「視床下部」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
1行目: 1行目:
[[Image:1視床下部の位置.jpg|thumb|right|300px|'''図1 脳内における視床下部の位置''']]  
<div align="right"> 
[[Image:Hypothalamus.gif|thumb|right|300px|'''図2 脳内における視床下部の位置(赤)''']]  
<font size="+1">[http://researchmap.jp/zauberberg 犬束 歩]、[http://researchmap.jp/read0163104 山中 章弘]</font><br>
''名古屋大学 環境医学研究所 ストレス受容・応答研究部門 名古屋大学環境医学研究所ストレス受容・応答研究部門''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年5月25日 原稿完成日:2013年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadashiisa 伊佐 正](自然科学研究機構生理学研究所)<br>
</div>
 
[[Image:1視床下部の位置.jpg|thumb|right|300px|'''図1.脳内における視床下部の位置''']]  
[[Image:Hypothalamus.gif|thumb|right|300px|'''図2.脳内における視床下部の位置(赤)''']]  


英:Hypothalamus  
英:Hypothalamus  


 視床下部とは、[[間脳]]に位置し、[[wikipedia:ja:内分泌|内分泌]]や自律機能の調節を行う総合中枢である(図1、2)。ヒトの場合は脳重量のわずか0.3%程度の小さな組織であるが、多くの神経核から構成されており、[[体温調節の神経回路|体温調節]]や[[ストレス]]応答、[[摂食行動]]や[[睡眠]][[覚醒]]など多様な機能を協調して管理している。[[中脳]]以下の自律機能を司る中枢が[[呼吸運動]]や[[血管運動]]といった個別の自律機能を調節するのに対し、視床下部は[[交感神経]]・[[副交感神経]]機能や内分泌を統合的に調節することで、生体の[[恒常性]]維持に重要な役割を果たしている。系統発生的には古い脳領域であり、摂食行動、[[性行動]]、睡眠といった本能行動の中枢である。
{{box|text=
 視床下部とは、[[間脳]]に位置し、[[wikipedia:ja:内分泌|内分泌]]や自律機能の調節を行う総合中枢である(図1、2)。ヒトの場合は脳重量のわずか0.3%程度の小さな組織であるが、多くの神経核から構成されており、[[体温調節の神経回路|体温調節]]や[[ストレス]]応答、[[摂食行動]]や[[睡眠]][[覚醒]]など多様な機能を協調して管理している。[[中脳]]以下の自律機能を司る中枢が[[呼吸運動]]や[[血管運動]]といった個別の自律機能を調節するのに対し、視床下部は[[交感神経]]・[[副交感神経]]機能や内分泌を統合的に調節することで、生体の[[恒常性]]維持に重要な役割を果たしている。系統発生的には古い脳領域であり、摂食行動、[[性行動]]、睡眠といった本能行動の中枢である。
}}


== 構造  ==
== 構造  ==


[[Image:2視床下部の神経核.jpg|thumb|right|300px|<b>図3 視床下部内の主な神経核</b>]]  
[[Image:2視床下部の神経核.jpg|thumb|right|300px|<b>図3.視床下部内の主な神経核</b>]]  


 視床下部を構成する[[灰白質]]は[[第三脳室]]と接している視床下部脳室周囲層、その外側の視床下部内側野、最も外側に位置する視床下部外側野の3領域に分けられ、それぞれに神経核群が存在している(図3)。視床下部は[[下垂体門脈]]と呼ばれる血管系を介して[[下垂体]]とつながっている。下垂体は[[wikipedia:ja:甲状腺|甲状腺]]、[[wikipedia:ja:副腎皮質|副腎皮質]]、[[wikipedia:ja:性腺|性腺]]といった下位の内分泌腺を刺激するホルモンを分泌する上位の内分泌器官であるが、視床下部で産生される視床下部ホルモンは下垂体門脈を経由してこの下垂体からのホルモン分泌を調節している。また、視床下部の一部では[[血液脳関門]]が無い領域が存在し、視床下部に存在する神経細胞が血液、[[脳脊髄液]]に含まれる[[wikipedia:ja:生理活性分子|生理活性分子]]の濃度変化をモニタリングするのに役立っている。以下、視床下部に存在する多くの神経核のうち、主なものを記す。  
 視床下部を構成する[[灰白質]]は[[第三脳室]]と接している視床下部脳室周囲層、その外側の視床下部内側野、最も外側に位置する視床下部外側野の3領域に分けられ、それぞれに神経核群が存在している(図3)。視床下部は[[下垂体門脈]]と呼ばれる血管系を介して[[下垂体]]とつながっている。下垂体は[[wikipedia:ja:甲状腺|甲状腺]]、[[wikipedia:ja:副腎皮質|副腎皮質]]、[[wikipedia:ja:性腺|性腺]]といった下位の内分泌腺を刺激するホルモンを分泌する上位の内分泌器官であるが、視床下部で産生される視床下部ホルモンは下垂体門脈を経由してこの下垂体からのホルモン分泌を調節している。また、視床下部の一部では[[血液脳関門]]が無い領域が存在し、視床下部に存在する神経細胞が血液、[[脳脊髄液]]に含まれる[[wikipedia:ja:生理活性分子|生理活性分子]]の濃度変化をモニタリングするのに役立っている。以下、視床下部に存在する多くの神経核のうち、主なものを記す。  


=== 弓状核  ===
=== 弓状核  ===
24行目: 33行目:
Paraventricular nucleus: PVN  
Paraventricular nucleus: PVN  


 視床下部前方の背側、第三脳室壁の近くにある明瞭な核で、視交叉上核とおなじく構成する細胞は大きい。室傍核にはストレスホルモンとも呼ばれる副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(Corticotropin-releasing hormone: CRH)を分泌する神経細胞が存在する。視床下部からのCRHの放出は下垂体前葉における[[副腎皮質刺激ホルモン]](Adrenocorticotropic hormone: ACTH)産生細胞を刺激し、ACTHや[[Β-リポトロピン]]、[[Β-エンドルフィン]]の産生と放出とが促される。ACTHは血液循環によって運ばれたのち、[[wikipedia:ja:副腎皮質|副腎皮質]]を刺激し、[[副腎皮質ホルモン]]である[[糖質コルチコイド]](主に[[コルチゾール]])の産生と分泌とを高める。このコルチゾールが[[wikipedia:ja:循環器|循環器]]機能や[[wikipedia:ja:エネルギー代謝|エネルギー代謝]]を高め、ストレスに対する全身の防御にはたらく。[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を含めた[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]では[[ストレス]]に対する防御システムとして内分泌系および自律神経系が最も重要な役割を担っており、[[視床下部―下垂体―副腎皮質]]の一連のホルモン伝達系はストレス応答の重要な経路となっている<ref><pubmed> 21663538 </pubmed></ref>。
 視床下部前方の背側、第三脳室壁の近くにある明瞭な核で、視交叉上核とおなじく構成する細胞は大きい。室傍核にはストレスホルモンとも呼ばれる副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(Corticotropin-releasing hormone: CRH)を分泌する神経細胞が存在する。視床下部からのCRHの放出は下垂体前葉における[[副腎皮質刺激ホルモン]](Adrenocorticotropic hormone: ACTH)産生細胞を刺激し、ACTHや[[B-リポトロピン]]、[[B-エンドルフィン]]の産生と放出とが促される。ACTHは血液循環によって運ばれたのち、[[wikipedia:ja:副腎皮質|副腎皮質]]を刺激し、[[副腎皮質ホルモン]]である[[糖質コルチコイド]](主に[[コルチゾール]])の産生と分泌とを高める。このコルチゾールが[[wikipedia:ja:循環器|循環器]]機能や[[wikipedia:ja:エネルギー代謝|エネルギー代謝]]を高め、ストレスに対する全身の防御にはたらく。[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を含めた[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]では[[ストレス]]に対する防御システムとして内分泌系および自律神経系が最も重要な役割を担っており、[[視床下部―下垂体―副腎皮質]]の一連のホルモン伝達系はストレス応答の重要な経路となっている<ref><pubmed> 21663538 </pubmed></ref>。


=== 視交叉上核  ===
=== 視交叉上核  ===
48行目: 57行目:
Ventromedial hypothalamic nucleus: VMN  
Ventromedial hypothalamic nucleus: VMN  


 腹内側核は視床下部の中で最も大きく明瞭な核であり、小型または中型の細胞から構成されている。[[満腹中枢]]としての機能は1940年代に行われた腹内側核の除去が動物に肥満をもたらすという様々な実験結果から提唱されたものであり、1970年代に肥満をもたらしているのは室傍核など腹内側核の周辺組織の受けた損傷であるというGoldらによる異論<ref><pubmed> 4795550 </pubmed></ref>があったものの、現在でも摂食行動と体重維持を制御しているものと考えられている<ref><pubmed> 16412483 </pubmed></ref>。一方、摂食中枢は視床下部の外側野に位置するとされ、摂食促進ペプチドである[[メラニン凝集ホルモン]](MHC)およびオレキシンを含む神経細胞が存在している。また、最近では腹内側核の神経細胞を[[光遺伝学的]]手法により活性化させると、攻撃行動が引き起こされるという報告がなされている<ref><pubmed> 21307935 </pubmed></ref>。この攻撃行動の際に活性化している神経細胞群は生殖行動の際には抑制されており、相反する二つの行動のスイッチとしてはたらいている可能性がある。  
 腹内側核は視床下部の中で最も大きく明瞭な核であり、小型または中型の細胞から構成されている。[[満腹中枢]]としての機能は1940年代に行われた腹内側核の除去が動物に肥満をもたらすという様々な実験結果から提唱されたものであり、1970年代に肥満をもたらしているのは室傍核など腹内側核の周辺組織の受けた損傷であるというGoldらによる異論<ref><pubmed> 4795550 </pubmed></ref>があったものの、現在でも摂食行動と体重維持を制御しているものと考えられている<ref><pubmed> 16412483 </pubmed></ref>。一方、摂食中枢は視床下部の外側野に位置するとされ、摂食促進ペプチドである[[メラニン凝集ホルモン]](MHC)およびオレキシンを含む神経細胞が存在している。また、最近では腹内側核の神経細胞を[[光遺伝学的]]手法により活性化させると、攻撃行動が引き起こされるという報告がなされている<ref><pubmed> 21307935 </pubmed></ref>。この攻撃行動の際に活性化している神経細胞群は生殖行動の際には抑制されており、相反する二つの行動のスイッチとしてはたらいている可能性がある。  


== 機能  ==
== 機能  ==
94行目: 103行目:
== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />  
<references />
 
<br> (執筆者:犬束歩、山中章弘  担当編集委員:伊佐正)

案内メニュー