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哺乳類においては[[眼]]が唯一の光受容器官であるが、哺乳類以外の脊椎動物では眼の他にも[[松果体]]や脳深部に光受容器が存在する。 | 哺乳類においては[[眼]]が唯一の光受容器官であるが、哺乳類以外の脊椎動物では眼の他にも[[松果体]]や脳深部に光受容器が存在する。 | ||
Benoitは1936年に眼球除去を施した[[wikipedia:ja:アヒル|アヒル]]の精巣が日長の変化に反応して発達することを明らかにした<ref>'''J Benoit'''<br>Le rôle des yeux dans l’action stimulante de la lumière sure le développement testiculaire chez le canard.<br>''CR Soc. Biol. (Paris) 1935, 118 ;669-671''</ref>.その後眼球除去及び松果体除去を施した[[wikipedia:ja:スズメ|スズメ]]においても光周反応が観察され、さらに頭皮の下に墨汁を注入するとこの光周反応が阻害されたことから、光周性を制御する光受容器が脳内に存在することが明らかになった。さらに脳の様々な部位に発光ビーズや[[wikipedia:ja:光ファイバー|光ファイバー]]を入れて局所的に光を照射した場合、[[前脳]]の[[ | Benoitは1936年に眼球除去を施した[[wikipedia:ja:アヒル|アヒル]]の精巣が日長の変化に反応して発達することを明らかにした<ref>'''J Benoit'''<br>Le rôle des yeux dans l’action stimulante de la lumière sure le développement testiculaire chez le canard.<br>''CR Soc. Biol. (Paris) 1935, 118 ;669-671''</ref>.その後眼球除去及び松果体除去を施した[[wikipedia:ja:スズメ|スズメ]]においても光周反応が観察され、さらに頭皮の下に墨汁を注入するとこの光周反応が阻害されたことから、光周性を制御する光受容器が脳内に存在することが明らかになった。さらに脳の様々な部位に発光ビーズや[[wikipedia:ja:光ファイバー|光ファイバー]]を入れて局所的に光を照射した場合、[[前脳]]の[[中隔野]]周辺、および視床下部内側基底部(mediobasal hypothalamus: MBH)付近に光を照射した際に精巣が発達することが報告された。近年の研究で[[ロドプシン]]、[[メラノプシン]]、[[VAオプシン]]、[[オプシン5]]など、複数のロドプシン類がこれらの部位で発見されており、鳥類の光周性を制御する脳深部光受容器の候補として挙げられている。 | ||
====鳥類の光周性を制御する情報伝達機構==== | ====鳥類の光周性を制御する情報伝達機構==== | ||
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2000年代になって光誘導相の光照射によって視床下部内側基底部で発現変動する遺伝子が探索され、脊椎動物の光周性を制御する鍵遺伝子として、DIO2、DIO3遺伝子が単離された<ref><pubmed> 14614506 </pubmed></ref>。DIO2、DIO3遺伝子はそれぞれ、[[甲状腺ホルモン活性化酵素]]([[2型脱ヨード酵素]])と[[不活性化酵素]]([[3型脱ヨード酵素]])をコードしており、長日刺激によって、視床下部内側基底部において局所的に甲状腺ホルモンが活性化されることが、光周性の制御に重要であることが示された(図3)。 | 2000年代になって光誘導相の光照射によって視床下部内側基底部で発現変動する遺伝子が探索され、脊椎動物の光周性を制御する鍵遺伝子として、DIO2、DIO3遺伝子が単離された<ref><pubmed> 14614506 </pubmed></ref>。DIO2、DIO3遺伝子はそれぞれ、[[甲状腺ホルモン活性化酵素]]([[2型脱ヨード酵素]])と[[不活性化酵素]]([[3型脱ヨード酵素]])をコードしており、長日刺激によって、視床下部内側基底部において局所的に甲状腺ホルモンが活性化されることが、光周性の制御に重要であることが示された(図3)。 | ||
その後、ゲノムワイドな遺伝子発現解析によって、日長が12時間を超えると下垂体の付け根に位置する下垂体隆起部(pars tuberalis)において、[[甲状腺刺激ホルモン]](thyroid stimulating hormone: TSH)が産生されることが明らかになった<ref name=ref7><pubmed> 18354476 </pubmed></ref>(図4)。TSHは甲状腺を刺激する[[下垂体前葉ホルモン]]であるが、下垂体隆起部で長日刺激によって産生される場合は視床下部内側基底部のDIO2、DIO3の発現を制御することで、光周性を制御するマスターコントロール因子として働くことが明らかにされている<ref name=ref7 />。 | |||
===哺乳類の光周性の制御機構=== | ===哺乳類の光周性の制御機構=== | ||
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==ヒトの光周性== | ==ヒトの光周性== | ||
ヒトは明瞭な光周性を示さないが、ある限られた季節にのみ、うつ様の症状を発症する季節性感情障害(seasonal affective disorder: SAD)という病気が知られており、光療法の有効性が示されている<ref><pubmed> 6581756 </pubmed></ref>。季節性感情障害には夏に発症する例も知られているが、多くは日照時間の少ない冬季に観察されるため、「[[冬季うつ病]] | ヒトは明瞭な光周性を示さないが、ある限られた季節にのみ、うつ様の症状を発症する季節性感情障害(seasonal affective disorder: SAD)という病気が知られており、光療法の有効性が示されている<ref><pubmed> 6581756 </pubmed></ref>。季節性感情障害には夏に発症する例も知られているが、多くは日照時間の少ない冬季に観察されるため、「[[冬季うつ病]]」とも呼ばれている。うつ病は自殺の原因の一つと考えられているが、熱帯地方では月別自殺者数に偏りがないのに対して、四季の存在する地域では自殺者数に季節変動がある。[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]や[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]においても不安様行動、あるいはうつ様の行動が日長の変化によって影響を受けることが報告されており、光周性の制御機構の解明が季節性感情障害のメカニズムの解明につながることが期待されている。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== |