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<font size="+1">[http://researchmap.jp/cdg_tricot 井原 涼子]、[http://researchmap.jp/ | <font size="+1">[http://researchmap.jp/cdg_tricot 井原 涼子]、[http://researchmap.jp/atsushiiwata 岩田 淳]</font><br> | ||
'' | ''東京大学 大学院医学系研究科 神経内科学''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年6月26日 原稿完成日:2013年10月22日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446/ 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 脳神経内科)<br> | ||
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{{box|text= | {{box|text= | ||
ハンチントン病は、四肢末端に始まりやがて全身に及ぶ[[舞踏運動]](chorea)を中心とする[[不随意運動]]、[[易怒性]]や[[易刺激性]]などの[[性格]]変化、[[注意力]]や[[記銘力]]低下などの[[認知機能]]障害、[[幻覚]]・[[妄想]]などの精神障害を古典的主症状とする[[wikipedia:ja:常染色体優性遺伝形|常染色体優性遺伝形]]式の進行性の神経変性疾患である。病因遺伝子は4番染色体短腕4p16. | ハンチントン病は、四肢末端に始まりやがて全身に及ぶ[[舞踏運動]](chorea)を中心とする[[不随意運動]]、[[易怒性]]や[[易刺激性]]などの[[性格]]変化、[[注意力]]や[[記銘力]]低下などの[[認知機能]]障害、[[幻覚]]・[[妄想]]などの精神障害を古典的主症状とする[[wikipedia:ja:常染色体優性遺伝形|常染色体優性遺伝形]]式の進行性の神経変性疾患である。病因遺伝子は4番染色体短腕4p16.3のIT15(interesting transcript 15)領域に位置する[[ハンチンチン]](huntingtin)タンパク質をコードする''HTT''遺伝子であり、第1[[エクソン]][[コーディング領域]]の三塩基CAGの繰り返し配列(リピート)の伸長によって起こる。CAG配列は[[wikipedia:ja:グルタミン|グルタミン]]に翻訳されるため、トリプレット病のうち、[[ポリグルタミン病]](polyQ disease)あるいは[[CAGリピート病]]と呼ばれる疾患の一つである。このリピート数は正常では35以下で、患者では36以上であるが、この境界は必ずしも厳密ではなく、人種やほかの遺伝的バックグラウンドによって若干のずれが生じうる。[[Image:Huntington.jpg|thumb|right|250px|<b>図 ハンチントン病患者のMR前額断像</b><br />尾状核頭部萎縮、側脳室前角の拡大、大脳皮質の萎縮が認められる。http://www.radpod.org/2007/05/01/huntingtons-disease/より。]] | ||
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==症状 == | ==症状 == | ||
===臨床症状=== | ===臨床症状=== | ||
多くは30~40歳代に発症する。手足次いで頭頸部に舞踏運動を中心とした不随意運動が出現し、協調運動障害も認めるようになる。また、並行して易怒性や落ち着きのなさなどの性格変化、幻覚・妄想などの精神症状が見られるようになる。さらに認知機能が緩徐に低下していく。これらの症状は進行性である。このような経過を「古典型」と表現する。しかしながら、臨床経過は症例ごとに大きくばらつきがあり、ごく稀に成人発症でも不随意運動を伴わない症例もある。 | |||
20歳以下で発症する若年型ハンチントン病では精神症状や認知機能障害で始まることが多く、初発時に運動症状を呈する例は少ない。若年型の場合、運動症状として、舞踏運動ではなくパーキンソニズムやジストニアが見られることもある。発症年齢が若いほどてんかん発作の頻度が多く、発症年齢が10歳以下では1/2~1/3に見られる。若年発症型の方が広汎かつ重度な神経変性があり、それを反映して多彩な症状が出現し、進行が早く発症から5,6年で寝たきりとなる症例もある。一方、60歳以降の高齢発症者は、精神障害や知的障害を伴わないなど症状は軽度である。 | |||
ハンチントン病遺伝子のCAGリピートの長さが長いほど若年発症の傾向が強まる。 | |||
===臨床経過=== | ===臨床経過=== | ||
典型的な症例では罹病期間は10~20年で、死因は誤嚥性肺炎や低栄養、窒息などである。前述のように若年発症者では進行が速く、予後は短い。高齢発症者では進行は緩徐である。 | |||
==診断== | ==診断== | ||
===基準=== | ===基準=== | ||
有症状者の確定診断は遺伝子診断、すなわちハンチントン病遺伝子のCAGリピートが36以上であることによるが、臨床診断基準として下記の診断基準が挙げられる。 | |||
:(1) 経過が進行性である | |||
:(2) 常染色体優性遺伝の家族歴がある | |||
:(3) 下記の神経所見のうち、いずれか1つ以上がみられる | |||
::① 舞踏運動を中心とした不随意運動。ただし若年発症例ではパーキンソニズム症状を呈することがある | |||
::② 易怒性、無頓着などの性格変化・精神症状 | |||
::③ 記銘力低下などの認知症 | |||
:(4) 脳画像検査で尾状核萎縮を伴う両側の側脳室拡大を認める | |||
:(5) 鑑別診断が除外される | |||
:(6) 遺伝子診断でハンチントン病遺伝子にCAGリピートの伸長を認める | |||
上記の(1)~(5)を全て満たす、あるいは(3)及び(6)を満たすもの。〔厚生労働省特定疾患治療研究事業による認定基準を要約〕 | |||
===検査所見=== | ===検査所見=== | ||
検査所見として、次に述べる病理変化に対応して頭部[[CT]]、[[MRI]]にて[[尾状核]]の萎縮と[[側脳室]]前角の拡大が認められることが特徴的である。進行に伴い[[大脳]]萎縮も認める。 | 検査所見として、次に述べる病理変化に対応して頭部[[CT]]、[[MRI]]にて[[尾状核]]の萎縮と[[側脳室]]前角の拡大が認められることが特徴的である。進行に伴い[[大脳]]萎縮も認める。 | ||
===鑑別診断=== | ===鑑別診断=== | ||
以下の疾患が鑑別に挙げられる。 | |||
:(1) 症候性舞踏病: 小舞踏病、妊娠舞踏病、脳血管障害に伴うものなど | |||
:(2) 薬剤性舞踏病: 遅発性ジスキネジー、その他の薬剤性ジスキネジーなど | |||
:(3) 代謝性疾患: ウィルソン病、脂質代謝異常症など | |||
:(4) 他の神経変性疾患: ハンチントン類縁疾患2型(Huntington disease-like 2, HDL2)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、遺伝性脊髄小脳変性症17型、有棘赤血球症を伴う舞踏病、捻転ジストニアなど | |||
HDL2の臨床症状および経過は極めてハンチントン病に似ることが知られているが、殆どの症例はアフリカ系であり、日本での報告はない。 | |||
==疫学== | ==疫学== | ||
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いくつかの神経変性疾患において、凝集体内にその構成成分の断片が含まれることが知られており、蓄積タンパク質の切断は病態機序に関係していると考えられている。ハンチンチンのN末端領域を含む切断産物は特に[[線条体]]において多く認められ、ハンチントン病患者脳やモデルマウスで切断産物が増加していることから、病態との関与が示唆される。ハンチントン病患者脳の核内封入体はN末端領域の抗体によってのみ検出されること、細胞に発現させるとN末端断片は全長型よりも速く凝集し、より毒性が強いことから、N末端断片が毒性を持つと考えられてきた。特にマウスモデルを用いた研究から、N末端領域に相当する144-150リピートを含むexon1[[トランスジェニックマウス]](R6/2マウス)は全長型を発現するトランスジェニックマウスと同様の症状及び病理変化をより早期からより急速に呈すること、150リピートを含むハンチンチンノックインマウス(HdhQ150ノックインマウス)では症状発現前から第1エクソンに相当するN末端領域の断片の蓄積が見られること<ref><pubmed>20086007</pubmed></ref>、586番アミノ酸で切断する[[カスパーゼ6]]による切断を受けない変異を導入した全長型のトランスジェニックマウスは運動症状や線条体の変性を来さないこと<ref><pubmed>16777606</pubmed></ref>が示されており、その推察を裏付ける根拠となっている。 | いくつかの神経変性疾患において、凝集体内にその構成成分の断片が含まれることが知られており、蓄積タンパク質の切断は病態機序に関係していると考えられている。ハンチンチンのN末端領域を含む切断産物は特に[[線条体]]において多く認められ、ハンチントン病患者脳やモデルマウスで切断産物が増加していることから、病態との関与が示唆される。ハンチントン病患者脳の核内封入体はN末端領域の抗体によってのみ検出されること、細胞に発現させるとN末端断片は全長型よりも速く凝集し、より毒性が強いことから、N末端断片が毒性を持つと考えられてきた。特にマウスモデルを用いた研究から、N末端領域に相当する144-150リピートを含むexon1[[トランスジェニックマウス]](R6/2マウス)は全長型を発現するトランスジェニックマウスと同様の症状及び病理変化をより早期からより急速に呈すること、150リピートを含むハンチンチンノックインマウス(HdhQ150ノックインマウス)では症状発現前から第1エクソンに相当するN末端領域の断片の蓄積が見られること<ref><pubmed>20086007</pubmed></ref>、586番アミノ酸で切断する[[カスパーゼ6]]による切断を受けない変異を導入した全長型のトランスジェニックマウスは運動症状や線条体の変性を来さないこと<ref><pubmed>16777606</pubmed></ref>が示されており、その推察を裏付ける根拠となっている。 | ||
しかしながら、N末端断片のみの毒性に焦点を当てたCAGリピートの伸長したexon1の過剰発現は、細胞モデル・[[動物モデル]]の構築に簡便ではあるものの、ハンチンチンの有する多くの機能を無視した人工的なモデルであるとの批判もあり、真に病態を反映しているか疑問視する議論もある。またハンチンチンはカスパーゼ、[[カルパイン]]、[[カテプシン]]といった[[プロテアーゼ]]によって切断され、多種の断片が存在することが明らかになってきていることからも、病態を模倣するためには全長型ハンチンチンを用いた研究が重要であろう。 | |||
=== プロテアソーム機能異常 === | === プロテアソーム機能異常 === | ||
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[[オートファジー]]は種々の神経変性疾患において、ミスフォールドし凝集する傾向のあるタンパク質の排出に重要な役割を果たす。ハンチントン病の細胞モデルでは、オートファジーコンパートメントの拡大が見られ、変異型ハンチンチンは部分的にオートファジー小胞と共局在する。[[ノックインマウス]]においても初期にはオートファジー関連タンパク質の増加が認められる。 | [[オートファジー]]は種々の神経変性疾患において、ミスフォールドし凝集する傾向のあるタンパク質の排出に重要な役割を果たす。ハンチントン病の細胞モデルでは、オートファジーコンパートメントの拡大が見られ、変異型ハンチンチンは部分的にオートファジー小胞と共局在する。[[ノックインマウス]]においても初期にはオートファジー関連タンパク質の増加が認められる。 | ||
患者脳やモデルマウスにおいてオートファジーの抑制因子である[[Mammalian target of rapamycin]](mTOR)は凝集体に巻き込まれていることが示されており、mTORのキナーゼ活性が低下し、その結果オートファジーの誘導が起きている。細胞モデルにおいてmTOR活性化によるオートファジー抑制によりハンチンチン凝集体の形成と細胞毒性の増加が認められ、逆にmTOR特異的阻害剤である[[ラパマイシン]処理によりオートファジーが誘導され、ハンチンチンの凝集を抑制し、細胞死を抑制する<ref><pubmed>15146184</pubmed></ref>。患者脳で認める現象は、毒性から細胞を守るメカニズムであろうと考えられている。 | 患者脳やモデルマウスにおいてオートファジーの抑制因子である[[Mammalian target of rapamycin]](mTOR)は凝集体に巻き込まれていることが示されており、mTORのキナーゼ活性が低下し、その結果オートファジーの誘導が起きている。細胞モデルにおいてmTOR活性化によるオートファジー抑制によりハンチンチン凝集体の形成と細胞毒性の増加が認められ、逆にmTOR特異的阻害剤である[[ラパマイシン]]処理によりオートファジーが誘導され、ハンチンチンの凝集を抑制し、細胞死を抑制する<ref><pubmed>15146184</pubmed></ref>。患者脳で認める現象は、毒性から細胞を守るメカニズムであろうと考えられている。 | ||
変異型ハンチンチンは、翻訳後に444番リジン残基にアセチル化を受け、オートファジー小胞への輸送を増加させ、オートファジー経路による分解が促進される。一方、変異型ハンチンチン発現細胞において、オートファジー小胞の形成には問題ないものの、細胞質カーゴの認識の障害のため積み込みができず、ターンオーバーが低下し異常蓄積につながる可能性も示唆されている。 | 変異型ハンチンチンは、翻訳後に444番リジン残基にアセチル化を受け、オートファジー小胞への輸送を増加させ、オートファジー経路による分解が促進される。一方、変異型ハンチンチン発現細胞において、オートファジー小胞の形成には問題ないものの、細胞質カーゴの認識の障害のため積み込みができず、ターンオーバーが低下し異常蓄積につながる可能性も示唆されている。 | ||
[[ラパマイシン]]は副作用が大きくオートファジー促進剤としての使用は難しいが、それに代わるオートファジーの促進因子は治療薬候補の一つである。より選択的なシャペロン介在オートファジーの誘導も有望な治療法である。 | [[ラパマイシン]]は副作用が大きくオートファジー促進剤としての使用は難しいが、それに代わるオートファジーの促進因子は治療薬候補の一つである。より選択的なシャペロン介在オートファジーの誘導も有望な治療法である。 | ||
=== 転写制御異常 === | === 転写制御異常 === | ||
ハンチントン患者脳における[[ | ハンチントン患者脳における[[mRNA]]レベルの減少は長年観察されていた現象であるが、患者脳や異なるモデルマウスにおいて非常に似たパターンの、特定のmRNAの減少が見られることがわかってきた。ハンチントン病の[[尾状核]]において発現レベルが変化している遺伝子は、神経シグナリングと恒常性にかかわる遺伝子であり、その多くは発現レベルが低下している。特に、[[代謝調節型]]や[[イオン調節型受容体]]サブユニットや異なる[[神経伝達物質]]からシグナルを受ける[[受容体]]のmRNAレベルの変化が見られた。 | ||
このようなmRNAレベルの変化を起こすメカニズムも広く研究されている。例えば、ハンチンチンは、[[核内受容体リプレッサー]]NCoR、[[CREB binding protein]](CBP)、[[TATA-binding protein]](TBP)、[[TAFII130]]、[[Repressor element 1 transcription factor]](REST)といった多くの[[転写活性化タンパク質]]と相互作用し、そのうち一部のタンパク質はハンチンチン凝集体中に検出される。また、変異型ハンチンチンは[[PPARγ coactivator 1α]](PGC 1α)の[[プロモーター]]領域に直接結合して[[転写因子]][[CREB]]/[[TAF4]]の結合を妨げ、[[PGC 1α]]の発現を抑制する。PGC1αは[[ミトコンドリア]]の生合成や呼吸を制御する因子であり、これにより後述するミトコンドリアへの作用の一部は説明できる可能性がある。 | このようなmRNAレベルの変化を起こすメカニズムも広く研究されている。例えば、ハンチンチンは、[[核内受容体リプレッサー]]NCoR、[[CREB binding protein]](CBP)、[[TATA-binding protein]](TBP)、[[TAFII130]]、[[Repressor element 1 transcription factor]](REST)といった多くの[[転写活性化タンパク質]]と相互作用し、そのうち一部のタンパク質はハンチンチン凝集体中に検出される。また、変異型ハンチンチンは[[PPARγ coactivator 1α]](PGC 1α)の[[プロモーター]]領域に直接結合して[[転写因子]][[CREB]]/[[TAF4]]の結合を妨げ、[[PGC 1α]]の発現を抑制する。PGC1αは[[ミトコンドリア]]の生合成や呼吸を制御する因子であり、これにより後述するミトコンドリアへの作用の一部は説明できる可能性がある。 | ||
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=== エネルギー代謝の障害 === | === エネルギー代謝の障害 === | ||
ハンチントン病患者の脳や筋肉において代謝の変化が見られることが数十年前から知られていた。そのため[[モデル動物]]や細胞におけるエネルギー経路の変化の探索が行われてきた。 MRSを用いた研究では、ハンチントン患者脳において[[N-acetyl aspartate]](NAA)が増加していることが示され、ミトコンドリアの減少や神経機能不全を反映しているものと考えられている。ハンチントン病患者脳における[[wikipedia:ja:乳酸|乳酸]]の増加や[[wikipedia:ja:クレアチン|クレアチン]]レベルの減少も観察され、[[FDG-PET]]においても発症前から線条体のエネルギー代謝が低下していることが示されている。 | |||
分子メカニズムとしては、ミトコンドリアの[[Complex II/III]]活性の欠如、[[Complex IV]]活性の減少による[[酸化的リン酸化]]の障害が示唆されている。またモデルマウスの細胞や組織レベルでミトコンドリアへのCa<sup>2+</sup>流入が減少しており、内膜の透過性亢進と[[wikipedia:ATP|ATP]]産生を阻害する[[膜電位]]の喪失を伴うミトコンドリアの膜透過性遷移孔の活性化につながる可能性も挙げられる。 | 分子メカニズムとしては、ミトコンドリアの[[Complex II/III]]活性の欠如、[[Complex IV]]活性の減少による[[酸化的リン酸化]]の障害が示唆されている。またモデルマウスの細胞や組織レベルでミトコンドリアへのCa<sup>2+</sup>流入が減少しており、内膜の透過性亢進と[[wikipedia:ATP|ATP]]産生を阻害する[[膜電位]]の喪失を伴うミトコンドリアの膜透過性遷移孔の活性化につながる可能性も挙げられる。 | ||
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== 治療 == | == 治療 == | ||
現在のところ個々の症状に対する対症療法のみで、有効性が示された根本療法はない。不随意運動に対する対症療法としては、長らくチアプリドやハロペリドール、ペルフェナジンといったドパミン受容体遮断作用を有する向精神薬が用いられてきた。2008年にFDAにより、ハンチントン病に伴う舞踏運動に対する薬剤としてテトラベナジンが承認された。テトラベナジンは、欧米で昔から不随意運動に対する治療薬として用いられてきたモノアミン小胞トランスポーター2(VMAT2)の選択的阻害剤であり、線条体の神経終末にてドパミンを枯渇させることによって不随意運動を抑制する機序を有する。無作為化比較試験にて不随意運動の減少効果が認められ<ref><pubmed>16476934</pubmed></ref>、テトラベナジンは米国神経学会による治療ガイドラインでは第一選択に位置付けられている<ref><pubmed>22815556</pubmed></ref>。本邦でも2012年12月に承認された。 | |||
今後有望な根本治療は前項で述べた他に、少数例ではあるが胎児線条体の移植も試みられており、良好な経過をたどった症例では5年間を超えるフォローアップで臨床的な改善、PETにて[[D2受容体|D<sub>2</sub>受容体]]結合能の改善が続いていることが示されている<ref><pubmed>18356253</pubmed></ref>。また、トランスジェニックマウスでは[[AAVベクター]]を用いたハンチンチンに対する[[RNAi]]治療により臨床症状の改善を示すことに成功しており、患者への応用が期待される<ref><pubmed>15811941</pubmed></ref>。 | |||
== 関連項目 == | == 関連項目 == |