「病識」の版間の差分

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143 バイト除去 、 2012年2月4日 (土)
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 治療関係の中で不安や挫折感を受け止めつつ、病気によって起こってきた変化や病感を一緒に確認し、障害認識そして病識へと高めていく個人精神療法のアプローチは重要である。安永<ref name=Yasunaga_seishinkagakuchuryougaku>'''安永浩'''<br>いわゆる病識から"姿勢"覚へ<br>''精神科学治療学:'' 1988, 3:43-50</ref>は、病覚ないしは病識を[[姿勢覚]]になぞらえ、内部図式の知覚であり、[[運動感覚]]的なもの、運用感覚であるとし、細部を知覚することはむしろ必要がなく、かんどころ、いわば関節部分が抑えられればよい、と述べた。そして以下のような精神療法の提言を行っている。「(病覚ないし病識の)認識の対象は外にあるものではない。自分のみのうち、精神身体空間の内部にある何者かである」「そのアナロジー(類推)として、「身のこなし」の感覚がやりやすい」と述べている。
 治療関係の中で不安や挫折感を受け止めつつ、病気によって起こってきた変化や病感を一緒に確認し、障害認識そして病識へと高めていく個人精神療法のアプローチは重要である。安永<ref name=Yasunaga_seishinkagakuchuryougaku>'''安永浩'''<br>いわゆる病識から"姿勢"覚へ<br>''精神科学治療学:'' 1988, 3:43-50</ref>は、病覚ないしは病識を[[姿勢覚]]になぞらえ、内部図式の知覚であり、[[運動感覚]]的なもの、運用感覚であるとし、細部を知覚することはむしろ必要がなく、かんどころ、いわば関節部分が抑えられればよい、と述べた。そして以下のような精神療法の提言を行っている。「(病覚ないし病識の)認識の対象は外にあるものではない。自分のみのうち、精神身体空間の内部にある何者かである」「そのアナロジー(類推)として、「身のこなし」の感覚がやりやすい」と述べている。


 精神障害の症状や経過や治療法についての正確な情報を提供し、それが受けいれられるように援助する心理教育のアプローチは病識を育てる上で重要であろう。Jaspers<ref name=Jaspers_精神病理学総論>'''Jaspers,K.(内村裕之、西丸四方、島崎敏樹、岡田敬蔵訳)'''<br>精神病理学総論<br>''岩波書店''、東京、1953</ref>は"pseudo-insight"、すなわち「病気の説明をさまざまな理論から単に受け売りしている状態」を指摘した。しかしDavid<ref name=David_J_Psychiatry><pubmed>2207510</pubmed></ref>は、「こうしたpseudo-insightも、混乱した患者の中に何らかの秩序を見いだし、本来の疾病の自覚へと導くプロセスを開始する可能性がある」と指摘している。個人精神療法の役割が、安永に習って「自分のみのうちにある何らかのもの」への気づきを高めていくことにあるとすれば、心理教育はそれを客体化し、他者と共有可能なものとし、対処方法を見つけていくことを可能にするアプローチといえよう。 
 精神障害の症状や経過や治療法についての正確な情報を提供し、それが受けいれられるように援助する心理教育のアプローチは病識を育てる上で重要であろう。Jaspers<ref name=Jaspers_精神病理学総論></ref>は"pseudo-insight"、すなわち「病気の説明をさまざまな理論から単に受け売りしている状態」を指摘した。しかしDavid<ref name=David_J_Psychiatry><pubmed>2207510</pubmed></ref>は、「こうしたpseudo-insightも、混乱した患者の中に何らかの秩序を見いだし、本来の疾病の自覚へと導くプロセスを開始する可能性がある」と指摘している。個人精神療法の役割が、安永に習って「自分のみのうちにある何らかのもの」への気づきを高めていくことにあるとすれば、心理教育はそれを客体化し、他者と共有可能なものとし、対処方法を見つけていくことを可能にするアプローチといえよう。 


 持続的な精神症状や後遺障害への対処スキルや、薬物療法と協同していくためのさまざまなスキル形成をねらう認知行動療法のアプローチや、近年研究報告の増えている幻覚や妄想への認知療法によって、障害認識や病識を認知・行動のレベルで形成していくアプローチも有用と思われる。認知行動療法の視点からは、病識欠如をより具体的かつ観察可能な対処行動のレベルでとらえ、ひとつひとつの対処行動を改善の標的とする。たとえば服薬を中断してしまうことを取り上げても、さまざまな対処スキルが関係する。
 持続的な精神症状や後遺障害への対処スキルや、薬物療法と協同していくためのさまざまなスキル形成をねらう認知行動療法のアプローチや、近年研究報告の増えている幻覚や妄想への認知療法によって、障害認識や病識を認知・行動のレベルで形成していくアプローチも有用と思われる。認知行動療法の視点からは、病識欠如をより具体的かつ観察可能な対処行動のレベルでとらえ、ひとつひとつの対処行動を改善の標的とする。たとえば服薬を中断してしまうことを取り上げても、さまざまな対処スキルが関係する。

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