]の異常が、プレプレートスプリッティング異常による、二次的なものかであるか否かは明確な証拠は未だない。 | |||
大脳皮質神経細胞移動におけるリーリンの機能については、いくつかの説が提唱されている。 | 大脳皮質神経細胞移動におけるリーリンの機能については、いくつかの説が提唱されている。 |