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407 バイト追加 、 2013年9月19日 (木)
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===シグナル伝達機構===
===シグナル伝達機構===


 Dab1が神経細胞移動を制御する分子メカニズムについては、チロシンリン酸化Dab1に結合する分子を中心に解析が進められて来ている。特に''crk''と''crkl''のダブルノックアウトマウス<ref name="crk" />と''c3g''のジーントラップ系統マウス<ref name="c3g" />でリーラーフェノタイプが観察されることから、その下流分子として[[Rap1]]が注目された。Rap1は[[Rasファミリー低分子量Gタンパク質]]に属する[[低分子量Gタンパク質]]で、[[カドヘリン]]やインテグリンを介して細胞接着を制御する重要な分子であり、リーリンにより活性化されることが以前に報告されている<ref name="crk" />。
 Dab1が神経細胞移動を制御する分子メカニズムについては、チロシンリン酸化Dab1に結合する分子を中心に解析が進められて来ている。特に''crk''と''crkl''のダブルノックアウトマウス<ref name="crk" />と''c3g''のジーントラップ系統マウス<ref name="c3g" />でリーラーフェノタイプが観察されることから、その下流分子として[[Rap1]]が注目された。Rap1は[[Rasファミリー低分子量Gタンパク質]]に属する[[低分子量Gタンパク質]]で、[[カドヘリン]]やインテグリンを介して細胞接着を制御する重要な分子であり、リーリンにより活性化されることが報告されている<ref name="crk" />。


 最近の研究では、早生まれのニューロン(胎生12.5日)のdab1をノックアウトした場合、あるいは、Rap1のGAPであるRap1GAPを強制発現させた場合両方で細胞体トランスロケーションが障害されること、Rap1GAPによる移動障害がN-カドヘリンの強制発現により、レスキューされること等から、リーリン-Dab1シグナルはRap1によるN-カドヘリンの活性化を介して、細胞体トランスロケーションの過程に関与している可能性が示唆されている。ただし、dab1の変異マウスにN-カドヘリンを導入するのみでは移動障害がレスキューされないことから、N-カドヘリン以外の分子の必要性が示されている。
 最近の研究では、早生まれのニューロン(マウス胎生12.5日)のdab1をノックアウトした場合、あるいは、Rap1を不活性化するGTPase活性化タンパク質(GTPase-activating protein, GAP)であるRap1GAPを強制発現させた場合両方で細胞体トランスロケーションが障害されること、Rap1GAPによる移動障害がN-カドヘリンの強制発現により、レスキューされること等から、リーリン-Dab1シグナルはRap1によるN-カドヘリンの活性化を介して、細胞体トランスロケーションの過程に関与している可能性が示唆されている。ただし、dab1の変異マウスにN-カドヘリンを導入するのみでは移動障害がレスキューされないことから、N-カドヘリン以外の分子の必要性が示されている。
 また、Rap1GAPを遅生まれのニューロン(胎生14.5日)に強制発現した場合、多極性移動からロコモーションへの変換が障害され、この障害がN-カドヘリンの強制発現により、レスキューされること。また、細胞内ドメインを欠いたVLDLRを強制発現すると、同様に多極性移動からロコモーションへの変換が阻害され、この異常は恒常的活性化型Rap1により部分的にレスキューされること等から、Reelin-Dab1シグナルは、遅生まれのニューロンに対しては、Rap1-N-カドヘリン経路を介して多極性移動からロコモーションへの変換を促進していることが示唆された。しかしながら、dab1のコンディショナルノックアウトマウスにおいては、多極性移動からロコモーションの過程は障害されないとの報告もあり、Reelin-Dab1シグナルの多極性移動からロコモーションへの変換への関与については更なる検証が必要であると思われる。
 また、Rap1GAPを遅生まれのニューロン(マウス胎生14.5日)に強制発現した場合、多極性移動からロコモーションへの変換が障害され、この障害がN-カドヘリンの強制発現により、レスキューされること。また、細胞内ドメインを欠いたVLDLRを強制発現すると、同様に多極性移動からロコモーションへの変換が阻害され、この異常は恒常的活性化型Rap1により部分的にレスキューされること等から、Reelin-Dab1シグナルは、遅生まれのニューロンに対しては、Rap1-N-カドヘリン経路を介して多極性移動からロコモーションへの変換を促進していることが示唆された。しかしながら、dab1のコンディショナルノックアウトマウスにおいては、多極性移動からロコモーションの過程は障害されないとの報告もあり、Reelin-Dab1シグナルの多極性移動からロコモーションへの変換への関与については更なる検証が必要であると思われる。
 これらの実験結果では、遅生まれのニューロンが脳表で行うターミナルトランスロケーションに関してReelinシグナルが関与しているかは不明であったが、リーリン受容体のノックダウンによって生じるターミナルトランスロケーション異常が、恒常的活性化型インテグリンの強制発現によりレスキューされることや、リーラーマウスでは脳表層でのインテグリンの活性化が見られないこと、Reelin刺激によってインテグリンのリガンドであるフィブロネクチンへの接着が促進されること等から、リーリンがDab1、C3G、Rap1を介してインテグリンの活性化を促進している可能性が示唆されている。また、Rap1のGAPの一つであるSpaIを弱いプロモーター活性を持つTa1あるいは強いプロモーターであるCAGで強制発現した場合、Ta1ではターミナルトランスロケーションが障害され、CAGでは中間帯からの移動が障害されていた。この結果より、Rap1には中間帯での移動と、ターミナルトランスロケーション、二つの異なる移動過程に関わっている可能性が示唆された。さらに、Rap1のGEFであるC3Gのdominant negative体を強制発現させた場合、ロコモーションはほとんど阻害されず、ターミナルトランスロケーションが主に障害されていた。これらの実験結果より、ロコモーションの過程ではRap1はC3G以外のGEFにより活性化され、ターミナルトランスロケーションの過程ではC3Gにより活性化される可能性が示唆されている。インテグリンについては、b1インテグリンのノックアウトマウスや、コンディショナルノックアウトマウスで、細胞移動には大きな異常がないことが示されていることから、何らかの分子がニューロンの移動に関して補償的に働いている可能性が示唆されている。
 これらの実験結果では、遅生まれのニューロンが脳表で行うターミナルトランスロケーションに関してReelinシグナルがどのように関与しているかは不明であったが、リーリン受容体のノックダウンによって生じるターミナルトランスロケーション異常が、恒常的活性化型インテグリンの強制発現によりレスキューされることや、リーラーマウスでは脳表層でのインテグリンの活性化が見られないこと、Reelin刺激によってインテグリンのリガンドであるフィブロネクチンへの接着が促進されること等から、リーリン-Dab1シグナルが、C3G-Rap1経路を介してインテグリンの活性化を促進し、ターミナルトランスロケーションを制御している可能性が示唆されている。一方でb1インテグリンのノックアウトマウスや、コンディショナルノックアウトマウスでは、ニューロンの移動過程には大きな異常がないことが示されていることから、何らかの分子がターミナルトランスロケーションに関して補償的に働いている可能性が示唆されている。
また、Rap1のGAPの一つであるSpaIをプロモーター活性の強さの異なるベクターで強制発現した場合、弱いプロモーターで発現させた場合はターミナルトランスロケーションが障害され、強いプロモーターで発現させた場合では中間帯からの移動が障害されていた。この結果より、Rap1には中間帯での移動と、ターミナルトランスロケーション、二つの異なる移動過程に関わっている可能性が示唆された。さらに、Rap1の活性化を担うグアニンヌクレオチド交換因子(guanine nucleotide exchange factor、GEF)であるC3Gのドミナントネガティブ変異体(dominant negative mutant)を強制発現させた場合、ロコモーションはほとんど阻害されず、ターミナルトランスロケーションが主に障害されていた。これらの実験結果より、ロコモーションの過程ではRap1はC3G以外のGEFにより活性化され、ターミナルトランスロケーションの過程ではC3Gにより活性化される可能性が示唆されている。


 
 さらに、Dab1のチロシンリン酸化非依存的にDab1に結合する分子として、[[Notch]]<ref name="notch"><pubmed>18957219</pubmed></ref>、[[Dab2IP]]<ref><pubmed>12877983</pubmed></ref>、[[N-WASP]]<ref><pubmed>15361067</pubmed></ref>が知られている。特にNotchについては、その活性化型フォームをリーラーマウスの移動神経細胞に導入した場合に神経細胞の移動をほぼ完全にレスキューすることから、リーリン-Dab1シグナルにおいて何らかの重要な役割を果たしていることが考えられるが、その作用メカニズムは不明である<ref name="notch" />。
 また、Dab1のチロシンリン酸化非依存的にDab1に結合する分子として、[[Notch]]<ref name="notch"><pubmed>18957219</pubmed></ref>、[[Dab2IP]]<ref><pubmed>12877983</pubmed></ref>、[[N-WASP]]<ref><pubmed>15361067</pubmed></ref>が知られている。特にNotchについては、その活性化型フォームをリーラーマウスの移動神経細胞に導入した場合に神経細胞の移動をほぼ完全にレスキューすることから、リーリン-Dab1シグナルにおいて何らかの重要な役割を果たしていることが考えられるが、その作用メカニズムは不明である<ref name="notch" />。


制約上、引用出来なかった多くの関連論文があることをお詫び致します。
制約上、引用出来なかった多くの関連論文があることをお詫び致します。
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